私の邪悪な魔法使いの友人2

ロキ

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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子

第四章 8)アリューシアの章

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 「私さ、死のうと思っている」

 アリューシアはベッドの上からつぶやいた。

 「さようでございますか」

 アリューシアと両親との間で交わされた会話、昨夜、アリューシアが夕食すら摂らず泣き暮れたこと。
 それらの事情を知りながら、そういう気配を少しも現さないのがラダという侍女である。
 そしてこうやってアリューシアはベッドから起き上がることも出来ないで、死と絶望を口にしているというのに、少しも心配そうな表情を見せてくれない。

 「だってね、生きていても、もう意味がないの」

 だからアリューシアは絶望を更に強調する。

 「昨日までは、生きる意味があったんですか?」

 ラダは窓拭きの作業の手を止めずに言ってくる。

 「な、何よ、それ! 今の今までずっと、私の人生には意味も価値もないみたいな言い方しないでよ!」

 「はいはい」

 「・・・私、本気なんだけど?」

 「わかっています、お嬢様」

 「本当に悲しいのよ、ラダ。パパも嫌い、ママも嫌い。私は、もうどんな夢も見ることが出来ない。心も重い、身体も重い。恋しているときは、私の身体には翼が生えていたことがよくわかった。でも今は、起き上がることも辛い」

 「お嬢様、詩人になられたらどうですか?」

 「・・・詩人? そうね。死ぬ前に詩でも書いてみようかしら」

 ラダがアリューシアの自殺願望を少しも本気で取り扱おうとしないようだから、アリューシアは絶対に死んでやると改めて決心した。
 さて、どのようなやり方で死ぬことにしよう? 首吊り。ナイフで心臓を突き刺す。毒を呷る。
 いずれにしろ、両親もラダも、彼女の冷たい死体を前にして、これまでの言動を後悔するだろう。そして私を見直すに違いない。この子はこんなに意志が強い娘だったんだって。
 そんなことを考えていたら、再び、アリューシアの瞳に涙が溢れてくる。

 「ああ、もう無理だわ」

 「何がですか、お嬢様?」

 「好き、好き。本当に愛してる。私はあの人が大好き。でも、あの人は私の存在も知らない。せっかく知ってもらおうと魔法の勉強をしようと思ったのに、それも叶わない」

 ラダ、ごめん、しばらく一人にして。
 アリューシアは胸の奥底から溢れ出る言葉を止めることが出来そうになかった。それをラダには聞かれたくない。

 「はい?」

 「部屋から出ていきなさいって言ってるのよ!」

 アリューシアは布団を蹴っ飛ばしながら大きな声で怒鳴る。
 ラダはその声に反応して、一瞬、部屋を出ようとしたが、気が変わったのかすぐに立ち止まった。

 「お嬢様、もう無理な夢を見るのは止めましょう」

 「な、何よ、いきなり・・・」

 あのラダが悲しそうにアリューシアを見ている。
 今までに見せたことのない表情だった。侍女らしい表情だと言える。
 ラダ以外の侍女がアリューシアに見せる表情だ。アリューシアが我儘を言ったり、何か無茶なことを言いつけたりしたときの表情。
 だとすると、これまでの無関心な態度は、友達としての表情だったのだろうか? 

 「お嬢様、今は辛くても、すぐに忘れます。私だってそれくらいの経験はあるんですよ、今のお嬢様の同じ年頃に・・・。お嬢様はあの人のことを何も知りません。ただ美しい顔立ちと、不思議な雰囲気に惹かれただけです。そんなのは愛とは言えません。ただ、自分の中の熱狂に浮かされているだけ」

 「何よ、それ?」

 「星を手に入れようとするのと、何も変わりません」

 「うるさいわね」

 「そんなのは夢ではありません。ただ自分を苦しめるだけです」

 「わかってるわよ、私だって!」

 わかっているのだ。アリューシアは完璧に理解している、ラダが何を言いたいのか。
 なぜならそれは、心の奥底でアリューシアが考えていることと一致しているからだ。だからこそ、それを言葉にして聞きたくない。

 (もう終わりでいいわ)

 アリューシアだって、既に諦めかけていた。
 やはりアリューシアもまだまだ幼くて、その魔法使いへの情熱を永遠に変わらない想いだと思い込んでいたが、実は心の奥底まで根付いていたわけではなく、結局、少しの抵抗で流されていくような決心に過ぎなかったということなのだろう。
 しかし誰だって命を賭して愛を貫くよりも、少しでも永く生きていたいと思うのが普通。

 (もう面倒だわ。全てを終わりにしよう)

 そのときだった。
 扉をノックする音が聞こえてきた。
 それはやけに渇いた音で、少しだけ教会の鐘の音色に似ていて、普段のノックの音とはどこか違うとアリューシアは心の片隅で思ったが、扉の向こうに人の気配がすることは事実なので、誰かが来たのだろう。


 「何よ!」とアリューシアは扉の向こうの何者かに声を荒げる。

 「泣き声が聞こえたからね」

 (え?)

 扉が開き、黒い陰がその隙間から押し寄せるように入り込んできた。その侵入の勢いの凄まじさに、アリューシアは目を見張る。

 (ちょっと待ってよ・・・)

 何かが起きようとしている。
 信じられないくらいに特別な出来事が。
 その何者かは扉を開き切ったわけではなくて、まだその姿をアリューシアたちの前に現してはいないのだけど、その声を聞いただけで、彼女の部屋に何者が訪れたのか瞬時に察知することが出来た。

 とはいえ、アリューシアはその事実を信じることは出来なかったが。
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