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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第六章 6)ギャラック家の深刻な悩み 長子ブルーノの章
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飛び切り優れた魔法使いは塔に住んでいる。しかしほとんどの魔法使いは街に住み、市井の人々に混じって生活している。
スヴェンの住居も、王都から離れた長閑な街、そこから更に外れの屋敷に住んでいるらしい。
家族がいるのだろうか、大勢の召使いと共に住んでいるのだろうか、スヴェンはそれなりに名の通った魔法使いであるのだから、豊かな暮らしをしているはずである。
ブルーノ一行は、王都からギャラックの領地に帰る途中、スヴェンの許を訪ねた。当然のこと、王都の混乱はまだこの街には届いてはおらず、人々はいつもの日常を営んでいるようである。
十数人の軽武装した部下を引き連れたブルーノ一行を見て、街の人々は怪訝な表情で見つめてくる。
(これからしばらくの間、キャバル国中が混乱するだろう。俺たちはその混乱を報せる兆しとして、後にこの街の人々は思い出すのかもしれない)
スヴェンの邸宅は想像通り、かなり豪壮であった。これまでたくさんの人を殺し、儲けた金で建てられた家。その金はギャラック家からの報酬も混じっている。
突然、家に押しかけたわけであるから、門前払いされるかもしれないと恐れてはいたが、意外なほど、スヴェンはブルーノを快く迎え入れてくれた。
プライドが無駄に高く、気難しくて狷介で、鋭い眼差しの老人。スヴェンというのはそのような人物だったはず。
しかし久しぶりに対面した魔法使いスヴェンは、何やら人が変わったようである。あらゆる毒気が抜けて、穏やかな好々爺になり果てている。
(この老人は俺の知っているあの魔法使いではない)
しかしこの老人は間違いなくスヴェンだ。表情や雰囲気は激変しているが、顔や動作にそれは現れている。どうやら記憶も共有しているようである。
「恐ろしい戦いだった。よくぞ無事に生還なされた」
テーブルに紅茶が出された。しかし真昼の太陽の中を馬で駆けてきたブルーノは、出来れば冷たい水が欲しかった。気を使う必要もない相手だ。紅茶ではなく、グラス一杯の水が欲しいとはっきり要求する。
「命は失わなかった。しかしあの戦いに負けた。大敗だ。失ったものは多い。とてもとても」
あの戦いに負けた原因はスヴェンにある。最初に逃走したのはスヴェンなのだ。実際、ブルーノはスヴェンを恨んでいる。それはギャラック家の総意でもある。
敗戦の責任を取らされ、殺される傭兵は多い。スヴェンだって、ブルーノと彼の武装した兵たちを警戒していることであろう。だから、こうやって邸宅に迎い入れられたことすら意外なのだ。
(いや、この高いに習熟した魔法使いは、剣を持っている兵士など恐くないのかもしれない。それとも、俺が会いに来た真意を悟っているのだろうか?)
「噂は聞いている」
スヴェンが切り出してきた。
(ああ、やはり、そうか)
その噂にどれだけの尾ひれがついて、真実から遠ざかってしまっているかは知らない。しかしあの戦場に居た唯一の魔法使いであるスヴェンは、それなりに事情を把握しているはずだ。
「俺の身に何が起きたのだろうか?」
ブルーノは尋ねた。その口調にいくらか哀願するような調子がこもってしまったかもしれないが、この穏やかな笑みを浮かべている老人には、自分の感情を素直に曝け出したくなる。
(いや、それはとんでもない誤解なのだ。この老人は俺なんかより、はるかに多くの人を殺し、騙してきた悪の魔法使い)
それをわかっていながらも、ブルーノは素直な態度でその老人に助けを求めた。
「わからない」
しかしスヴェンは首を振る。
「わからないだって?」
「俺は君じゃない。君のことなんてわかるわけがない」
「しかしあの時、あの魔法使いは何か魔法を使ったはずだ。あんたも同じ魔法使いではないか!」
「あのとき、奴が使った魔法は一つだけだ。空から刃が大量に振り落ちてくる魔法」
「あ、ああ。あの魔法で多くの兵が死んだ。幼い頃から共に生活してきた仲間たちが」
「エーテル中に散乱している鉄分を結晶させ、鋭く尖った刃に変え、それで無差別に人を殺戮していく。恐ろしい魔法だ。あのプラーヌスという男が編み出した独自の魔法のようだ。まあ、そんなメカニズムがわかったところで意味もないのだが」
「本当にそれだけなのか? 奴は何か我々の心を・・・、お、俺も魔法のことはよくわからないから推測に過ぎないが、心を弄るような魔法で」
「ない。そのような魔法は存在しない。確かに幻覚を見せたり、記憶を弄るような魔法は存在する。しかしそんな魔法の効き目は一瞬で、数日もすれば消える。数年も続くものではない。君があの戦いの後遺症を患っているとしても、それは魔法が原因ではないだろう」
「しかし俺は実際・・・」
「ああ、俺も同じだ。あの戦い以来、考え方がガラリと変わった。これからは誰も殺さない。戦いから身を引いた。ただ生きているだけで、この人生は素晴らしいということに気づいたんだ。窓の外のあの花を見ろ、木々を見ろ、本当に美しいではないか」
スヴェンは穏やかな笑みを湛えて、そんなことを言ってくる。
スヴェンの住居も、王都から離れた長閑な街、そこから更に外れの屋敷に住んでいるらしい。
家族がいるのだろうか、大勢の召使いと共に住んでいるのだろうか、スヴェンはそれなりに名の通った魔法使いであるのだから、豊かな暮らしをしているはずである。
ブルーノ一行は、王都からギャラックの領地に帰る途中、スヴェンの許を訪ねた。当然のこと、王都の混乱はまだこの街には届いてはおらず、人々はいつもの日常を営んでいるようである。
十数人の軽武装した部下を引き連れたブルーノ一行を見て、街の人々は怪訝な表情で見つめてくる。
(これからしばらくの間、キャバル国中が混乱するだろう。俺たちはその混乱を報せる兆しとして、後にこの街の人々は思い出すのかもしれない)
スヴェンの邸宅は想像通り、かなり豪壮であった。これまでたくさんの人を殺し、儲けた金で建てられた家。その金はギャラック家からの報酬も混じっている。
突然、家に押しかけたわけであるから、門前払いされるかもしれないと恐れてはいたが、意外なほど、スヴェンはブルーノを快く迎え入れてくれた。
プライドが無駄に高く、気難しくて狷介で、鋭い眼差しの老人。スヴェンというのはそのような人物だったはず。
しかし久しぶりに対面した魔法使いスヴェンは、何やら人が変わったようである。あらゆる毒気が抜けて、穏やかな好々爺になり果てている。
(この老人は俺の知っているあの魔法使いではない)
しかしこの老人は間違いなくスヴェンだ。表情や雰囲気は激変しているが、顔や動作にそれは現れている。どうやら記憶も共有しているようである。
「恐ろしい戦いだった。よくぞ無事に生還なされた」
テーブルに紅茶が出された。しかし真昼の太陽の中を馬で駆けてきたブルーノは、出来れば冷たい水が欲しかった。気を使う必要もない相手だ。紅茶ではなく、グラス一杯の水が欲しいとはっきり要求する。
「命は失わなかった。しかしあの戦いに負けた。大敗だ。失ったものは多い。とてもとても」
あの戦いに負けた原因はスヴェンにある。最初に逃走したのはスヴェンなのだ。実際、ブルーノはスヴェンを恨んでいる。それはギャラック家の総意でもある。
敗戦の責任を取らされ、殺される傭兵は多い。スヴェンだって、ブルーノと彼の武装した兵たちを警戒していることであろう。だから、こうやって邸宅に迎い入れられたことすら意外なのだ。
(いや、この高いに習熟した魔法使いは、剣を持っている兵士など恐くないのかもしれない。それとも、俺が会いに来た真意を悟っているのだろうか?)
「噂は聞いている」
スヴェンが切り出してきた。
(ああ、やはり、そうか)
その噂にどれだけの尾ひれがついて、真実から遠ざかってしまっているかは知らない。しかしあの戦場に居た唯一の魔法使いであるスヴェンは、それなりに事情を把握しているはずだ。
「俺の身に何が起きたのだろうか?」
ブルーノは尋ねた。その口調にいくらか哀願するような調子がこもってしまったかもしれないが、この穏やかな笑みを浮かべている老人には、自分の感情を素直に曝け出したくなる。
(いや、それはとんでもない誤解なのだ。この老人は俺なんかより、はるかに多くの人を殺し、騙してきた悪の魔法使い)
それをわかっていながらも、ブルーノは素直な態度でその老人に助けを求めた。
「わからない」
しかしスヴェンは首を振る。
「わからないだって?」
「俺は君じゃない。君のことなんてわかるわけがない」
「しかしあの時、あの魔法使いは何か魔法を使ったはずだ。あんたも同じ魔法使いではないか!」
「あのとき、奴が使った魔法は一つだけだ。空から刃が大量に振り落ちてくる魔法」
「あ、ああ。あの魔法で多くの兵が死んだ。幼い頃から共に生活してきた仲間たちが」
「エーテル中に散乱している鉄分を結晶させ、鋭く尖った刃に変え、それで無差別に人を殺戮していく。恐ろしい魔法だ。あのプラーヌスという男が編み出した独自の魔法のようだ。まあ、そんなメカニズムがわかったところで意味もないのだが」
「本当にそれだけなのか? 奴は何か我々の心を・・・、お、俺も魔法のことはよくわからないから推測に過ぎないが、心を弄るような魔法で」
「ない。そのような魔法は存在しない。確かに幻覚を見せたり、記憶を弄るような魔法は存在する。しかしそんな魔法の効き目は一瞬で、数日もすれば消える。数年も続くものではない。君があの戦いの後遺症を患っているとしても、それは魔法が原因ではないだろう」
「しかし俺は実際・・・」
「ああ、俺も同じだ。あの戦い以来、考え方がガラリと変わった。これからは誰も殺さない。戦いから身を引いた。ただ生きているだけで、この人生は素晴らしいということに気づいたんだ。窓の外のあの花を見ろ、木々を見ろ、本当に美しいではないか」
スヴェンは穏やかな笑みを湛えて、そんなことを言ってくる。
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