私の邪悪な魔法使いの友人2

ロキ

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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子

第六章 5)ギャラック家の深刻な悩み 長子ブルーノの章

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 (あのとき、何らかの魔法が発動したのだ。それは間違いない。その瞬間を境にして、戦況が変わった)

 ギャラック家も魔法使いの傭兵を雇っていた。とてつもなく強欲な魔法使いの老人であったが、本当に優秀な男。幾つもの戦場を渡り歩いてきた戦いのプロ。
 その魔法使いを起用したことで、ギャラック家はボーアホーブを相手に連戦連勝を重ねることが出来たのである。

 (しかしあの魔法使いが最初に逃げ出したのだ。この司教のように、厳粛で冷酷な魔法使いだったのに、あいつは何か叫びながら逃げ出した・・・)

 そうだ、あの魔法使いに会いに行こう。あの老人に話しを聞けば、自分のこの症状について何かわかることがあるかもしれない。
 ブルーノはもはや司教の説教など耳に入らなくなった。その思い付きで頭がいっぱいになった。

 (あの魔法使いの男、名前は何って言ったかな・・・、思い出した、スヴェンだ。あいつも何か見たはずだ。もしかしたら俺と同じような症状を病んでいるかもしれない)

 ブルーノと同じ後遺症に悩まされている兵士はいない。彼の近くにいた兵たちは、ブルーノを助けるために全て殺されてしまったからだ。彼がこの悩みを共有できるとすれば、そのスヴェンという魔法使い以外にいないのだ。

 (聞くところによるとあの戦いで、刃の雨が降ってきたそうだ。それで多くの兵たちが死んだ。俺はそれすら一切覚えていない。後方にいた兵士の証言である)

 悲惨な戦場であったことだろう。あの戦場を思い出せと、この司教は言っているのである。そんなことをしていったいどうなるというのか? 
 わざわざ王都まで出向いて、司教に会いに来たわけであるが、時間の無駄であったとブルーノは思う。
 ブルーノは司教の前を辞す。教会の翼廊を歩き、参拝に来た熱心な信者たちとすれ違いながら、はるか高い天井を見上げる。ステンドガラス越しに、青空と同じ色をした青い色が、教会の壮麗な柱に光を落としている。その美しい光を見ると、神の恩寵はこの世界に存在する気にさせられる。
 しかしそれが存在していたとしても、自分の人生とは一切無関係のようだ。

 (その光は、俺の心の中を照らすことは決してないだろう)

 教会を出ると、いささか世界が変わっていた。静かだった王都は騒然としていたのだ。
 通りの向こう側、王宮から煙が立ち上っているのが見える。その煙はブルーノのいる教会とは逆の方向に、凄まじい速さで流れてゆく。教会から出たばかりの参拝者や、通行人たちが呆然とした様子でその煙を見上げていた。

 「な、何事だ?」

 帰りを待っていた部下たちを、ブルーノは見回す。

 「わかりません。情報を集めるために何人かを王宮のほうに遣わしましたが」

 「王宮が燃えているようではないか」

 「そのようです」

 ブルーノは更に目を凝らす。その煙の形に、もしかしたらこの事件を暗示する何か暗号のようなものが含まれているのではないかと期待するように。もちろん、そんなものは読み取れないが、彼はある種の確信を感じながら言った。

 「もしかしたら王の身に何かあったのかもしれない。だとすればとんでもないことになる。城門が閉じられてしまう前に、ここを出よう」

 キャバル国の王権は安定していない。先代からずっと、王位継承者争いが続いている。ほんの数年前にも後継者争いがあった。
 ヘンリー王は有能だという噂であったが、彼が王位に就くときにもかなりの血が流れたようだ。すなわち、ヘンリー王を恨んでいる勢力がいるということ。王に何か起きていたとしても不思議ではない。

 (次の王は誰だ? ヘンリーの弟であろうか? 前の王の孫であろうか)

 しかし前の政変のとき、王位が空位になったその無秩序状態につけ込み、ギャラック家はボーアホーブの領地を侵略したのである。

 (ヘンリー王が死んだとすれば、それは願ってもいない機会が来たことになる。ボーアホーブに復讐する機会)

 今度こそボーアホーブ家を根絶やしにしてやる。ブルーノは馬に飛び乗り、城門に向かって馬を走らせた。
 復讐のため、密かに爪は研ぎ続けていた。思ったよりもその機会は早めに訪れたが、準備は整っている。
 その戦いのために、雇うべき傭兵に話しもつけてあった。この辺りで最も残虐と歌われている傭兵集団。その傭兵を先頭に、すぐにボーアホーブ家の居城を目指して突撃だ。

 (いや、焦ることはない。その前にスヴェンという魔法使いに会いに行こう)
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