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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第五章 21)種を植えた次の日に、農作物を実らせる魔法
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「そうだ、これを機会に、君にはこの塔の金庫も預かってもらうべきかもしれない」
明日、傭兵を雇うため、シュショテと共に街に出かけることを請け負った私に向かって、プラーヌスはそんなことまで言い出した。
「何だって?」
プラーヌスはかなり面倒なことを口にし始めている気がする。
私は嫌な予感を感じながら彼を見返す。
「傭兵を雇うにも、前払いの金貨が必要だろう。それにはどれくらい掛かるだろうか。それだけじゃない。客たちから依頼された仕事も、少しずつ請け負い始めている。これから金の出入りが激しくなるだろう。それをきっちりと管理して欲しいのさ」
「なあ、プラーヌス、僕は呆れて仕方ない。他でもない。君に呆れているんだよ。君は何か、僕にとてつもない才能があるとでも勘違いしているんじゃないのかい?」
「金の勘定なんて難しくないさ。数字を引いたり足したりすれば良いだけだ。それを記録として残してくれればね。君のことを僕は全面的に信頼しているよ」
「そうなのかもしれない。だけどこれ以上、僕に仕事を頼むなんて・・・」
私はそのような恨み言と共にプラーヌスを見返す。
しかしプラーヌスは私の言葉を取り合おうともせず、料理に注意を移した。どうやら、彼の中では既にこのことも決定事項のようである。
まあ、確かにサンチーヌという部下が出来た。
いや、部下というのはおこがましい。私の仕事を手伝ってくれる仲間と言い変えるべきか。
それに彼だけじゃない。アリューシアが連れてきた執事や侍女たちも、仕事を手伝ってくれている。彼らの協力を得れば何とかなるかもしれない。
しかしそれにしても!
「ああ、わかったよ。金庫の管理だね。他にも仕事があるならば、先に言っておいて欲しい。例えば、君のこのローブを洗濯したり、ベッドメイクをしたり」
やろう。金庫係の仕事も勤めてみせよう。しかし私も少しばかりの抵抗を見せたい。わかりましたと素直に言い返すだけでは気が済まない。
私の不機嫌さに気づいたプラーヌスは、ときおり見せるあの甘く優しい笑顔を浮かべて語り出した。
「塔の環境は激変しようとしているんだ、シャグラン。昨日よりも今日、今日よりも明日。全てが良い方向に変わろうとしている。その中心にいるのが君だ。この塔を、君の住みやすい場所にしてくれればいい。僕は本当に君を信頼しているんだ。君が望む世界が、僕の望む世界でもあるんだから」
「ああ、うん、そうだね、精一杯の努力をするよ」
いつものプラーヌスの説法である。私を説得しようとするとき、彼は何やらスケールの大きな話しをして、私を何となく幻惑させて、納得せざるを得ない方向に持ってゆく。
しかしそんなことを言われた私は、心がもやもやして、その夜などすっきり眠れなくなるのである。
「楽しみだね。早くこの塔で育てられた野菜を食べたいよ」
一方、プラーヌスは朗らかな表情でそんなことを言ってくる。それはあたかも私たちの共有する幸せな未来であるとでも言いたげに。
「その意見には同意するよ。僕も自分たちで作った新鮮な野菜や果物が楽しみだ。まあしかし、どんなに早くても次の季節までは無理だろうけど」
私は上辺だけで、彼の喜びに合わせる。
「そんなことはない。魔法を使えば、農作物だってあっという間にに育てることが出来る。いや、農作物を害虫から守り、どんな天候にも影響されることなく、確実に育てるために、魔法は必須だ。そういう魔法は既に、あらゆる場所で使われている。シャグラン、ここをどこだと思っているんだ? 魔法使いの塔だよ。僕たちだって当然、農作物を育てるために魔法を使うさ」
「ああ、そうか」
こういう種類の魔法の存在を、私だって知らないわけではなかった。我々の世界が飢えとは無縁なのは魔法のお陰だってことを。
魔法は人を殺すためだけに存在しているのではなくて、生活を豊かにするためにも役立てられているのだ。
「極端な話し、種を植えた次の日には、農作物を実らせる魔法だってある。まあ、しかしそんなものを使えば、割りが合わないけどね。林檎一つを実らせるために、ルビー三つを消費するなんてことになってしまう。だから当然、そういう魔法は使わない。しかし土壌を肥沃にしつつ、害虫を排除して、農作物の収穫を確実にさせる魔法は存在するようだ。まだ僕も調べている最中だけど。多くの場所で使われている信頼出来る魔法だよ」
「やはり魔法は凄いね」
私はプラーヌスに感じていた苛立ちや不満をすっかり忘れそうなくらい、心の底から感心してしまう。
「その通り、魔法は凄い。しかし農地は広大だ。僕がいちいち農地に赴いて、そんな魔法を使ってはいられない。これもシュショテにやらせようか」
いや、待てよ。それまでずっとナイフとフォークを止めどなく動かしていたプラーヌスの動作が一瞬止まった。
「あいつはまだいるんだろ?」
プラーヌスは言った。
「え? あいつって?」
「カルファルだっけ、あの中途半端な魔法使いさ」
プラーヌスはその名前を口に出すのも汚らしいという感じに言った。「あいつにその仕事をやらせよう」
明日、傭兵を雇うため、シュショテと共に街に出かけることを請け負った私に向かって、プラーヌスはそんなことまで言い出した。
「何だって?」
プラーヌスはかなり面倒なことを口にし始めている気がする。
私は嫌な予感を感じながら彼を見返す。
「傭兵を雇うにも、前払いの金貨が必要だろう。それにはどれくらい掛かるだろうか。それだけじゃない。客たちから依頼された仕事も、少しずつ請け負い始めている。これから金の出入りが激しくなるだろう。それをきっちりと管理して欲しいのさ」
「なあ、プラーヌス、僕は呆れて仕方ない。他でもない。君に呆れているんだよ。君は何か、僕にとてつもない才能があるとでも勘違いしているんじゃないのかい?」
「金の勘定なんて難しくないさ。数字を引いたり足したりすれば良いだけだ。それを記録として残してくれればね。君のことを僕は全面的に信頼しているよ」
「そうなのかもしれない。だけどこれ以上、僕に仕事を頼むなんて・・・」
私はそのような恨み言と共にプラーヌスを見返す。
しかしプラーヌスは私の言葉を取り合おうともせず、料理に注意を移した。どうやら、彼の中では既にこのことも決定事項のようである。
まあ、確かにサンチーヌという部下が出来た。
いや、部下というのはおこがましい。私の仕事を手伝ってくれる仲間と言い変えるべきか。
それに彼だけじゃない。アリューシアが連れてきた執事や侍女たちも、仕事を手伝ってくれている。彼らの協力を得れば何とかなるかもしれない。
しかしそれにしても!
「ああ、わかったよ。金庫の管理だね。他にも仕事があるならば、先に言っておいて欲しい。例えば、君のこのローブを洗濯したり、ベッドメイクをしたり」
やろう。金庫係の仕事も勤めてみせよう。しかし私も少しばかりの抵抗を見せたい。わかりましたと素直に言い返すだけでは気が済まない。
私の不機嫌さに気づいたプラーヌスは、ときおり見せるあの甘く優しい笑顔を浮かべて語り出した。
「塔の環境は激変しようとしているんだ、シャグラン。昨日よりも今日、今日よりも明日。全てが良い方向に変わろうとしている。その中心にいるのが君だ。この塔を、君の住みやすい場所にしてくれればいい。僕は本当に君を信頼しているんだ。君が望む世界が、僕の望む世界でもあるんだから」
「ああ、うん、そうだね、精一杯の努力をするよ」
いつものプラーヌスの説法である。私を説得しようとするとき、彼は何やらスケールの大きな話しをして、私を何となく幻惑させて、納得せざるを得ない方向に持ってゆく。
しかしそんなことを言われた私は、心がもやもやして、その夜などすっきり眠れなくなるのである。
「楽しみだね。早くこの塔で育てられた野菜を食べたいよ」
一方、プラーヌスは朗らかな表情でそんなことを言ってくる。それはあたかも私たちの共有する幸せな未来であるとでも言いたげに。
「その意見には同意するよ。僕も自分たちで作った新鮮な野菜や果物が楽しみだ。まあしかし、どんなに早くても次の季節までは無理だろうけど」
私は上辺だけで、彼の喜びに合わせる。
「そんなことはない。魔法を使えば、農作物だってあっという間にに育てることが出来る。いや、農作物を害虫から守り、どんな天候にも影響されることなく、確実に育てるために、魔法は必須だ。そういう魔法は既に、あらゆる場所で使われている。シャグラン、ここをどこだと思っているんだ? 魔法使いの塔だよ。僕たちだって当然、農作物を育てるために魔法を使うさ」
「ああ、そうか」
こういう種類の魔法の存在を、私だって知らないわけではなかった。我々の世界が飢えとは無縁なのは魔法のお陰だってことを。
魔法は人を殺すためだけに存在しているのではなくて、生活を豊かにするためにも役立てられているのだ。
「極端な話し、種を植えた次の日には、農作物を実らせる魔法だってある。まあ、しかしそんなものを使えば、割りが合わないけどね。林檎一つを実らせるために、ルビー三つを消費するなんてことになってしまう。だから当然、そういう魔法は使わない。しかし土壌を肥沃にしつつ、害虫を排除して、農作物の収穫を確実にさせる魔法は存在するようだ。まだ僕も調べている最中だけど。多くの場所で使われている信頼出来る魔法だよ」
「やはり魔法は凄いね」
私はプラーヌスに感じていた苛立ちや不満をすっかり忘れそうなくらい、心の底から感心してしまう。
「その通り、魔法は凄い。しかし農地は広大だ。僕がいちいち農地に赴いて、そんな魔法を使ってはいられない。これもシュショテにやらせようか」
いや、待てよ。それまでずっとナイフとフォークを止めどなく動かしていたプラーヌスの動作が一瞬止まった。
「あいつはまだいるんだろ?」
プラーヌスは言った。
「え? あいつって?」
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