54 / 188
シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第三章 21)部屋に呼び出されるような人間
しおりを挟む
「叩かれても仕方ない。それは坊やが悪いぜ。女性からの誘いを断るなんて最悪だよ」
カルファルは、アリューシアからの鮮やかなビンタを受け、尻餅をついていたシュショテの手を取り、身体を起こしてやろうとする。
「こいうときは後先考えず、とりあえず誘いに乗ればいいのさ」
「誘ったとかじゃないわ。うぶそうだから、騙してやろうと思っただけ!」
「だけどアリューシア。ガルディアン契約の移譲なんて簡単にいかないぜ。それにもし、この少年のその魔族を譲り受けられたとしても、君は持て余す」
この部屋に勝手に入ってきた闖入者でしかなかったカルファルが、恐るべき勢いで私たちに馴染んでいる。
しかも彼が今、何の違和感もなく、話題の中心にいる。
「なあ、坊や? 契約のときに、とてつもない犠牲を払ったんだろ?」
カルファルは少し真剣な表情になって、シュショテにそう尋ねた。
確かに魔法使いたちは巨大な魔族と契約を結ぶとき、何らかの代償を払わなければいけない。そのようなケースが多いらしい。
あのプラーヌスですら、魔族との契約の際、きっちりと代償を払った。彼が今もとてつもない頭痛に悩まされているのはそれが原因だ。
しかしその苦しみと引き換えに、とてつもなく強力な魔族とガルディアンの契約を結んだのだ。今の彼があるのはそれのお陰。
「いえ、実は何も・・・」
しかしシュショテは答える。
まだシュショテはアリューシアにビンタされた衝撃から立ち直っていないのか、ぼんやりとした表情をしていたが、その口調は明確だった。
「何だって?」とカルファルが驚く。
「本当です、魔族に対しては、何も払っていないのです」
「そんなことはありえないはずだ。あれだけ上位の魔族との契約に、何の代償も必要ないなんて」
「何かずるをしたんじゃないの? ケチでずるい。あんたは本当に最悪な男ね」
「そ、そんな」
ずっと言われぱなしだったシュショテが初めて、ムッとするような表情を浮かべた。
しかしアリューシアに、「何よ、何か文句あるの」とすごまれて、シュショテはまた逃げるように目を伏せる。
「だ、だけど実は、僕もちょっとだけ、悩みみたいなのがあることはあるんです・・・」
しかしシュショテは遠慮がちではあるが、そんなことを言い始めた。「何だか、よくわからないんですけど、それを機会に僕は、他の魔法使いに逆恨みを買ったみたいで」
「逆恨み?」
「君はアリューシア以外にも、誰かの逆恨みを買っているのかい?」
今日初めて会ったばかりであるが、どう考えても、シュショテ本人は悪い奴じゃない。
気が小さくて、何やらオドオドし過ぎる傾向はあるが、優しい性格であることは見て取れる。本当に純粋な目と、朴訥な頬をしているのだ。
「は、はい、その魔族との契約を狙っていた魔法使いさんが他にもいらしたらしくて、僕は全然知らなかったんですけど、どうやら横取りみたいな感じになってしまって・・・」
「ほう、それで」
「それでその魔法使いさんに命を狙われてまして・・・」
「はい、嘘。嘘つき、決定。私に譲りたくないから、そんなこと言ってるんでしょ? そんな見え透いた嘘で私を騙せると思ってるの? あんた馬鹿じゃないの?」
「ち、違います。本当です。でも信じてもらえないのなら、もうそれでいいです」
シュショテがついに拗ねたようだ。
その態度はそれまでのオドオドした感じではなくて、断固とした意志が籠もっていた。
「何よ、あんた」
しかしアリューシアはイラつく。「何がもういいです、よ。偉そうにしちゃって」
「プラーヌス様に呼ばれているので、もうそろそろ行きます。失礼します」
「はあ? 何よ、あんた!」
本当に生意気だわ。絶対に許さないから!
アリューシアがシュショテに向かってグッと近づき、右手を振り上げる。またもや彼の頬を殴る気だ。
しかしそのとき、シュショテの姿が消えた。アリューシアの手は空を切る。
「え? どういうこと」
アリューシアはシュショテの姿を探すように辺りを見回す。
しかしシュショテは完全に消えた。この部屋からいなくなっていた。
「そんな魔法も使えるの、あの子・・・」
アリューシアが呆然と呟いた。
「いや、ありえない、プラーヌスの仕業だろう」
カルファルが言った。「あのガキは自分が消えようとした瞬間、びっくりした表情をしていた」
「プラーヌス様?」
「ああ、奴が引っこ抜いたんだ」
「や、やっぱり凄いわ、プラーヌス様は!」
アリューシアはプラーヌスの予感を感じるだけで、不機嫌もどこかに吹き飛んでいくようだ。
生きるのが楽しくて仕方ない。そんな表情になる。
「今度は私がプラーヌス様に強引に引っ張られて、部屋に呼び出されるような人間になるわ!」
そのために、プラーヌス様が与えて下さったこの試練、何が何でも乗り越えてみせる!
アリューシアは本当に驚くような大声で、そんな独り言を発した。
私とカルファルは呆れたように顔を見合わせる。
カルファルは、アリューシアからの鮮やかなビンタを受け、尻餅をついていたシュショテの手を取り、身体を起こしてやろうとする。
「こいうときは後先考えず、とりあえず誘いに乗ればいいのさ」
「誘ったとかじゃないわ。うぶそうだから、騙してやろうと思っただけ!」
「だけどアリューシア。ガルディアン契約の移譲なんて簡単にいかないぜ。それにもし、この少年のその魔族を譲り受けられたとしても、君は持て余す」
この部屋に勝手に入ってきた闖入者でしかなかったカルファルが、恐るべき勢いで私たちに馴染んでいる。
しかも彼が今、何の違和感もなく、話題の中心にいる。
「なあ、坊や? 契約のときに、とてつもない犠牲を払ったんだろ?」
カルファルは少し真剣な表情になって、シュショテにそう尋ねた。
確かに魔法使いたちは巨大な魔族と契約を結ぶとき、何らかの代償を払わなければいけない。そのようなケースが多いらしい。
あのプラーヌスですら、魔族との契約の際、きっちりと代償を払った。彼が今もとてつもない頭痛に悩まされているのはそれが原因だ。
しかしその苦しみと引き換えに、とてつもなく強力な魔族とガルディアンの契約を結んだのだ。今の彼があるのはそれのお陰。
「いえ、実は何も・・・」
しかしシュショテは答える。
まだシュショテはアリューシアにビンタされた衝撃から立ち直っていないのか、ぼんやりとした表情をしていたが、その口調は明確だった。
「何だって?」とカルファルが驚く。
「本当です、魔族に対しては、何も払っていないのです」
「そんなことはありえないはずだ。あれだけ上位の魔族との契約に、何の代償も必要ないなんて」
「何かずるをしたんじゃないの? ケチでずるい。あんたは本当に最悪な男ね」
「そ、そんな」
ずっと言われぱなしだったシュショテが初めて、ムッとするような表情を浮かべた。
しかしアリューシアに、「何よ、何か文句あるの」とすごまれて、シュショテはまた逃げるように目を伏せる。
「だ、だけど実は、僕もちょっとだけ、悩みみたいなのがあることはあるんです・・・」
しかしシュショテは遠慮がちではあるが、そんなことを言い始めた。「何だか、よくわからないんですけど、それを機会に僕は、他の魔法使いに逆恨みを買ったみたいで」
「逆恨み?」
「君はアリューシア以外にも、誰かの逆恨みを買っているのかい?」
今日初めて会ったばかりであるが、どう考えても、シュショテ本人は悪い奴じゃない。
気が小さくて、何やらオドオドし過ぎる傾向はあるが、優しい性格であることは見て取れる。本当に純粋な目と、朴訥な頬をしているのだ。
「は、はい、その魔族との契約を狙っていた魔法使いさんが他にもいらしたらしくて、僕は全然知らなかったんですけど、どうやら横取りみたいな感じになってしまって・・・」
「ほう、それで」
「それでその魔法使いさんに命を狙われてまして・・・」
「はい、嘘。嘘つき、決定。私に譲りたくないから、そんなこと言ってるんでしょ? そんな見え透いた嘘で私を騙せると思ってるの? あんた馬鹿じゃないの?」
「ち、違います。本当です。でも信じてもらえないのなら、もうそれでいいです」
シュショテがついに拗ねたようだ。
その態度はそれまでのオドオドした感じではなくて、断固とした意志が籠もっていた。
「何よ、あんた」
しかしアリューシアはイラつく。「何がもういいです、よ。偉そうにしちゃって」
「プラーヌス様に呼ばれているので、もうそろそろ行きます。失礼します」
「はあ? 何よ、あんた!」
本当に生意気だわ。絶対に許さないから!
アリューシアがシュショテに向かってグッと近づき、右手を振り上げる。またもや彼の頬を殴る気だ。
しかしそのとき、シュショテの姿が消えた。アリューシアの手は空を切る。
「え? どういうこと」
アリューシアはシュショテの姿を探すように辺りを見回す。
しかしシュショテは完全に消えた。この部屋からいなくなっていた。
「そんな魔法も使えるの、あの子・・・」
アリューシアが呆然と呟いた。
「いや、ありえない、プラーヌスの仕業だろう」
カルファルが言った。「あのガキは自分が消えようとした瞬間、びっくりした表情をしていた」
「プラーヌス様?」
「ああ、奴が引っこ抜いたんだ」
「や、やっぱり凄いわ、プラーヌス様は!」
アリューシアはプラーヌスの予感を感じるだけで、不機嫌もどこかに吹き飛んでいくようだ。
生きるのが楽しくて仕方ない。そんな表情になる。
「今度は私がプラーヌス様に強引に引っ張られて、部屋に呼び出されるような人間になるわ!」
そのために、プラーヌス様が与えて下さったこの試練、何が何でも乗り越えてみせる!
アリューシアは本当に驚くような大声で、そんな独り言を発した。
私とカルファルは呆れたように顔を見合わせる。
0
あなたにおすすめの小説
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
日曜日以外、1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております!
こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!!
2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?!
なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!!
こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。
どうしよう、欲が出て来た?
…ショートショートとか書いてみようかな?
2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?!
欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい…
2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?!
どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
【完結】見えてますよ!
ユユ
恋愛
“何故”
私の婚約者が彼だと分かると、第一声はソレだった。
美少女でもなければ醜くもなく。
優秀でもなければ出来損ないでもなく。
高貴でも無ければ下位貴族でもない。
富豪でなければ貧乏でもない。
中の中。
自己主張も存在感もない私は貴族達の中では透明人間のようだった。
唯一認識されるのは婚約者と社交に出る時。
そしてあの言葉が聞こえてくる。
見目麗しく優秀な彼の横に並ぶ私を蔑む令嬢達。
私はずっと願っていた。彼に婚約を解消して欲しいと。
ある日いき過ぎた嫌がらせがきっかけで、見えるようになる。
★注意★
・閑話にはR18要素を含みます。
読まなくても大丈夫です。
・作り話です。
・合わない方はご退出願います。
・完結しています。
初恋が綺麗に終わらない
わらびもち
恋愛
婚約者のエーミールにいつも放置され、蔑ろにされるベロニカ。
そんな彼の態度にウンザリし、婚約を破棄しようと行動をおこす。
今後、一度でもエーミールがベロニカ以外の女を優先することがあれば即座に婚約は破棄。
そういった契約を両家で交わすも、馬鹿なエーミールはよりにもよって夜会でやらかす。
もう呆れるしかないベロニカ。そしてそんな彼女に手を差し伸べた意外な人物。
ベロニカはこの人物に、人生で初の恋に落ちる…………。
悪役令嬢が行方不明!?
mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。
※初めての悪役令嬢物です。
わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた
名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる