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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第七章 11)音が消える魔法
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まだ生まれてそれほど経過していない。明確な個性なんて刻印されていない。普通の赤子だ。
いや、もちろん普通の赤子なんてイメージを他人と共有出来るわけはないのだろうけど。とにかく小さくて、ふにゃふにゃしていて、温かいだけの存在。
しかしカルファルとの相似性を感じろと言われれば感じることは出来るかもしれない。髪の色が同じ、瞳の色も同じ。鼻も形も同じだから。
「シルヴァはマジで気難しい。実の母親以外、誰にも懐きはしないんだ。あまりに夜泣きがうるさくて、音を消す魔法を覚えたくらいなんだぜ」
カルファルがそう言いながら訓練室の中に入ってくる。寝床から起きたばかりの恰好だった。髪の毛も寝癖がついていて、無精髭が生えている。
着飾ったカルファルしか見たことがなかったので、目の前にいるカルファルは、カルファルになり切れていないカルファルという趣きだ。しかし声と態度と、ギラギラした瞳は、間違いなくあのカルファルのもの。
「シルヴァだって?」
「ああ、まさかお前たちが俺の娘をさらっていたとはな」
「違うわ。この子が独りで階段をよちよち這い上がっているのを見て」
はあ? あなたの娘? アリューシアはシルヴァを見つけた経緯を説明しながらも、カルファルの言葉に驚きを隠せないようである。
「そうか。シルヴァは独りで階段を登れるようになったのか。俺の妻たちがこいつを抱きながら塔を散歩していた。ちょっと目を離した隙に、いなくなったらしい」
よしよし。お前も健やかに成長しているようだな。カルファルがアリューシアから娘を受け取る。しかし父の腕の中に戻ったのに、赤子はまた不快な声で泣き始めた。
「ほらな? 俺にも懐いてはいない」
「き、君の、子供だったのか」
「シルヴァだ。かわいいだろ?」
カルファルは宝石を取り出すと、何やら魔法の言葉をつぶやいた。すると、その瞬間、私たちの耳の中で激しくこだましていた泣き声は、かき消えた。
シルヴァが泣き止んだのではない。声だけが消えたのだ。シルヴァの表情は依然として悲しんでいて、そして口も泣き叫ぶ形のままだから。
「何をしたんだ?」
「何をしたかって?」
カルファルの声は聞こえる。この世界に存在する音が消えたわけではないようだ。シルヴァの泣き声だけが消えた。
「声というのはエーテルを伝う振動なんだ。その振動をいじくれば、声は消える」
彼は手振りを交えながら言う。「それがこの世界の摂理さ。だから、お前の声だって消すことが出来る。俺の足音も消すことが出来る。便利な魔法だよ」
「声を消しただって?」
「ひどいわ、そんな魔法!」
「わかっている。娘の泣き声を打ち消すなんて父親失格だよ。しかし俺はこの泣き声に耐えられない。だから俺はシルヴァの悲しみを癒してくれる女を探してきた。新しい母親、新しい妻をな。あいつらもよくやってくれているけど、まだ俺はそんな女に巡り合っていない。今でもたまにこの魔法が必要だ」
しかしこの子がお前に懐いているのを見て、驚いたぜ。
カルファルはそう言って、アリューシアをジッと見つめ始めた。その視線はこれまでカルファルが見せたことのないもので、本当にアリューシアのことを認め、アリューシアに感心しているという態度であった。
「そ、そうなんだよね。この子とは仲良くなれそうな気がする・・・」
「ほう。だったらお前を、俺の新しい妻にしてやってもいい」
「な、何ですって?」
アリューシアが仰け反るように言った。私もその言葉には驚いたが、それ以上に呆れた。カルファルの突拍子の無さに。
しかしカルファルは自信満々に続ける。
「お前以上にその適任者はいないかもしれない。どうだ? 本気だぜ、俺は」
「あ、頭おかしいんじゃないの? 私があなたのような男の妻になるなんて! それにこの子の実のお母さんはいるんでしょ?」
「死んだよ。こいつを産んですぐに。死神が地獄に引きずり込んでいった」
「そ、そうなんだ・・・」
「母を失ってから、シルヴィはずっと泣いている。赤子だから泣いているんじゃない。寂しくて孤独で、不安だから泣いているんだ。こいつの悲しみを癒してやってくれよ、アリューシア」
カルファルはそう言って、アリューシアに向かって赤子を差し出した。
アリューシアは何のためらいもなく、そのぬくもりを受け取った。
いや、もちろん普通の赤子なんてイメージを他人と共有出来るわけはないのだろうけど。とにかく小さくて、ふにゃふにゃしていて、温かいだけの存在。
しかしカルファルとの相似性を感じろと言われれば感じることは出来るかもしれない。髪の色が同じ、瞳の色も同じ。鼻も形も同じだから。
「シルヴァはマジで気難しい。実の母親以外、誰にも懐きはしないんだ。あまりに夜泣きがうるさくて、音を消す魔法を覚えたくらいなんだぜ」
カルファルがそう言いながら訓練室の中に入ってくる。寝床から起きたばかりの恰好だった。髪の毛も寝癖がついていて、無精髭が生えている。
着飾ったカルファルしか見たことがなかったので、目の前にいるカルファルは、カルファルになり切れていないカルファルという趣きだ。しかし声と態度と、ギラギラした瞳は、間違いなくあのカルファルのもの。
「シルヴァだって?」
「ああ、まさかお前たちが俺の娘をさらっていたとはな」
「違うわ。この子が独りで階段をよちよち這い上がっているのを見て」
はあ? あなたの娘? アリューシアはシルヴァを見つけた経緯を説明しながらも、カルファルの言葉に驚きを隠せないようである。
「そうか。シルヴァは独りで階段を登れるようになったのか。俺の妻たちがこいつを抱きながら塔を散歩していた。ちょっと目を離した隙に、いなくなったらしい」
よしよし。お前も健やかに成長しているようだな。カルファルがアリューシアから娘を受け取る。しかし父の腕の中に戻ったのに、赤子はまた不快な声で泣き始めた。
「ほらな? 俺にも懐いてはいない」
「き、君の、子供だったのか」
「シルヴァだ。かわいいだろ?」
カルファルは宝石を取り出すと、何やら魔法の言葉をつぶやいた。すると、その瞬間、私たちの耳の中で激しくこだましていた泣き声は、かき消えた。
シルヴァが泣き止んだのではない。声だけが消えたのだ。シルヴァの表情は依然として悲しんでいて、そして口も泣き叫ぶ形のままだから。
「何をしたんだ?」
「何をしたかって?」
カルファルの声は聞こえる。この世界に存在する音が消えたわけではないようだ。シルヴァの泣き声だけが消えた。
「声というのはエーテルを伝う振動なんだ。その振動をいじくれば、声は消える」
彼は手振りを交えながら言う。「それがこの世界の摂理さ。だから、お前の声だって消すことが出来る。俺の足音も消すことが出来る。便利な魔法だよ」
「声を消しただって?」
「ひどいわ、そんな魔法!」
「わかっている。娘の泣き声を打ち消すなんて父親失格だよ。しかし俺はこの泣き声に耐えられない。だから俺はシルヴァの悲しみを癒してくれる女を探してきた。新しい母親、新しい妻をな。あいつらもよくやってくれているけど、まだ俺はそんな女に巡り合っていない。今でもたまにこの魔法が必要だ」
しかしこの子がお前に懐いているのを見て、驚いたぜ。
カルファルはそう言って、アリューシアをジッと見つめ始めた。その視線はこれまでカルファルが見せたことのないもので、本当にアリューシアのことを認め、アリューシアに感心しているという態度であった。
「そ、そうなんだよね。この子とは仲良くなれそうな気がする・・・」
「ほう。だったらお前を、俺の新しい妻にしてやってもいい」
「な、何ですって?」
アリューシアが仰け反るように言った。私もその言葉には驚いたが、それ以上に呆れた。カルファルの突拍子の無さに。
しかしカルファルは自信満々に続ける。
「お前以上にその適任者はいないかもしれない。どうだ? 本気だぜ、俺は」
「あ、頭おかしいんじゃないの? 私があなたのような男の妻になるなんて! それにこの子の実のお母さんはいるんでしょ?」
「死んだよ。こいつを産んですぐに。死神が地獄に引きずり込んでいった」
「そ、そうなんだ・・・」
「母を失ってから、シルヴィはずっと泣いている。赤子だから泣いているんじゃない。寂しくて孤独で、不安だから泣いているんだ。こいつの悲しみを癒してやってくれよ、アリューシア」
カルファルはそう言って、アリューシアに向かって赤子を差し出した。
アリューシアは何のためらいもなく、そのぬくもりを受け取った。
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