私の邪悪な魔法使いの友人2

ロキ

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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子

第七章 4)執務室の朝

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 誰かが歌をうたっている。こんな歌だ。

 あなたが私を責めるから、私は小鳥を殺していくの。
 あなたが嘘をついた数、私は小鳥を殺していくの。
 今夜も私は小鳥を殺すでしょう。

 これは確か「小鳥殺し女の歌」だ。有名な音楽劇の主題歌。その歌が、いつもは静かな廊下の奥から聞こえてくる。
 私は急ぎ足で廊下を歩いているのであるが、徐々にその歌声が大きくなっている気がする。不気味な声、いや、これはアビュの声ではないのか? 

 自分の部屋を出て、執務室に向かっている。
 執務室が出来たことで本当に便利になった。自分の居場所の中心が出来たような感覚とでも言おうか。
 これまではアビュや召使いたちと、中央のホールの入り口付近で待ち合わせしていたが、執務室が出来てからはそこで落ち合うことになった。
 執務室で、昨日の仕事について報告し、今日すべき仕事に関して相談してから、その日の仕事が始まるわけだ。

 仕事に対するやる気も、何やら変わった気がする。執務室なんて上等なものを持ったことで、この塔を管理する仕事への自覚が改めて芽生えたのだ。
 仕事の時間と、自分の時間のメリハリもついた気がする。執務室にいるときだけ仕事をして、自分の部屋にはそれを持ち込まないように出来る気がする。
 その代わり、執務室の扉を開ける瞬間は緊張感が高まり、気分がぐっと引き締まる。今日も仕事が始まるのだという実感が心を震わせる。
 何か大きな事件が起きませんように、自分の至らなさで誰かに迷惑を掛けたりしませんように、そんなことを願ったりもする。

 私は今日もそんな緊張感溢れる気持ちで、執務室の前に到着した。
 しかし先程からずっと、アビュの歌声が聞こえている。その声は執務室から聞こえてくる。それは間違いない。
 私はそっと扉を開けて、中の様子を伺った。やはりアビュが歌っている。何と彼女は私の机の上に立って歌をうたっている始末! 

 彼女の歌を、リーズやラダ、エドガルやドニなど、アリューシアの連れてきた侍女や執事たちが手拍子しながら囃し立てている。
 サンチーヌやアデライドなど筆頭の執事たちも拍手こそしていないが、満更でもない表情で、そんなアビュを眺めている。執務室は朝から、何やら騒々しい雰囲気だった。
 「小鳥殺し女の歌」を歌い終わるのを待ってから、私はアビュに声を掛けた。

 「何だい、この騒ぎは。朝の恒例の行事にでもする気かい?」

 「だってこの人たちが私のこと聞いてくるのよ。年齢は幾つだとか、どこの出身だとか、得意なことは何かとか」

 アビュは私の机の上に立っていたことを謝るでもなく、ぴょんとそこから飛び降りる。「で、歌が得意だって言ったら歌えって言われて、それで歌っただけ。文句ある?」

 「いや、別に。好きにすればいいけど」

 私はそう言いながらも、少し嫌味たらしい仕草でアビュが立っていた机を手で払う。アビュも少しは申し訳ないと思ったのか、私の動作に倣う。

 「私の歌、上手かったでしょ?」

 アビュが尋ねてくる。

 「さあね」

 私は弛緩した部屋の空気を引き締めるため、何度か咳払いをして仕事の話しを切り出すことにする。教会の牧師がするようなあの厳粛な咳払いだ。
 しかしサンチーヌが言ってきた。

 「せっかくだから、シャグラン殿、あなたのことも伺いたい。このお嬢さんの話しでは、あなたは絵描きだとか?」

 生真面目で堅物に見えるサンチーヌであるが、彼のほうから仕事以外の話しをしようと誘いかけてきた。しかも少しばかり好奇心に瞳を輝かせながら。

 「え? は、はい、そうです。街で肖像画家として生計を立てていました」

 「それは興味深い」

 「三流画家ですよ」

 私は思わぬ雲行きに戸惑いも感じたが、その事実に嬉しさも感じた。これは彼が私に興味を持っているという証しではないか。
 それに、自分の本業が画家だということを伝えれば、この仕事に不慣れなことの言い訳にもなる。

 「それなのに、どうしてここにいるの?」

 アリューシアの侍女のラダも言ってくる。

 「それはまあ、この塔の主の友人だったからで。彼にこの塔の管理をして欲しいと頼まれ、仕方なくというわけではないけれど、一時的にその仕事をすることになって」

 「魔法使いの友達! 何だか羨ましいわ!」

 「そんなことありませんよ。良いことなんて何一つない。無理やりここで働かされているようなものだし。馴れない仕事で本当に迷惑をかけ通しているし」

 依然として彼らの好奇心は尽きないようで、年齢はいくつだとか、どこでプラーヌスと知り合ったのかとか、好きな食べ物は何だとか、そんなことを矢継ぎ早に質問される。

 「結婚はしてないの?」

 他に、そんな質問もされた。

 「まだです」

 「好きな人っていうか、そういう相手はいるんでしょ?」

 「いえ、残念ながらいませんよ」

 私が首を横に振りながらそう言うと、アビュが激しい勢いで小脇を突いてきた。

 「あれ? え? フローリアさんは? 好きなんでしょ?」

 「ああ、そう。やっぱりそういうお相手がいるのね」

 少しも残念がることもなく、ラダが言ってくる。

 「え? いや」

 しかし私はアビュの言った言葉に混乱するしかなかった。「フローリア? 誰だよ、その人?」

 知らない名前だ。聞いたこともない。私がそう答えると、アビュは本当に愕然とした表情になった。
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