74 / 188
シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第四章 12)アリューシアの章
しおりを挟む
魔法使いはしなやかな足取りで森のほうへと歩いてゆく。
何という美しい歩き方だろうかと感動していたアリューシアであったが、このままでは置いていかれるのではないかと思い、まだふらつく足取りでそのあとを追う。
「アランだっけ? いずれ君の兄が迎えに来るだろう。それまでその小屋で君を監禁する」
魔法使いが少しだけ振り返り、そう声を掛けてきた。
「は、はい、ありがとうございます!」
アリューシアは感動の声を上げる。監禁という言葉がアリューシアをワクワクさせたのだ。
魔法使いはその反応に肩をすくめる。
「その小屋はあの屋敷のように広くもない。ふかふかのベッドもない。君の世話をする侍女もいない。水が飲みたければ、自分で小川まで汲みに行かなければ行けない」
「喜んで、プラーヌス様の分のお水も運びます」
アリューシアの心は今、喜びに張り裂けんばかりであった。あの憧れの魔法使いとこうして会話を交わしている。それどころか、どうやらこれから彼と一緒に狭い小屋の中で暮らすらしい。
最高ではないか。全ての夢が叶おうとしている。
「うむ、やはり君を人質に選んで正解だったね。これ程、従順な人質は、なかなかいないだろう。小屋でも大人しくしているんだよ」
「はい!」
「僕は街に戻って、君の兄さんたちと話し合いをしてくる」
「え?」
アリューシアは立ち止まって、彼の言葉の意味を噛み砕いて理解しようとする。そこは丁度、野原と森の境界線の辺り。木立ちが影となってアリューシアの表情を曇らせる。
「狼が出る。賊も出没するかもしれない。水を汲む以外、あまり外に出歩かないほうがいい」
「え?」
「見えるかな? あの小屋だよ。まっすぐ進めばすぐに着く。食料も多少蓄えている。二、三日で話しはまとまるはずだ。じゃあね」
すると魔法使いはまたあの美しいきらめきを発して、アリューシアの前から消えた。アリューシアは呆然として、膝から崩れ落ちる。
これから二人きりで楽しい時間を送ることが出来ると思っていたのに。アリューシアはどうやら、何か大きな勘違いをしていたようだ。
彼女は魔法使いが言った言葉を記憶の中から引っ張り出し、今、自分がどういう状況にいるのか、必死に頭を巡らす。
監禁、人質、小屋、交渉、狼。どれ一つとして聞こえの良い響きはない。そして実際、自分は独りきり。
(騙された!)
アリューシアは頭を抱える。しかしそれ以上に、まだあの魔法使いを信じたい気持ちのほうが強くて、その不安を打ち消そうとする感情の波もまた激しい。
きっとすぐにあの魔法使いは自分のところに戻ってくれるはず。
呆然自失のまま、どれくらいの時間が経っただろうか。気がつくとアリューシアの周りを、涎を垂らした狼の群れが集まってきていた。
アリューシアは危険な獣たちが好む香ばしい匂いでも発しているのか、それともこの森にはそれほどに多くの危険な狼たちがウヨウヨしているのか、あるいはとてつもない不運な星が巡っていたのか、いずれにしろ、突然降って沸いた命の危機に、アリューシアは声も出ない。
何という美しい歩き方だろうかと感動していたアリューシアであったが、このままでは置いていかれるのではないかと思い、まだふらつく足取りでそのあとを追う。
「アランだっけ? いずれ君の兄が迎えに来るだろう。それまでその小屋で君を監禁する」
魔法使いが少しだけ振り返り、そう声を掛けてきた。
「は、はい、ありがとうございます!」
アリューシアは感動の声を上げる。監禁という言葉がアリューシアをワクワクさせたのだ。
魔法使いはその反応に肩をすくめる。
「その小屋はあの屋敷のように広くもない。ふかふかのベッドもない。君の世話をする侍女もいない。水が飲みたければ、自分で小川まで汲みに行かなければ行けない」
「喜んで、プラーヌス様の分のお水も運びます」
アリューシアの心は今、喜びに張り裂けんばかりであった。あの憧れの魔法使いとこうして会話を交わしている。それどころか、どうやらこれから彼と一緒に狭い小屋の中で暮らすらしい。
最高ではないか。全ての夢が叶おうとしている。
「うむ、やはり君を人質に選んで正解だったね。これ程、従順な人質は、なかなかいないだろう。小屋でも大人しくしているんだよ」
「はい!」
「僕は街に戻って、君の兄さんたちと話し合いをしてくる」
「え?」
アリューシアは立ち止まって、彼の言葉の意味を噛み砕いて理解しようとする。そこは丁度、野原と森の境界線の辺り。木立ちが影となってアリューシアの表情を曇らせる。
「狼が出る。賊も出没するかもしれない。水を汲む以外、あまり外に出歩かないほうがいい」
「え?」
「見えるかな? あの小屋だよ。まっすぐ進めばすぐに着く。食料も多少蓄えている。二、三日で話しはまとまるはずだ。じゃあね」
すると魔法使いはまたあの美しいきらめきを発して、アリューシアの前から消えた。アリューシアは呆然として、膝から崩れ落ちる。
これから二人きりで楽しい時間を送ることが出来ると思っていたのに。アリューシアはどうやら、何か大きな勘違いをしていたようだ。
彼女は魔法使いが言った言葉を記憶の中から引っ張り出し、今、自分がどういう状況にいるのか、必死に頭を巡らす。
監禁、人質、小屋、交渉、狼。どれ一つとして聞こえの良い響きはない。そして実際、自分は独りきり。
(騙された!)
アリューシアは頭を抱える。しかしそれ以上に、まだあの魔法使いを信じたい気持ちのほうが強くて、その不安を打ち消そうとする感情の波もまた激しい。
きっとすぐにあの魔法使いは自分のところに戻ってくれるはず。
呆然自失のまま、どれくらいの時間が経っただろうか。気がつくとアリューシアの周りを、涎を垂らした狼の群れが集まってきていた。
アリューシアは危険な獣たちが好む香ばしい匂いでも発しているのか、それともこの森にはそれほどに多くの危険な狼たちがウヨウヨしているのか、あるいはとてつもない不運な星が巡っていたのか、いずれにしろ、突然降って沸いた命の危機に、アリューシアは声も出ない。
0
あなたにおすすめの小説
華都のローズマリー
みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。
新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!
竜皇女と呼ばれた娘
Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた
ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる
その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ
国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……
《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
日曜日以外、1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております!
こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!!
2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?!
なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!!
こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。
どうしよう、欲が出て来た?
…ショートショートとか書いてみようかな?
2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?!
欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい…
2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?!
どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
【完結】見えてますよ!
ユユ
恋愛
“何故”
私の婚約者が彼だと分かると、第一声はソレだった。
美少女でもなければ醜くもなく。
優秀でもなければ出来損ないでもなく。
高貴でも無ければ下位貴族でもない。
富豪でなければ貧乏でもない。
中の中。
自己主張も存在感もない私は貴族達の中では透明人間のようだった。
唯一認識されるのは婚約者と社交に出る時。
そしてあの言葉が聞こえてくる。
見目麗しく優秀な彼の横に並ぶ私を蔑む令嬢達。
私はずっと願っていた。彼に婚約を解消して欲しいと。
ある日いき過ぎた嫌がらせがきっかけで、見えるようになる。
★注意★
・閑話にはR18要素を含みます。
読まなくても大丈夫です。
・作り話です。
・合わない方はご退出願います。
・完結しています。
初恋が綺麗に終わらない
わらびもち
恋愛
婚約者のエーミールにいつも放置され、蔑ろにされるベロニカ。
そんな彼の態度にウンザリし、婚約を破棄しようと行動をおこす。
今後、一度でもエーミールがベロニカ以外の女を優先することがあれば即座に婚約は破棄。
そういった契約を両家で交わすも、馬鹿なエーミールはよりにもよって夜会でやらかす。
もう呆れるしかないベロニカ。そしてそんな彼女に手を差し伸べた意外な人物。
ベロニカはこの人物に、人生で初の恋に落ちる…………。
悪役令嬢が行方不明!?
mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。
※初めての悪役令嬢物です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる