私の邪悪な魔法使いの友人2

ロキ

文字の大きさ
178 / 188
シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子

第九章 15)死地へ

しおりを挟む
 このときに決断をしていれば、まだ私たちは逃げ切ることが出来たのかもしれない。
 アリューシアを取り囲んでいる兵士たちを殺す。彼らさえ一掃してしまえば、私たちの近くに敵はいなくなる。
 もちろん多くのギャラックの兵が、私たちを探して城の中を駆け回っているだろう。しかし相互に連絡は取れていないようで、まだここに辿り着いていない。
 今ならば、また城壁にまで戻り、棺桶を持った兵士たちと合流して、彼らと共にすみやかに退却することが出来たのだ。
 すなわち、恐るべき仮面兵団と遭遇することはなかったはず。

 しかしアリューシアは私たちに一瞥もくれることなく、再びその回廊の奥へと歩き始めてしまう。
 敵に囲まれていた彼女をカルファルが救ったのにも関わらず、彼に礼もしない。

 「待つんだ、アリューシア!」

 私は歩き出すアリューシアに声を掛けようとする。

 「君の気持ちは痛いほど理解出来る。だけどここは耐えよう。一端、塔に帰るんだ。復讐はいつだって出来る。今がその時期じゃないことは、君だってわかっているはずだ。それに一度、我々で決めたことではないか。君だって同意した。その約束を君は破るつもりか!」

 もちろん声が出ない。いや、もし声が出て、彼女と話し合うことが出来たとしても、アリューシアを説得することは出来なかったのかもしれない。
 しかし言いたいことを言うことが出来ていれば、これほど遣る瀬無い思いで彼女の背中を見つめることはなかっただろう。

 何の躊躇いもなく、私たちを死地へと連れていこうとするアリューシアが腹立たしくてたまらない。出来ることならば力づくで、アリューシアの考えを翻させたかった。
 彼女の肩を捉まえ、胸倉をつかんで、その小さな身体を揺さぶって、考えを改めさせるのだ。しかし彼女に駆け寄ろうにも速度が出ない。カルファルの魔法の影響である。
 まるで夢の中で泳いでいるかのように、気分だけが急いて、身体がついて来ない。 カルファルの魔法の影響である。まるで夢の中で泳いでいるかのように、気分だけが急いて、身体がついて来ない。

 肉の焼ける匂いが鼻を包む。それは人の肉。髪の毛も焼けているのだろう。あらゆる内臓なども焼けているのだろう。
 その悪臭が目を刺す煙と共に、私たちを噎せ返らせる。
 その匂いからも逃げたかった。しかしアリューシアは更に人を焼こうと企んで、煙の奥に進んでいく。

 やがて私たちはその回廊を抜けた。その回廊の果てに扉がある。アリューシアがそこを開ける。光が差し込んできて、風が吹く。
 どうやら私たちは、その城の中庭に出たようであった。
 ようやく外の空気に触れ、人の焼ける匂いは少し弱まったが、再び戦いの匂いが立ち上がってくる。
 そこは一つの部隊が戦闘の訓練をしたり、馬を乗り回せたり出来るくらいの広さの中庭だった。

 その広場の中央に、ひときわ目を引く美麗な鎧を身に着けた男が立っていた。その男は不機嫌そうに、周りの兵たちに指示を出している。
 普通の兵士ではない。姿恰好からも、兵士たちに命令している様子からも、指揮官であることは間違いないことであろう。
 その男とアリューシアは一瞬、見つめ合う。その瞬間、時間が止まったかのようになった。

 そのひときわ派手で豪華な鎧を着ている男、彼がギャラックの次期当主、ブルーノであるという事実を私たちが知ったのはこの後のことであるが、その男を見てすぐ、彼がギャラック家の重要人物であることは理解出来た。それは当然、アリューシアも同じだろう。
 なぜ、見知らぬ少女がこの広場に紛れ込んできたのだ? 男のほうは、そんな表情を見せたが、私とカルファルを見て、その意味の全てを瞬時に悟ったようだ。

 「ああ、お前たちが侵入者とやらか? しかしこれだけの人数? それでこれだけの騒ぎを起こしたのか? しかも一人は子供だって!」

 その男は言う。アリューシアは彼が語り終わらぬうちに魔法を放った。その華麗な鎧に火がつき、男の身体を炎が包む。
 次期当主ブルーノは痛みに叫び、激しくのたうち回った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

【完結】見えてますよ!

ユユ
恋愛
“何故” 私の婚約者が彼だと分かると、第一声はソレだった。 美少女でもなければ醜くもなく。 優秀でもなければ出来損ないでもなく。 高貴でも無ければ下位貴族でもない。 富豪でなければ貧乏でもない。 中の中。 自己主張も存在感もない私は貴族達の中では透明人間のようだった。 唯一認識されるのは婚約者と社交に出る時。 そしてあの言葉が聞こえてくる。 見目麗しく優秀な彼の横に並ぶ私を蔑む令嬢達。 私はずっと願っていた。彼に婚約を解消して欲しいと。 ある日いき過ぎた嫌がらせがきっかけで、見えるようになる。 ★注意★ ・閑話にはR18要素を含みます。  読まなくても大丈夫です。 ・作り話です。 ・合わない方はご退出願います。 ・完結しています。

初恋が綺麗に終わらない

わらびもち
恋愛
婚約者のエーミールにいつも放置され、蔑ろにされるベロニカ。 そんな彼の態度にウンザリし、婚約を破棄しようと行動をおこす。 今後、一度でもエーミールがベロニカ以外の女を優先することがあれば即座に婚約は破棄。 そういった契約を両家で交わすも、馬鹿なエーミールはよりにもよって夜会でやらかす。 もう呆れるしかないベロニカ。そしてそんな彼女に手を差し伸べた意外な人物。 ベロニカはこの人物に、人生で初の恋に落ちる…………。

悪役令嬢が行方不明!?

mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。 ※初めての悪役令嬢物です。

わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた

名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。

処理中です...