私の邪悪な魔法使いの友人2

ロキ

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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子

第九章 9)魔法のかかった縄

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 魔法は魔法言語で成り立っている。魔法言語で指令をを書き、それを魔族に命令することによって発動されるという仕組み。
 魔法使いではない私にはよくわからないことであるが、プラーヌスから聞いたことがある知識。つまり、魔法は何千何万もの種類が存在するということ。

 「特殊な魔法だよ。あの縄を空気より軽くしているらしい。だからその縄に身体を絞められると、上へ上へと自然と浮き上がっていく。首が絞められたなら、呼吸が出来なくなって死ぬ。そのメカニズムは単純だが、魔法のコードは複雑。当然、そのコードは公開されていない」

 カルファルはそう言って、大きなため息を吐いた。

 「作戦は変更だ。逃げようとは言わない。しかしギャラック殲滅は絶対に無理だ。相手が悪すぎるんだよ、アリューシア。敵の目をかいくぐり、お前の両親の遺体を回収して逃走。それ以外の選択肢はなくなった」

 カルファルは言う。ようやく彼も私の意見に賛同してくれたようだ。「仮面兵団に遭遇した時点で、俺たちは全滅だからな」

 私たちはギルドの仲間たちが隠れ住んでいるアジトに向かっていた。そこは教会の裏の地下室にあるらしい。
 この辺りはギャラックの哨戒兵がとりわけ多いらしい。敵も少しずつ、彼らの隠れ場を突き止めつつあるという見解。私たちは細心の注意を払い、夜の街を進む。
 ところで、さすがのアリューシアも、カルファルの提言に心が揺れているようであった。先程の圧倒的な死の光景を前にして、自分の見込みが甘かったことを認識しつつあった。
 彼女は心の裡で渦巻き続ける怒りと、新たに直面したこの現実とを、どうやって折り合いをつけるべきか考えている。

 「ああ、そうか! 私のパパとママたちもそうやって殺されたわけか。城壁に吊るされているんじゃなくて」

 そう、実際この後、私たちは城壁にまで辿り着く。そしてこの目でその事実を確かめた。彼女の両親たちも仮面兵団の魔法で、あのような状態になっていた。その魔法の縄で身体が宙に浮いていたのだ。

 「さようです、我々の兵と戦ったのは仮面兵団。ギャラックはほとんど前線には出てきていません」

 「ギルド、あなたもそいつらと戦ったの?」

 「い、いえ、私は直接遭遇したことはありません」

 その事実は戦士として大いなる屈辱だといった態度で、ギルドは悔しさを滲ませる。

 「奴らに遭遇した兵で、生き残った者はいないってことだ。それほど厄介な連中なのさ」

 カルファルが付け加えた。

 「はあ、なるほど」

 「彼らと直接戦ったのはアラン様が率いた軍と、ギャラック侵攻の報を聞いて、すぐに雇ったある魔法使い。戦いの経験が多い、高名な魔法使いです」

 「ああ、パパはあのときのように魔法使いを!」

 「はい。以前と同じように最善は尽くしたはずです」

 「それでも負けたのね・・・」

 「その魔法使いが城に到着したとき、我々はあまりに楽観的でした。以前のように、容易く返り討ちに出来るはずだと。それが原因で、ご領主は城から脱出するのが遅れたのかもしれません」

 「結局、相手が悪かったのさ」

 カルファルがいつもの軽い口調で言う。それを聞いて、アリューシアは彼をグッとにらんだ。しかしカルファルは気にする素振りを見せない。

 「さあ、アリューシア、決断の時だ。君が両親の奪回にだけに目標を絞るならば、俺だって全力で協力する。しかし仮面兵団と真っ向からぶつかるつもりならば、協力出来ない。ここでお別れだ」

 「わかったわ。カルファルの作戦を採用する」

 カルファルをにらみながらであったが、アリューシアはあっさりと言ってのけた。
 もちろん彼女はそれほど聞き分けの良い性格ではなくて、それはこの場しのぎの態度でしかなくて、やがてアリューシアは土壇場に来てその意見を覆し、我々を大変な目に遭わせることになるのであるが、しかしこのときは私もカルファルも、すんなりと彼女の言葉を信じてしまう。

 「よし、よく決断した。そっちの線で作戦を練ろう。深夜までまだ時間はある。ギルド、城内に忍び込むための秘密の通路のようなものがあるだろ? いや、むしろ場内から密かに脱出するための通路と呼ぶべきか」

 「あります」

 「やっぱりあるんだ」

 ボーアホーブ家の三女であるが、年端のいかないアリューシアよりも、武官として長く仕えてきたギルドのほうが、この城の戦略的事情には詳しいのだろう。

 「その出口がこの地下のアジトなのです。ここから地下水道を通れば、城内に容易く侵入出来ます。実際、我々が生き残ったのはそれが理由」

 ギルドはそう言って、恥じ入るように目を伏せた。彼がこうして生き残れたのは、その秘密の通路を使って逃げたからだ。彼はそれを恥辱に感じているのだろう。

 「この戦いが終われば、私も責任を取り、領主様のあとを追うつもりです」

 ギルドは騎士らしく、そのようなことまで口にする。

 「その必要はないわ。あなたは城から逃げなかった。こうやって私たちを迎えてくれた。そんなあなたに、私は本当に心から感謝している。それに今の領主は私よ。領主のあとを追うということは、私のあとを追うことよ。生きて、ボーアホーブ家再興の手助けをして欲しい」

 アリューシアはギルドにそんな言葉を掛けた。何やらそれは、突然、彼女が見せた領主らしい態度であった。
 実際、アリューシアのその言葉はギルドの心に響いたようだ。深く俯いているからギルドの表情は見えないが、その肩の震えは明らか。

 しかし少し前、この戦いに負けたのはギルドの責任だと発した彼女の言葉とは思えないことも事実だ。
 いや、どちらもアリューシアの本音なのだろう。彼女は復讐の道を進むべきか、復讐への怒りを抑え、生き残る道を選ぶべきか揺れている。
 彼女自身もわからないはずなのだ。当人ではない私たちが彼女の真意を推し量ることなんて出来るわけがなかったであろう。
 その彼女の心の揺れに翻弄されて、私たちは本当に大変な目に遭うわけである。
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