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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第七章 13)薄暗い廊下に立つ亡霊たち
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しかしその亡霊が声を上げた。聞きなれた声。
カルファルだった。
「おい、シャグラン!」
「カ、カルファルか、お、脅かすなよ」
本当にカルファルなのか、亡霊なのか、まだ半信半疑であったが、私はそちらに近づく。いずれにしろ、この廊下を通らなければ部屋に帰れない。
彼に近づくと、あらゆる亡霊的な要素は消え去った。何かを訴えかけるように思えた表情は誤解で、彼はいつもの薄笑いを浮かべている。廊下は暗かったが、カルファルは蝋燭の明かりのすぐ傍に立っているので、その歯の白さまではっきりと見えた。
「シルヴァはプラーヌスに殺されたのかと思った。あいつなら、やりかねないだろ? なあ、え?」
彼は私の帰りを待ち伏せしていたようだ。その表情と口調から伺うに、まだ何か語り足りないことがあったようである。亡霊のように、思い残したことがあったということ。
いや、それならば私のほうにもある。カルファルというこの男の過去、プラーヌスとのこれまでの関わり。知りたいこと、訊いておかなければいけないことで溢れている。
「プラーヌスが幼子を手にかけるわけがないよ。それとも君と彼はそんなにも恨み合う関係なのか?」
私はカルファルの前に立ち止まり、返事を返した。彼は私が話しに乗ってきたのを見て、にんまりとほほ笑む。
しかしカルファルは別の話題をしたかったのかもしれない。私のその質問に対しては特に色好い返事を返してこなかった。
「さあな、あいつなら、やりかねないといった話しさ。憎しみなんて関係ない。いわゆる一般論だ。そんなことより」
「いや、ちょっと待ってくれ、カルファル。もうこれ以上、誤魔化すのはやめてくれ。プラーヌスとのこと、何もかも全て話して欲しい」
「何だって? 俺が何を誤魔化したというんだ?」
カルファルが本当に面倒そうな表情を浮かべる。
「君とプラーヌスとの間で何があったのか聞きたいのさ。君はわざわざこんな僻地の塔にまで、彼を訪れてきた。そしてプラーヌスは君の訪問を、とても不快そうに迎えた。因縁浅からぬ関係だってことくらい、誰が見てもわかるだろ?」
「ああ、そうかもしれないな。過去、俺たちの間に随分と深刻な対立があるように、お前には見えたのかもしれないな」
そう言うと、カルファルが蝋燭を吹き消した。彼の表情が闇に消える。しかしすぐにまた光が戻った。彼が魔法で蝋燭に火を灯したのだ。
その魔法の力にたじろぎながらも、私はさっきと同じ迫力でカルファルに言う。
「当然だ。それを僕は知りたいと言っているんだ」
「どうやらお前は勘違いしているようだな。だったら、はっきりと言っておいてやる。プラーヌスと俺との間に、何の因縁もないぜ。本当に何一つ」
カルファルは一般的な距離感を無視して、息がかかりそうになるくらい私に近づいてくる。普段から彼にはこのような癖があるが、今日は更にその距離が近い。
「なあ、カルファル! 本当にいい加減にして欲しい」
彼が近づいてくると思わず離れてしまう私であるが、このときだけは逆に体当たりでもするかのように近づいてやった。
本当に心の底から呆れてしまったからだ。この程度の言い訳で私の質問をうやむやに出来ると彼が思い込んでいることに。随分と甘く見られたものである。
しかしそれは同時に、言うも憚られるような深く暗い因縁があるという証拠なのではないのか。
カルファルが開けっ広げな性格であることは間違いないと思うが、プラーヌスとの過去の話しだけは口にしない。
それこそがその証拠。
「いや、何もないんだ。特筆すべきことなんて何一つ」
カルファルは本当に困ったような表情で言ってきた。
「もう、その誤魔化しに騙されるつもりはない。今日こそはっきりさせたい」
「何もないのに、それを証明するのは難しいな。本当に困ったものだ。お前をどうやって納得させるべきか」
「君たちが再会したとき、プラーヌスは君を見て表情を曇らせていた。君も彼に対して、何か意味ありげな会話をしていた。何もないはずがないじゃないか」
「ああ、もちろん知り合いだよ。俺はあいつのことをよく知っている。プラーヌスは凄い魔法使いだ。あいつと接したことのある人間は、誰だって奴のことを忘れることは出来なくなるだろう。そんなレベルの男だ。俺があいつに対して、屈折した感情は抱いていることは事実さ。しかしそんなもの、あいつと出会ったことがある魔法使い全てが抱く感情に過ぎない」
カルファルは少し迷った表情を浮かべたが、すぐにそれを引っ込めた。
「そうだな、この塔ともすぐにおさらばだ。俺はアリューシアを連れて出ていくからな。だから最後に、お前に本当のことを全て教えてやるよ」
「ああ」
ようやく決心したのか。私は彼の言葉を待つ。
「本当に面倒だけど、しかし俺はお前が嫌いじゃない。だから特別に教えるんだぜ」
勿体ぶった態度ではあったが、カルファルはついに語り出した。
カルファルだった。
「おい、シャグラン!」
「カ、カルファルか、お、脅かすなよ」
本当にカルファルなのか、亡霊なのか、まだ半信半疑であったが、私はそちらに近づく。いずれにしろ、この廊下を通らなければ部屋に帰れない。
彼に近づくと、あらゆる亡霊的な要素は消え去った。何かを訴えかけるように思えた表情は誤解で、彼はいつもの薄笑いを浮かべている。廊下は暗かったが、カルファルは蝋燭の明かりのすぐ傍に立っているので、その歯の白さまではっきりと見えた。
「シルヴァはプラーヌスに殺されたのかと思った。あいつなら、やりかねないだろ? なあ、え?」
彼は私の帰りを待ち伏せしていたようだ。その表情と口調から伺うに、まだ何か語り足りないことがあったようである。亡霊のように、思い残したことがあったということ。
いや、それならば私のほうにもある。カルファルというこの男の過去、プラーヌスとのこれまでの関わり。知りたいこと、訊いておかなければいけないことで溢れている。
「プラーヌスが幼子を手にかけるわけがないよ。それとも君と彼はそんなにも恨み合う関係なのか?」
私はカルファルの前に立ち止まり、返事を返した。彼は私が話しに乗ってきたのを見て、にんまりとほほ笑む。
しかしカルファルは別の話題をしたかったのかもしれない。私のその質問に対しては特に色好い返事を返してこなかった。
「さあな、あいつなら、やりかねないといった話しさ。憎しみなんて関係ない。いわゆる一般論だ。そんなことより」
「いや、ちょっと待ってくれ、カルファル。もうこれ以上、誤魔化すのはやめてくれ。プラーヌスとのこと、何もかも全て話して欲しい」
「何だって? 俺が何を誤魔化したというんだ?」
カルファルが本当に面倒そうな表情を浮かべる。
「君とプラーヌスとの間で何があったのか聞きたいのさ。君はわざわざこんな僻地の塔にまで、彼を訪れてきた。そしてプラーヌスは君の訪問を、とても不快そうに迎えた。因縁浅からぬ関係だってことくらい、誰が見てもわかるだろ?」
「ああ、そうかもしれないな。過去、俺たちの間に随分と深刻な対立があるように、お前には見えたのかもしれないな」
そう言うと、カルファルが蝋燭を吹き消した。彼の表情が闇に消える。しかしすぐにまた光が戻った。彼が魔法で蝋燭に火を灯したのだ。
その魔法の力にたじろぎながらも、私はさっきと同じ迫力でカルファルに言う。
「当然だ。それを僕は知りたいと言っているんだ」
「どうやらお前は勘違いしているようだな。だったら、はっきりと言っておいてやる。プラーヌスと俺との間に、何の因縁もないぜ。本当に何一つ」
カルファルは一般的な距離感を無視して、息がかかりそうになるくらい私に近づいてくる。普段から彼にはこのような癖があるが、今日は更にその距離が近い。
「なあ、カルファル! 本当にいい加減にして欲しい」
彼が近づいてくると思わず離れてしまう私であるが、このときだけは逆に体当たりでもするかのように近づいてやった。
本当に心の底から呆れてしまったからだ。この程度の言い訳で私の質問をうやむやに出来ると彼が思い込んでいることに。随分と甘く見られたものである。
しかしそれは同時に、言うも憚られるような深く暗い因縁があるという証拠なのではないのか。
カルファルが開けっ広げな性格であることは間違いないと思うが、プラーヌスとの過去の話しだけは口にしない。
それこそがその証拠。
「いや、何もないんだ。特筆すべきことなんて何一つ」
カルファルは本当に困ったような表情で言ってきた。
「もう、その誤魔化しに騙されるつもりはない。今日こそはっきりさせたい」
「何もないのに、それを証明するのは難しいな。本当に困ったものだ。お前をどうやって納得させるべきか」
「君たちが再会したとき、プラーヌスは君を見て表情を曇らせていた。君も彼に対して、何か意味ありげな会話をしていた。何もないはずがないじゃないか」
「ああ、もちろん知り合いだよ。俺はあいつのことをよく知っている。プラーヌスは凄い魔法使いだ。あいつと接したことのある人間は、誰だって奴のことを忘れることは出来なくなるだろう。そんなレベルの男だ。俺があいつに対して、屈折した感情は抱いていることは事実さ。しかしそんなもの、あいつと出会ったことがある魔法使い全てが抱く感情に過ぎない」
カルファルは少し迷った表情を浮かべたが、すぐにそれを引っ込めた。
「そうだな、この塔ともすぐにおさらばだ。俺はアリューシアを連れて出ていくからな。だから最後に、お前に本当のことを全て教えてやるよ」
「ああ」
ようやく決心したのか。私は彼の言葉を待つ。
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