私の邪悪な魔法使いの友人2

ロキ

文字の大きさ
61 / 188
シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子

第三章 28)静寂のために

しおりを挟む
 「何だか無駄に塔が騒がしいね。以前の静寂が懐かしい」

 プラーヌスがスープを口に運びながら静かに微笑む。「追い出すべき者は追い出す必要があるかもしれない。とはいえ」

 この料理の味は格別だ。アリューシアという少女の面倒を、しばらく看ざるをえないね。
 そのスープの味がかなり気に入ったのか、そんなことを口にしつつ、プラーヌスは何度も頷く。

 今日の夕食から、本格的に塔の料理係りが変わった。アリューシアが連れて来た料理人、ミリューとアバンドンが担当することになったのである。
 それがアリューシアとの約束だったのである。アリューシアに魔法の指導をする代わりに、その二人が塔の料理係りを勤めること。

 プラーヌスは自分の料理だけを、その二人の料理人に作らせるつもりであったようだが、二人の料理人のほうから、塔に住んでいる全ての住人の料理を担当したいと言い出した。
 もちろん二人が直接作ることが出来る量は限られるだろうが、全ての食材と味付けの責任を二人が負うらしい。
 それなりに料理の経験のある召使いが、彼らの手伝いをすることになったのである。
 その体制になったのは今日のことだから、どこまで順調に運んでいるのかはわからないが、今のところ厨房に大きな混乱はないようだ。

 「この味なら、一生食べ続けても厭きることないだろう。僕たちは永遠の料理家に出会ったのかもしれない」

 プラーヌスは言う。私もその言葉に深く同意する。本当に心の底から幸せ感を得られる料理なのだ。

 「アリューシアを追い出すとしても、まずその前に、その二人の料理人が塔に残って、僕の料理を作り続けるという約束を取り付ける必要がある。しかし脅迫なんてしてはいけない。二人が本当に心の底から僕に心酔して、ここで仕事をし続けたくなる動機付けが必要だ」

 どういう方法が良いだろうか? アリューシアが死んで、ボーアホーブ家も滅んで、仕える先を失えば、二人はここで働かざるをえなくなるよね。もちろん、彼らが料理をしやすくするための環境は全て整えてやる。どの宮殿で働くよりも、ここで働いたほうが働き甲斐があると思わせる。

 プラーヌスは本気でその計画を検討しているのか、いつになく真剣な表情になる。

 「な、何を言っているんだよ、プラーヌス。そんな悪辣なことをする必要はない。とても簡単だよ、君がアリューシアの面倒を看続ければいいんだ。彼女はここに残りたがっている。アリューシアがいる限り、二人の料理人も彼女から離れないはずだ」

 アリューシアの死とか、ボーアホーブ家の滅亡だとか、そんなものはきっと悪い冗談なのだろうけど、プラーヌスならば、やりかねなくもない。
 私は少し強めの口調で彼に釘を刺しておく。

 「そうだね。確かに簡単だ。しかし僕はアリューシアを追い出したいんだ。まずそれが大前提さ。いつまでも彼女を置いておくつもりはない」

 「でもアリューシアよりもカルファルは? 奴こそ、この騒がしい騒音の出所かもしれない」

 「奴の扱いこそ簡単だよ。カルファルに関して、何も気を遣う必要はないからね。殺してしまえば、それで全て解決だ。今すぐにでも実行可能だよ」

 わかっている。それだってきっと冗談だろう。
 しかし私はとりあえず、カルファルの命を助けることにする。

 「彼はすぐに旅立つ予定らしい。ただ旅の途中に立ち寄っただけなんだから・・・」

 「ならば殺すまでもないかな。奴のことが本当に嫌いだけど、彼が死ねば悲しむ人がいるかもしれない。出来ることならば手に掛けたくはない。この羊とは違うんだ」

 プラーヌスはそう言いながら、今夜のメインディッシュ、その噂の羊の肉を美味しそうに頬張る。

 「当然だよ、殺すのはありえない。それに彼には妻のような女性が七人いるらしい。その女たちが君を恨むに違いない」

 「七人だって? 何という男だ。本当に呆れるね。君はその女たちに逢ったのかい?」

 「ああ、少しだけ、チラリとね」

 さっきの光景が脳裏に蘇って、一瞬だけ食欲を失う。格別に美味しい料理といえども、女性たちが漂わせる色気には叶わないのかもしれない。

 「その女たちの中に、お気に入りでも見つけたのかい?」

 「まさか! 本当当にすれ違った程度さ」

 「まあ、面倒になるのならば、その女性たちだって殺してやるけど」

 「冗談だろ、プラーヌス!」

 もう彼のこのような口ぶりに付き合っていられなかった。私は彼を責めるように声を上げる。

 「もちろん冗談だよ、優しいシャグラン。いいだろう。死にたくなければ、さっさと出て行くよう、君からあの男に伝えておいてくれ。彼の命運を握るのは君次第だな」

 「わかった。数日中には確実に追い出す」

 何が何でもカルファルの命を救いたいわけでもない。まあ、女性たちが嘆くのは見たくはないけれど。
 それより何より、誰かが簡単に死んだり殺されたりするような世界が嫌なのだ。
 ましてや、自分の住んでいる塔でそのようなことが起こるのは耐えられない。そしてその首謀者がプラーヌスなんて。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

華都のローズマリー

みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。 新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

【完結】見えてますよ!

ユユ
恋愛
“何故” 私の婚約者が彼だと分かると、第一声はソレだった。 美少女でもなければ醜くもなく。 優秀でもなければ出来損ないでもなく。 高貴でも無ければ下位貴族でもない。 富豪でなければ貧乏でもない。 中の中。 自己主張も存在感もない私は貴族達の中では透明人間のようだった。 唯一認識されるのは婚約者と社交に出る時。 そしてあの言葉が聞こえてくる。 見目麗しく優秀な彼の横に並ぶ私を蔑む令嬢達。 私はずっと願っていた。彼に婚約を解消して欲しいと。 ある日いき過ぎた嫌がらせがきっかけで、見えるようになる。 ★注意★ ・閑話にはR18要素を含みます。  読まなくても大丈夫です。 ・作り話です。 ・合わない方はご退出願います。 ・完結しています。

初恋が綺麗に終わらない

わらびもち
恋愛
婚約者のエーミールにいつも放置され、蔑ろにされるベロニカ。 そんな彼の態度にウンザリし、婚約を破棄しようと行動をおこす。 今後、一度でもエーミールがベロニカ以外の女を優先することがあれば即座に婚約は破棄。 そういった契約を両家で交わすも、馬鹿なエーミールはよりにもよって夜会でやらかす。 もう呆れるしかないベロニカ。そしてそんな彼女に手を差し伸べた意外な人物。 ベロニカはこの人物に、人生で初の恋に落ちる…………。

悪役令嬢が行方不明!?

mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。 ※初めての悪役令嬢物です。

処理中です...