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第474話 雪だ、雪 at 1996/2/18
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「お邪魔しました。これもご縁です。探し物が見つかりますようおチカラをお貸しください」
「お貸しください」
「こら、適当にはしょるなよ」
「いーじゃんよー。その分気持ちはこめてるんだからさ」
三社目の神社の探索を終え、ここに『例の絵』、水無月笙氏の製作途中の絵はないと判断した僕らは、一応の礼儀としてお参りを済ませて次の社を目指すことにする。二社目をまわったあたりから、また少し雪がちらりほらりと冷たくほのかに灰色がかった空から舞い降りてきた。
「ちょっと量が多くなってきたよね、雪」
「あー。うん。……ロコはいいんだぜ、先に帰っても?」
「付き合うわよ。あ、あんたひとりじゃ頼りないし」
「はいはい。それはありがとうございますね、っと」
狭い境内を出て、再び住宅地特有の細くてくねくねと折れ曲がった小道を抜けて、それよりは多少マシな市道まで出た。何台かの車が通過したらしき轍はあるものの、さほど多くない。
これで最初に目星をつけた七か所のうち、木曽根付近の神社三社は回り切ったことになる。
だが、そのいずれからも期待していたモノの気配は微塵も感じ取れなかった。依然としてコトセと連絡が取れない状況なのは非常に痛い。なぜなら、万に一つ、絵が持ち帰られてしまっている可能性もゼロではないと思うからだ。しかし、それは僕の考えすぎだと思っておく。
「じゃあ、この後は咲山の奥の方まで移動しないとだ。その前に……ほら、これでも飲んで」
「さっすがケンタ、気が利くじゃん! これ……ミルクココア、でしょ?」
「どっかの誰かの好みに合わせただけだ。自動販売機で、僕のおごりで買わされるの癪だから」
「へえ? いつ、誰が、そんなことしたのさ?」
――ずず。
ほわ、と満足げな吐息を漏らしたロコの口元から、甘い綿あめのような白い雲が生まれ出た。
「んく、んく。……ケンタ、お代わりちょうだい!」
「遠慮がないヤツだな、まったく……ほら」
やっぱり用意しておいてよかった。歩いているうちはいいけれど、ひとたび足を止めると凍てつく寒さがじくじくとカラダに沁みわたる。お腹の中から温めないとスタミナを消費する。
「んく。んく。……ん? ケンタは飲まないの?」
「僕はいい。そのペースで飲まれたら僕の分まで確保できないからな」
「ふーん……。じゃあさ、半分残しておいたから、これだけ飲んどきなよ。ほら」
「ほ、ほら、って……」
ステンレスの保温ボトルのフタ代わりになっているカップをロコが、ぐい、と差し出してきたので、僕は反射的にたじろいだ。今差し出されている場所は、さっきまでロコが口をつけていた部分だ。まだ中学生だからルージュの跡なんてないけれど、わずかに濡れて光っている。
しかし、当たり前のようにロコはまるで気にもしていないようだった。
――ずず。
と、次の瞬間。
「間・接・キ・ス。しちゃったね。いーけないんだー♡」
「ちょ――! かかか間接キスとかお前っ!?」
「なによ。事実は事実、でしょ? ちょっとからかっただけだってば。……マジ慌てすぎ」
「ううううるさい! ほっとけ!」
僕にも後ろめたい気持ちがあったのだろう。そんなに気になるのであれば、受け取ったカップをズラして口をつければよかったのだから。反射的にカップの縁を拭うそぶりをすると、ロコは少し残念そうな溜息をついて、いつものように困ったような微笑みを浮かべていた。
「じゃ、じゃあ、休憩もしたし、次行くぞ?」
「はい、はい」
「えと……ス、スミちゃんにはナイショだからな」
「はい、はい」
きしし、と笑いながら、ロコは僕の歩いた後を楽しそうについてくる。
雪はまだ降っている。
「お貸しください」
「こら、適当にはしょるなよ」
「いーじゃんよー。その分気持ちはこめてるんだからさ」
三社目の神社の探索を終え、ここに『例の絵』、水無月笙氏の製作途中の絵はないと判断した僕らは、一応の礼儀としてお参りを済ませて次の社を目指すことにする。二社目をまわったあたりから、また少し雪がちらりほらりと冷たくほのかに灰色がかった空から舞い降りてきた。
「ちょっと量が多くなってきたよね、雪」
「あー。うん。……ロコはいいんだぜ、先に帰っても?」
「付き合うわよ。あ、あんたひとりじゃ頼りないし」
「はいはい。それはありがとうございますね、っと」
狭い境内を出て、再び住宅地特有の細くてくねくねと折れ曲がった小道を抜けて、それよりは多少マシな市道まで出た。何台かの車が通過したらしき轍はあるものの、さほど多くない。
これで最初に目星をつけた七か所のうち、木曽根付近の神社三社は回り切ったことになる。
だが、そのいずれからも期待していたモノの気配は微塵も感じ取れなかった。依然としてコトセと連絡が取れない状況なのは非常に痛い。なぜなら、万に一つ、絵が持ち帰られてしまっている可能性もゼロではないと思うからだ。しかし、それは僕の考えすぎだと思っておく。
「じゃあ、この後は咲山の奥の方まで移動しないとだ。その前に……ほら、これでも飲んで」
「さっすがケンタ、気が利くじゃん! これ……ミルクココア、でしょ?」
「どっかの誰かの好みに合わせただけだ。自動販売機で、僕のおごりで買わされるの癪だから」
「へえ? いつ、誰が、そんなことしたのさ?」
――ずず。
ほわ、と満足げな吐息を漏らしたロコの口元から、甘い綿あめのような白い雲が生まれ出た。
「んく、んく。……ケンタ、お代わりちょうだい!」
「遠慮がないヤツだな、まったく……ほら」
やっぱり用意しておいてよかった。歩いているうちはいいけれど、ひとたび足を止めると凍てつく寒さがじくじくとカラダに沁みわたる。お腹の中から温めないとスタミナを消費する。
「んく。んく。……ん? ケンタは飲まないの?」
「僕はいい。そのペースで飲まれたら僕の分まで確保できないからな」
「ふーん……。じゃあさ、半分残しておいたから、これだけ飲んどきなよ。ほら」
「ほ、ほら、って……」
ステンレスの保温ボトルのフタ代わりになっているカップをロコが、ぐい、と差し出してきたので、僕は反射的にたじろいだ。今差し出されている場所は、さっきまでロコが口をつけていた部分だ。まだ中学生だからルージュの跡なんてないけれど、わずかに濡れて光っている。
しかし、当たり前のようにロコはまるで気にもしていないようだった。
――ずず。
と、次の瞬間。
「間・接・キ・ス。しちゃったね。いーけないんだー♡」
「ちょ――! かかか間接キスとかお前っ!?」
「なによ。事実は事実、でしょ? ちょっとからかっただけだってば。……マジ慌てすぎ」
「ううううるさい! ほっとけ!」
僕にも後ろめたい気持ちがあったのだろう。そんなに気になるのであれば、受け取ったカップをズラして口をつければよかったのだから。反射的にカップの縁を拭うそぶりをすると、ロコは少し残念そうな溜息をついて、いつものように困ったような微笑みを浮かべていた。
「じゃ、じゃあ、休憩もしたし、次行くぞ?」
「はい、はい」
「えと……ス、スミちゃんにはナイショだからな」
「はい、はい」
きしし、と笑いながら、ロコは僕の歩いた後を楽しそうについてくる。
雪はまだ降っている。
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