私の邪悪な魔法使いの友人2

ロキ

文字の大きさ
3 / 188
シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子

第一章 3)記念すべき日の夕食

しおりを挟む
 王の遣いの遣いから詳しい話しを聞き、プラーヌスは更に上機嫌になっていた。彼がこの塔の正式な主として認められるのは間違いのないことのようだ。
 これで晴れてプラーヌスは、この地を支配している世俗の権力からも、正式な塔の主として認められるわけだ。

 「このような記念すべき日を、友人である君に祝って貰えるなんて本当に有り難いことだ」

 夕食の時間、プラーヌスは満面の笑みを浮かべてそう言ってくる。

 「君の喜びは僕の喜びでもある、おめでとう、プラーヌス」

 本来ならこの時間、ルーテティアの居酒屋かどこかで食事をしていたはずだ。しかし我々はいつもの応接の間で、いつものように食事をしている。
 突然、長い旅に行こうと告げられたのでかなり困惑していたが、旅先での料理にだけは大いに期待していた。
 しかもルーテティアは料理が美味しいことでも有名だ。どんなに素晴らしい夕食が食べられるのかと楽しみだった。
 しかし結局、今夜の夕食も食べ飽きた味になってしまった。それだけは本当に残念である。

 「塔の主になるというのはそれだけ凄いことだってわけだよ。僕はとんでもない偉業を成し遂げたのさ」

 一方、プラーヌスは人生の成功を味わうかのように、今夜のメインディッシュの魚料理をゆっくりと噛み締めながら言った。「魔法使いとしての頂点を極めたと言っていいかもしれない。多くの魔法使いがそこで満足するからね」

 「へえ」

 「しかし正式な主になったからと言って喜んでばかりもいられない。王から遣いが来るということは、もうそろそろ僕の恐れていた侵略者も本格的にやってくるだろうからね」

 「侵略者?」

 私は不吉な言葉に手を止めた。

 「ああ、この塔を奪うため、数々の魔法使いが挑戦を挑んでくる。奴らとの戦いが厄介なのさ。まあ、とは言っても、この塔を魔界から支配している魔族と契約を取り付けたから、この塔で戦う限り、僕に大きなアドバンテージがある。負けることはありえないけど」

 「蛮族だけでなく、魔法使いを相手にも戦わなければいけないのか」

 蛮族との戦いはまだ終わりそうな気配がない。それなのに新たな敵にも備えなければいけないなんて。なかなか平和という者は得難いもののようだ。

 「まあ、あのように連日襲来することはないが、蛮族たちよりもはるかに油断ならない相手だ。シャグラン、君も気をつけてくれ」

 「ああ」

 蛮族はバルザ殿が完璧に撃退してくれるであろうが、先日の戦いで我が部隊は大きな被害を出してしまった。その後、医務室では怪我人の応対に追われていた。
 確か気を失ってしまう前、私はその医務室を覗いてきたのであるが、本当にそこは大変な惨状だった。
 じっとしていられず、のたうち回りながら痛みを訴える者、生き延びることが出来そうだが、どう考えても後遺症が残りそうな者、そして苦しみながら息絶えてしまった者。
 六十人の部隊のうちの半分ほど、もはや戦闘に復帰出来そうにない様子。

 それを考えると、そもそも旅に出られるような状況ではなかったと思う。
 しかしプラーヌスはそんなことを気に掛ける必要などないとばかりに、さっさと旅に出ようとしていたのだ。
 やはり無慈悲な主だと思われても仕方ないであろう。実際、バルザ殿の部隊の兵たちには、彼に対する不満を述べる者が多い。
 その辺りの不満を上手く収めなければいけないのも私の役目かもしれない。
 バルザ殿ともじっくりと話し合わなければいけない気がするし、兵士たちとも頻繁にコンタクトしておかなければいけない。やらなければいけないことは山ほどあるようだ。

 しかし、こんなふうに只でさえ忙しい私に、プラーヌスは更に仕事を課すようなことを言ってくるのである。

 「これから多くの客もやってくる。しばらく君は、その客の対応に追われるかもしれないぞ」

 「はあ・・・。その客たちへの応対も、僕が担わなければいけないわけか」

 「今は君に任せる以外ないだろう。一人じゃ無理だったら、君も積極的に有用な人材を見つけて、仕事を任せていく必要があるかもしれないね」

 プラーヌスの言う通り、もはやこれだけの仕事の量を私一人でこなすのは不可能だ。
 今のところ、助手兼通訳のアビュ、気心が知れつつある幾人かの召使いが、私の下で働いてくれている。
 しかし彼らに重要な仕事を任せるのはまだ難しい。私もプラーヌスがバルザ殿をスカウトしたように、優秀な人材を塔の外に求める必要があるかもしれない。
 とはいえ、そんな人材が簡単に見つかるだろうか。しばらくは何もかも全て、私がやらなければいけないだろう。

 余りにたくさんの仕事が待ち受けているようだ。私はその大変さを思って、大きなため息を吐いてしまった。

 「どうしたんだよ、シャグラン? こんなに楽しい夜にため息なんて」

 「いや、これからますます忙しくなるのかと思ってね」

 プラーヌスは私のその言葉に何も答えず、肩をすくめただけであった。

 そのとき扉をノックする音がした。プラーヌスが怪訝な表情で扉のほうを見る。私も音のほうに視線を送る。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

【完結】見えてますよ!

ユユ
恋愛
“何故” 私の婚約者が彼だと分かると、第一声はソレだった。 美少女でもなければ醜くもなく。 優秀でもなければ出来損ないでもなく。 高貴でも無ければ下位貴族でもない。 富豪でなければ貧乏でもない。 中の中。 自己主張も存在感もない私は貴族達の中では透明人間のようだった。 唯一認識されるのは婚約者と社交に出る時。 そしてあの言葉が聞こえてくる。 見目麗しく優秀な彼の横に並ぶ私を蔑む令嬢達。 私はずっと願っていた。彼に婚約を解消して欲しいと。 ある日いき過ぎた嫌がらせがきっかけで、見えるようになる。 ★注意★ ・閑話にはR18要素を含みます。  読まなくても大丈夫です。 ・作り話です。 ・合わない方はご退出願います。 ・完結しています。

初恋が綺麗に終わらない

わらびもち
恋愛
婚約者のエーミールにいつも放置され、蔑ろにされるベロニカ。 そんな彼の態度にウンザリし、婚約を破棄しようと行動をおこす。 今後、一度でもエーミールがベロニカ以外の女を優先することがあれば即座に婚約は破棄。 そういった契約を両家で交わすも、馬鹿なエーミールはよりにもよって夜会でやらかす。 もう呆れるしかないベロニカ。そしてそんな彼女に手を差し伸べた意外な人物。 ベロニカはこの人物に、人生で初の恋に落ちる…………。

悪役令嬢が行方不明!?

mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。 ※初めての悪役令嬢物です。

わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた

名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。

処理中です...