私の邪悪な魔法使いの友人2

ロキ

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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子

第七章 14)詐欺師のような

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 カルファルは私の目を興味深そうに覗き込んでくる。井戸の中に小石でも放り投げるときの眼差しだ。それを放り込んだら、どのような反響音が返ってくるのか楽しみしているような。
 そんな風に私を見つめながら、カルファルは言う。

 「さっきから何度も繰り返しているように、俺たちの間に因縁なんて何もない。あいつは、俺のことなんてろくに覚えてないはずだ。覚えていたとしても、名前に心当たりがある程度かもしれない。上級の魔法使いの、自分よりもレベルの低い相手に対する認識なんてその程度のものだよ」

 「だけど、それでは」

 私が口を挟みかけると、カルファルはそれを手で制してくる。

 「ああ、しかしプラーヌスは俺を見て、本当に不愉快そうにしていた。あれはいわば、あいつが俺の演技に嵌った結果さ。あいつが人の過去をいじりたがる魔法使いだってことは知っている。その力を直接、目の当たりにもした。しかし記憶を操る魔法を好んで使う魔法使いは、その引き換えに自分の記憶の一部を失う、らしい。当然のこと、どの記憶を失ったのかはわからない。プラーヌスにとって過去は曖昧なものなんだ。俺はそこにつけ込んだ。あたかも、俺たちの間に何かあったかのように演じた」

 「演じただって?」

 「ああ、そうさ。上手い演技だったろ? そして見事に引っかかってくれたわけさ」

 「君はあのプラーヌスを上手く手玉に取ったって言いたいのか?」

 私は彼を馬鹿にするように言い返す。

 「いや、違う、騙されたのはプラーヌスではなく、お前だよ」

 カルファルはパチリと軽快に指を鳴らしながら、私を指差した。

 「え?」

 私は肩を小突かれたかのように、二歩、三歩と後ろに後退する。

 「お前は今の今まで、俺をこの塔の重要な客だと思い込んだわけだろ? プラーヌスの旧友だと思い、俺に一目置いていた。そのお陰で快適な部屋も提供してもらったし、美味しい料理にもありつけた。更にアリューシアとの出会いまで仲介してもらった。その作戦は驚くほど上手くいった。もう満足だよ」

 「何だって?」

 彼は何を言っているのだ。私は額を押さえながら、これまでのことを思い出そうとする。カルファルと初めて出会った場面。カルファルがプラーヌスと相対していたときの表情。

 「ちょっと待ってくれ、カルファル」

 私が言うと、何も待つ必要はないとばかりに彼は続ける。

 「過去にあいつと仕事をしたことはある。プラーヌスがまだまだ無名な頃だ。他に何人かの魔法使いと共に、ある戦いに傭兵とした雇われたんだ。あいつの魔法を見て、俺は魔法使いでいることが馬鹿らしくなった。それほど凄い魔法使いだった。それ以来、俺はあいつを忘れたことはない。あの出会いは俺にとって衝撃だった。しかしプラーヌスは俺のことなんて覚えてないだろうな」

 プラーヌスはカルファルのことを覚えていないだって? 

 ああ、確かにそうかもしれない。私はプラーヌスにカルファルのことを尋ねた。その度にプラーヌスは不快そうに言っていたではないか。「カルファル? そんな奴のことは知らない。適当にあしらって、さっさと追い出せ」と。

 その言葉に偽りはなかったわけだ。しかし私は勝手に解釈していた。プラーヌスがカルファルのことを話そうとしないのは、二人の間で何か深刻な出来事が生じていたことが原因だって。それくらいカルファルは彼にとって重要な人物だと。

 しかしそういうことだったのか・・・。

 「き、君はまるで、詐欺師のようだな」

 私は塔の廊下の石畳の床を見つめながら言った。この辺りの廊下は随分、汚れているようだ。掃除夫たちに言って、念入りに掃除してもらわなければいけない。

 「おいおい、随分な言葉だな。お前は詐欺師の被害者のようだな」

 「呆れたよ」

 「驚いた、の間違いだろ?」

 「確かに驚いた。しかしそれ以上に呆れているのさ」

 「シャグラン、楽しかったぜ、ここでの生活は。俺は明日にでも、アリューシアを連れて、この塔を出る。俺は既に確信しているぜ。アリューシアの心は俺のモノになったことを。彼女はプラーヌスを諦めた」

 カルファルはそう言って、再び目の前の蝋燭を吹き消した。そしてその闇の中、高らかに靴の音を鳴らして、私から離れていく。

 「お前とこうやって話をするのも、これが最後だろうな。別れの挨拶がしたかったのさ、さらばだ、シャグラン!」
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