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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第九章 2)見せしめの死体
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それは何もかも終わった終結点として、行き止まりの高い城壁に吊るされている。つまり、もうそれは変化を起こしたり、ましてや、そこから別の何かが始まったりなどしない。ありとあらゆる全ての出来事が、そこで終わってしまっている。それが死というものだと、その光景を見て私は思った。
炎で焦がされ、ところどころ崩れかけた城壁、その壁に死体が吊るされていた。
本当に残酷な光景であった。死体に対しての敬意などない。城壁に吊るされたそれは、「勝利」、「占領」、「支配」を知らしめるための徴として使われている道具。
しかもその道具として使われているのが、自分の両親たちなのである。アリューシアの気持ちを思うと、胸が張り裂けそうである。
しかし、その凄惨な光景を前にして、最初に沈黙を破ったのは彼女だった。
「来て良かった、本当に良かった! 私、予感してたもの。ママたちが呼んでいる声が聞こえていた。ここから降ろしてって」
アリューシアは少しも周りに憚ることのない声で言う。城壁の上には物見の兵がいた。おそらくギャラックの正規兵。
ギャラックの暴力によって占領された街には、死体が転がっているだけで、ほとんど人の姿はない。その街の中で、私たちの姿が目立つのは言うまでもなかった。下手な動きは出来ない。すぐにその物見の兵に見つかってしまうだろう。
「アリューシア、ここは危険だ。しばらくどこか身を潜めたほうが良い」
私は少し興奮状態のアリューシアに声を掛ける。
とはいえ、太陽は沈んでいる。真昼のように明るいのは篝火が盛大に焚かれた城壁のほうだけ。おそらく夜の間も、その死体を見せしめにするため、炎を燃やしているのだろう。
目立つ動きをしなければ、敵から見つかることはないはずだ。
しかしアリューシアにその気はないようだった。
「何ですって? パパとママを目の前にして、逃げられるわけないでしょ!」
彼女は声を荒げる。
「落ち着こう。我々がやらなければいけないことは決まった。どうにかあの見張りの兵の目をかいくぐり、君の両親たちをあそこから降ろし、塔に連れて帰る」
私はその意見に同意を求めるように、カルファルやアリューシアの付き人であるエドガルとドニを見る。三人とも頷いた。
「そしてギャラックの当主も殺す」
だけど、アリューシアは言う。
「駄目だ、アリューシア。そんなこと簡単に出来るわけがない!」
「問題ない、私の魔法なら出来る」
「君の魔法? だったら尋ねる。君はどんな魔法が使えるんだ?」
「見たでしょ? 狼を殺した炎の魔法。ここまで瞬間移動してきた魔法」
「それと?」
「それだけよ! それで十分じゃない。敵を全て焼き尽くし、そしてまた瞬間移動で帰る。ミッションは終了だわ」
「そんなに簡単に事態が進んでいくような状況ではない。なあ、そうだろ、カルファル、君の意見はどうなんだ?」
私はカルファルに話しを振った。彼もどうやら私と同じ考えのようなのだ。カルファルにもアリューシアの説得に加わってもらう。
カルファルはさっきから腕組みをして、しきりに辺りをキョロキョロと見回していた。私以上に、警戒心を持って辺りに注意を配っているようだ。
「なあ、シャグラン、どう思う? あの城壁の物見の兵と、あそこの死体、同じ鎧を着ていると思わないか?」
カルファルが抑えた声でそんなことを言ってきた。
「な、何だって?」
「そうだとすれば、まだボーアホーブとギャラックの戦いは、完全に終結したわけではないってことだ」
「ど、どういうことよ?」
アリューシアもカルファルの話しに注意を向けた。
「つまり、この街に俺たちの仲間がいるかもしれないってことだ」
「仲間だって?」
私は目を凝らして、カルファルが指差したほうを見た。崩れかかってはいるが、燃えてはいない建物の壁に、二体の死体がもたれかかっていた。
矢に刺されて死んだようだ。腐ってはいないが、身動きもしない。間違いなく死体。しかし確かに格好はギャラックの兵。彼らは一様に、左肩にだけ鉄製の肩当てをしている。
「君の言う通り、ギャラックの装備に見える」
「そうだろ。しかも新しい。まだ新鮮な死体だ」
「殺されたばかりね!」
「ああ、つまり、まだどこかでギャラックを殺している者がいるということだ」
「そうよ、ボーアホーブはそんな簡単に負けたりはしないもん!」
アリューシアが表情を輝かせながら言った。
それは充分にありえることなのかもしれない。ボーアホーブの軍が野戦で負け、敵の軍が城内に侵入してきた。居城も落ちてしまったようだ。しかし全面降伏したのではないとすれば、戦いは自ずと市街戦となる。
この街の路地で、ギャラックの兵とボーアホーブの兵が真っ向から対峙しているのだろうか。
いや、その気配はないようだ。おそらく、ボーアホーブの残党がこの街のどこかに潜み、獲物を狩るようにしてギャラック兵を殺している。
まだ、この街にそれとなく漂う緊張感はそれが原因なのか。
「そうだ。なぜああやって死体を吊るしているのか? 敵がただ単に残酷だからだけではないぜ、きっと。城内の何物かに見せつけるためかもしれない。すなわち、まだ反抗している組織があるんだ。しかもその組織は、城の外ではなくて、中に居るってこと」
「彼らと連絡を取るべきだ」
「当然だ。今、どのような戦況にあるのか、しっかりと教唆してもらうんだ」
「でもどうやって?」
おい、お前たち。何者だ? ここで何をしている?
街を哨戒している兵たちがいたようだ。広場の向こうから軽装備の兵たちが駆け寄ってきた。城壁の上の物見の兵たちも、その声に呼応し始める。ついに見つかったのだ。
「逃げよう!」
私は言う。言いながら、既に走り出している。
「シャグラン、どうしてあなたはそのような発想しか出来ないわけ!」
「僕たちはここに戦いに来たわけじゃないんだ!」
カルファルも私の意見に同意してくれる。仕方なくアリューシアも私たちを追いかけて走ってきた。
炎で焦がされ、ところどころ崩れかけた城壁、その壁に死体が吊るされていた。
本当に残酷な光景であった。死体に対しての敬意などない。城壁に吊るされたそれは、「勝利」、「占領」、「支配」を知らしめるための徴として使われている道具。
しかもその道具として使われているのが、自分の両親たちなのである。アリューシアの気持ちを思うと、胸が張り裂けそうである。
しかし、その凄惨な光景を前にして、最初に沈黙を破ったのは彼女だった。
「来て良かった、本当に良かった! 私、予感してたもの。ママたちが呼んでいる声が聞こえていた。ここから降ろしてって」
アリューシアは少しも周りに憚ることのない声で言う。城壁の上には物見の兵がいた。おそらくギャラックの正規兵。
ギャラックの暴力によって占領された街には、死体が転がっているだけで、ほとんど人の姿はない。その街の中で、私たちの姿が目立つのは言うまでもなかった。下手な動きは出来ない。すぐにその物見の兵に見つかってしまうだろう。
「アリューシア、ここは危険だ。しばらくどこか身を潜めたほうが良い」
私は少し興奮状態のアリューシアに声を掛ける。
とはいえ、太陽は沈んでいる。真昼のように明るいのは篝火が盛大に焚かれた城壁のほうだけ。おそらく夜の間も、その死体を見せしめにするため、炎を燃やしているのだろう。
目立つ動きをしなければ、敵から見つかることはないはずだ。
しかしアリューシアにその気はないようだった。
「何ですって? パパとママを目の前にして、逃げられるわけないでしょ!」
彼女は声を荒げる。
「落ち着こう。我々がやらなければいけないことは決まった。どうにかあの見張りの兵の目をかいくぐり、君の両親たちをあそこから降ろし、塔に連れて帰る」
私はその意見に同意を求めるように、カルファルやアリューシアの付き人であるエドガルとドニを見る。三人とも頷いた。
「そしてギャラックの当主も殺す」
だけど、アリューシアは言う。
「駄目だ、アリューシア。そんなこと簡単に出来るわけがない!」
「問題ない、私の魔法なら出来る」
「君の魔法? だったら尋ねる。君はどんな魔法が使えるんだ?」
「見たでしょ? 狼を殺した炎の魔法。ここまで瞬間移動してきた魔法」
「それと?」
「それだけよ! それで十分じゃない。敵を全て焼き尽くし、そしてまた瞬間移動で帰る。ミッションは終了だわ」
「そんなに簡単に事態が進んでいくような状況ではない。なあ、そうだろ、カルファル、君の意見はどうなんだ?」
私はカルファルに話しを振った。彼もどうやら私と同じ考えのようなのだ。カルファルにもアリューシアの説得に加わってもらう。
カルファルはさっきから腕組みをして、しきりに辺りをキョロキョロと見回していた。私以上に、警戒心を持って辺りに注意を配っているようだ。
「なあ、シャグラン、どう思う? あの城壁の物見の兵と、あそこの死体、同じ鎧を着ていると思わないか?」
カルファルが抑えた声でそんなことを言ってきた。
「な、何だって?」
「そうだとすれば、まだボーアホーブとギャラックの戦いは、完全に終結したわけではないってことだ」
「ど、どういうことよ?」
アリューシアもカルファルの話しに注意を向けた。
「つまり、この街に俺たちの仲間がいるかもしれないってことだ」
「仲間だって?」
私は目を凝らして、カルファルが指差したほうを見た。崩れかかってはいるが、燃えてはいない建物の壁に、二体の死体がもたれかかっていた。
矢に刺されて死んだようだ。腐ってはいないが、身動きもしない。間違いなく死体。しかし確かに格好はギャラックの兵。彼らは一様に、左肩にだけ鉄製の肩当てをしている。
「君の言う通り、ギャラックの装備に見える」
「そうだろ。しかも新しい。まだ新鮮な死体だ」
「殺されたばかりね!」
「ああ、つまり、まだどこかでギャラックを殺している者がいるということだ」
「そうよ、ボーアホーブはそんな簡単に負けたりはしないもん!」
アリューシアが表情を輝かせながら言った。
それは充分にありえることなのかもしれない。ボーアホーブの軍が野戦で負け、敵の軍が城内に侵入してきた。居城も落ちてしまったようだ。しかし全面降伏したのではないとすれば、戦いは自ずと市街戦となる。
この街の路地で、ギャラックの兵とボーアホーブの兵が真っ向から対峙しているのだろうか。
いや、その気配はないようだ。おそらく、ボーアホーブの残党がこの街のどこかに潜み、獲物を狩るようにしてギャラック兵を殺している。
まだ、この街にそれとなく漂う緊張感はそれが原因なのか。
「そうだ。なぜああやって死体を吊るしているのか? 敵がただ単に残酷だからだけではないぜ、きっと。城内の何物かに見せつけるためかもしれない。すなわち、まだ反抗している組織があるんだ。しかもその組織は、城の外ではなくて、中に居るってこと」
「彼らと連絡を取るべきだ」
「当然だ。今、どのような戦況にあるのか、しっかりと教唆してもらうんだ」
「でもどうやって?」
おい、お前たち。何者だ? ここで何をしている?
街を哨戒している兵たちがいたようだ。広場の向こうから軽装備の兵たちが駆け寄ってきた。城壁の上の物見の兵たちも、その声に呼応し始める。ついに見つかったのだ。
「逃げよう!」
私は言う。言いながら、既に走り出している。
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