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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第五章 39)あの事件の真相
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アリューシアは爪を突き立てて、私の腕を掴んでくる。当然、彼女の長い爪が私の肌に食い込む。しかし痛みなどは感じなかった。上空でシュショテの叫び声が聞こえる。魔法が炸裂する音がそれに続く。群衆たちの悲鳴。そして迫り寄せてくる戦いの予感。
その状況の中、爪が食い込む程度の痛みなど些細なもの。
「ねえ、どうなのよ? こういうことが起きることを知ってたんでしょ!」
アリューシアは私に迫ってくる。
「い、いや、こっちだって困惑している」
私は静かに言い返した。
「嘘よ」
「嘘じゃない。君以上に、この状態に驚いている」
「ほ、本当?」
私の言葉を信じてくれたようだ。アリューシアは力いっぱいに掴んでいた私の腕から手を離した。しかし彼女の瞳から、恐怖や不安は一掃されなかった。
「あいつ、見知らぬ魔法使いに呪われているんだって。今のガルディアンと契約したら、こうなったって」
「ど、どういうことだよ?」
「さあ、私だってよくわからないよ。とにかくその魔法使いに恨まれてて、時々こういうことが起きるらしい」
「ちょっと待って、落ち着いて教えてくれ。シュショテは君にそう言ったのか、時々こういうことが起きるって?」
「そう。あいつはそう言ったわ、間違いなく」
「シュショテにとって、これは馴れたことだというわけか」
たとえばプラーヌスの頭痛の発作。いわば、優れた魔法使いが抱える、魔法の副作用のようなもの。
「プラーヌスはこのことを知っているのだろうか?」
私はそう一人でつぶやいた。
「プラーヌス様?」
私の独り言にアリューシアが激しく反応する。
いや、プラーヌスは知っているに違いない。だってシュショテがプラーヌスに打ち明けないわけがないから。
こんな自分だけど、助手として雇ってくれるのだろうか、素直なシュショテならば、そういうことを正直に申告しているはずだ。
いや、もしかしたらプラーヌスの前でも、こういうことがあったのではないか?
私はハッとしてシュショテを見上げた。
そう、あの日の朝に!
アビュが私に告げてきたあの異常な出来事、シュショテがプラーヌスと一緒にベッドで寝ていたとか、シュショテが傷だらけになっていたとか、彼女が声をひそめて報告してきたあれ。
もしかしたら全ては、この呪いとやらが原因だったのではないのか?
シュショテは今日みたいに暴れ回ったのだ。そしてプラーヌスはそれを保護した。それがあの事件の真相?
二人が一緒に寝ていたのは、プラーヌスもシュショテも疲れ果てて、そのまま眠ってしまっただけ。アビュは間の悪いことに、それを偶然見てしまった。
彼女は大変な誤解をしていたことになる。いや、アビュだけじゃない。私も同じだ。
だとすれば。
「プ、プラーヌスが来るぞ、アリューシア!」
私はすぐ傍にいるアリューシアに向かって叫ぶように言った。
「え? プラーヌス様が!」
「彼はシュショテのその呪いとやらを知っている。きっと何か手を打っているはずだ」
私は慌ててスザンナにも声を掛けた。「スザンナ! 衛兵たちと戦うことになっても、出来るだけ殺さないでくれ。時間稼ぎをするだけで大丈夫だ!」
スザンナは偵察するために登っていた建物の屋根から、飛び降りるように降りてきていた。そのときの着地で足を痛めたのか、少しだけ右足を引きずるように歩を進めているが、その動きは颯爽として機敏だ。彼女は自分の傭兵仲間たちを集めて、どのように戦うべきか、その算段を始めている。
「もう少ししたら、助けが来るんだ!」
私はそのスザンナたちに向かって言った。
「味方がいるのか、あんたらに?」
「ああ、うん、とても心強い味方だ」
「それは朗報だ。こっちは十人程度しかいない。どう戦っても、五倍以上はいる衛兵たちに勝てそうにないと相談していたんだ。で、いつ来る?」
「いつ・・・」
私はシュショテが浮いている空とは反対側の空に視線をやる。まだ太陽は高かった。すなわち、プラーヌスが起き出す時間とは程遠いということ。
「いつ来るかはわからない・・・。もしかしたら、いくらか時間が必要かもしれない。だけど彼は絶対にここに来るから。とにかく時間を稼いで欲しい」
「いつ来るかわからないだって? 我々が戦わなければいけない衛兵たちの数は多い。訓練も行き届いている。奴らを殺さずして防ぎ切れるわけがない。時間稼ぎなんて無理さ」
「そ、そうだね。それはわかっているけど・・・」
こちら側の味方。スザンナの部隊が十人足らず。酒場から駆け付けた傭兵で、私に味方してくれる意思を示しているのが五名ほど。
やはり絶望的な状況であることに変わりはないのか。私は今更ながら、夜型のプラーヌスの生活サイクルを恨めしく思う。
魔法使い特有の事情があるのかもしれないが、もう少し早起きしてくれるようプラーヌスには頼みこまなければいけない。しかしここから無事に生還して、それを彼に教え諭す機会は訪れるのだろうか?
しかしそのとき私の肩に手が置かれた。
そしてすぐ傍でプラーヌスの声がするのだった。
「もう来ているさ。叩き起こされたからな」
魔法使いのあの黒い装束を身にまとった男が、私の横を通り過ぎていく。そしてその男、もちろんプラーヌス本人だけど、彼は空に向かって手を差し伸べた。
その状況の中、爪が食い込む程度の痛みなど些細なもの。
「ねえ、どうなのよ? こういうことが起きることを知ってたんでしょ!」
アリューシアは私に迫ってくる。
「い、いや、こっちだって困惑している」
私は静かに言い返した。
「嘘よ」
「嘘じゃない。君以上に、この状態に驚いている」
「ほ、本当?」
私の言葉を信じてくれたようだ。アリューシアは力いっぱいに掴んでいた私の腕から手を離した。しかし彼女の瞳から、恐怖や不安は一掃されなかった。
「あいつ、見知らぬ魔法使いに呪われているんだって。今のガルディアンと契約したら、こうなったって」
「ど、どういうことだよ?」
「さあ、私だってよくわからないよ。とにかくその魔法使いに恨まれてて、時々こういうことが起きるらしい」
「ちょっと待って、落ち着いて教えてくれ。シュショテは君にそう言ったのか、時々こういうことが起きるって?」
「そう。あいつはそう言ったわ、間違いなく」
「シュショテにとって、これは馴れたことだというわけか」
たとえばプラーヌスの頭痛の発作。いわば、優れた魔法使いが抱える、魔法の副作用のようなもの。
「プラーヌスはこのことを知っているのだろうか?」
私はそう一人でつぶやいた。
「プラーヌス様?」
私の独り言にアリューシアが激しく反応する。
いや、プラーヌスは知っているに違いない。だってシュショテがプラーヌスに打ち明けないわけがないから。
こんな自分だけど、助手として雇ってくれるのだろうか、素直なシュショテならば、そういうことを正直に申告しているはずだ。
いや、もしかしたらプラーヌスの前でも、こういうことがあったのではないか?
私はハッとしてシュショテを見上げた。
そう、あの日の朝に!
アビュが私に告げてきたあの異常な出来事、シュショテがプラーヌスと一緒にベッドで寝ていたとか、シュショテが傷だらけになっていたとか、彼女が声をひそめて報告してきたあれ。
もしかしたら全ては、この呪いとやらが原因だったのではないのか?
シュショテは今日みたいに暴れ回ったのだ。そしてプラーヌスはそれを保護した。それがあの事件の真相?
二人が一緒に寝ていたのは、プラーヌスもシュショテも疲れ果てて、そのまま眠ってしまっただけ。アビュは間の悪いことに、それを偶然見てしまった。
彼女は大変な誤解をしていたことになる。いや、アビュだけじゃない。私も同じだ。
だとすれば。
「プ、プラーヌスが来るぞ、アリューシア!」
私はすぐ傍にいるアリューシアに向かって叫ぶように言った。
「え? プラーヌス様が!」
「彼はシュショテのその呪いとやらを知っている。きっと何か手を打っているはずだ」
私は慌ててスザンナにも声を掛けた。「スザンナ! 衛兵たちと戦うことになっても、出来るだけ殺さないでくれ。時間稼ぎをするだけで大丈夫だ!」
スザンナは偵察するために登っていた建物の屋根から、飛び降りるように降りてきていた。そのときの着地で足を痛めたのか、少しだけ右足を引きずるように歩を進めているが、その動きは颯爽として機敏だ。彼女は自分の傭兵仲間たちを集めて、どのように戦うべきか、その算段を始めている。
「もう少ししたら、助けが来るんだ!」
私はそのスザンナたちに向かって言った。
「味方がいるのか、あんたらに?」
「ああ、うん、とても心強い味方だ」
「それは朗報だ。こっちは十人程度しかいない。どう戦っても、五倍以上はいる衛兵たちに勝てそうにないと相談していたんだ。で、いつ来る?」
「いつ・・・」
私はシュショテが浮いている空とは反対側の空に視線をやる。まだ太陽は高かった。すなわち、プラーヌスが起き出す時間とは程遠いということ。
「いつ来るかはわからない・・・。もしかしたら、いくらか時間が必要かもしれない。だけど彼は絶対にここに来るから。とにかく時間を稼いで欲しい」
「いつ来るかわからないだって? 我々が戦わなければいけない衛兵たちの数は多い。訓練も行き届いている。奴らを殺さずして防ぎ切れるわけがない。時間稼ぎなんて無理さ」
「そ、そうだね。それはわかっているけど・・・」
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やはり絶望的な状況であることに変わりはないのか。私は今更ながら、夜型のプラーヌスの生活サイクルを恨めしく思う。
魔法使い特有の事情があるのかもしれないが、もう少し早起きしてくれるようプラーヌスには頼みこまなければいけない。しかしここから無事に生還して、それを彼に教え諭す機会は訪れるのだろうか?
しかしそのとき私の肩に手が置かれた。
そしてすぐ傍でプラーヌスの声がするのだった。
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