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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第七章 10)戦争の予感
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アリューシアは私の絵を気に入ってくれたようだった。描き上がったばかりの絵を手に取って、角度を変えたりしながら観察している。その表情は心の底からニヤニヤしているように見えるので、私へのこの賛辞はお世辞ではないはずだ。
「シャグラン、あなたって本物の画家だったのね。凄いわ!」
彼女は何度もその言葉を繰り返してくれている。
その間、赤子は私が抱いていた。私の手に移った瞬間、赤子はむずがり出した。雨が降る寸前の曇り空のようだ。何とも面倒な赤子だ。すぐにアリューシアの腕の中に返すから泣くなよと私は念じる。
「そうだった。君に言わなければいけないことがあった」
私は赤子をあやしながら言った。すっかり忘れていた。私も久しぶりに絵を描いて、緊張していたのかもしれない。
「何? 言わなければいけないことって?」
アリューシアは絵を見つめたまま言ってくる。
「ボーアホーブ家は確か、キャバル国の領主だったよね?」
「そうよ」
アリューシアはボーアホーブ家の三女だ。そのボーアホーブ家の領地がある国がキャバル王国である。ボーアホーブ家は大貴族ではあるが、キャバル国王の臣下。
「昨日、街に行ったじゃないか。その街の酒場の主人からある噂を聞いたんだ。政変が起きて、キャバル国の王が殺されたって噂だ」
「うそ?」
アリューシアが絵から顔を上げた。
「様々な国を行き来する傭兵たちが集まる酒場の主人の情報だ。それなりの信ぴょう性はあるに違いない」
「ま、前もそのことが原因で戦争になったのよ。先代の王が死んじゃって、王国中がぐちゃぐちゃになった。隣の領主が私たちの領土を狙ってきたのも、そのときだった」
その戦争のとき、ボーアホーブ家に雇われたのがプラーヌスだ。それがアリューシアとプラーヌスの出会いだったはず。
その戦いが勃発しなければ、アリューシアはプラーヌスと出会うことなく、彼女も魔法などという厄介なものに血眼を上げずに済んだであろう。先の戦争は今の彼女の人生を決定しいたような大きな出来事。
私の描いた絵など、もうどうでもよくなったかのように、彼女はそれをテーブルに置いて、どこか遠くのほうを見つめ始める。
「また戦いになるかもしれない・・・」
アリューシアはつぶやいた。その声には深刻な悲しみと嘆きと恐怖が宿っていた。
「戦争?」
「隣の領主は本当に悪い奴らなの。隙があれば、私たちに意地悪にしてくる最悪のゲスなの!」
どうしよう、シャグラン! 彼女がすがりつくような視線でに私を見つめてくる。
「そ、そうだな」
戦争なんて、あまりに大きな話しだ。私の手に余る。しかし、ただの噂だよ、気にする必要はないなんて気軽な気休めは言えない。
私はアリューシアの反応に驚いていた。彼女がこんなにも、この情報を深刻に受け止めるとは思わなかったのだ。
「アリューシア、王の死はそれほどヤバいことなのかな?」
「う、うん。いいえ、わからないけど。でも嫌な予感がする、とても」
その話題が深刻過ぎたからというわけではないだろうが、またもやあの赤子が凄まじい勢いで泣き叫び始めた。アリューシアが慌てて、私の胸からその子を抱き寄せる。
アリューシアの腕の中に戻ると、赤子は少しずつ穏やかな息遣いになっていった。
少し時間はかかったが、やがて泣き止んだ。私にはそれが、何か鮮やかな魔法に思えた。興奮している子を、瞬時にして心安らかにする魔法。
「ねえ、プラーヌス様はまた前みたいに、ボーアホーブ家を守ってくれるかな?」
私が呑気にアリューシアのその手際に感心していたら、彼女は不安そうな表情で問い掛けてくる。
「私ね、こういうときのために魔法を学んだことも確かで。あのとき、プラーヌス様がしてくれたように、次に何かあったときは自分の力でボーアホーブ家を守りたいと思って。でも私の実力はまだまだだから」
「ああ、うん、大丈夫さ、僕からも説得するし」
何の根拠もないが、私は言う。彼を説得する自信なんてない。しかし私の口から、驚くべき軽さでそのような言葉が飛び出してくる。「プラーヌスがまた守ってくれる。彼なら、どんな敵が相手でも余裕だろうからね」
多分、そんなことを言わなければいけないくらい、アリューシアの表情は深刻で、切実だったからかもしれない。
「ああ、ここにいたのか・・・」
そのとき、訓練室の扉が開き、背後からとても大きな声が聞こえてきた。
その声は本当に大きくて、私とアリューシアは飛び上がりそうになるほど驚いた。
扉を開けたのは、カルファルだった。
「何だよ、カルファル! 驚かせるんじゃないよ!」
しかしカルファルは私に見向きもしない。彼はアリューシアを見ているわけでもなかった。
「良かった・・・、あいつに殺されたのかと思った」
彼は全身の力が抜けたかのように膝を落とした。「ああ、良かった、本当に良かった。シルヴァ、我が愛よ。お前が無事で本当に」
「シャグラン、あなたって本物の画家だったのね。凄いわ!」
彼女は何度もその言葉を繰り返してくれている。
その間、赤子は私が抱いていた。私の手に移った瞬間、赤子はむずがり出した。雨が降る寸前の曇り空のようだ。何とも面倒な赤子だ。すぐにアリューシアの腕の中に返すから泣くなよと私は念じる。
「そうだった。君に言わなければいけないことがあった」
私は赤子をあやしながら言った。すっかり忘れていた。私も久しぶりに絵を描いて、緊張していたのかもしれない。
「何? 言わなければいけないことって?」
アリューシアは絵を見つめたまま言ってくる。
「ボーアホーブ家は確か、キャバル国の領主だったよね?」
「そうよ」
アリューシアはボーアホーブ家の三女だ。そのボーアホーブ家の領地がある国がキャバル王国である。ボーアホーブ家は大貴族ではあるが、キャバル国王の臣下。
「昨日、街に行ったじゃないか。その街の酒場の主人からある噂を聞いたんだ。政変が起きて、キャバル国の王が殺されたって噂だ」
「うそ?」
アリューシアが絵から顔を上げた。
「様々な国を行き来する傭兵たちが集まる酒場の主人の情報だ。それなりの信ぴょう性はあるに違いない」
「ま、前もそのことが原因で戦争になったのよ。先代の王が死んじゃって、王国中がぐちゃぐちゃになった。隣の領主が私たちの領土を狙ってきたのも、そのときだった」
その戦争のとき、ボーアホーブ家に雇われたのがプラーヌスだ。それがアリューシアとプラーヌスの出会いだったはず。
その戦いが勃発しなければ、アリューシアはプラーヌスと出会うことなく、彼女も魔法などという厄介なものに血眼を上げずに済んだであろう。先の戦争は今の彼女の人生を決定しいたような大きな出来事。
私の描いた絵など、もうどうでもよくなったかのように、彼女はそれをテーブルに置いて、どこか遠くのほうを見つめ始める。
「また戦いになるかもしれない・・・」
アリューシアはつぶやいた。その声には深刻な悲しみと嘆きと恐怖が宿っていた。
「戦争?」
「隣の領主は本当に悪い奴らなの。隙があれば、私たちに意地悪にしてくる最悪のゲスなの!」
どうしよう、シャグラン! 彼女がすがりつくような視線でに私を見つめてくる。
「そ、そうだな」
戦争なんて、あまりに大きな話しだ。私の手に余る。しかし、ただの噂だよ、気にする必要はないなんて気軽な気休めは言えない。
私はアリューシアの反応に驚いていた。彼女がこんなにも、この情報を深刻に受け止めるとは思わなかったのだ。
「アリューシア、王の死はそれほどヤバいことなのかな?」
「う、うん。いいえ、わからないけど。でも嫌な予感がする、とても」
その話題が深刻過ぎたからというわけではないだろうが、またもやあの赤子が凄まじい勢いで泣き叫び始めた。アリューシアが慌てて、私の胸からその子を抱き寄せる。
アリューシアの腕の中に戻ると、赤子は少しずつ穏やかな息遣いになっていった。
少し時間はかかったが、やがて泣き止んだ。私にはそれが、何か鮮やかな魔法に思えた。興奮している子を、瞬時にして心安らかにする魔法。
「ねえ、プラーヌス様はまた前みたいに、ボーアホーブ家を守ってくれるかな?」
私が呑気にアリューシアのその手際に感心していたら、彼女は不安そうな表情で問い掛けてくる。
「私ね、こういうときのために魔法を学んだことも確かで。あのとき、プラーヌス様がしてくれたように、次に何かあったときは自分の力でボーアホーブ家を守りたいと思って。でも私の実力はまだまだだから」
「ああ、うん、大丈夫さ、僕からも説得するし」
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多分、そんなことを言わなければいけないくらい、アリューシアの表情は深刻で、切実だったからかもしれない。
「ああ、ここにいたのか・・・」
そのとき、訓練室の扉が開き、背後からとても大きな声が聞こえてきた。
その声は本当に大きくて、私とアリューシアは飛び上がりそうになるほど驚いた。
扉を開けたのは、カルファルだった。
「何だよ、カルファル! 驚かせるんじゃないよ!」
しかしカルファルは私に見向きもしない。彼はアリューシアを見ているわけでもなかった。
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