91 / 188
シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第五章 16)その現場を取り仕切る者
しおりを挟む
「いえ、悪くない作戦かもしれません。確かにこれくらい強引なほうが、塔の改革は迅速に進んでいく。この塔の主がそれでも構わないと言うなら、いいのではないでしょうか」
プラーヌスが召使いたちにあの指令を下してすぐ、私はサンチーヌを執務室に呼んで相談に乗ってもらった。
本当にこんなことで大丈夫なのだろうか。いや、きっと大丈夫ではないに決まっているから助けて欲しい、私はそうサンチーヌに訴えたのだ。
とても意外なことであったが、サンチーヌはプラーヌスのやり方に賛同した。
サンチーヌにはサンチーヌなりの計画があったはずなのに、それをプラーヌスに邪魔されたわけだから、怒りはしないまでもそのやり方に呆れるだろうと思いきや、サンチーヌはさらりと言ってのけた。
「では明日から掃除夫たちは全員出払うわけですね? 男性も女性も関係なく」
「はい、そういうことになります。まあ、彼らが大人しくプラーヌスの命令に服すればですが」
「ならば、しばらく様子を見て、汚れが目立ってきたところから、必要最低限の召使いを塔に帰して掃除させていきましょう。そうやって少しずつ増やしていけば、掃除夫がどれだけ必要か計算出来るかもしれません」
「はあ、なるほど」
「しかしその仕事をすぐに開始するにしても、心配しなければいけない問題が他にあります」
サンチーヌは言ってきた。「塔の主は、その仕事を我々に任せるわけですよね? 塔の主自らその現場を取り仕切ってくれるわけではない」
「はい」
プラーヌスにも仕事がある。彼が忙しいことは事実だ。
このような仕事を誰かに任せるために、私をこの塔の管理人として指名してきたのだ。その仕事の責任は、私が引き受けなければいけない。
「森を開拓するのは簡単ではありません。さあ、森を伐採しろ、土地を開墾しろと命令しても、今までそのような仕事をしたことがない召使いたちに可能なはずがない。誰かがその仕事を指導し、その現場を取り仕切らなければいけない」
「言われてみればそうですね、僕にも当然、そんな経験はありませんよ」
「そうでしょうね、私だってありません。他の執事たちも、当然、そのような経験などない」
サンチーヌは腕を組んで、思案に耽る仕草を見せる。
いつでも淡々としている彼が少し困った様子を見せている。それはすなわち、本当に困っているということなのかもしれない。
「料理人のミリューは農家の出で、ボーアホーブ家の屋敷の庭でも、珍しい農作物を自分で栽培したりしていました。いざ畑を耕したり、種を蒔く段階になれば、彼の知識は役に立つでしょう。どのような作物を植えるべきか、そういうことに関しては彼に任せれば大丈夫です。しかしそんなミリューだって森を開拓した経験はない。それはもう一人の料理人アバンドンも同じ」
どのような農作物を植えるべきか、それはこの塔の料理長たち、いつまでその仕事を務めてくれるのかわからないが、ミリューとアバンドンに任せたい。
この塔の食に関することは、彼らの担当だ。それは私もサンチーヌと同じ意見。
しかし農作物を植える前の段階、我々はまず森を切り拓かなければいけないわけだ。
斧を握ったこともない。木を伐った後、その木はどうするのだ? 根っこは掘り出す必要があるのだろう、その方法は? 疑問だらけだ。
「そのような経験のある有能な人物、この塔に居そうにありません」
「こうなれば専門的な木こりを村から呼んで指導に当たらせるのがベストでしょう。しかしただ単に木を切ることが出来れば良いわけでもない。召使いたちを引っ張る力も必要。出来れば現場の監督者としても働いてもらわなければいけないのです」
「ますます難しい。やる気のない召使いたちを叱咤激励して、厳しく辛い労働に向かわせられることが出来る人間なんて・・・」
いるわけない。
そんな人物、この塔に居るわけがない。
新しいことを始めるのは大変で、何事もスムーズに進むものではないことはわかっているが、本当に気が重くなってくる。
やはり、私がこの責務を引き受けなければいけないわけか。
ただでさえ仕事が多い中、更に私の上に負担が圧し掛かって来ようとしている。
しかし私の頭の中に、流れ星のように振り落ちてきた名前があった。
バルザという名前だ。
バルザ殿、伝説の騎士にして、天才的司令官。
なぜなのか、そのような御方がこの塔に居る。
そういえば、バルザ殿はこの塔の周りに砦を築きたいと言っておられた。そのための木材が必要だとも。
私はそれを安請負しながら、いまだにその仕事を進めていない。
まあ、この前の蛮族との厳しい戦いで、バルザ殿の部隊もそれどころではなかったことは事実であるが、しかしまたいつか蛮族たちは襲来するかもしれないのだから砦は必要。
砦建設の現場指揮は自ら行うと仰られていた。
ということはすなわち、バルザ殿はそのような土木事業に関する知識をお持ちだということ。
砦を建設することが可能なのであれば、木々を伐採することなどにも通じているはず。いや、むしろそれはずっと容易なこと。
「サンチーヌ殿、この問題は解決しそうです。僕はすっかり忘れていた。この塔にはバルザ殿がおられる!」
プラーヌスが召使いたちにあの指令を下してすぐ、私はサンチーヌを執務室に呼んで相談に乗ってもらった。
本当にこんなことで大丈夫なのだろうか。いや、きっと大丈夫ではないに決まっているから助けて欲しい、私はそうサンチーヌに訴えたのだ。
とても意外なことであったが、サンチーヌはプラーヌスのやり方に賛同した。
サンチーヌにはサンチーヌなりの計画があったはずなのに、それをプラーヌスに邪魔されたわけだから、怒りはしないまでもそのやり方に呆れるだろうと思いきや、サンチーヌはさらりと言ってのけた。
「では明日から掃除夫たちは全員出払うわけですね? 男性も女性も関係なく」
「はい、そういうことになります。まあ、彼らが大人しくプラーヌスの命令に服すればですが」
「ならば、しばらく様子を見て、汚れが目立ってきたところから、必要最低限の召使いを塔に帰して掃除させていきましょう。そうやって少しずつ増やしていけば、掃除夫がどれだけ必要か計算出来るかもしれません」
「はあ、なるほど」
「しかしその仕事をすぐに開始するにしても、心配しなければいけない問題が他にあります」
サンチーヌは言ってきた。「塔の主は、その仕事を我々に任せるわけですよね? 塔の主自らその現場を取り仕切ってくれるわけではない」
「はい」
プラーヌスにも仕事がある。彼が忙しいことは事実だ。
このような仕事を誰かに任せるために、私をこの塔の管理人として指名してきたのだ。その仕事の責任は、私が引き受けなければいけない。
「森を開拓するのは簡単ではありません。さあ、森を伐採しろ、土地を開墾しろと命令しても、今までそのような仕事をしたことがない召使いたちに可能なはずがない。誰かがその仕事を指導し、その現場を取り仕切らなければいけない」
「言われてみればそうですね、僕にも当然、そんな経験はありませんよ」
「そうでしょうね、私だってありません。他の執事たちも、当然、そのような経験などない」
サンチーヌは腕を組んで、思案に耽る仕草を見せる。
いつでも淡々としている彼が少し困った様子を見せている。それはすなわち、本当に困っているということなのかもしれない。
「料理人のミリューは農家の出で、ボーアホーブ家の屋敷の庭でも、珍しい農作物を自分で栽培したりしていました。いざ畑を耕したり、種を蒔く段階になれば、彼の知識は役に立つでしょう。どのような作物を植えるべきか、そういうことに関しては彼に任せれば大丈夫です。しかしそんなミリューだって森を開拓した経験はない。それはもう一人の料理人アバンドンも同じ」
どのような農作物を植えるべきか、それはこの塔の料理長たち、いつまでその仕事を務めてくれるのかわからないが、ミリューとアバンドンに任せたい。
この塔の食に関することは、彼らの担当だ。それは私もサンチーヌと同じ意見。
しかし農作物を植える前の段階、我々はまず森を切り拓かなければいけないわけだ。
斧を握ったこともない。木を伐った後、その木はどうするのだ? 根っこは掘り出す必要があるのだろう、その方法は? 疑問だらけだ。
「そのような経験のある有能な人物、この塔に居そうにありません」
「こうなれば専門的な木こりを村から呼んで指導に当たらせるのがベストでしょう。しかしただ単に木を切ることが出来れば良いわけでもない。召使いたちを引っ張る力も必要。出来れば現場の監督者としても働いてもらわなければいけないのです」
「ますます難しい。やる気のない召使いたちを叱咤激励して、厳しく辛い労働に向かわせられることが出来る人間なんて・・・」
いるわけない。
そんな人物、この塔に居るわけがない。
新しいことを始めるのは大変で、何事もスムーズに進むものではないことはわかっているが、本当に気が重くなってくる。
やはり、私がこの責務を引き受けなければいけないわけか。
ただでさえ仕事が多い中、更に私の上に負担が圧し掛かって来ようとしている。
しかし私の頭の中に、流れ星のように振り落ちてきた名前があった。
バルザという名前だ。
バルザ殿、伝説の騎士にして、天才的司令官。
なぜなのか、そのような御方がこの塔に居る。
そういえば、バルザ殿はこの塔の周りに砦を築きたいと言っておられた。そのための木材が必要だとも。
私はそれを安請負しながら、いまだにその仕事を進めていない。
まあ、この前の蛮族との厳しい戦いで、バルザ殿の部隊もそれどころではなかったことは事実であるが、しかしまたいつか蛮族たちは襲来するかもしれないのだから砦は必要。
砦建設の現場指揮は自ら行うと仰られていた。
ということはすなわち、バルザ殿はそのような土木事業に関する知識をお持ちだということ。
砦を建設することが可能なのであれば、木々を伐採することなどにも通じているはず。いや、むしろそれはずっと容易なこと。
「サンチーヌ殿、この問題は解決しそうです。僕はすっかり忘れていた。この塔にはバルザ殿がおられる!」
0
あなたにおすすめの小説
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
日曜日以外、1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております!
こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!!
2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?!
なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!!
こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。
どうしよう、欲が出て来た?
…ショートショートとか書いてみようかな?
2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?!
欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい…
2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?!
どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
【完結】見えてますよ!
ユユ
恋愛
“何故”
私の婚約者が彼だと分かると、第一声はソレだった。
美少女でもなければ醜くもなく。
優秀でもなければ出来損ないでもなく。
高貴でも無ければ下位貴族でもない。
富豪でなければ貧乏でもない。
中の中。
自己主張も存在感もない私は貴族達の中では透明人間のようだった。
唯一認識されるのは婚約者と社交に出る時。
そしてあの言葉が聞こえてくる。
見目麗しく優秀な彼の横に並ぶ私を蔑む令嬢達。
私はずっと願っていた。彼に婚約を解消して欲しいと。
ある日いき過ぎた嫌がらせがきっかけで、見えるようになる。
★注意★
・閑話にはR18要素を含みます。
読まなくても大丈夫です。
・作り話です。
・合わない方はご退出願います。
・完結しています。
初恋が綺麗に終わらない
わらびもち
恋愛
婚約者のエーミールにいつも放置され、蔑ろにされるベロニカ。
そんな彼の態度にウンザリし、婚約を破棄しようと行動をおこす。
今後、一度でもエーミールがベロニカ以外の女を優先することがあれば即座に婚約は破棄。
そういった契約を両家で交わすも、馬鹿なエーミールはよりにもよって夜会でやらかす。
もう呆れるしかないベロニカ。そしてそんな彼女に手を差し伸べた意外な人物。
ベロニカはこの人物に、人生で初の恋に落ちる…………。
悪役令嬢が行方不明!?
mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。
※初めての悪役令嬢物です。
わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた
名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる