私の邪悪な魔法使いの友人2

ロキ

文字の大きさ
95 / 188
シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子

第五章 20)別の新しい仕事

しおりを挟む
 その日の夕食の席で、私はプラーヌスに報告した。森の開拓事業の責任者を、バルザ殿に勤めてもらうという件。
 それを聞いたプラーヌスは何ら不満そうな表情を見せず頷いた。

 「いいだろう、バルザ殿にお任せしよう。僕の大事な番犬だけど、彼ならば同時に二つも三つも仕事をこなしてくれる」

 「その代わり、新たに三十人の傭兵を補充する約束したんだけど?」

 「問題ない。こちらからバルザ殿に仕事を頼むだけでは不公平だからね。彼の要求にも、きちんと応えなければいけない。それくらいのことは僕だってわきまえているさ。今の彼の部下の数は?」

 「明日すぐに戦える者が十人くらいというところかもしれない」

 「この塔を守る兵数は多いほうが良い。すぐに街に赴いて、傭兵たちを連れて帰ってきてやる。魔法なら一飛びさ」

 「ああ、兵が増えたらバルザ殿も安心して、我々の仕事を手伝ってくれると思う」

 バルザ殿にとって、全てが良い方向に転がるはずだ。
 もちろん新しい兵が来るということは、訓練が大変だったりするのかもしれない。古い兵と新しい兵の間に問題が起こることもあるのかもしれない。それによって、バルザ殿の仕事が増えたり、彼を煩わせる心配事も増えたりするのかもしれない。
 しかしそんなのは一時的なこと。何よりもバルザ殿の部隊が強化されるのだ。長い目で見れば、プラスになることしかないはず。

 「いや、しかし僕がわざわざ街に赴いて、傭兵たちを連れて帰ることもないね。せっかく助手を雇ったんだ、そういう仕事こそ、シュショテにやらせてみるべきかな」

 しかしプラーヌスはそんなことを言い始める。「明日もやらなければいけない仕事がある。僕は忙しいんだ。それに何より、街に行く気分じゃない。下品な傭兵たちと会話を交わすのも面倒だ。奴らと交渉するのは、けっこう手間暇が掛かるしね。よし、シュショテに任せよう」

 「はあ? あの少年に傭兵たちと交渉させるのかい?」

 いくらあの少年が魔法使いとして優秀であっても、そんなのは無理だ。
 一軒一軒酒場などに赴いて、傭兵たちと直接交渉して、報酬を定め、条件面を話し合って、この塔に来る約束を取り付けなければいけないのだ。
 こんな僻地で働きたくないという傭兵も多いだろう。魔法使いに雇われたくないなんて者も多いはずだ。
 傭兵なんて、誰もが荒くれ者の乱暴者。気が強くて下品で粗暴。礼儀も何もない者が多い。シュショテのような子供の話しを真面目に聞く者がいるとは思えない。

 「いや、もちろん、シャグラン、君も行くんだよ。君を魔法で送り届けするのがシュショテの仕事。傭兵たちと交渉するのは君だ」

 「な、何だって?」

 私は驚きのあまり、すぐに彼が何を言ったのか理解出来ない。私が行くだって? 

 「明日の朝から街に行ってくれば、昼過ぎには傭兵たち連れてここに戻ってこられるはずだ」

 「だ、だけどプラーヌス、僕だって塔の仕事がある。明日から、森を開拓するため、召使いたちを外で働かせるんだろ? その手配をしなくちゃいけない」

 「それはバルザ殿がやってくれるんじゃなかったかのかい?」

 「そ、そうだけど。しかし僕がその作業に立ち会わないわけにもいかない。それはバルザ殿に失礼だと思う」

 「だったら朝の間だけ立ち会えばいい。どうせ君が現場に居ても、何の役にも立たない。バルザ殿だって、さっさと新しい傭兵を連れて帰ってくれたほうが喜ぶぞ」

 「そうかもしれないけど・・・」

 「昼過ぎに出ても、夕食の時間までには傭兵たちを連れて帰ることが出来るはずだ」

 「ああ、確かにそうかもしれない、しかしプラーヌス」

 「シャグラン、この塔のため、バルザ殿のため、僕はこの仕事を、君に頭を下げてでも頼みたい。この通りだ」

 「・・・わ、わかったよ」

 実際に、プラーヌスは私に頭を下げたわけではないのだけど、ただ単に、「この通りだ」と口で言っただけなのだけど、しかし彼にこのような態度を取られたら、もはや断る術はない。
 いや、プラーヌスが最初にそれを提案した時点で、私の運命は決まっていたも同然。
 それがこの塔の定めなのだ。どんなに不合理でも、どれだけ不効率でも、プラーヌスが言えば従わなければいけない。

 「わかったよ、プラーヌス。街に出向いて、傭兵を雇って来ればいいんだね」

 私は淡々とした口調で言う。

 「そう、とても簡単な仕事だ。誰にでも出来るはずさ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

さようなら、私の愛したあなた。

希猫 ゆうみ
恋愛
オースルンド伯爵家の令嬢カタリーナは、幼馴染であるロヴネル伯爵家の令息ステファンを心から愛していた。いつか結婚するものと信じて生きてきた。 ところが、ステファンは爵位継承と同時にカールシュテイン侯爵家の令嬢ロヴィーサとの婚約を発表。 「君の恋心には気づいていた。だが、私は違うんだ。さようなら、カタリーナ」 ステファンとの未来を失い茫然自失のカタリーナに接近してきたのは、社交界で知り合ったドグラス。 ドグラスは王族に連なるノルディーン公爵の末子でありマルムフォーシュ伯爵でもある超上流貴族だったが、不埒な噂の絶えない人物だった。 「あなたと遊ぶほど落ちぶれてはいません」 凛とした態度を崩さないカタリーナに、ドグラスがある秘密を打ち明ける。 なんとドグラスは王家の密偵であり、偽装として遊び人のように振舞っているのだという。 「俺に協力してくれたら、ロヴィーサ嬢の真実を教えてあげよう」 こうして密偵助手となったカタリーナは、幾つかの真実に触れながら本当の愛に辿り着く。

ガチャから始まる錬金ライフ

あに
ファンタジー
河地夜人は日雇い労働者だったが、スキルボールを手に入れた翌日にクビになってしまう。 手に入れたスキルボールは『ガチャ』そこから『鑑定』『錬金術』と手に入れて、今までダンジョンの宝箱しか出なかったポーションなどを冒険者御用達の『プライド』に売り、億万長者になっていく。 他にもS級冒険者と出会い、自らもS級に上り詰める。 どんどん仲間も増え、自らはダンジョンには行かず錬金術で飯を食う。 自身の本当のジョブが召喚士だったので、召喚した相棒のテンとまったり、時には冒険し成長していく。

【完結】平民聖女の愛と夢

ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

処理中です...