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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第三章 27)シャボンの泡
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木製の質素な作りであるが、両開きの扉である。アビュがカルファルたちに用意した部屋は、普通の部屋より少しだけグレードの高いことは事実だろう。
「シャグランだ、食事を持ってきたよ!」
その扉をノックしているが、なかなか応答が返ってこないので私は声を張り上げる。
「おい、カルファル、君が待ちに待っていた食事だ。わざわざここまで運んできたんだ!」
それでも返答がない。私とアビュは首を傾げながら顔を見合す。
扉の向こうに人の気配は感じる。彼らがこの部屋にいることは間違いないようである。
私がもう一度、扉をノックしようとした時である。
中からコツコツと足音が聞こえてきたかと思うと、勢い良く扉が開き、若い女性が顔を出した。
「ごめんなさい、主人は今、入浴中よ」
「ああ、そうですか」と言いかけて、私は息が止まりそうになる。
若くて美しい女性だった。髪が濡れている。髪だけじゃない。肌も濡れているようだ。肩が剥き出しで、水でツヤツヤと光っているのである。
いや、よく見ると、肌が露出しているのは肩だけじゃなかった。
女性はほとんど半裸ではないか。身体を拭くための布で身体を隠しているが、それが水でぴったりと張り付き、胸の膨らみはそのまま浮き出ていた。
私は目のやり場に困って、上や下など右や左に視線を彷徨わせる。その女性は全てわかった上で興味深そうに私の様子を眺めている。
「え? 何なんですか、ちょっと!」
私の背後にいたアビュも、その女性がほとんど半裸だということに気づいたようだ。
彼女は私のように取り乱すことはない。それどころか女性を指差して怒り始めた。「すいませんけど、こんな格好で出てこないでくれませんか!」
じろじろ見るなよ、ボス! 彼女の怒りは私にも転移する。というよりも、そもそもアビュが怒っているのは、私が彼女の身体を見ていたからだろう。
な、何を言ってるんだ。何も見てないよ。
本当に最低だわ!
その女性の前で、私とアビュが不毛な言い争いをしていたら、部屋の奥からカルファルの声がした。
「よう、シャグラン! 待ちくたびれて先に入浴していたところだ。食事は向こうのテーブルにでも並べておいてくれ」
女性が後ろに身体をずらしたので、バスタブに浸かっているカルファルの姿が見えた。
部屋の奥に大きなバスタブがあった。カルファルが持ってきた自前のバスタブに違いない。
馬車を何台も連ねて長い旅をする貴族は、このようなバスタブも持ち運んでいるものだ。
しかしそれにしてもかなりの大きさ。何とそのバスタブには、裸のカルファルだけではなくて、何人かの女性も一緒に浸かっているのだ。
アビュが口を開けて呆然としている。私もあまりの光景に言葉が出ない。
一方、そのバスタブの中の女性のほうも、私たちを見て様々な反応を示す。
彼女たちも、もちろん裸だ。だから男の私を非難するように見つめてくる女性、慌ててカルファルの後ろに身体を隠す女性、そんな中、こっちを冷やかすように見つめてくる女性もいる。
「たいそうな身分だね、カルファル」
私は何とか驚きから立ち直り、精一杯の虚勢を張って、そんな言葉を口にした。
「俺はこいつらと、こうやって一緒にお湯に浸かっているとき、生きる幸せを噛み締めることが出来る。女はいいぜ、シャグラン」
シャボンの泡が部屋を舞う。お湯が溢れ出して、石畳の床が水で濡れている。
いったいこれだけのお湯をどこから調達したのだろうかと思ったが、この男だって魔法使いなのである。水を沸かすくらい容易いことに違いない。
「ま、また出直す。君とはこれからのことで話し合いたいこともあるから」
「何を急ぐ。ゆっくりとしていけよ」
すぐに振り返って部屋を出ようとする私に、カルファルが声を掛けてくる。
「いや、また明日逢おう」
「かたい男だな、シャグラン。それとも俺の女たちにびびっているのか、歳のわりには女に馴れていないな。うん? いや、それも違うのか」
カルファルが声を上げて大笑いし出した。「何だ、そうか、お前のそのちっちゃい恋人が妬いているわけか!」
カルファルの笑いに遅れて、彼の女性たちもクスクスと笑い出した。
本当だわ、見てよあれ。ちっちゃい恋人さんの尻にしかれているのね。女性たちが笑いながら口々に言っている。
カルファルの指摘の通りである。
私がいそいそと部屋を出ようとしていたのは、それもあった。恐ろしいほどの力でアビュが私の脇腹をつねり、部屋の外に引っ張り出そうとしているのである。
「すまないな、シャグラン、君の恋人を嫉妬させてしまって」
カルファルはまだ腹を抱えて笑っているようだ。
「うるさい! 恋人じゃない!」
アビュが怒鳴りながら、私を部屋の外に連れ出していく。
「そういうことだ、また明日」
私は少しでも威厳を保とうと、仕事のときの口調でカルファルにそう語るが、後ろを少し振り返ろうとした私の向う脛をアビュが蹴っ飛ばしてきて、その努力も水疱に消える。
カルファルが笑う。女たちが笑っていた。私も苦笑いせざるを得ない。
「シャグランだ、食事を持ってきたよ!」
その扉をノックしているが、なかなか応答が返ってこないので私は声を張り上げる。
「おい、カルファル、君が待ちに待っていた食事だ。わざわざここまで運んできたんだ!」
それでも返答がない。私とアビュは首を傾げながら顔を見合す。
扉の向こうに人の気配は感じる。彼らがこの部屋にいることは間違いないようである。
私がもう一度、扉をノックしようとした時である。
中からコツコツと足音が聞こえてきたかと思うと、勢い良く扉が開き、若い女性が顔を出した。
「ごめんなさい、主人は今、入浴中よ」
「ああ、そうですか」と言いかけて、私は息が止まりそうになる。
若くて美しい女性だった。髪が濡れている。髪だけじゃない。肌も濡れているようだ。肩が剥き出しで、水でツヤツヤと光っているのである。
いや、よく見ると、肌が露出しているのは肩だけじゃなかった。
女性はほとんど半裸ではないか。身体を拭くための布で身体を隠しているが、それが水でぴったりと張り付き、胸の膨らみはそのまま浮き出ていた。
私は目のやり場に困って、上や下など右や左に視線を彷徨わせる。その女性は全てわかった上で興味深そうに私の様子を眺めている。
「え? 何なんですか、ちょっと!」
私の背後にいたアビュも、その女性がほとんど半裸だということに気づいたようだ。
彼女は私のように取り乱すことはない。それどころか女性を指差して怒り始めた。「すいませんけど、こんな格好で出てこないでくれませんか!」
じろじろ見るなよ、ボス! 彼女の怒りは私にも転移する。というよりも、そもそもアビュが怒っているのは、私が彼女の身体を見ていたからだろう。
な、何を言ってるんだ。何も見てないよ。
本当に最低だわ!
その女性の前で、私とアビュが不毛な言い争いをしていたら、部屋の奥からカルファルの声がした。
「よう、シャグラン! 待ちくたびれて先に入浴していたところだ。食事は向こうのテーブルにでも並べておいてくれ」
女性が後ろに身体をずらしたので、バスタブに浸かっているカルファルの姿が見えた。
部屋の奥に大きなバスタブがあった。カルファルが持ってきた自前のバスタブに違いない。
馬車を何台も連ねて長い旅をする貴族は、このようなバスタブも持ち運んでいるものだ。
しかしそれにしてもかなりの大きさ。何とそのバスタブには、裸のカルファルだけではなくて、何人かの女性も一緒に浸かっているのだ。
アビュが口を開けて呆然としている。私もあまりの光景に言葉が出ない。
一方、そのバスタブの中の女性のほうも、私たちを見て様々な反応を示す。
彼女たちも、もちろん裸だ。だから男の私を非難するように見つめてくる女性、慌ててカルファルの後ろに身体を隠す女性、そんな中、こっちを冷やかすように見つめてくる女性もいる。
「たいそうな身分だね、カルファル」
私は何とか驚きから立ち直り、精一杯の虚勢を張って、そんな言葉を口にした。
「俺はこいつらと、こうやって一緒にお湯に浸かっているとき、生きる幸せを噛み締めることが出来る。女はいいぜ、シャグラン」
シャボンの泡が部屋を舞う。お湯が溢れ出して、石畳の床が水で濡れている。
いったいこれだけのお湯をどこから調達したのだろうかと思ったが、この男だって魔法使いなのである。水を沸かすくらい容易いことに違いない。
「ま、また出直す。君とはこれからのことで話し合いたいこともあるから」
「何を急ぐ。ゆっくりとしていけよ」
すぐに振り返って部屋を出ようとする私に、カルファルが声を掛けてくる。
「いや、また明日逢おう」
「かたい男だな、シャグラン。それとも俺の女たちにびびっているのか、歳のわりには女に馴れていないな。うん? いや、それも違うのか」
カルファルが声を上げて大笑いし出した。「何だ、そうか、お前のそのちっちゃい恋人が妬いているわけか!」
カルファルの笑いに遅れて、彼の女性たちもクスクスと笑い出した。
本当だわ、見てよあれ。ちっちゃい恋人さんの尻にしかれているのね。女性たちが笑いながら口々に言っている。
カルファルの指摘の通りである。
私がいそいそと部屋を出ようとしていたのは、それもあった。恐ろしいほどの力でアビュが私の脇腹をつねり、部屋の外に引っ張り出そうとしているのである。
「すまないな、シャグラン、君の恋人を嫉妬させてしまって」
カルファルはまだ腹を抱えて笑っているようだ。
「うるさい! 恋人じゃない!」
アビュが怒鳴りながら、私を部屋の外に連れ出していく。
「そういうことだ、また明日」
私は少しでも威厳を保とうと、仕事のときの口調でカルファルにそう語るが、後ろを少し振り返ろうとした私の向う脛をアビュが蹴っ飛ばしてきて、その努力も水疱に消える。
カルファルが笑う。女たちが笑っていた。私も苦笑いせざるを得ない。
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