私の邪悪な魔法使いの友人2

ロキ

文字の大きさ
183 / 188
シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子

第九章 20)大いなる希望

しおりを挟む
 アリューシアの身体も浮き始めた。右手首の縄と、左手首の縄の絡まったタイミングの違いで、彼女の身体は斜めに浮き上がっていく。
 バーレットが彼女に近づいていく。これ以上浮かんでいかないように、彼女の肩を押さえ、もう一方の手でアリューシアの身体を撫でるように触った。
 アリューシアは足をバタバタとさせて抵抗するが、バーレットは物ともしない。彼はアリューシアの懐をあさり、腰の革袋を取り上げた。
 そして最後に、彼女の指から指輪を抜き取った。

 「宝石はこれだけか。武装解除終了だな」

 バーレットはアリューシアの肩を掴んでいた手を放す。
 アリューシアの身体は再び浮かび上がっていくが、彼は彼女の足にも縄を絡めた。その縄は離すことなく掴んだまま。浮いたアリューシアを、鳥のように捕獲したような形。

 「俺のここでの仕事も完了だ。ギャラック家の兵士たちも全て吊るせ」

 「ギャラックの兵も?」

 部下が返事を返す。

 「奴らからの報酬など必要ない。俺はボーアホーブ家に婿入りするんだからな。全ての財産が俺たちのものだ」

 バーレットの指示のもと、配下の傭兵たちが動く。ギャラックの兵士たちに縄を投げて首を絞め上げ、吊るしていく。
 もちろん小競り合いは起きた。しかし仮面兵団の力が圧倒している。バーレットも自ら縄を投げ、部下と共に死刑の執行に加わる。

 「しかし解せないことがあるんだ」

 バーレットは縄を回しながら、アリューシアに向かってそんなことを言っている。

 「お前は何の躊躇もなく、あの男に向かって炎の魔法を放ち続けようとした。縄が焼けるよりも前に、この男も焼けるんだ。なぜ、お前はそれを恐れないんだ? どうせ死ぬならば、焼いて殺すつもりだったのか? そんなはずがない」

 彼はそう言いながら、部下の一人を呼び寄せた。「おい、誰かあいつに炎の魔法を放て。焼き殺してもいい」

 バーレットに、「あいつ」と呼ばれた私。
 私はまだ何とか生きている。意識だって辛うじてある。眼下の様子だって、把握することが出来ているし、会話も何とか聞き取ることが出来ている。
 私に向かって、炎の魔法が放れた瞬間のことも覚えている。視界が橙色に染まり、少し熱を感じたが、痛みやも衝撃はない。シールドに弾かれたからだ。
 そしてそのあと、眼下で起きた動揺。どよめき。
 仮面をかぶっているバーレットの表情など、読み取れるわけはなかった。
 しかし彼の仕草や動作、その口調に、不安が漂い出したのは、意識が朦朧としつつある私でも気づくことは出来た。それは、何か大いなる希望でもあったからだ。

 「何者だ、こいつ? かなり強烈なシールドだ。こいつ自身が魔法使いではないことはわかっている。誰が貼った?」

 バーレットがアリューシアに尋ねた。「お前ではないな。お前のシールドは簡単に壊せる。あのもう一人の男でもない」

 バーレットはカルファルのほうを見る。カルファルが生きているのかどうかわからなかった。
 彼は私の背後で浮いている。その姿は見えない。しかしまだ私だって、何とか息をしているのだ。カルファルも死んではいないはず。

 「あいつの魔法は見た。大した力ではない。誰だ? まだ仲間がいるのか?」

 バーレットはアリューシアの足を縛った縄を乱暴に引っ張る。アリューシアの身体が大きく傾き、彼女は悲鳴を上げた。

 「な、仲間ですって?」

 アリューシアは混乱の中にいるのか、その言葉の意味をよく理解していないようだった。しかし言ってやればよかったのだ、我々にはとても強力な仲間がいるということを。

 「い、いるぞ。仲間が。僕の友人だ」

 その代わり、私が声を出す。
 それは本当に小さな声で、苦悶の吐息と変わらない。しかしそれなのに不思議と、バーレットたちの耳にまで届いたようだった。

 「何だと」

 「だ、だから、諦めるなよ、カルファル。どんなに苦しくても、息をし続けろ。助けは来る」

 「お、愚かな夢想だぜ」

 カルファルの声も聞こえた気がする。「もうあきらめろ、潔く死んでいこうぜ・・・」

 「む、夢想なんかじゃないさ。だから足手まといを覚悟で、僕は君たちについてきたんだ。こういうときのために。プラーヌスは助けに来てくれる」

 「あ、ありえないだろ? あんな冷酷な男が」

 いや、彼は僕を見捨てはしないはずなんだ。
 私は上空を見上げる。その空には誰の死体も身体も浮いていない。ただ青い空だけが広がっている。果てしない無限の広がりだ。
 そしてそれは何も起きりそうにない空でもあった。雲もなくて、雨すら降りそうになくて、いつもの、見飽きた、有り触れた空。その空が、私の懇願に返事などを返してくれるのだろうか。
 いや、返してくれたのだ。

 「ああ、来たよ」

 そんな声がして、私は声のほうを見下ろす。眼下で炎が立ち上がった。炎の中に黒い影がいた。プラーヌスだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」

チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。 だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。 魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。 だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。 追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。 訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。 そして助けた少女は、実は王国の姫!? 「もう面倒ごとはごめんだ」 そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。

華都のローズマリー

みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。 新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!

【完結】エレクトラの婚約者

buchi
恋愛
しっかり者だが自己評価低めのエレクトラ。婚約相手は年下の美少年。迷うわー エレクトラは、平凡な伯爵令嬢。 父の再婚で家に乗り込んできた義母と義姉たちにいいようにあしらわれ、困り果てていた。 そこへ父がエレクトラに縁談を持ち込むが、二歳年下の少年で爵位もなければ金持ちでもない。 エレクトラは悩むが、義母は借金のカタにエレクトラに別な縁談を押し付けてきた。 もう自立するわ!とエレクトラは親友の王弟殿下の娘の侍女になろうと決意を固めるが…… 11万字とちょっと長め。 謙虚過ぎる性格のエレクトラと、優しいけど訳アリの高貴な三人の女友達、実は執着強めの天才肌の婚約予定者、扱いに困る義母と義姉が出てきます。暇つぶしにどうぞ。 タグにざまぁが付いていますが、義母や義姉たちが命に別状があったり、とことんひどいことになるザマァではないです。 まあ、そうなるよね〜みたいな因果応報的なざまぁです。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

さようなら、私の愛したあなた。

希猫 ゆうみ
恋愛
オースルンド伯爵家の令嬢カタリーナは、幼馴染であるロヴネル伯爵家の令息ステファンを心から愛していた。いつか結婚するものと信じて生きてきた。 ところが、ステファンは爵位継承と同時にカールシュテイン侯爵家の令嬢ロヴィーサとの婚約を発表。 「君の恋心には気づいていた。だが、私は違うんだ。さようなら、カタリーナ」 ステファンとの未来を失い茫然自失のカタリーナに接近してきたのは、社交界で知り合ったドグラス。 ドグラスは王族に連なるノルディーン公爵の末子でありマルムフォーシュ伯爵でもある超上流貴族だったが、不埒な噂の絶えない人物だった。 「あなたと遊ぶほど落ちぶれてはいません」 凛とした態度を崩さないカタリーナに、ドグラスがある秘密を打ち明ける。 なんとドグラスは王家の密偵であり、偽装として遊び人のように振舞っているのだという。 「俺に協力してくれたら、ロヴィーサ嬢の真実を教えてあげよう」 こうして密偵助手となったカタリーナは、幾つかの真実に触れながら本当の愛に辿り着く。

ガチャから始まる錬金ライフ

あに
ファンタジー
河地夜人は日雇い労働者だったが、スキルボールを手に入れた翌日にクビになってしまう。 手に入れたスキルボールは『ガチャ』そこから『鑑定』『錬金術』と手に入れて、今までダンジョンの宝箱しか出なかったポーションなどを冒険者御用達の『プライド』に売り、億万長者になっていく。 他にもS級冒険者と出会い、自らもS級に上り詰める。 どんどん仲間も増え、自らはダンジョンには行かず錬金術で飯を食う。 自身の本当のジョブが召喚士だったので、召喚した相棒のテンとまったり、時には冒険し成長していく。

【完結】平民聖女の愛と夢

ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。

【完結90万pt感謝】大募集! 王太子妃候補! 貴女が未来の国母かもしれないっ!

宇水涼麻
ファンタジー
ゼルアナート王国の王都にある貴族学園の玄関前には朝から人集りができていた。 女子生徒たちが色めき立って、男子生徒たちが興味津々に見ている掲示物は、求人広告だ。 なんと求人されているのは『王太子妃候補者』 見目麗しい王太子の婚約者になれるかもしれないというのだ。 だが、王太子には眉目秀麗才色兼備の婚約者がいることは誰もが知っている。 学園全体が浮足立った状態のまま昼休みになった。 王太子であるレンエールが婚約者に詰め寄った。 求人広告の真意は?広告主は? 中世ヨーロッパ風の婚約破棄ものです。 お陰様で完結いたしました。 外伝は書いていくつもりでおります。 これからもよろしくお願いします。 表紙を変えました。お友達に描いていただいたラビオナ嬢です。 彼女が涙したシーンを思い浮かべ萌えてますwww

処理中です...