私の邪悪な魔法使いの友人

ロキ

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シーズン1 魔法使いの塔

第三章 7)夜の後始末

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 長い長い夜が終わり、自分の居室に向かって東の回廊を歩いていた頃には、既に朝の新鮮な太陽の光線が高窓のほうから差し込んでいた。
 その角度からすると、気まぐれな太陽は今朝、北よりの空から通って昇っていこうとしているようだ。

 言うまでもなく私は疲れ果てている。
 全く寝ていないのだから当たり前だ。
 膝の裏がチクチクと痛くて、部屋に帰る足は、魔法を使った直後のプラーヌスの足取りのように覚束なかった。

 ぐっすりと、誰に邪魔されることなくゆっくり眠りたい。
 お腹もぺこぺこに空いていたが、何よりも今、私が望んでいるのはそれだ。それほど寝心地の良いベッドでもないけど、私はそのベッドが愛おしくて仕方なかった。

 まあ、おそらくこんな日ぐらい、休みを取ってもプラーヌスは文句を言わないだろう。
 どうせ彼も夕方まで寝ているんだ。私も今日だけはそれに倣うことにしよう。
 夜明けまで賭け事や女遊びに興じる遊び人のように、太陽に背いた眠りを貪ることにしよう。

 ふと誘われるように高窓から差し込む太陽を眺めると、その光が目の中に突き刺ささってくるようで、私の眠気を吹き飛ばすどころか、疲れている目をしょぼしょぼとさせて、逆に眠気を刺激してくる。

 こういうときに太陽を見るのも悪いものじゃないな。
 私は疲れ果てているけど、夜のうちにやれることはだいたいやったという充実感があり、気分は良かった。
 何だか心地良い眠りに興じれそうだ。かなり苦労はしたけど、それなりに首尾良く事は進んだのだ。

 しかし苦労したことは確かだった。
 とりあえずの措置として、あのグロテスクな生き物たちをもう一度、牢獄の中に閉じ込めることにしたのはいいけど、その作業は本当に過酷を極めた。

 元は人間だってことはわかっているし、こっちに何ら敵意を抱いていないことも知っている。
 しかし毒がないとはいえ蛇を好んで触る人がいないように、あのグロテスクな生き物を率先して触ろうとする召使いはいなかった。

 アビュですら尻込みしていたのだ。私が率先してやってみるしかなかった。
 いや、実を言うと私もそれに関しては自慢出来るほどの働きをしていない。
 本当に動いたのは、フローリアというあの少女だけだ。

 しかし元々、彼女の我儘と言ってもおかしくない申し出によって、そういうことをする破目になったのだ。
 彼女に全ての負担を押し付けることになっても、別に気も咎めない。
 まだあのグロテスクに改変されてしまった人たち全てを回収出来たわけではなく、今でもこの塔のどこかをウロウロしているだろう。それも彼女に任せるしかない。

 だけどそういうこと以上に、大変だった仕事がある。それは囚われていた人たちに新しい衣服を用意してやることだった。

 この塔には、余分な衣服などないようなのだ。地下には大きな倉庫があるようで、だから倉庫の責任者を呼んで聞いてみたのだけど、鎧や防具などはあっても、そういうものは一つもないということだった。

 仕方ないから、召使いたちの私物を徴発するしかなかった。
 しかし彼らも代わりの服に余裕なんてなく、誰もが出し渋った。
 いずれ街の古着屋で新しい服を買ってやることを条件に、ようやく人数分の服を手に入れられたが、その説得が大変だったのだ。

 私がまるで召使いたちに威信がないかよくわかった。
 それどころか信頼もされていないようだ。
 ナンバー2なんていうのは名ばかりなのだ。
 いずれ街の古着屋で新しい服を買うということだって空約束である。プラーヌスの機嫌の良いときに、彼に改めて申し入れなくてはならないのだ。
 もしそれをプラーヌスに断られたら私は嘘つきになってしまい、ますます召使いたちからの信頼を失ってしまうだろう。
 まあ、もちろんプラーヌスは馬鹿じゃない。いや、それどころか嫌になるほど計算高い人間だ。
 だから必要だとわかれば、これくらいの金をケチることはないだろう。召使いたちの古着の代金くらい払ってくれるはずだ。
 しかしこの程度のことも自分で決められないで、何がナンバー2であろうか。

 この塔でスムーズに仕事をこなしていくためには、もっと実質的な力が必要な気がする。
 たとえばこの塔の財政を管理して、召使いたちの給料などを払う立場に立つとか、あるいはアビュ以外にもっと直属の部下を増やすとか。

 しかし下手にそんなものを手にしたら、この塔から永遠に出られなくなるかもしれないとも思う。
 私なしではこの塔が運営出来なくなるなんてことになったら、プラーヌスは一生私を解放してくれなくなるに違いないのだから。
 だけどそういう権力がなければ、この塔での仕事は円滑に進んでいかないことも確かだ。

 いずれ、どっちを取るべきか真剣に考えなければいけない日が来るかもしれない。
 さもないと中途半端な立場のまま、プラーヌスと召使いの間でいつまでも板挟みになっていなくてはならなくなる。

 とはいえ、ただひたすら眠りたいだけの私は、今、そんな問題を真剣に考えるつもりはなかった。
 そういう面倒なことを忘れるためにも、ぐっすり眠りたいのだ。

 幸いなことにこの塔は基本的に静かである。
 街にある私の住居だと、石畳を走る馬車の音や、物売りの子供の声で、昼まで眠れたものではない。
 だけどこの塔で起きる騒音は、昨夜のあのグロテスクな生き物が巻き起こした騒動くらいである。
 あれは一応、解決したのだ。もうそういうことはないだろう。

 汗はかいたし、あのグロテスクに改変された人たちと長時間同じ場所にいて、身体中が穢れているような感覚がするけれど、私は服も脱がず、新たな衣服に着替えることもなく、そのままベッドに倒れこんだ。
 そしてすぐに眠りに落ちていった。
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