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43)ブランジュ <魔界7>
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ガリレイの依頼通り、ブランジュはその魔法のコードを改良し、実戦で使えるように磨きをかけた。
自分のための瞬間移動の魔法ではなく、他人を魔界に流刑して、そこに閉じ込めておくための魔法として作り変えたのだ。
それは簡単な改良に思えたが、実際にはかなり大幅の作り替えが必要だった。
ブランジュの生半可なプログラムア知識では、短い期間でそれだけの改良作業を成し遂げるのは不可能だったであろう。
その作業のほとんどをガリレイが肩代わりしてくれた。ブランジュはただその仕事ぶりを見ていただけだ。
しかし見ているだけで、充分に勉強になった。
見るといっても、ガリレイがコードを書き換えている姿を間近で見るわけではない。
その共同作業だって、魔界を通して遣り取りしたに過ぎない。
しかし日々、書き換えられていくプログラムソースを、ガリレイは解説付きで見せてくれる。
そこには、自分がどれだけ優秀なコード書きであるかという、ガリレイの自慢げな態度も見て取れたが、他人の虚栄心に不快を覚えるブランジュではなかった。
実際、大変な勉強になったことも事実だし、ガリレイの凄まじい技術には目を見張るものがあった。
それに、ガリレイはブランジュのちょっとしたアイデアも採用してくれる。
だから自分もそれなりに貢献出来た気がする。
あっという間に、その新しい魔法は完成した。ブランジュのオリジナルの魔法のコード。他人を魔界に流刑して閉じ込めておける魔法。
敵を殺さずして、力を無化することが出来る魔法である。
その魔法の利点はシールドに関係なく、相手を魔界に吹き飛ばせるということである。
だから自分よりも上位の魔法使いにも効果がある。
あらゆる攻撃を弾き返す強固なシールドを貼ることの出来る上級レベルの魔法使いでも、そのシールドごと魔界に流刑することが可能なのだ。
しかし素早く動いている対象には、エラーが生じるようだ。
逃げ惑う鼠を、網で掬い取るのが難しいように、素早い相手にその魔法を成功させるのは困難。
とはいえ訓練次第で、それは克服されるだろう。
ブランジュはガリレイから、その魔法の運用に習熟するように申し付けられた。
これだけお世話になっているガリレイからの申し出である。当然のこと、ブランジュは快く引き受けた。
しかし改良の結果は、利点ばかりを生んだわけではなかった。
その魔法には、とてつもなく大きな欠点も生じてしまうことが、改良の最中から判明していた。
その魔法を使い、相手を魔界に流刑した場合、十時間ほど経過すれば、その牢獄の鍵は自動的に開けられて、その相手は現実の世界に戻ることが出来てしまうということ。
それは永遠の流刑地どころではなく、脆い牢獄でしかなかったのだ。
こんな牢獄では、相手を餓死させることも不可能。
それに、中から暗号を解かれてしまえば、脱出することも可能だということ。
その欠点は、ブランジュをがっかりさせた。これは想定していたこととは、まるで違う結果なのである。
当然のことであるが、万能の魔法など開発出来ない。
この世界に存在しているあらゆる魔法に、何らかの欠点があるのが当たり前である。
どのような欠点に目をつぶり、どのような長所を生かすか、それが魔法の開発における決断のしどころであった。
万能の魔法は、魔族の摂理が許さない。その摂理との忍耐強い折衝、それが魔法のプログラムを作成するということ。
しかしその魔法を他者にも使えるように改良した結果、このような致命的欠点が生じてしまうとは、ブランジュは想像もしていなかった。
魔族の摂理の恐ろしさを改めて認識させられた。
「もう少し時間があれば、その部分はもっと改良出来るだろう。急ぎの作業の結果だ。気落ちすることはない。むしろ、相手を十時間もの間、閉じ込めておけるのであれば、それで充分過ぎるくらいだ」
しかしガリレイはその事実に少しも動じている様子はなかった。
「中から暗号を解かれれば、十時間も持ちません」
「そこは確かに心配だ。しかし鍵のない牢獄など存在しない。入り口があれば、出口があるのは当然。出来るだけ、解くのが難しい暗号を設定すればいい。その仕事は私に任せて欲しい。どんな優秀な魔法使いでも、最低五時間は解くことの出来ない暗号を考え出す。君にはその実験台にもなってもらおうか」
「わかりました」
「君が十時間以内に解くことが出来ない暗号であれば、上位の魔法使いでも簡単に解くことは出来ないはずだ。実は刺されてから五時間以内に、毒が全身に廻り死に至らしめることが出来る、猛毒のサソリを見つけたんだ」
「え?」
ガリレイがそんなことを書いて寄こした。
「そういうわけで、最初の依頼したとおり、君にある仕事を引き受けて欲しい。謝礼は約束通り払う。前払いで五百金貨。成功後にも五百」
殺しの仕事らしい。とてつもない報酬の額だ。金貨一つで十万。千枚の金貨で一億もの額。
その仕事で、そのサソリを使うのだろうか。いったいどのような戦い方をするのか、ブランジュには想像もつかなかったが、ガリレイからの依頼を断れるはずもない。
「当然、引き受けます。でも私なんかが役に立つでしょうか?」
「充分だ。十時間、いや、最低でも五時間、相手を閉じ込めて置けるのであれば」
自分のための瞬間移動の魔法ではなく、他人を魔界に流刑して、そこに閉じ込めておくための魔法として作り変えたのだ。
それは簡単な改良に思えたが、実際にはかなり大幅の作り替えが必要だった。
ブランジュの生半可なプログラムア知識では、短い期間でそれだけの改良作業を成し遂げるのは不可能だったであろう。
その作業のほとんどをガリレイが肩代わりしてくれた。ブランジュはただその仕事ぶりを見ていただけだ。
しかし見ているだけで、充分に勉強になった。
見るといっても、ガリレイがコードを書き換えている姿を間近で見るわけではない。
その共同作業だって、魔界を通して遣り取りしたに過ぎない。
しかし日々、書き換えられていくプログラムソースを、ガリレイは解説付きで見せてくれる。
そこには、自分がどれだけ優秀なコード書きであるかという、ガリレイの自慢げな態度も見て取れたが、他人の虚栄心に不快を覚えるブランジュではなかった。
実際、大変な勉強になったことも事実だし、ガリレイの凄まじい技術には目を見張るものがあった。
それに、ガリレイはブランジュのちょっとしたアイデアも採用してくれる。
だから自分もそれなりに貢献出来た気がする。
あっという間に、その新しい魔法は完成した。ブランジュのオリジナルの魔法のコード。他人を魔界に流刑して閉じ込めておける魔法。
敵を殺さずして、力を無化することが出来る魔法である。
その魔法の利点はシールドに関係なく、相手を魔界に吹き飛ばせるということである。
だから自分よりも上位の魔法使いにも効果がある。
あらゆる攻撃を弾き返す強固なシールドを貼ることの出来る上級レベルの魔法使いでも、そのシールドごと魔界に流刑することが可能なのだ。
しかし素早く動いている対象には、エラーが生じるようだ。
逃げ惑う鼠を、網で掬い取るのが難しいように、素早い相手にその魔法を成功させるのは困難。
とはいえ訓練次第で、それは克服されるだろう。
ブランジュはガリレイから、その魔法の運用に習熟するように申し付けられた。
これだけお世話になっているガリレイからの申し出である。当然のこと、ブランジュは快く引き受けた。
しかし改良の結果は、利点ばかりを生んだわけではなかった。
その魔法には、とてつもなく大きな欠点も生じてしまうことが、改良の最中から判明していた。
その魔法を使い、相手を魔界に流刑した場合、十時間ほど経過すれば、その牢獄の鍵は自動的に開けられて、その相手は現実の世界に戻ることが出来てしまうということ。
それは永遠の流刑地どころではなく、脆い牢獄でしかなかったのだ。
こんな牢獄では、相手を餓死させることも不可能。
それに、中から暗号を解かれてしまえば、脱出することも可能だということ。
その欠点は、ブランジュをがっかりさせた。これは想定していたこととは、まるで違う結果なのである。
当然のことであるが、万能の魔法など開発出来ない。
この世界に存在しているあらゆる魔法に、何らかの欠点があるのが当たり前である。
どのような欠点に目をつぶり、どのような長所を生かすか、それが魔法の開発における決断のしどころであった。
万能の魔法は、魔族の摂理が許さない。その摂理との忍耐強い折衝、それが魔法のプログラムを作成するということ。
しかしその魔法を他者にも使えるように改良した結果、このような致命的欠点が生じてしまうとは、ブランジュは想像もしていなかった。
魔族の摂理の恐ろしさを改めて認識させられた。
「もう少し時間があれば、その部分はもっと改良出来るだろう。急ぎの作業の結果だ。気落ちすることはない。むしろ、相手を十時間もの間、閉じ込めておけるのであれば、それで充分過ぎるくらいだ」
しかしガリレイはその事実に少しも動じている様子はなかった。
「中から暗号を解かれれば、十時間も持ちません」
「そこは確かに心配だ。しかし鍵のない牢獄など存在しない。入り口があれば、出口があるのは当然。出来るだけ、解くのが難しい暗号を設定すればいい。その仕事は私に任せて欲しい。どんな優秀な魔法使いでも、最低五時間は解くことの出来ない暗号を考え出す。君にはその実験台にもなってもらおうか」
「わかりました」
「君が十時間以内に解くことが出来ない暗号であれば、上位の魔法使いでも簡単に解くことは出来ないはずだ。実は刺されてから五時間以内に、毒が全身に廻り死に至らしめることが出来る、猛毒のサソリを見つけたんだ」
「え?」
ガリレイがそんなことを書いて寄こした。
「そういうわけで、最初の依頼したとおり、君にある仕事を引き受けて欲しい。謝礼は約束通り払う。前払いで五百金貨。成功後にも五百」
殺しの仕事らしい。とてつもない報酬の額だ。金貨一つで十万。千枚の金貨で一億もの額。
その仕事で、そのサソリを使うのだろうか。いったいどのような戦い方をするのか、ブランジュには想像もつかなかったが、ガリレイからの依頼を断れるはずもない。
「当然、引き受けます。でも私なんかが役に立つでしょうか?」
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