私の邪悪な魔法使いの友人2

ロキ

文字の大きさ
114 / 188
シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子

第五章 39)あの事件の真相

しおりを挟む
 アリューシアは爪を突き立てて、私の腕を掴んでくる。当然、彼女の長い爪が私の肌に食い込む。しかし痛みなどは感じなかった。上空でシュショテの叫び声が聞こえる。魔法が炸裂する音がそれに続く。群衆たちの悲鳴。そして迫り寄せてくる戦いの予感。
 その状況の中、爪が食い込む程度の痛みなど些細なもの。

 「ねえ、どうなのよ? こういうことが起きることを知ってたんでしょ!」

 アリューシアは私に迫ってくる。

 「い、いや、こっちだって困惑している」

 私は静かに言い返した。

 「嘘よ」

 「嘘じゃない。君以上に、この状態に驚いている」

 「ほ、本当?」

 私の言葉を信じてくれたようだ。アリューシアは力いっぱいに掴んでいた私の腕から手を離した。しかし彼女の瞳から、恐怖や不安は一掃されなかった。

 「あいつ、見知らぬ魔法使いに呪われているんだって。今のガルディアンと契約したら、こうなったって」

 「ど、どういうことだよ?」

 「さあ、私だってよくわからないよ。とにかくその魔法使いに恨まれてて、時々こういうことが起きるらしい」

 「ちょっと待って、落ち着いて教えてくれ。シュショテは君にそう言ったのか、時々こういうことが起きるって?」

 「そう。あいつはそう言ったわ、間違いなく」

 「シュショテにとって、これは馴れたことだというわけか」

 たとえばプラーヌスの頭痛の発作。いわば、優れた魔法使いが抱える、魔法の副作用のようなもの。

 「プラーヌスはこのことを知っているのだろうか?」

 私はそう一人でつぶやいた。

 「プラーヌス様?」

 私の独り言にアリューシアが激しく反応する。
 いや、プラーヌスは知っているに違いない。だってシュショテがプラーヌスに打ち明けないわけがないから。
 こんな自分だけど、助手として雇ってくれるのだろうか、素直なシュショテならば、そういうことを正直に申告しているはずだ。

 いや、もしかしたらプラーヌスの前でも、こういうことがあったのではないか? 
 私はハッとしてシュショテを見上げた。

 そう、あの日の朝に! 
 アビュが私に告げてきたあの異常な出来事、シュショテがプラーヌスと一緒にベッドで寝ていたとか、シュショテが傷だらけになっていたとか、彼女が声をひそめて報告してきたあれ。

 もしかしたら全ては、この呪いとやらが原因だったのではないのか? 
 シュショテは今日みたいに暴れ回ったのだ。そしてプラーヌスはそれを保護した。それがあの事件の真相? 
 二人が一緒に寝ていたのは、プラーヌスもシュショテも疲れ果てて、そのまま眠ってしまっただけ。アビュは間の悪いことに、それを偶然見てしまった。

 彼女は大変な誤解をしていたことになる。いや、アビュだけじゃない。私も同じだ。
 だとすれば。

 「プ、プラーヌスが来るぞ、アリューシア!」

 私はすぐ傍にいるアリューシアに向かって叫ぶように言った。

 「え? プラーヌス様が!」

 「彼はシュショテのその呪いとやらを知っている。きっと何か手を打っているはずだ」

 私は慌ててスザンナにも声を掛けた。「スザンナ! 衛兵たちと戦うことになっても、出来るだけ殺さないでくれ。時間稼ぎをするだけで大丈夫だ!」

 スザンナは偵察するために登っていた建物の屋根から、飛び降りるように降りてきていた。そのときの着地で足を痛めたのか、少しだけ右足を引きずるように歩を進めているが、その動きは颯爽として機敏だ。彼女は自分の傭兵仲間たちを集めて、どのように戦うべきか、その算段を始めている。

 「もう少ししたら、助けが来るんだ!」

 私はそのスザンナたちに向かって言った。

 「味方がいるのか、あんたらに?」

 「ああ、うん、とても心強い味方だ」

 「それは朗報だ。こっちは十人程度しかいない。どう戦っても、五倍以上はいる衛兵たちに勝てそうにないと相談していたんだ。で、いつ来る?」

 「いつ・・・」

 私はシュショテが浮いている空とは反対側の空に視線をやる。まだ太陽は高かった。すなわち、プラーヌスが起き出す時間とは程遠いということ。

 「いつ来るかはわからない・・・。もしかしたら、いくらか時間が必要かもしれない。だけど彼は絶対にここに来るから。とにかく時間を稼いで欲しい」

 「いつ来るかわからないだって? 我々が戦わなければいけない衛兵たちの数は多い。訓練も行き届いている。奴らを殺さずして防ぎ切れるわけがない。時間稼ぎなんて無理さ」

 「そ、そうだね。それはわかっているけど・・・」

 こちら側の味方。スザンナの部隊が十人足らず。酒場から駆け付けた傭兵で、私に味方してくれる意思を示しているのが五名ほど。
 やはり絶望的な状況であることに変わりはないのか。私は今更ながら、夜型のプラーヌスの生活サイクルを恨めしく思う。
 魔法使い特有の事情があるのかもしれないが、もう少し早起きしてくれるようプラーヌスには頼みこまなければいけない。しかしここから無事に生還して、それを彼に教え諭す機会は訪れるのだろうか? 

 しかしそのとき私の肩に手が置かれた。
 そしてすぐ傍でプラーヌスの声がするのだった。

 「もう来ているさ。叩き起こされたからな」

 魔法使いのあの黒い装束を身にまとった男が、私の横を通り過ぎていく。そしてその男、もちろんプラーヌス本人だけど、彼は空に向かって手を差し伸べた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

【完結】見えてますよ!

ユユ
恋愛
“何故” 私の婚約者が彼だと分かると、第一声はソレだった。 美少女でもなければ醜くもなく。 優秀でもなければ出来損ないでもなく。 高貴でも無ければ下位貴族でもない。 富豪でなければ貧乏でもない。 中の中。 自己主張も存在感もない私は貴族達の中では透明人間のようだった。 唯一認識されるのは婚約者と社交に出る時。 そしてあの言葉が聞こえてくる。 見目麗しく優秀な彼の横に並ぶ私を蔑む令嬢達。 私はずっと願っていた。彼に婚約を解消して欲しいと。 ある日いき過ぎた嫌がらせがきっかけで、見えるようになる。 ★注意★ ・閑話にはR18要素を含みます。  読まなくても大丈夫です。 ・作り話です。 ・合わない方はご退出願います。 ・完結しています。

初恋が綺麗に終わらない

わらびもち
恋愛
婚約者のエーミールにいつも放置され、蔑ろにされるベロニカ。 そんな彼の態度にウンザリし、婚約を破棄しようと行動をおこす。 今後、一度でもエーミールがベロニカ以外の女を優先することがあれば即座に婚約は破棄。 そういった契約を両家で交わすも、馬鹿なエーミールはよりにもよって夜会でやらかす。 もう呆れるしかないベロニカ。そしてそんな彼女に手を差し伸べた意外な人物。 ベロニカはこの人物に、人生で初の恋に落ちる…………。

悪役令嬢が行方不明!?

mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。 ※初めての悪役令嬢物です。

わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた

名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。

処理中です...