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10)シユエト <会合2>
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「知性はない。意識はない。自分が何者か、今のアンボメは理解していない。だが、彼女の触った物は、信じられないくらいのエネルギーを秘めた爆発物となる。そしてこれがスイッチ」
シャカルは懐から小さな宝石箱のようなものを取り出した。その小さな箱には、凸状の突起物がついている。
シャカルはその凸部を指差した。
「ここを押せば、ドカンだ。俺たちが相手をしなければいけない敵が、どれだけ凄い魔法使いか知らないが、しかしアンボメの魔法ならば一撃で砕き殺すことが出来るだろう。そしてこの話しで最も重要なことは、今のアンボメの飼い主は俺だということさ。俺が彼女に食事を与え、身の回りの世話をしている。その代わり、彼女は俺の指示以外従わない」
シャカルの言っていることが本当ならば、アンボメが自らの人生を犠牲にして手に入れた巨大な魔法の力を、シャカルが自由に使うことが出来るということだ。
その能力を上手く活用することが出来れば、本当に恐ろしい魔法使いになることが出来るに違いない。領土拡張を狙う王たちも、その力が欲しいはずである。依頼は引く手数多になろう。
いや、実際、ダンテスクがこの戦いに参加してくれと声を掛けたのだ。それがシャカルの力の証し。
「これで話しは終わりだ。質問は受け付けない。敵の魔法使いに勝ちたければ、俺に従うんだ」
シャカルは自信満々にそう言ってくる。この話しを聞けば、誰も俺を軽んじることは出来ないはずだ。態度でそう語っている。
ダンテスクがアンボメの魔法の力を、この戦いにキーとなると考ええているとすれば、シャカルを侮ることは出来ない。その力は予想を超えたものかもしれない。
しかしそれは所詮、アンバランスな力でしかないと、シユエトは思った。
アンボメの魔法は物体を爆発物に変える力だけ。
この魔法だけしか使うことが出来ない。それだけでは到底、上位の魔法使いと渡り合うことは出来ない。
(俺たちの助けがあって初めて、その魔法は威力を発揮することが出来るだろう。確かにその魔法は貴重だが、シャカルとアンボメだけでは、本当に強い敵には勝てまい)
いや、重要なことはそれではない。シユエトはシャカルの話しを聞きながら考えていたことがある。
(もしアンボメの力を、俺が手にすることが出来れば?)
シユエトは、シャカルをはるかに越える魔法使いだ。それはどう見積もっても間違いのないことだろう。
(そんな俺がアンボメの力を手にすることが出来れば、世界を脅かすくらいの魔法使いになれるだろう)
「なぜ、アンボメという女は、君の指示にしか従わないんだ?」
デボシュが言った。
デボシュもまるで自分と同じことを考えていたようだとシユエトは思った。彼もアンボメの力が欲しいに違いない。
「彼女の報復に、俺が力を貸したからだ。まだ、全ての男を殺したわけではない。報復の途中だ。しかし少しずつアンボメの心は慰められつつある」
「君はアンボメを犯した奴らを殺しているのか?」
「そうさ。でも簡単に殺しはしない。そいつらの家族も同じ目にあわせている」
シユエトはその言葉を聞いた瞬間、全てが腑に落ちた気がした。シャカルの背負っている、ほの暗さ、その理由を。
「しかし、どうやって復讐相手を特定してるんだ?」
デボシュが更に尋ねる。
「そんなことは無理だ。無理に決まっているではないか。だから、アンボメが住んでいた街の男を全員殺している」
「ほ、本気か?」
豪胆そのものといったデボシュも息を呑んだ。当然、その隣で聞いていたブランジュなどは顔色を一変させた。
さあね。
しかしシャカルは肩をすくめて、その質問に答えず、あの不快な笑みを浮かべて、ほのめかすだけに留める。好きなように想像するがいい。そのような態度だ。
「いずれにしろ俺とアンボメは気が合う。共振してるのさ。彼女が言うところの、パーフェクト・リゾナンスなんだろうね。あんたたちでは彼女を満足させることは無理さ」
シャカルは自信満々にそう言った。アンボメと気が合うこと。それがまるで神の恩寵であるかのように。
「しかしもし俺のその答えに満足しないのであれば、試してみればいい。彼女はいずれ帰ってくる。しばらく二人きりにさせてやるよ。好きなことをしても構わない。何をしたって、彼女の報復リストには入れないさ。だけどアンボメは、あんたの下半身を舐めることはあっても、魔法の力を貸し与えることはないだろう」
「何だと!」
デボシュが怒りをあらわにした。「俺がそんなことさせるわけないだろ!」
しかし口下手なのか、その言葉を繰り消すだけで、冷笑しているシャカルが色を為すような反論を言うことが出来ないようだ。
はあ、何て下品なの。
その隣でブランジュが呆れたように言う。そして心の底から、シャカルを軽蔑しているという態度を取り始める。
するとシャカルはすぐに表情を変えて、ブランジュを睨み始める。
シャカルは自分が馬鹿にされているかどうか、そういった態度にはかなり過敏なようだ。
(この男を怒らせるにはまっとうに反論をするよりも、こうやってただ軽蔑すればいいのだ、デボシュ)
またもや怒りが上手くコントロール出来なくなってきたようだ。シャカルの息が荒くなる。今にもブランジュに掴みかからんばかり。
そのときだった。
彼らの前に突然、アンボメが現れた。
部屋の扉が開いて、白い服を着た少女がふらふらと入ってきただけなので、アンボメを見たことのない彼らは当然のこと、その少女がアンボメだとすぐに確信することが出来たわけではない。
しかしその雰囲気、うつろな表情、絶望的な空気感、全てがシャカルの語ったアンボメのイメージと一致していたので、この闖入者が何者なのか一瞬にして思い至った。
黒い髪の毛が腰よりも伸びている。その髪はまるで手入れされていないようでパサパサだ。着ている衣服も不潔である。
しかし確かに、美しい少女と言えるかもしれない。
人間ならば、誰の目の中にも当然のように宿っている生気は片鱗も見当たらないが、切れ長の蒼い瞳の形は見目良い。
薄い唇は苦渋に歪んでいるようであるが、品のようなものを感じさせる。
その青白い肌は透き通るようで、この世の生き物とは思えない儚さのようなものを漂わせていた。あらゆる快楽を頑固に跳ねつける修道女のような青臭さがあって、何か強烈な静謐感を感じさせる。
「おお、やっと帰ってきたか、アンボメ。どこに行ってたんだ!」
シャカルが彼女に歩み寄り、躊躇なくその頬を殴りつけた。
それはとても馴れた手つきで、日頃からこのようなことが行われているのを予感させる。
殴られたアンボメのほうも、その突然の暴力にショックを受けることもなく、「こんにちは」の挨拶をされたときのように、軽く受け流している。
しかしシユエトたち四人は、年若い少女が目の前で殴られたのを見て、動揺を隠すことが出来なかった。
「ちょ、ちょっと、あんた、何をするのよ!」
ブランジュが声を上げた。彼女はアンボメへの暴力が、まるで自分への挑発に感じられたのだ。「少なくとも私の前で、こういうことは止めてくれない!」
「やっとアンボメが帰ってきた!」
シャカルが声を張り上げた。ブランジュ、そしてシユエトのほうも睨みながら。「彼女の魔法を見せてやるよ。それがどれくらいの威力なのか教えてやる」
さっきまでのシャカルの態度とはまるで変わったとシユエトは思った。奴は心強い武器を得たのだ。彼女の魔法を使えば、戦いになっても負けることはないと踏んでいるに違いない。
ならば、その甘い考えを粉々に打ち砕いてやる。
シユエトの視線が鋭さを帯びる。彼はシャカルに向かって静かに殺気を放った。それに気づいたシャカルも臆することなく睨み返してきた。
シャカルはアンボメを乱暴に引き寄せる。アンボメは意思のない藁人形のように、シャカルの身体にもたれかかった。
――やめるんだ、シャカル! 危険過ぎる。彼らがアンボメの力を見るのは明日の戦闘のときでいい。
二人の争いを仲裁するように、ダンテスクの声が割り込んできた。
――シャカル、君の仕事はアンボメを保護することだ。明日の本番まで、もう見失うことのないように。彼女の魔法があれば、我々が勝利することは確実なのだ。
「わかりましたよ」
シャカルが不敵な表情で笑みを浮かべながら、そう返事した。「では、楽しみは明日まで待ちましょう」
彼はあっさりとシユエトから視線を離した。そこには不気味なほどの余裕と自信が感じられる。先程のように必死に怒りを隠そうとしている素振りは、もはやない。
明日、敵の魔法使いともども、お前たちも殺してやる。
奴はそう考えているのではないか、シユエトは思った。
シャカルは懐から小さな宝石箱のようなものを取り出した。その小さな箱には、凸状の突起物がついている。
シャカルはその凸部を指差した。
「ここを押せば、ドカンだ。俺たちが相手をしなければいけない敵が、どれだけ凄い魔法使いか知らないが、しかしアンボメの魔法ならば一撃で砕き殺すことが出来るだろう。そしてこの話しで最も重要なことは、今のアンボメの飼い主は俺だということさ。俺が彼女に食事を与え、身の回りの世話をしている。その代わり、彼女は俺の指示以外従わない」
シャカルの言っていることが本当ならば、アンボメが自らの人生を犠牲にして手に入れた巨大な魔法の力を、シャカルが自由に使うことが出来るということだ。
その能力を上手く活用することが出来れば、本当に恐ろしい魔法使いになることが出来るに違いない。領土拡張を狙う王たちも、その力が欲しいはずである。依頼は引く手数多になろう。
いや、実際、ダンテスクがこの戦いに参加してくれと声を掛けたのだ。それがシャカルの力の証し。
「これで話しは終わりだ。質問は受け付けない。敵の魔法使いに勝ちたければ、俺に従うんだ」
シャカルは自信満々にそう言ってくる。この話しを聞けば、誰も俺を軽んじることは出来ないはずだ。態度でそう語っている。
ダンテスクがアンボメの魔法の力を、この戦いにキーとなると考ええているとすれば、シャカルを侮ることは出来ない。その力は予想を超えたものかもしれない。
しかしそれは所詮、アンバランスな力でしかないと、シユエトは思った。
アンボメの魔法は物体を爆発物に変える力だけ。
この魔法だけしか使うことが出来ない。それだけでは到底、上位の魔法使いと渡り合うことは出来ない。
(俺たちの助けがあって初めて、その魔法は威力を発揮することが出来るだろう。確かにその魔法は貴重だが、シャカルとアンボメだけでは、本当に強い敵には勝てまい)
いや、重要なことはそれではない。シユエトはシャカルの話しを聞きながら考えていたことがある。
(もしアンボメの力を、俺が手にすることが出来れば?)
シユエトは、シャカルをはるかに越える魔法使いだ。それはどう見積もっても間違いのないことだろう。
(そんな俺がアンボメの力を手にすることが出来れば、世界を脅かすくらいの魔法使いになれるだろう)
「なぜ、アンボメという女は、君の指示にしか従わないんだ?」
デボシュが言った。
デボシュもまるで自分と同じことを考えていたようだとシユエトは思った。彼もアンボメの力が欲しいに違いない。
「彼女の報復に、俺が力を貸したからだ。まだ、全ての男を殺したわけではない。報復の途中だ。しかし少しずつアンボメの心は慰められつつある」
「君はアンボメを犯した奴らを殺しているのか?」
「そうさ。でも簡単に殺しはしない。そいつらの家族も同じ目にあわせている」
シユエトはその言葉を聞いた瞬間、全てが腑に落ちた気がした。シャカルの背負っている、ほの暗さ、その理由を。
「しかし、どうやって復讐相手を特定してるんだ?」
デボシュが更に尋ねる。
「そんなことは無理だ。無理に決まっているではないか。だから、アンボメが住んでいた街の男を全員殺している」
「ほ、本気か?」
豪胆そのものといったデボシュも息を呑んだ。当然、その隣で聞いていたブランジュなどは顔色を一変させた。
さあね。
しかしシャカルは肩をすくめて、その質問に答えず、あの不快な笑みを浮かべて、ほのめかすだけに留める。好きなように想像するがいい。そのような態度だ。
「いずれにしろ俺とアンボメは気が合う。共振してるのさ。彼女が言うところの、パーフェクト・リゾナンスなんだろうね。あんたたちでは彼女を満足させることは無理さ」
シャカルは自信満々にそう言った。アンボメと気が合うこと。それがまるで神の恩寵であるかのように。
「しかしもし俺のその答えに満足しないのであれば、試してみればいい。彼女はいずれ帰ってくる。しばらく二人きりにさせてやるよ。好きなことをしても構わない。何をしたって、彼女の報復リストには入れないさ。だけどアンボメは、あんたの下半身を舐めることはあっても、魔法の力を貸し与えることはないだろう」
「何だと!」
デボシュが怒りをあらわにした。「俺がそんなことさせるわけないだろ!」
しかし口下手なのか、その言葉を繰り消すだけで、冷笑しているシャカルが色を為すような反論を言うことが出来ないようだ。
はあ、何て下品なの。
その隣でブランジュが呆れたように言う。そして心の底から、シャカルを軽蔑しているという態度を取り始める。
するとシャカルはすぐに表情を変えて、ブランジュを睨み始める。
シャカルは自分が馬鹿にされているかどうか、そういった態度にはかなり過敏なようだ。
(この男を怒らせるにはまっとうに反論をするよりも、こうやってただ軽蔑すればいいのだ、デボシュ)
またもや怒りが上手くコントロール出来なくなってきたようだ。シャカルの息が荒くなる。今にもブランジュに掴みかからんばかり。
そのときだった。
彼らの前に突然、アンボメが現れた。
部屋の扉が開いて、白い服を着た少女がふらふらと入ってきただけなので、アンボメを見たことのない彼らは当然のこと、その少女がアンボメだとすぐに確信することが出来たわけではない。
しかしその雰囲気、うつろな表情、絶望的な空気感、全てがシャカルの語ったアンボメのイメージと一致していたので、この闖入者が何者なのか一瞬にして思い至った。
黒い髪の毛が腰よりも伸びている。その髪はまるで手入れされていないようでパサパサだ。着ている衣服も不潔である。
しかし確かに、美しい少女と言えるかもしれない。
人間ならば、誰の目の中にも当然のように宿っている生気は片鱗も見当たらないが、切れ長の蒼い瞳の形は見目良い。
薄い唇は苦渋に歪んでいるようであるが、品のようなものを感じさせる。
その青白い肌は透き通るようで、この世の生き物とは思えない儚さのようなものを漂わせていた。あらゆる快楽を頑固に跳ねつける修道女のような青臭さがあって、何か強烈な静謐感を感じさせる。
「おお、やっと帰ってきたか、アンボメ。どこに行ってたんだ!」
シャカルが彼女に歩み寄り、躊躇なくその頬を殴りつけた。
それはとても馴れた手つきで、日頃からこのようなことが行われているのを予感させる。
殴られたアンボメのほうも、その突然の暴力にショックを受けることもなく、「こんにちは」の挨拶をされたときのように、軽く受け流している。
しかしシユエトたち四人は、年若い少女が目の前で殴られたのを見て、動揺を隠すことが出来なかった。
「ちょ、ちょっと、あんた、何をするのよ!」
ブランジュが声を上げた。彼女はアンボメへの暴力が、まるで自分への挑発に感じられたのだ。「少なくとも私の前で、こういうことは止めてくれない!」
「やっとアンボメが帰ってきた!」
シャカルが声を張り上げた。ブランジュ、そしてシユエトのほうも睨みながら。「彼女の魔法を見せてやるよ。それがどれくらいの威力なのか教えてやる」
さっきまでのシャカルの態度とはまるで変わったとシユエトは思った。奴は心強い武器を得たのだ。彼女の魔法を使えば、戦いになっても負けることはないと踏んでいるに違いない。
ならば、その甘い考えを粉々に打ち砕いてやる。
シユエトの視線が鋭さを帯びる。彼はシャカルに向かって静かに殺気を放った。それに気づいたシャカルも臆することなく睨み返してきた。
シャカルはアンボメを乱暴に引き寄せる。アンボメは意思のない藁人形のように、シャカルの身体にもたれかかった。
――やめるんだ、シャカル! 危険過ぎる。彼らがアンボメの力を見るのは明日の戦闘のときでいい。
二人の争いを仲裁するように、ダンテスクの声が割り込んできた。
――シャカル、君の仕事はアンボメを保護することだ。明日の本番まで、もう見失うことのないように。彼女の魔法があれば、我々が勝利することは確実なのだ。
「わかりましたよ」
シャカルが不敵な表情で笑みを浮かべながら、そう返事した。「では、楽しみは明日まで待ちましょう」
彼はあっさりとシユエトから視線を離した。そこには不気味なほどの余裕と自信が感じられる。先程のように必死に怒りを隠そうとしている素振りは、もはやない。
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