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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第六章 4)ギャラック家の深刻な悩み 長子ブルーノの章
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ブルーノは馬に乗り、部下たちを従えて街を移動している。
彼が部下たちを大勢引き連れているのは、ギャラック家の威光を領民に示すためではない。いつ、あの恐るべき発作が起きるかわからないからだ。何をやらかしてしまうのかわからない自分を抑えるため、部下を連れている。
ブルーノに気づいた街の人たちが、恐怖に表情を変える。
ブルーノのことは街中に知れ渡っている。今、すれ違った街の人は、何日か前にブルーノが殺してしまった誰かの弟であるかもしれないし、友人であるかもしれない。ブルーノを恐れるのは当然のこと。
領民たちの視線は痛かった。それでも彼は馬を走らせる。
目指す場所は教会だった。先日、会った魔法使いの言葉をブルーノは覚えていたからだ。彼のこの症状を解決出来るのは魔法使いではない、教会の神父かもしれない。その魔法使いは確かにそう言っていた。
(いや、解決ではなく、癒すと言っていたのかな? いずれにしろ神父に会ってみようではないか)
ブルーノは神の恩寵に縁が深いほうではなかった。神に祈って、何らかの奇跡が起きたという体験をしたことはない。罪を犯したからといって、その神罰と思われる事態に遭遇したこともない。
しかしもし神の力が何かの役に立つのなら、今はそれにすがりつきたい気分である。
ギャラック家の治める領地の中に大きな教会はない。やはり祈るならば、キャバル国で最も偉い牧師を相手にしたほうがいい。この教区で最も偉いのは王都の教会にいる司祭だ。
ブルーノは遣いを出し、会合の約束を取り付けた。
その教会の尖塔はどこまでも高く、ギャラック家の屋敷をはるかに凌ぐ巨大さだった。しかしブルーノが通された部屋は狭く薄暗い。そこに大柄な老人が既に椅子に腰かけていた。彼が司祭のようだ。
「毎晩、神に祈り、あなたが最も善だと思うことをなしなさい」
司祭はブルーノの瞳をじっと覗き込むと、深く憐れむような口調で言ってきた。
(何というありきたりな決まり文句。こんなことを聞くために、ここまで来たのではない)
「俺の身体に、もしかしたら心かもしれないが、何か邪悪なものを取り憑いている様子はないのでしょうか?」
彼は礼式通り、その司祭の前に跪いて尋ねる。
「あまりに黒く、巨大で根深い。それを取り払うために祈りなさい」
「あまりに黒く巨大で根深い、その邪悪な魔法を取り払うために、神に祈ればいいということなのでしょうか?」
「そう、祈りがそなたを助けるであろう。しかしそれは魔法などではない。そなたの感情。恐怖とでも呼ぶべきであろう」
「恐怖だって?」
あの魔法使いも言っていた。俺は恐怖に取り憑かれているだけだと。その恐怖が俺を錯乱に導いていると。
「恐怖。深い悲しみ。言葉の問題ではない。それをどのように呼んでも問題はないだろう。そなたの眼差しや表情から、その感情が滲み出ている」
「冗談だろ、おい?」
ブルーノの言葉を前に、司祭は不快そうに眉をひそめる。
「まず、それをしっかりと認識して、自分の感情と向き合うことから始めるのがよい。すなわち、それが祈るということ」
「祈ればどうなるというのだ?」
ブルーノは司教への礼儀を忘れ、声を荒げた。
「いつかその感情が、消え去る日も来るだろう。そしてそなたを悩ませている問題も消えるはず」
「馬鹿らしい。俺は何も恐れてはいない。俺に取り憑いている感情があるとしたら、それは恨み、怒りだ」
「ならば、なぜ恨んでいる? なぜ怒っている? その理由は?」
「それはとても単純な理由。あの魔法使いが!」
あの魔法使いが俺に・・・。
(覚えていない。俺はあの戦場のことを何も思い出せない)
最後のあの戦い、ブルーノが率いるギャラック家の兵は、ボーアホーブの居城まで押し迫った。勝利はすぐ目の前だった。
籠城戦で迎え撃ってくるかと思いきや、ボーアホーブの兵は城から出てきた。そしてギャラック家の兵とボーアホーブの兵がぶつかり合ったのだ。
戦いは乱戦になった。その軍の統率者、ボーアホーブのアランの姿も見えた。数でも、兵の士気でも圧倒的に有利だったギャラックの兵は、ボーアホーブの兵を蹴散らし続けていた。
(しかしあの魔法使いが俺たちに向かって、何か魔法を使った。何百もの宝石が一斉に砕ける光景を覚えている。おぞましい光景だった。そのあと俺たちは・・・)
彼が部下たちを大勢引き連れているのは、ギャラック家の威光を領民に示すためではない。いつ、あの恐るべき発作が起きるかわからないからだ。何をやらかしてしまうのかわからない自分を抑えるため、部下を連れている。
ブルーノに気づいた街の人たちが、恐怖に表情を変える。
ブルーノのことは街中に知れ渡っている。今、すれ違った街の人は、何日か前にブルーノが殺してしまった誰かの弟であるかもしれないし、友人であるかもしれない。ブルーノを恐れるのは当然のこと。
領民たちの視線は痛かった。それでも彼は馬を走らせる。
目指す場所は教会だった。先日、会った魔法使いの言葉をブルーノは覚えていたからだ。彼のこの症状を解決出来るのは魔法使いではない、教会の神父かもしれない。その魔法使いは確かにそう言っていた。
(いや、解決ではなく、癒すと言っていたのかな? いずれにしろ神父に会ってみようではないか)
ブルーノは神の恩寵に縁が深いほうではなかった。神に祈って、何らかの奇跡が起きたという体験をしたことはない。罪を犯したからといって、その神罰と思われる事態に遭遇したこともない。
しかしもし神の力が何かの役に立つのなら、今はそれにすがりつきたい気分である。
ギャラック家の治める領地の中に大きな教会はない。やはり祈るならば、キャバル国で最も偉い牧師を相手にしたほうがいい。この教区で最も偉いのは王都の教会にいる司祭だ。
ブルーノは遣いを出し、会合の約束を取り付けた。
その教会の尖塔はどこまでも高く、ギャラック家の屋敷をはるかに凌ぐ巨大さだった。しかしブルーノが通された部屋は狭く薄暗い。そこに大柄な老人が既に椅子に腰かけていた。彼が司祭のようだ。
「毎晩、神に祈り、あなたが最も善だと思うことをなしなさい」
司祭はブルーノの瞳をじっと覗き込むと、深く憐れむような口調で言ってきた。
(何というありきたりな決まり文句。こんなことを聞くために、ここまで来たのではない)
「俺の身体に、もしかしたら心かもしれないが、何か邪悪なものを取り憑いている様子はないのでしょうか?」
彼は礼式通り、その司祭の前に跪いて尋ねる。
「あまりに黒く、巨大で根深い。それを取り払うために祈りなさい」
「あまりに黒く巨大で根深い、その邪悪な魔法を取り払うために、神に祈ればいいということなのでしょうか?」
「そう、祈りがそなたを助けるであろう。しかしそれは魔法などではない。そなたの感情。恐怖とでも呼ぶべきであろう」
「恐怖だって?」
あの魔法使いも言っていた。俺は恐怖に取り憑かれているだけだと。その恐怖が俺を錯乱に導いていると。
「恐怖。深い悲しみ。言葉の問題ではない。それをどのように呼んでも問題はないだろう。そなたの眼差しや表情から、その感情が滲み出ている」
「冗談だろ、おい?」
ブルーノの言葉を前に、司祭は不快そうに眉をひそめる。
「まず、それをしっかりと認識して、自分の感情と向き合うことから始めるのがよい。すなわち、それが祈るということ」
「祈ればどうなるというのだ?」
ブルーノは司教への礼儀を忘れ、声を荒げた。
「いつかその感情が、消え去る日も来るだろう。そしてそなたを悩ませている問題も消えるはず」
「馬鹿らしい。俺は何も恐れてはいない。俺に取り憑いている感情があるとしたら、それは恨み、怒りだ」
「ならば、なぜ恨んでいる? なぜ怒っている? その理由は?」
「それはとても単純な理由。あの魔法使いが!」
あの魔法使いが俺に・・・。
(覚えていない。俺はあの戦場のことを何も思い出せない)
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戦いは乱戦になった。その軍の統率者、ボーアホーブのアランの姿も見えた。数でも、兵の士気でも圧倒的に有利だったギャラックの兵は、ボーアホーブの兵を蹴散らし続けていた。
(しかしあの魔法使いが俺たちに向かって、何か魔法を使った。何百もの宝石が一斉に砕ける光景を覚えている。おぞましい光景だった。そのあと俺たちは・・・)
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