私の邪悪な魔法使いの友人2

ロキ

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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子

第五章 40)業苦と引き換えに

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 プラーヌスは空に向かって、その手を差し伸ばした。ローブの広い裾口から出たその手首は病的なくらい白くて、明るい外界の中、太陽の光にやられて蒸発してしまいそうだ。
 しかし彼の手は不思議な力強さが漲ってもいる。
 はるか上空にいるシュショテに、彼の手は届くわけがないはずなのに、シュショテの身体はプラーヌスのほうにぐいぐいと引っ張られていく。

 プラーヌスが現れた瞬間、既に我々を取り巻く状況は一変していたようだ。
 もはや何も憂うことはない。全てが解決に向かおうとしている。気がつけばあの少年の身体は、プラーヌスの腕に抱かれていた。

 「可愛そうに、彼は大変な業苦を背負っているんだ」

 プラーヌスがシュショテの額を撫でた。
 プラーヌスの腕の中のシュショテは、もう暴れることはなかったが、まだ恐怖とは格闘しているかのようで、目を大きく見開いて、どこか遠くのほうを見ていた。

 「しかしその業苦と引き換えに、彼は強力な魔族との契約を果たしたのだ。詳しい話しはあとでしてやるが、シャグラン、魔法というものはそういうものさ。シュショテもその契約を後悔してはいないだろう。とはいえ、この宿命はけっこう周りに迷惑を掛ける。シュショテはそれをかなり気に病んでいる」

 だからシャグラン、彼を責めないでやってくれ。プラーヌスは私にそう言ってくる。
 シュショテを責めるつもりは一切ない。確かに我々は大変な目に遭いそうになったことは事実であるが、私がこの幼い少年を責めるわけがないではないか。
 それなのにまるでそれを前提のように語ってくるプラーヌスは、彼こそ、シュショテのこの宿命とやらに苛立ちを覚えているに違いない。

 とはいえ、シュショテを腕の中に抱くプラーヌスの表情は、いつにもまして優しげだった。
 あらゆる人に対して冷酷なプラーヌスであるが、なぜだかこの少年にだけは甘くて優しい。
 もしかしたらこれが彼本来の性格かもしれないと勘違いしてしまいそうなくらいの優しさ。静かな夕暮れのような優しさ。

 しかしその優しさを踏み躙るようにして、衛兵たちが我々の前に現れた。
 群衆を乱暴にかき分けて、武装した男たちが槍をこっちに向けながら、いったいここで何が起きたのかと詮索するような目を向けてくる。
 その眼差しは鋭く尖り、まるで私たちを虫けらでも見るようだった。
 この街の秩序のためなら、幼いシュショテであっても一切の容赦をしそうにない。厳格というよりも無慈悲。

 「ぎりぎりのタイミングだったようだな。しかし間に合った良かった」

 プラーヌスはそんな衛兵たちに少しの注意も払うことなく、私に言ってきた。「あのカラスが全てを見ていたのさ」

 「カラスだって?」

 そのカラスとやらの姿は見えない。しかしそれはプラーヌスの魔法のかかったカラスなのだろう。
 以前にも彼はそのようなものを使っていた記憶がある。その魔法のカラスを使えば、遠くの風景を見ることが出来るらしい。

 「来てくれることは信じていたさ。いや、信じていたのではなくて、君が来ることを確信していた」

 「ああ、本来ならまだまだ、ベッドで静かに過ごしている時間だ。シュショテには無事、この仕事を勤めてもらいたかったんだけど」

 「この街で騒いでいるのは君たちか!」

 衛兵隊の隊長らしき男が私たちに向かって言ってきた。その男の視線を左右に動き、この中の責任者を探している。やはり黒い装束を着込む魔法使いの姿が目を惹いたようで、男はプラーヌスに焦点を絞ったようだ。

 「事情を聞く。衛所まで来い。連行しろ!」

 その男は魔法使いの恐ろしさを知らなかったのだろうか。それとも、これだけ兵の前では、いくら魔法使いでも恐れるに足りないと判断したのであろうか、強気な態度のまま、プラーヌスにそう言った。

 「どうするべきかな、シャグラン?」

 彼は私に問い掛けてくる。

 「逃げよう、プラーヌス!」

 「い、いや、そんなことを聞いたんじゃない。リーダー格の男だけを殺すか、全てを皆殺しにするべきか尋ねたんだよ」

 プラーヌスはそう言うや、指を弾いて宝石を放り投げた。

 「ちょっと待てよ、プラーヌス!」

 私の言葉が間に合うはずもなく、その宝石は空中で粉々に砕けた。
 魔法が執行される。
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