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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第五章 8)どちらとも最悪の選択肢
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二人の過去について突っ込んだ質問でも投げかけようとしたとき、私の気勢を制するようにカルファルが言ってきた。
「俺はアリューシアを自分の女にしたいんだ」と。
「はあ? 何だって?」
シュショテと熱心に話しをしているアリューシアの表情も、ピクリと動いたような気がした。
カルファルのその言葉は間違いなく聞こえただろう、シュショテも、「え?」という表情を見せたのだ。
アリューシアがその言葉をどう受け取ったのかわからない。意外に思ったのか、やっぱり自分のことを狙っていたわけかと思ったのか・・・。
いずれにしろ、アリューシアはカルファルに心惑わされたくないといった感じで、シュショテの腕をグッと掴んで自分のほうに意識を引き寄せた。
二人の間には魔法言語の辞書がある。アリューシアはあるページを指差しながら、「この部分をもっと詳しく説明しなさいよ」と怒鳴る。
「すなわち、これは、アリューシアを八人目の女にする宣言さ」
ここでようやく、カルファルは声のボリュームを抑えた。
熱心に勉強しているアリューシアの邪魔をしたくないと思ったのかもしれない。
いや、そんな殊勝な男ではないだろう。ここで声をひそめ始めたのは、そっちのほうがアリューシアの注意を惹けるものだと計算したに違いない。
「ちょ、ちょっと待てよ、カルファル。君は侍女のリーズを!」
「そんな時期もあったっけ。しかし今はアリューシアだ」
「ありえない。納得出来る話しじゃないね」
「いや、お前は反対出来ないぜ。これに関しては俺たちの利害が一致するはずだからな」
「どういう意味だよ?」
「アリューシアをプラーヌスから引き離す。違う男に目を向けさせるのさ。そうすれば、魔法なんて諦める。魔族との無茶な契約に走ることもない。良い解決方法だと思わないか、え?」
ああ、確かにそうかもしれない。プラーヌスへの憧れこそが、アリューシアを破滅させるかもしれない原因。カルファルはそれを根本的に打ち消そうというのだ。
しかしだ。
「魔族に魂を売り渡して、アリューシアは傷物になってしまうか、それとも彼女は俺と共に幸せな人生を生きるか、選択肢はその二つだ。お前は当然、後者を選ぶだろ?」
「それが気に入らない! アリューシアが君の妻、しかも八人目の女になるなんて」
私はアリューシアに聞こえないよう声をひそめながらも、断固とした口調でカルファルに迫る。
「なるほど、お前もアリューシアを気に入ったのか? ならば、お前もアプローチすればいい。どっちがアリューシアをものにするか、競争だな」
「違う、僕にそんな気はないよ」
「なぜだ? アリューシアはまだ幼いが、美しい。これから更に美しくなるだろう。そして、もれなく財産もついてくる。あのボーアホーブの財産だ。これほどの好条件がどこにある? 自分で言いながらも戦慄してくるぜ。アリューシアは最高の女じゃないか」
確かにアリューシアを救いたい。プラーヌスへの強烈な執着、というか、レベルの高い魔法使いになりたいという彼女の無茶な願望を、どうにかしてソフトな形で解き放つべきかもしれないと思う。
しかしだからって、こんな方法で彼女を救うなんてありえない。
だいたい、アリューシアとはあまりに年齢が離れているではないか。アリューシアとアビュは同じくらいの年齢。彼女をそのような対象として見るなど無理な話し。
それに何より、アリューシアのプラーヌスへのひたむきな情熱を、彼女から奪い取るなんて。
「そうか、ならば一人、競争相手が減ったことになる。まあ、お前など俺に張り合えるはずもないが」
カルファルはそう言って、アリューシアに視線を向ける。
彼女は夢中でシュショテの言葉に耳を傾けている。その表情は真面目で素直な生徒という趣。
明日への希望に輝き、新しい知識を吸収していることを心の底から喜んでいるようだ。日向の中で輝く春の若葉のような、その若葉の周りを飛び回る蝶のような。
しかし、そんなアリューシアが実は熱烈に魔族との契約を求めているというのだ。そして一方、カルファルのような女たらしが、その蝶の羽を狙っているというのだ。
どちらに転んだとしても、最悪の結末が待っているようにしか思えない。
そもそも、アリューシアはこの塔に来たこと自体、間違いだったに違いない。
「俺はアリューシアを自分の女にしたいんだ」と。
「はあ? 何だって?」
シュショテと熱心に話しをしているアリューシアの表情も、ピクリと動いたような気がした。
カルファルのその言葉は間違いなく聞こえただろう、シュショテも、「え?」という表情を見せたのだ。
アリューシアがその言葉をどう受け取ったのかわからない。意外に思ったのか、やっぱり自分のことを狙っていたわけかと思ったのか・・・。
いずれにしろ、アリューシアはカルファルに心惑わされたくないといった感じで、シュショテの腕をグッと掴んで自分のほうに意識を引き寄せた。
二人の間には魔法言語の辞書がある。アリューシアはあるページを指差しながら、「この部分をもっと詳しく説明しなさいよ」と怒鳴る。
「すなわち、これは、アリューシアを八人目の女にする宣言さ」
ここでようやく、カルファルは声のボリュームを抑えた。
熱心に勉強しているアリューシアの邪魔をしたくないと思ったのかもしれない。
いや、そんな殊勝な男ではないだろう。ここで声をひそめ始めたのは、そっちのほうがアリューシアの注意を惹けるものだと計算したに違いない。
「ちょ、ちょっと待てよ、カルファル。君は侍女のリーズを!」
「そんな時期もあったっけ。しかし今はアリューシアだ」
「ありえない。納得出来る話しじゃないね」
「いや、お前は反対出来ないぜ。これに関しては俺たちの利害が一致するはずだからな」
「どういう意味だよ?」
「アリューシアをプラーヌスから引き離す。違う男に目を向けさせるのさ。そうすれば、魔法なんて諦める。魔族との無茶な契約に走ることもない。良い解決方法だと思わないか、え?」
ああ、確かにそうかもしれない。プラーヌスへの憧れこそが、アリューシアを破滅させるかもしれない原因。カルファルはそれを根本的に打ち消そうというのだ。
しかしだ。
「魔族に魂を売り渡して、アリューシアは傷物になってしまうか、それとも彼女は俺と共に幸せな人生を生きるか、選択肢はその二つだ。お前は当然、後者を選ぶだろ?」
「それが気に入らない! アリューシアが君の妻、しかも八人目の女になるなんて」
私はアリューシアに聞こえないよう声をひそめながらも、断固とした口調でカルファルに迫る。
「なるほど、お前もアリューシアを気に入ったのか? ならば、お前もアプローチすればいい。どっちがアリューシアをものにするか、競争だな」
「違う、僕にそんな気はないよ」
「なぜだ? アリューシアはまだ幼いが、美しい。これから更に美しくなるだろう。そして、もれなく財産もついてくる。あのボーアホーブの財産だ。これほどの好条件がどこにある? 自分で言いながらも戦慄してくるぜ。アリューシアは最高の女じゃないか」
確かにアリューシアを救いたい。プラーヌスへの強烈な執着、というか、レベルの高い魔法使いになりたいという彼女の無茶な願望を、どうにかしてソフトな形で解き放つべきかもしれないと思う。
しかしだからって、こんな方法で彼女を救うなんてありえない。
だいたい、アリューシアとはあまりに年齢が離れているではないか。アリューシアとアビュは同じくらいの年齢。彼女をそのような対象として見るなど無理な話し。
それに何より、アリューシアのプラーヌスへのひたむきな情熱を、彼女から奪い取るなんて。
「そうか、ならば一人、競争相手が減ったことになる。まあ、お前など俺に張り合えるはずもないが」
カルファルはそう言って、アリューシアに視線を向ける。
彼女は夢中でシュショテの言葉に耳を傾けている。その表情は真面目で素直な生徒という趣。
明日への希望に輝き、新しい知識を吸収していることを心の底から喜んでいるようだ。日向の中で輝く春の若葉のような、その若葉の周りを飛び回る蝶のような。
しかし、そんなアリューシアが実は熱烈に魔族との契約を求めているというのだ。そして一方、カルファルのような女たらしが、その蝶の羽を狙っているというのだ。
どちらに転んだとしても、最悪の結末が待っているようにしか思えない。
そもそも、アリューシアはこの塔に来たこと自体、間違いだったに違いない。
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