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シーズン1 魔法使いの塔
第四章 9)水晶玉の向こう側
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私はプラーヌスの指示に従い、少年が捕まえてきた黒猫と鴉の入った麻袋を手に取った。
しかし彼はまだ私に何も指示を出してこないので、一端、それを置いて水晶玉を覗きこむ。
プラーヌスが何かつぶやくと、水晶玉の中に映っている光景がパチリと切り替わった。
さっきまでそこには少年と親方の居た部屋が映っていたのだけど、それと打って変わり、どこかの街並みが目に入る。
大きな屋敷だ。
貴族か、成功した商人か、もしくは国の高官が住むような。その屋敷の前を行き来する通行人の姿も見える。
「よし、準備は出来た。おい、応答してくれ、こちら、FFだ」
プラーヌスがそう言った。
私に向かって言ったのかと思ったが、彼は左手に持っている陶器の瓶に向かって呼び掛けている。
その言葉と同時に、その水晶玉の横にある、もう一つの小さな水晶玉のほうもチカチカと瞬き出した。
その小さな水晶玉のほうにも何かの映像が映った。それと共に、床に転がっていた宝石が一つ割れ、粉々に消えた。
「パルにいる僕の協力者の魔法使いを呼び出しているのさ」
プラーヌスのしていることをいぶかしげに見ていた私に向かって、彼はそう説明してきた。「魔界を通じての通信だよ」
そう言いながらプラーヌスは懐から仮面を取り出し、それをかぶる。仮面といっても目だけを隠す仕様のものだ。
「魔界を通じての通信?」
「ああ、魔界を通したら、遠く離れた相手であっても、意志の遣り取りが出来るんだ。但し、相手は魔法使いに限られるがね。おっと、シャグラン、僕の後ろに立つなよ。魔界を通じての通信は、正体を明かさないのが基本なんだ。だから仮面をして、更に仮名を使う」
小さな水晶玉の中に、人の姿が現れた。その人もプラーヌス同様、仮面をかぶっているようである。
「・・・まだ眠っていたぞ、こちらはCPだ」
その水晶玉の中にいる男の声が聞こえてくる。私たちよりも年配のしわがれた声だった。
この声も、プラーヌスの手に持っている陶器の瓶のようなものから聞こえてきた。
もちろんプラーヌスの魔法の力によるのだろうけど、こんな現象に立ち会ったのは初めてだったので、私が驚いたのは言うまでもない。
「それはすまないね、旅に出てるんだ。僕もまだ眠っていたかったけど、少し生活のサイクルが狂っている。迷惑だったら他の魔法使いに頼むけど?」
プラーヌスが冷ややかな口調でそう言った。
「いや、受け合おう」
少し不服そうだったが、プラーヌスの脅しに屈するような声が聞こえてきた。
「その代わりきっちり謝礼はもらう」
「もちろんだ、何がいい? 最近、面白い魔法を見つけたよ。あらゆるものを新鮮に保つ魔法だ。それを使うとその建物内にある花や野菜、肉や魚などが、枯れたり腐ったりしなくなる。どうだい? 便利な魔法だろ?」
「そんな魔法、使い道に迷うな、他には?」
プラーヌスの通信相手が答える。
「ならば雨雲を呼び、雷を落とす魔法。その雷は大人数の相手に有効だ。弱点は屋外でしか使えないこと」
「まあ、それでいい。多分、私の知らない魔法だ」
「そうか、だったらいつもの小屋に置いておく。で、本題だけど。バルザ殿の件だ」
「ああ」
「これから拡張子を飛ばすから、バルザの屋敷に上手く行き着くよう差配してくれ。黒猫二匹に鴉二羽だ。これが最後の拡張子になるだろう」
そう言うと、プラーヌスは私に合図をしてきた。
私は麻の袋を魔方陣の上に置いた。
プラーヌスが床に転がっていた宝石を拾い上げ、それを掴みながら何か言葉を囁いた。
すると二つの麻袋は私たちの目の前から消えた。
「到着した、活きの良さそうな拡張子だな、きちんと取り計らう」
水晶玉の向こうの男がそう言った。
「よし。今夜、予定通り、僕もそっちに行く。直前に連絡出来ないだろうから、ずっと魔方陣を開けておいてくれよ」
「わかっている。あんたを怒らせるようなミスはしないよ。どっちの魔力が上か、ちゃんとわきまえているからな」
「よし。それでは今夜、会おう」
小さな水晶玉の中に映っていた映像が消えた。それを確かめてからプラーヌスは仮面を取った。
「よし、今のところ全て順調だ。で、そっちは?」
「ああ、ありったけの花を買ってきたよ。夕方頃、届けるように言ってあるから、もうそろそろ来るかな。だけど到底、馬車一台には収まりきらないけど」
「うん、それも魔法で何とかするさ」
プラーヌスは立ち上がった。「これから忙しくなるぞ。この街での準備が全部終われば、君を塔に送ろう。それまでまだ時間はあるけど、いつでも帰られる準備だけはしておいてくれ」
「わかった。プラーヌス、君は?」
「今夜にはパルに移動する。しかしまだ、その前にこの街でやっておかないといけない用がある。でもお腹が空いたな。まずは食事をとろう、多分この街で最後の食事になるだろう」
しかし彼はまだ私に何も指示を出してこないので、一端、それを置いて水晶玉を覗きこむ。
プラーヌスが何かつぶやくと、水晶玉の中に映っている光景がパチリと切り替わった。
さっきまでそこには少年と親方の居た部屋が映っていたのだけど、それと打って変わり、どこかの街並みが目に入る。
大きな屋敷だ。
貴族か、成功した商人か、もしくは国の高官が住むような。その屋敷の前を行き来する通行人の姿も見える。
「よし、準備は出来た。おい、応答してくれ、こちら、FFだ」
プラーヌスがそう言った。
私に向かって言ったのかと思ったが、彼は左手に持っている陶器の瓶に向かって呼び掛けている。
その言葉と同時に、その水晶玉の横にある、もう一つの小さな水晶玉のほうもチカチカと瞬き出した。
その小さな水晶玉のほうにも何かの映像が映った。それと共に、床に転がっていた宝石が一つ割れ、粉々に消えた。
「パルにいる僕の協力者の魔法使いを呼び出しているのさ」
プラーヌスのしていることをいぶかしげに見ていた私に向かって、彼はそう説明してきた。「魔界を通じての通信だよ」
そう言いながらプラーヌスは懐から仮面を取り出し、それをかぶる。仮面といっても目だけを隠す仕様のものだ。
「魔界を通じての通信?」
「ああ、魔界を通したら、遠く離れた相手であっても、意志の遣り取りが出来るんだ。但し、相手は魔法使いに限られるがね。おっと、シャグラン、僕の後ろに立つなよ。魔界を通じての通信は、正体を明かさないのが基本なんだ。だから仮面をして、更に仮名を使う」
小さな水晶玉の中に、人の姿が現れた。その人もプラーヌス同様、仮面をかぶっているようである。
「・・・まだ眠っていたぞ、こちらはCPだ」
その水晶玉の中にいる男の声が聞こえてくる。私たちよりも年配のしわがれた声だった。
この声も、プラーヌスの手に持っている陶器の瓶のようなものから聞こえてきた。
もちろんプラーヌスの魔法の力によるのだろうけど、こんな現象に立ち会ったのは初めてだったので、私が驚いたのは言うまでもない。
「それはすまないね、旅に出てるんだ。僕もまだ眠っていたかったけど、少し生活のサイクルが狂っている。迷惑だったら他の魔法使いに頼むけど?」
プラーヌスが冷ややかな口調でそう言った。
「いや、受け合おう」
少し不服そうだったが、プラーヌスの脅しに屈するような声が聞こえてきた。
「その代わりきっちり謝礼はもらう」
「もちろんだ、何がいい? 最近、面白い魔法を見つけたよ。あらゆるものを新鮮に保つ魔法だ。それを使うとその建物内にある花や野菜、肉や魚などが、枯れたり腐ったりしなくなる。どうだい? 便利な魔法だろ?」
「そんな魔法、使い道に迷うな、他には?」
プラーヌスの通信相手が答える。
「ならば雨雲を呼び、雷を落とす魔法。その雷は大人数の相手に有効だ。弱点は屋外でしか使えないこと」
「まあ、それでいい。多分、私の知らない魔法だ」
「そうか、だったらいつもの小屋に置いておく。で、本題だけど。バルザ殿の件だ」
「ああ」
「これから拡張子を飛ばすから、バルザの屋敷に上手く行き着くよう差配してくれ。黒猫二匹に鴉二羽だ。これが最後の拡張子になるだろう」
そう言うと、プラーヌスは私に合図をしてきた。
私は麻の袋を魔方陣の上に置いた。
プラーヌスが床に転がっていた宝石を拾い上げ、それを掴みながら何か言葉を囁いた。
すると二つの麻袋は私たちの目の前から消えた。
「到着した、活きの良さそうな拡張子だな、きちんと取り計らう」
水晶玉の向こうの男がそう言った。
「よし。今夜、予定通り、僕もそっちに行く。直前に連絡出来ないだろうから、ずっと魔方陣を開けておいてくれよ」
「わかっている。あんたを怒らせるようなミスはしないよ。どっちの魔力が上か、ちゃんとわきまえているからな」
「よし。それでは今夜、会おう」
小さな水晶玉の中に映っていた映像が消えた。それを確かめてからプラーヌスは仮面を取った。
「よし、今のところ全て順調だ。で、そっちは?」
「ああ、ありったけの花を買ってきたよ。夕方頃、届けるように言ってあるから、もうそろそろ来るかな。だけど到底、馬車一台には収まりきらないけど」
「うん、それも魔法で何とかするさ」
プラーヌスは立ち上がった。「これから忙しくなるぞ。この街での準備が全部終われば、君を塔に送ろう。それまでまだ時間はあるけど、いつでも帰られる準備だけはしておいてくれ」
「わかった。プラーヌス、君は?」
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