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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第七章 9)幼子を抱いた乙女
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「もう無理なのよ。私には才能がなった」
ちょうど、アリューシアの唇の曲線を観察していたとき、彼女はそんなことを言ってきた。麗しい上唇のカーブが、苦悩に歪んだ瞬間を私は見てしまった。
「どんなに頑張っても、その魔族は反応しない。何をしても、昨日より良くなっていない。あなたにそんな経験ある?」
突然、アリューシアは感情をあらわにして、そう言ってきたのだ。私はその鋭い感情に驚いて、手を止める。
私たちは訓練室に戻っていた。そこでアリューシアの願いを叶えてやることにしたのだ。アリューシアと赤子の肖像画を描くという願い。
とはいえ、絵といっても簡単な素描だ。アリューシアが勉強のために持ち込んだペンと紙を使って描くだけ。
しかし描いているうちに本格的な作品を完成させたくなるかもしれない。
いや、実際、アリューシアの胸に抱かれた赤子の無防備な笑みを描きながら、アリューシアの胸の膨らみのラインを描きながら、私はラフな下絵では満足出来なくなっていた。
この絵の中に色を入れたい。光を入れたい。そして深い影も入れたい。もしそれが完成したら、「幼子を抱いた乙女」とでも名付けようか。きっと面白い作品が出来るに違いない。
久しぶりに描くことに夢中になっていた私は高揚していた。絵を描くことの楽しさを思い出していた。しかし、さっきのアリューシアの言葉によって、塔の現実に戻らされる。
「本当に無理。どんな奇跡が起きても無理だわ。もうすぐ私はこの塔から追い出される!」
アリューシアの激しい感情の高まりに呼応するかのように、腕の中の赤子も泣き出した。アリューシアはしばらくその泣き声にも気づかないまま、私を強い視線で見つめてくる。
「私、プラーヌス様に嫌われてるでしょ? あの人は私を追い出したいんでしょ? だからこんな無茶苦茶な課題を押し付けて」
アリューシアの言っていることはわかる。彼女がそんなことを考えてもおかしくない。ずっとプラーヌスは彼女に対して、そのような態度を取っていた。冷たく、残酷で、突き放すような態度。
私は気の利いた事を言って、彼女を慰めようと思う。しかし何も言葉が見つからない。
「でも父と母を説得して、ここに来るのは、とっても大変だったんだから。私も簡単に諦められない・・・」
しかし、またもや気分が豹変したのか、アリューシアは落ち着いた声でそんなことも言ってくる。「やっぱり、もう少し頑張ってみる」
そう言いながら、アリューシアはようやく赤子をあやし始めた。
「あ、ああ、そうだね」
私はアリューシアの感情の流れについていけない。
いや、アリューシア自身も、自分の感情の変転に戸惑っているようだ。彼女は希望と絶望の間で激しく揺れている。
しかし、どうやら絶望のほうが圧倒しているようだ。何とか生来の楽観的な性格で、アリューシアはかすかな希望を引き寄せようとしているだけ。
「やっぱり、ご両親を説得するのは大変だったんだね」
アリューシアの気を紛らわすため、いや、むしろ私がアリューシアのその感情の氾濫から逃げるため、話題を変える。先程、アリューシアが何気なく口にしたその言葉を取り上げた。
いや、そもそもアリューシアがここに来るまでの経緯は気になっていた。大切な娘を、このような僻地に送り出した両親の心の裡、そこにはかなりの葛藤があったはずだ。
「ああ、うん、そうよ。最初は反対されたけど。いえ、今でも反対されていると思う。サンチーヌとかアデライドが一緒って条件で、何とか家を出ることが出来たんだけど。それにまあ、父と母には、ここに来たこと内緒にしているのよね」
「内緒?」
「うん。父や母もプラーヌス様のことを知っているんだけど」
アリューシアとプラーヌスの出会いは、彼女の父がプラーヌスを傭兵として雇ったことがきっかっけだ。当然、ボーアホーブ家の当主であるアリューシアの父のほうが、プラーヌスと接触する機会は多かったはずだ。
「私の家族のみんな、プラーヌス様のこと大嫌いなのよね。嫌いというよりも、心の底から恐れている。だから嘘をついたの。両親は私が、全然違う魔法使いのところに行ったと思っているはず」
「おいおい、やっぱり君は大胆なことをするね」
「それくらいの嘘は許されるわ。父も母も、プラーヌス様を誤解しているから」
完成した? アリューシアがそう尋ねてきた。せわしなく動いていた私の指が少しずつそのスピードを落とし出したので、完成が近いことを悟ったのだろうか。
「うん、もう少しだ」
「私がいなくなっても、私のこと、覚えていてくれる?」
アリューシアが言ってきた。「私はあなたのこと忘れるかもしれないけど」
ちょうど、アリューシアの唇の曲線を観察していたとき、彼女はそんなことを言ってきた。麗しい上唇のカーブが、苦悩に歪んだ瞬間を私は見てしまった。
「どんなに頑張っても、その魔族は反応しない。何をしても、昨日より良くなっていない。あなたにそんな経験ある?」
突然、アリューシアは感情をあらわにして、そう言ってきたのだ。私はその鋭い感情に驚いて、手を止める。
私たちは訓練室に戻っていた。そこでアリューシアの願いを叶えてやることにしたのだ。アリューシアと赤子の肖像画を描くという願い。
とはいえ、絵といっても簡単な素描だ。アリューシアが勉強のために持ち込んだペンと紙を使って描くだけ。
しかし描いているうちに本格的な作品を完成させたくなるかもしれない。
いや、実際、アリューシアの胸に抱かれた赤子の無防備な笑みを描きながら、アリューシアの胸の膨らみのラインを描きながら、私はラフな下絵では満足出来なくなっていた。
この絵の中に色を入れたい。光を入れたい。そして深い影も入れたい。もしそれが完成したら、「幼子を抱いた乙女」とでも名付けようか。きっと面白い作品が出来るに違いない。
久しぶりに描くことに夢中になっていた私は高揚していた。絵を描くことの楽しさを思い出していた。しかし、さっきのアリューシアの言葉によって、塔の現実に戻らされる。
「本当に無理。どんな奇跡が起きても無理だわ。もうすぐ私はこの塔から追い出される!」
アリューシアの激しい感情の高まりに呼応するかのように、腕の中の赤子も泣き出した。アリューシアはしばらくその泣き声にも気づかないまま、私を強い視線で見つめてくる。
「私、プラーヌス様に嫌われてるでしょ? あの人は私を追い出したいんでしょ? だからこんな無茶苦茶な課題を押し付けて」
アリューシアの言っていることはわかる。彼女がそんなことを考えてもおかしくない。ずっとプラーヌスは彼女に対して、そのような態度を取っていた。冷たく、残酷で、突き放すような態度。
私は気の利いた事を言って、彼女を慰めようと思う。しかし何も言葉が見つからない。
「でも父と母を説得して、ここに来るのは、とっても大変だったんだから。私も簡単に諦められない・・・」
しかし、またもや気分が豹変したのか、アリューシアは落ち着いた声でそんなことも言ってくる。「やっぱり、もう少し頑張ってみる」
そう言いながら、アリューシアはようやく赤子をあやし始めた。
「あ、ああ、そうだね」
私はアリューシアの感情の流れについていけない。
いや、アリューシア自身も、自分の感情の変転に戸惑っているようだ。彼女は希望と絶望の間で激しく揺れている。
しかし、どうやら絶望のほうが圧倒しているようだ。何とか生来の楽観的な性格で、アリューシアはかすかな希望を引き寄せようとしているだけ。
「やっぱり、ご両親を説得するのは大変だったんだね」
アリューシアの気を紛らわすため、いや、むしろ私がアリューシアのその感情の氾濫から逃げるため、話題を変える。先程、アリューシアが何気なく口にしたその言葉を取り上げた。
いや、そもそもアリューシアがここに来るまでの経緯は気になっていた。大切な娘を、このような僻地に送り出した両親の心の裡、そこにはかなりの葛藤があったはずだ。
「ああ、うん、そうよ。最初は反対されたけど。いえ、今でも反対されていると思う。サンチーヌとかアデライドが一緒って条件で、何とか家を出ることが出来たんだけど。それにまあ、父と母には、ここに来たこと内緒にしているのよね」
「内緒?」
「うん。父や母もプラーヌス様のことを知っているんだけど」
アリューシアとプラーヌスの出会いは、彼女の父がプラーヌスを傭兵として雇ったことがきっかっけだ。当然、ボーアホーブ家の当主であるアリューシアの父のほうが、プラーヌスと接触する機会は多かったはずだ。
「私の家族のみんな、プラーヌス様のこと大嫌いなのよね。嫌いというよりも、心の底から恐れている。だから嘘をついたの。両親は私が、全然違う魔法使いのところに行ったと思っているはず」
「おいおい、やっぱり君は大胆なことをするね」
「それくらいの嘘は許されるわ。父も母も、プラーヌス様を誤解しているから」
完成した? アリューシアがそう尋ねてきた。せわしなく動いていた私の指が少しずつそのスピードを落とし出したので、完成が近いことを悟ったのだろうか。
「うん、もう少しだ」
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