私の邪悪な魔法使いの友人

ロキ

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シーズン1 魔法使いの塔

第三章 1)大群大発生

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 その日の夜、どうもぐっすりと眠れなかった。
 あまりにもインパクトのあった、あのグロテスクな怪物の姿が、脳裏から消え去らなかったからだろう。

 もしかしたらあの怪物の夢を見ていたかもしれない。
 そうじゃなくても、まだ私の近くをうろついているような気分がして、眠りは少しも心地良くなかった。

 私は何かの予感に打たれたせいなのか、それともまるで眠りと呼べないくらいそれは浅かったからか、浜辺に打ち上げられるようにして深夜に目覚めてしまった。

 それからも眠ろうと必死に努力した。
 たとえ夢の中であの怪物に追いかけられようとも、この夜の闇が嫌だ。
 とにかく眠りの中に逃げ込みたい。そして一刻も早く朝の光を見たい。

 しかしなかなか眠りは訪れてくれなかった。

 すると、またあの悲しげな女性の泣き声が聞こえてきたのだ。

 シクシクと、恨みがましい声がして、私はビクリとして跳ね起き、部屋の中を見回した。

 どこから聞こえてくるのかわからない。
 しかしその声は確かに聞こえてくる。
 この塔のどこかに存在している! 

 恐怖のせいで、更に目が冴えた。
 私は完全に眠ることを諦めた。

 しかしそれは更なる事件のプレリュードに過ぎなかったわけだ。
 それから少し経って、召使いたちの悲鳴が聞こえてきた。

 この塔は広大で、私の部屋から召使いの居住エリアまで、街で言えば一件の靴屋から違う一件の靴屋ぐらいの距離があるはずなのに、まるで一個の管楽器として設計されているのか、気持ちの良いくらい声が響いてきた。

 またあの同じような怪物が出たに違いない。
 そう思って私はすぐに部屋を飛び出た。

 あの怪物を見るのはもう懲り懲りだし、私が出向いたところでどうこう出来る問題とも思えなかったが、ここでじっとしているよりも、大騒ぎになっている現場に出向いたほうがマシな気がした。

 それに、一応この塔のナンバー2としての責任感もあったかもしれない。
 とにかく私は部屋を出て東の回廊を駆けた。

 中央の塔に着くと、ちょうどアビュが北の回廊の扉を開けようとしているところだった。

 「また出たわ!」

 アビュはベッドからそのまま這い出てきたのか、寝床で着るような薄い衣服をまとっているだけだった。
 夜の涼しさに寒そうに見えたし、身体の線もあらわだ。

 私は目のやり場に困った。
 いや、もちろん、まだ子供のような体つきのアビュのそんな姿を見たからって、それに動じるわけはない。
 そんなの当然だ、言い訳するまでもない。
 しかしこんな格好でウロウロすると、他の召使いたちも驚いてしまうかもしれないと思ったのだ。
 私は自分の上着を、そっと彼女に着せてやる。

 「しかも一匹や二匹じゃない。あの怪物がそこら中にウヨウヨしているの!」

 私の心遣いに気づいた様子もなく、アビュが怒鳴るように言ってきた。
 しかしそれくらい、とんでもないことが起きているということかもしれない。

 「ウヨウヨって?」

 「大群よ、巣穴を突いて蜂がブンブン出てきたかのような」

 私はその様子を想像して、思わず足がすくんでしまった。
 このような事態は、もはや私一人の手に負えそうもない。

 「わかった、プラーヌスを呼んできた方がいいな」

 「もう来ているさ」

 西の回廊に通じる扉が開き、プラーヌスが現れた。

 表情を見るまでもなく、その足音だけでどれだけ機嫌が悪いのが感じ取れる。

 それでも恐る恐る振り返りプラーヌスを見た。
 彼は静かに微笑みを浮かべていたが、それが逆に彼の怒りの大きさを証明している気がする。

 「なあ、シャグラン、なぜ僕が太陽に背き、こんな真夜中まで起きて魔法の研究をしているか知らないわけじゃないだろ? 夜のほうが魔界と接続しやすいからだ。そっちのほうが魔族たちとのコミュニケーションが上手くいくからだ」

 プラーヌスは夕食のときに着ていたのとは違う、全身を覆う黒いローブをまとい、背丈と同じくらいあるのではないかという、いつもの長い傘を持っていた。

 その暗黒のローブのせいで、彼の肌がいっそう白く引き立っている。
 これが魔法使いの正装だろう。
 魔法使いの詳しいことはわからないが、彼が何かの作業に打ち込んでいたことは間違いない。

 「この時間はとても貴重なんだ。一刻の遅れが大変な喪失につながる。相手は世にも気まぐれな魔族だからね」

 そう言い終わった後、プラーヌスは私の前で立ち止まった。

 「大変な数の怪物が出てきたようなんだ・・・」

 私は言い訳するようにそう言った。
 むしろその作業中断も仕方ないくらいの大事件が起きていることを祈りながら。

 「アビュの報告に拠れば足の踏み場もないくらい、あの怪物たちで溢れているらしい」

 私は同意を求めるようにアビュを見た。
 しかし彼女は、プラーヌスの前ではいつもの溌剌とした性格を無くしてしまうようだ。
 アビュは私の言葉にも遠慮がちに頷くだけだ。

 「門番たちから何も報告はないな」

 プラーヌスが言った。

 「あ、ああ。ないようだけど」

 「だとすると、奴らは塔の中に潜んでいたわけか。いいだろう、今夜でこの件は徹底的に片付けよう」
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