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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第三章 26)その人の魅力
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結局、カルファルの食事は、彼の部屋にまで届けてやることにした。
もちろん、手の空いている召使いに頼んでも良かったのだけど、私自らその食事を持っていってやることにする。
あのカルファルが、いったいどのような女性を連れてきたのか興味があったのだ。食事を持っていくついでに、その七人の女性たちに挨拶をしておこうと思ったのである。
「この階の奥のほうの部屋なんだけど」
ガイドのため、私の前をアビュが歩いてくる。
六人分の量は私のワゴンに載せているので、彼女のワゴンはずっと軽いはずだ。
それでも小柄なアビュには重いのか、そのワゴンを押すためにぐっと前屈みの姿勢になる。そのせいでアビュはお尻を突き出したような姿勢になる。
そのとき、彼女の腰の周りの柔らかみが薄い衣服越しにあらわになって妙に艶かしかったりする。 アビュのそのような姿など見たくないのであるが、目に入って仕方がない。
「七人で寝泊り出来る部屋はあんまりなくて。ねえ、ボス、その部屋で良かったでしょ?」
「え? あ、ああ、問題ないよ」
言うまでもないが、私がアビュの女性的な一面に惹かれるわけがない。
当たり前だ。そんなこと言い訳するのも面倒。むしろアビュの癖に、そんなふうに私を戸惑わせるのが腹立たしいくらい。
彼女は私の助手である。それ以上でもそれ以下でもないのだから。
「何よ、ボス?」
しかし私の戸惑いを目敏く察したかのように、アビュがチラッと振り向いて言ってきた。
「な、何がって、何だよ?」
気まずい秘密が見つかった子供のように、私は乱暴に声を荒げて言い返す。
「まあ、いいけど。そんなことより、アリューシアのことどう思う?」
突然、アビュがそんなことを言ってきた。
「アリューシアだって? どう思うって、何が?」
ずっと傍にいたアリューシアは、ようやく自分の部屋に帰っていってくれた。
今頃、プラーヌスに与えられた魔法の課題をどうやってクリアーしようか、頭を悩ましているのであろうか。その課題の困難さをようやく実感し始めているのかもしれない。
いや、それとも、まださっきのカルファルの態度に苛々しているのかもしれない。
アリューシアの性格を理解し切っているわけではないが、そういう切り替えが上手そうなタイプには到底思えない。
私がカルファルの部屋に行きたかった理由はそれもある。アリューシアに近づくな。そういう警告も発したかったのだ。
アリューシアが誰を好きになろうが知ったことではないし、カルファルが何を企もうが関係ない。
しかしこの塔で面倒なことを起こされるのは迷惑である。私が彼に警告するのは別に門違いなことではないだろう。
「アリューシアってかわいいでしょ?」
アビュはまだその話題を続けている。
「まあ、そうだろうね」
確かに貴族の子女には、街や村に住んでいる女性にはない美しさが備わっていると思う。
たとえるなら、繊細に剪定された庭園の花のような美だ。
まとっている衣服、香水の香り、落ち着いた立ち居振る舞い、日焼けしてしていない肌、垢切れしていない手などが、そのような美を立ち上げているのだろうか。
いや、アリューシアにはそのような貴族的な美に加えて、もっと普遍的な魅力も備えていると思う。生まれつき容姿が整っていて、笑顔が多くて、ちょっとした仕草にチャーミングさが漂っている。
「私は負けてるのかな? まあね、勝ち負けとかないのかもしれないけどさ」
塔で生まれ育ったアビュは、これまで貴族と接した経験など皆無なのだろう。
街で暮らす娘たちは、貴族たちと自分を比べたりしないものだ。憧れ羨望などを抱くことはあれど、競ったり張り合ったりはしない。彼女たちを別の生き物のように仰ぎ見るだけ。
しかし世間を知らないで、この狭い世界の中で育ったアビュに、そのような意識は皆無のよう。
逆に言えば、今ようやくアビュは当たり前の世界に触れているのかもしれない。そしてアビュはどうやら、その事実にちょっとしたショックを感じているよう。
「君の言うとおり、人の魅力に勝ち負けとかないよ。あったとしても、別に負けてない。アビュも素晴らしく魅力的さ」
「本当?」
「ああ、本当だよ」
「そっか」
私がお世辞を言っているかもしれない可能性を考えていないのだろうか、アビュは本当に無邪気に喜び出した。いや、ホッと安心していると言ったほうがいいかもしれない。
あまりに素直で単純な性格である。しかしそれがアビュの魅力。
そんなアビュを見ていると、君は素晴らしく魅力的だというさっきの言葉は、嘘ではなかったことが確信出来る。
私は別にお世辞など言っていなかった。
「ここよ」
「ようやく到着か」
西の塔にある厨房から、東の部屋の十三階のこの部屋まで、かなりの道程だ。
もちろん階段の上り下りなどは他の召使いに手伝ってもらったのだけど、階段からこの部屋まで重いワゴンを押して歩くだけでもくたびれる。それにせっかくの料理も冷めてしまうだろう。
「西の塔の厨房の近くに、彼ら専用の部屋を用意したほうがいいね。食事室みたいな感じの」
「うん、私ももう二度と嫌だ。ここまで運ぶの」
いずれにしろ目的地に到着したことは事実。私はカルファルがいるはずの部屋をノックする。
もちろん、手の空いている召使いに頼んでも良かったのだけど、私自らその食事を持っていってやることにする。
あのカルファルが、いったいどのような女性を連れてきたのか興味があったのだ。食事を持っていくついでに、その七人の女性たちに挨拶をしておこうと思ったのである。
「この階の奥のほうの部屋なんだけど」
ガイドのため、私の前をアビュが歩いてくる。
六人分の量は私のワゴンに載せているので、彼女のワゴンはずっと軽いはずだ。
それでも小柄なアビュには重いのか、そのワゴンを押すためにぐっと前屈みの姿勢になる。そのせいでアビュはお尻を突き出したような姿勢になる。
そのとき、彼女の腰の周りの柔らかみが薄い衣服越しにあらわになって妙に艶かしかったりする。 アビュのそのような姿など見たくないのであるが、目に入って仕方がない。
「七人で寝泊り出来る部屋はあんまりなくて。ねえ、ボス、その部屋で良かったでしょ?」
「え? あ、ああ、問題ないよ」
言うまでもないが、私がアビュの女性的な一面に惹かれるわけがない。
当たり前だ。そんなこと言い訳するのも面倒。むしろアビュの癖に、そんなふうに私を戸惑わせるのが腹立たしいくらい。
彼女は私の助手である。それ以上でもそれ以下でもないのだから。
「何よ、ボス?」
しかし私の戸惑いを目敏く察したかのように、アビュがチラッと振り向いて言ってきた。
「な、何がって、何だよ?」
気まずい秘密が見つかった子供のように、私は乱暴に声を荒げて言い返す。
「まあ、いいけど。そんなことより、アリューシアのことどう思う?」
突然、アビュがそんなことを言ってきた。
「アリューシアだって? どう思うって、何が?」
ずっと傍にいたアリューシアは、ようやく自分の部屋に帰っていってくれた。
今頃、プラーヌスに与えられた魔法の課題をどうやってクリアーしようか、頭を悩ましているのであろうか。その課題の困難さをようやく実感し始めているのかもしれない。
いや、それとも、まださっきのカルファルの態度に苛々しているのかもしれない。
アリューシアの性格を理解し切っているわけではないが、そういう切り替えが上手そうなタイプには到底思えない。
私がカルファルの部屋に行きたかった理由はそれもある。アリューシアに近づくな。そういう警告も発したかったのだ。
アリューシアが誰を好きになろうが知ったことではないし、カルファルが何を企もうが関係ない。
しかしこの塔で面倒なことを起こされるのは迷惑である。私が彼に警告するのは別に門違いなことではないだろう。
「アリューシアってかわいいでしょ?」
アビュはまだその話題を続けている。
「まあ、そうだろうね」
確かに貴族の子女には、街や村に住んでいる女性にはない美しさが備わっていると思う。
たとえるなら、繊細に剪定された庭園の花のような美だ。
まとっている衣服、香水の香り、落ち着いた立ち居振る舞い、日焼けしてしていない肌、垢切れしていない手などが、そのような美を立ち上げているのだろうか。
いや、アリューシアにはそのような貴族的な美に加えて、もっと普遍的な魅力も備えていると思う。生まれつき容姿が整っていて、笑顔が多くて、ちょっとした仕草にチャーミングさが漂っている。
「私は負けてるのかな? まあね、勝ち負けとかないのかもしれないけどさ」
塔で生まれ育ったアビュは、これまで貴族と接した経験など皆無なのだろう。
街で暮らす娘たちは、貴族たちと自分を比べたりしないものだ。憧れ羨望などを抱くことはあれど、競ったり張り合ったりはしない。彼女たちを別の生き物のように仰ぎ見るだけ。
しかし世間を知らないで、この狭い世界の中で育ったアビュに、そのような意識は皆無のよう。
逆に言えば、今ようやくアビュは当たり前の世界に触れているのかもしれない。そしてアビュはどうやら、その事実にちょっとしたショックを感じているよう。
「君の言うとおり、人の魅力に勝ち負けとかないよ。あったとしても、別に負けてない。アビュも素晴らしく魅力的さ」
「本当?」
「ああ、本当だよ」
「そっか」
私がお世辞を言っているかもしれない可能性を考えていないのだろうか、アビュは本当に無邪気に喜び出した。いや、ホッと安心していると言ったほうがいいかもしれない。
あまりに素直で単純な性格である。しかしそれがアビュの魅力。
そんなアビュを見ていると、君は素晴らしく魅力的だというさっきの言葉は、嘘ではなかったことが確信出来る。
私は別にお世辞など言っていなかった。
「ここよ」
「ようやく到着か」
西の塔にある厨房から、東の部屋の十三階のこの部屋まで、かなりの道程だ。
もちろん階段の上り下りなどは他の召使いに手伝ってもらったのだけど、階段からこの部屋まで重いワゴンを押して歩くだけでもくたびれる。それにせっかくの料理も冷めてしまうだろう。
「西の塔の厨房の近くに、彼ら専用の部屋を用意したほうがいいね。食事室みたいな感じの」
「うん、私ももう二度と嫌だ。ここまで運ぶの」
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