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第519話 ひとりいない修了式 at 1996/3/22
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「――が肝心ですからね。……それではまた、先生・生徒全員で、この西町田中学校の体育館でお会いしましょう。みなさんのさらなる成長を願いつつ、今年度の修了式の式辞とします」
一同――礼。
朝からしとしとと降り続ける雨で鬱々とした体育館に、がちゃがちゃとパイプ椅子同士がぶつかり合う騒々しい音が響く。これでようやく待望の春休み――と喜び勇む生徒たちを横目に眺めつつ、僕ら二年十一組の生徒たちの表情は、どことなく虚ろで、皆一様に沈んでいた。
『水無月さんのご家族から、学校へ連絡がありましてね――』
そう取ってつけたような中途半端な表情で告げたのは、昨日の朝の荻島センセイだった。
『おとといの晩から、居どころがわからなくなってしまったそうです。現在、警察も捜索中で』
いつの間にと驚いたことに、もう二年十一組のなかで、その知らせを耳にしても嘲弄するような生徒は誰ひとりもいなかった。それだけ水無月琴世という生徒は大事な仲間になっていたのだった。
「ね、ねえ、ケンタ――ケンタってば」
クラス順に修了式の会場となっていた体育館をあとにするのを待ちきれない様子で、無理矢理席を替わってもらったらしいロコが、背後から僕の肩をいささか乱暴に叩いて気を引いた。
「一体どうなってるのよ? まだ見つけられないの? 心配だよ……ツッキーパパはどう?」
こしょこしょと囁いてくるロコに、僕は浮かれもできず、渋い顔をする。
「……笙さんは何も覚えてない。今はただの娘を心配する父親だ。記憶を消されたんだからな」
「そっか」
ツッキーがベランダから逃亡を図っても、僕には追いかけることができなかった。
それはツッキーが笙さんに仕掛けた『強制リセット』のせいだ。リセットが完了してしまえば、あの時の桃月と同じように、今まで起きていたことをキレイさっぱり忘れてしまう。室内には僕がいて、ツッキーがいないとなれば、きっとパニック状態になるだろうと思ったからだ。
『琴ちゃんは……! 琴ちゃんはどこだい!? 古ノ森君!?』
『突然ベランダから外に……。あの……笙さん? 「あの絵」がどこにあるかわかりますか?』
『なんでそんなことを、今? ……あ、あれ? おかしいな……? 思い……出せないんだよ』
『やっぱりそうですか……ツッキーのことは僕らも探してみます。笙さんは警察に連絡を――』
そうして僕は、笙さんとツッキーが行きそうな場所などを話しつつ、水無月家をあとにしたのだった。
ツッキーが行方をくらませてから、今日で三日目。
まだ、僕らも警察も、なんの手がかりも得られてはいない。
「ねぇ、ケンタ――?」
ロコは一層声のボリュームを絞り、僕らにしかわからないことを囁く。
「ツッキーは、どうしてパパにあんなことをしたのかな……? わかんないよ、あたしには」
「僕だって――でも、少しだけ、ほんの少しだけなら予想はついてるんだ」
「それ、何?」
「ツッキーは……この『リトライ』を、この中学二年生のループを続けようとしてるってこと」
「え……!? なんでよ!?」
「しーっ! 声が大きいって! 鼓膜が破れる」
大げさに耳をおさえ、まわりを見回す。
かろうじてクラスメイトの注目は集めてないようだ。
「笙さんが――ツッキーパパがこう言っていたんだ。この一年間を封じ込めて、ツッキーが永遠に生き続けること、それが『願い』だって。たぶん、それを叶えようとしているんだと思う」
「そんな……そんなのって……」
「そう。間違ってる。ツッキーは間違ってるんだ。怖がってるんだ」
そこで僕は頼もしい仲間たちを順に見つめた。
待ち構えていたようにみんなも見つめ返す。
「僕たちがツッキーを止めてやらないと。またツッキーはひとりぼっちになっちまう。だろ?」
一同――礼。
朝からしとしとと降り続ける雨で鬱々とした体育館に、がちゃがちゃとパイプ椅子同士がぶつかり合う騒々しい音が響く。これでようやく待望の春休み――と喜び勇む生徒たちを横目に眺めつつ、僕ら二年十一組の生徒たちの表情は、どことなく虚ろで、皆一様に沈んでいた。
『水無月さんのご家族から、学校へ連絡がありましてね――』
そう取ってつけたような中途半端な表情で告げたのは、昨日の朝の荻島センセイだった。
『おとといの晩から、居どころがわからなくなってしまったそうです。現在、警察も捜索中で』
いつの間にと驚いたことに、もう二年十一組のなかで、その知らせを耳にしても嘲弄するような生徒は誰ひとりもいなかった。それだけ水無月琴世という生徒は大事な仲間になっていたのだった。
「ね、ねえ、ケンタ――ケンタってば」
クラス順に修了式の会場となっていた体育館をあとにするのを待ちきれない様子で、無理矢理席を替わってもらったらしいロコが、背後から僕の肩をいささか乱暴に叩いて気を引いた。
「一体どうなってるのよ? まだ見つけられないの? 心配だよ……ツッキーパパはどう?」
こしょこしょと囁いてくるロコに、僕は浮かれもできず、渋い顔をする。
「……笙さんは何も覚えてない。今はただの娘を心配する父親だ。記憶を消されたんだからな」
「そっか」
ツッキーがベランダから逃亡を図っても、僕には追いかけることができなかった。
それはツッキーが笙さんに仕掛けた『強制リセット』のせいだ。リセットが完了してしまえば、あの時の桃月と同じように、今まで起きていたことをキレイさっぱり忘れてしまう。室内には僕がいて、ツッキーがいないとなれば、きっとパニック状態になるだろうと思ったからだ。
『琴ちゃんは……! 琴ちゃんはどこだい!? 古ノ森君!?』
『突然ベランダから外に……。あの……笙さん? 「あの絵」がどこにあるかわかりますか?』
『なんでそんなことを、今? ……あ、あれ? おかしいな……? 思い……出せないんだよ』
『やっぱりそうですか……ツッキーのことは僕らも探してみます。笙さんは警察に連絡を――』
そうして僕は、笙さんとツッキーが行きそうな場所などを話しつつ、水無月家をあとにしたのだった。
ツッキーが行方をくらませてから、今日で三日目。
まだ、僕らも警察も、なんの手がかりも得られてはいない。
「ねぇ、ケンタ――?」
ロコは一層声のボリュームを絞り、僕らにしかわからないことを囁く。
「ツッキーは、どうしてパパにあんなことをしたのかな……? わかんないよ、あたしには」
「僕だって――でも、少しだけ、ほんの少しだけなら予想はついてるんだ」
「それ、何?」
「ツッキーは……この『リトライ』を、この中学二年生のループを続けようとしてるってこと」
「え……!? なんでよ!?」
「しーっ! 声が大きいって! 鼓膜が破れる」
大げさに耳をおさえ、まわりを見回す。
かろうじてクラスメイトの注目は集めてないようだ。
「笙さんが――ツッキーパパがこう言っていたんだ。この一年間を封じ込めて、ツッキーが永遠に生き続けること、それが『願い』だって。たぶん、それを叶えようとしているんだと思う」
「そんな……そんなのって……」
「そう。間違ってる。ツッキーは間違ってるんだ。怖がってるんだ」
そこで僕は頼もしい仲間たちを順に見つめた。
待ち構えていたようにみんなも見つめ返す。
「僕たちがツッキーを止めてやらないと。またツッキーはひとりぼっちになっちまう。だろ?」
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