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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第九章 14)首を絞められて感じる苦痛
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魔法使いに誤解されることは、こんなにも心地が良いのか。私はその快感に震えてしまう。
ギャラックの兵士たちは恐怖に満ちた視線を私に向けてくる。そして彼らは私に哀願してくるのだ。どうか殺さないでくれ、と。
私は見つめ返す。生きて帰りたければ、私に許しを請え! 何やら、自分が偉大な存在になったような錯覚。
アリューシアもカルファルも、そしてプラーヌスも、このような視線の中で生きているわけか。
だとすれば、あんなふうに性格が歪むのも当然だろう。魔法使いは王や貴族と同じくらいの特権階級。私もその特建階級の仲間入りをした気分。
しかしその快感も一瞬だった。少しずつ、私の嘘はばれてきているようだった。私が一向に、魔法で攻撃を仕掛けてこないからだ。
ギャラックの兵士たちも命を賭けて私と対面している。死を覚悟しているのだ。私は魔法使いかもしれないのに、彼は逃げ出す素振りを見せない。
本当に恐怖に満ちた表情をしているが、震えながらも依然として槍を構えている。
「すぐに消えろ。僕の魔法で、殺されないうちにな」
そんな脅し文句を言い放ちたいところであるが、まだまだカルファルの魔法の効果は続いていて声が出ない。私はただ敵をにらみつけることしか出来ない。
しかしもし声が出たとしても、そのような脅しの効果は無くなっていたかもしれない。
ジリジリと後ずさりしていたギャラックの兵たちはむしろ、少しずつ私ににじり寄って来る。逆に私のほうが後ずさりしている。
そして遂に背後の部隊長が指示を出した。一人の兵士が私に突進を仕掛けてきた。
夢のような時間は終わった。私は後ろを振り返り、必死に逃げる。
しかしすぐに追ってきた兵士に追いつかれ、槍で殴られる。それは魔法のシールドによって弾かれるが、兵士は私の身体を掴み、床に押し倒した。
そして私の身体に馬乗りになり、素手で首を絞めてくる。
苦しい。息が出来ない。
首を絞められたら、誰だって感じる苦痛に私は苦しめられた。すなわち苦しいだけじゃない。このまま絞められた死ぬという苦しみ。
私には魔法のシールドの加護があったのではなかったか? それは効果をなくしてしまったのか。
いや、魔法のシールドであっても、絞められるという攻撃には効果がないことを思い出す。だからカルファルは、仮面兵団という傭兵軍団を恐れていたのだ。彼らが得意とするのは、縄で首を絞めつける魔法。
私は今、その魔法の餌食になっているわけではなく、ただ力自慢の男に首を絞められているだけであるが、その攻撃に抵抗する術がないことは同じ。
「殺意」が私の首に留まり続ける。重く、強く、激しく。
その兵士は躊躇なく、私を殺すつもりのようだ。徐々に、私の意識は遠ざかりかけている。死が近づいてきているのだ。
そのとき私を救ったのはカルファルだった。
カルファルもアリューシアを追って、同じ通路を走ってきたはずであった。いずれ私の許に来てくれるかもしれないという期待は抱いてはいたのだけど、戦場では何が起きるかわからない。
いや、カルファルはもしかしたら、私の命など助ける価値はないと思っているかもしれなかった。
私も彼を心の底から信頼していたわけではない。だから彼が助けに来てくれたときは素直に感動した。嬉しかった。
さっきまで私が対峙していた部隊を、カルファルが魔法で殺し始める。私の首を絞めていた兵士はそれに気づき、慌てて私から離れた。
戦うべきか、逃げるべきか、その兵士は少し逡巡したようであるが、その答えを出す前にカルファルに殺された。
カルファルもアリューシアと同じように、敵を焼き殺した。炎の魔法だ。
彼は魔法使いのレベルとして、彼女よりも下の部類らしい。
しかし殺し方のコツのようなものを心得ているのかもしれない。兵士たちはそれほど苦しむことなく、すみやかに息絶えていく。
「君のおかげで助かった。本当に感謝するよ」
私は彼に駆け寄る。しかしまだ魔法の影響で声が出ないから、視線だけでそれを伝えようとする。
それはカルファルも同じようで、お喋りな彼も何も語ってこない。
その代わり、彼はいつものニヤニヤとした表情を見せてくる。「なあ、おい、死にかけた気分はどうだい?」そんなことを言いたげな表情だ。
カルファルはその表情のまま、アリューシアを指差した。「次に助けるのはあいつだ」という意味だろう。
アリューシアも多くの敵に囲まれて、苦戦していた。次々から次に、敵の兵士たちに火をつけて回っているようであるが、それは追いついていない。
ギャラックの兵士たちは恐怖に満ちた視線を私に向けてくる。そして彼らは私に哀願してくるのだ。どうか殺さないでくれ、と。
私は見つめ返す。生きて帰りたければ、私に許しを請え! 何やら、自分が偉大な存在になったような錯覚。
アリューシアもカルファルも、そしてプラーヌスも、このような視線の中で生きているわけか。
だとすれば、あんなふうに性格が歪むのも当然だろう。魔法使いは王や貴族と同じくらいの特権階級。私もその特建階級の仲間入りをした気分。
しかしその快感も一瞬だった。少しずつ、私の嘘はばれてきているようだった。私が一向に、魔法で攻撃を仕掛けてこないからだ。
ギャラックの兵士たちも命を賭けて私と対面している。死を覚悟しているのだ。私は魔法使いかもしれないのに、彼は逃げ出す素振りを見せない。
本当に恐怖に満ちた表情をしているが、震えながらも依然として槍を構えている。
「すぐに消えろ。僕の魔法で、殺されないうちにな」
そんな脅し文句を言い放ちたいところであるが、まだまだカルファルの魔法の効果は続いていて声が出ない。私はただ敵をにらみつけることしか出来ない。
しかしもし声が出たとしても、そのような脅しの効果は無くなっていたかもしれない。
ジリジリと後ずさりしていたギャラックの兵たちはむしろ、少しずつ私ににじり寄って来る。逆に私のほうが後ずさりしている。
そして遂に背後の部隊長が指示を出した。一人の兵士が私に突進を仕掛けてきた。
夢のような時間は終わった。私は後ろを振り返り、必死に逃げる。
しかしすぐに追ってきた兵士に追いつかれ、槍で殴られる。それは魔法のシールドによって弾かれるが、兵士は私の身体を掴み、床に押し倒した。
そして私の身体に馬乗りになり、素手で首を絞めてくる。
苦しい。息が出来ない。
首を絞められたら、誰だって感じる苦痛に私は苦しめられた。すなわち苦しいだけじゃない。このまま絞められた死ぬという苦しみ。
私には魔法のシールドの加護があったのではなかったか? それは効果をなくしてしまったのか。
いや、魔法のシールドであっても、絞められるという攻撃には効果がないことを思い出す。だからカルファルは、仮面兵団という傭兵軍団を恐れていたのだ。彼らが得意とするのは、縄で首を絞めつける魔法。
私は今、その魔法の餌食になっているわけではなく、ただ力自慢の男に首を絞められているだけであるが、その攻撃に抵抗する術がないことは同じ。
「殺意」が私の首に留まり続ける。重く、強く、激しく。
その兵士は躊躇なく、私を殺すつもりのようだ。徐々に、私の意識は遠ざかりかけている。死が近づいてきているのだ。
そのとき私を救ったのはカルファルだった。
カルファルもアリューシアを追って、同じ通路を走ってきたはずであった。いずれ私の許に来てくれるかもしれないという期待は抱いてはいたのだけど、戦場では何が起きるかわからない。
いや、カルファルはもしかしたら、私の命など助ける価値はないと思っているかもしれなかった。
私も彼を心の底から信頼していたわけではない。だから彼が助けに来てくれたときは素直に感動した。嬉しかった。
さっきまで私が対峙していた部隊を、カルファルが魔法で殺し始める。私の首を絞めていた兵士はそれに気づき、慌てて私から離れた。
戦うべきか、逃げるべきか、その兵士は少し逡巡したようであるが、その答えを出す前にカルファルに殺された。
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彼は魔法使いのレベルとして、彼女よりも下の部類らしい。
しかし殺し方のコツのようなものを心得ているのかもしれない。兵士たちはそれほど苦しむことなく、すみやかに息絶えていく。
「君のおかげで助かった。本当に感謝するよ」
私は彼に駆け寄る。しかしまだ魔法の影響で声が出ないから、視線だけでそれを伝えようとする。
それはカルファルも同じようで、お喋りな彼も何も語ってこない。
その代わり、彼はいつものニヤニヤとした表情を見せてくる。「なあ、おい、死にかけた気分はどうだい?」そんなことを言いたげな表情だ。
カルファルはその表情のまま、アリューシアを指差した。「次に助けるのはあいつだ」という意味だろう。
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