私の邪悪な魔法使いの友人2

ロキ

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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子

第九章 10)領主らしい態度

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 地下室のアジトは部屋でも何でもなく、岩壁が剥き出しの洞窟で、地下水が滲み出し、足元に水が溜まっている窪みもあった。
 そこに疲れ果てたボーアホーブの残兵が数十人、寝転んだり座ったりといった違いはあるが、皆、死んだような瞳で私たちを出迎えた。
 ボーアホーブの三女、アリューシアだということに気づいても、その事実に特別な喜びを見せたりはしない。

 彼らもギャラックに全てを奪われた者たちだ。家族も、住む場所も、日々の安寧も、そして今、戦う意欲すら奪われてしまったようだ。
 そんな彼らの姿を見て、アリューシアは少なからずショックを感じたようだ。それがその横顔から窺い知れた。
 しかしアリューシアは溌溂な態度で言った。

 「今日の深夜、私たちはここを出る。新しく住む場所は私が用意するわ。もう戦いは終わりよ」

 この言葉を聞いて、兵士たちの生気が少しだけ蘇った。しかしまたすぐ打ち沈んでしまう。小娘ごときが何を言っているのだと思ったのだろうか。
 それとも、これから死を賭けた最後の戦いに挑む、そういう意味に受け取ったのかもしれない。ならば、生きて街を出られる者は僅か、下手をすると一人もいないかもしれない。

 「大丈夫、全ての作戦は私たちで行なうから」

 アリューシアはすぐに続ける。先程、ギルドに向けた領主の真似事のような態度、その続きである。

 「あなたたちに協力して欲しいことは、どこからか棺桶を用意して欲しいってこと。それだけよ。ここは教会だし、探せばあるよね? もちろん、他の人が入っている棺桶を使うわけにはいかないけど・・・」

 「ここから出る?」

 一人の兵士が、ようやくアリューシアの言葉に興味を示し出した。

 「そう。私は家族を迎えに来たの。奴らから家族を取り戻して、静かなところに、ちゃんとした形で葬って、大きなお墓を立てて。でね、一端はこの街を出るだけど、いつかここに戻ってきて、必ずギャラックの連中をこの城から追い出すつもり」

 「どうやって?」

 「ど、どうやってですって! べ、別に難しいことじゃない。私は魔法使いだから」

 兵士からの無礼な問い掛けにアリューシアは表情を真っ赤にしたが、怒ることなく、彼女なりに誠実に返答した。

 「私はもう昔の私じゃないもの。えーと、魔法を知らない人に説明してもわかってもらえないかもしれないけど、私は凄い魔族と契約して、本当に凄い魔法使いになって、しかも凄い魔法使いの弟子でもあって・・・。でも、まだまだ成長は必要だし、戦う準備は完全に出来てないから、悔しいけど一端はこの街を出ないといけない。だけど、このまま終わるつもりもない。いつかここに帰ってきて、あいつらを全員殺し尽くすつもり。で、私がこのボーアホーブ家を再興する」

 長い戦いに疲れ果て、その瞳には諦めと虚無のようなものしか宿してはいなかった兵士たちであったが、アリューシアの言葉を聞いて、何か光のようなものが、少しではあったが灯り始めた。
 彼らはいくばくかの希望を感じ始めたのだと思う。
 アリューシアは更にその希望を焚きつけるように、続ける。

 「あなたたちはボーアホーブの誇りだわ。簡単に街を明け渡さないで、ギャラックに抵抗して、奴らを懲らしめてくれて、今、こうやって私たちを迎えてくれた。その労にはボーアホーブの領主として報いたいって思うし、本当に感動している。本当に本当よ!」

 アリューシアは手振りを交えて話す。
 その態度には、自分に酔っている空気もある。慈悲深い領主という態度、そんな自分を演じていることに、何か快感のようなものを感じているようなのだ。

 「皆で一緒にここから出るの。誰一人欠けることなく。でも父と母たちも、奴らから取り返さなければいけない。私の家族をこのまま放っておくことも出来ない。だから今夜、占領された城に忍び込む」

 「そういうことならば、俺はその戦いに参加したい」

 彼女が領主ごっこをしているとすれば、兵士たちも忠臣ごっこをしているのかもしれない。

 「この作戦を手伝ってくれる人がいたら有り難いだけど。でもこれ以上、あなたたちを危険な目に遭わせるわけにはいかないわ」

 「いや、こんなときに状況の下、戦いに参加せずになどいられるわけがない!」

 その通りだ。俺も一緒に戦う。
 彼らから次々に賛同の声が上がる。最終的には、全ての兵士たちが協力を願い出てきた。
 アリューシアは感動したように瞳を潤す。しかしこれは当然、彼女の望んだ結果だ。それとなく遠回しに協力を願い出ていたのだ。
 兵士たちもそれをわかっていたであろう。それでも、彼女の領主としての覚悟に感動したのだと思う。

 「ありがとう。皆でここを出ましょうね」

 アリューシアは慈悲深い表情で、兵士たちに言う。
 このときのアリューシアはしたたかで、計算高かったと思う。それは見違えるような成長ゆえか、そもそも彼女を持っていた資質がこの危機の状況で開花したのか、いずれにしろ、なかなかの領主ぶりであった。
 その落ち着いた領主の態度が継続していれば、もしかしたらこの困難な作戦も成功していたのかもしれなかったのだ。
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