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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第七章 15)魔法を捨てた理由
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薄暗い回廊を、カルファルが歩いている。その影が両側の壁にゆらりと映っている。実体より少し大きい影の形。
もちろん私の影も同じような映り方をしているのだろう。しかし私の影を見る者は誰もいない。
「よくわかった。君の言葉に嘘はないだろう。プラーヌスとの間に、特に語るべき過去なんてなかった。それどころか、プラーヌスは君のことなんて、ろくに覚えていないってこともわかった。僕はすっかり騙されたわけだ」
前を歩くカルファルの背中に、私は声を掛ける。「しかし君はプラーヌスのことを忘れられなかったのだろ?」
「何だって?」とカルファルが後ろを振り向かず、声だけを張り上げて私に応答してきた。「まだ俺に話しがあるのか?」
さらば、もう二度と顔を合わすことはないだろうな。そんなことを言って別れたのだけど、私もカルファルも帰る方向は同じである。それにこっちはまだ、彼に聞きたいことで溢れている。
「カルファル、君はプラーヌスのことが忘れらないくらい、彼の魔法の凄まじさに衝撃を感じた。だからここに来た」
「ああ、そうさ、プラーヌスの魔法は俺の心に特別な傷跡を残した。俺があいつに執着していることは認めているじゃないか!」
カルファルの声が反響して、少し大きめのボリュームで聞こえてくる。
「確か君は、魔法使いとして栄達することを諦めたとか言っていたよな?」
「言ったな。俺は魔法を捨てた。そして女と生きることにした。その選択を後悔していない。今の俺は、世界で一番幸せな男の一人だ。少なくとも、プラーヌスよりは幸せ。あいつの人生は荒漠としている野原のようだ。あるいは朽ちかけた廃墟。すなわち孤独」
「君が魔法を捨てた理由、それがプラーヌスとの出会いだった?」
カルファルが足を止めた。いや、私が声を掛けてから、カルファルの歩調は少しずつ緩まっていた。私が追いつく頃に止まるつもりだったのだろう。
「お前は画家だよな? なぜおまえは絵を描き続けていられるんだ? お前よりも才能豊かな天才たちがゴロゴロいるだろ? それのなのに! それともお前がそっち側の人間なのか? 凡庸な画家たちを絶望させるほうかい?」
「い、いいや、並みの画家だよ」
別に謙遜でもなく、それが私の評価であろう。凡庸で平凡な画家。
「だとすればお前の絵など、誰も喜んでは求めないわけだな。お前に仕事を頼む依頼人は妥協しているからに過ぎない。もっと腕の良い画家に仕事を頼みたいが、そいつはギャラが高く、しかも予約でいっぱい。仕方なくお前に仕事を頼んだ」
カルファルが再び歩き出す。私はわざと遅れてついて行き、彼の背中を追うことにする。
「そうさ。それでも何とか画家として生きていられる。それで満足している」
「諦めることが誠実だと思うぜ、俺は」
「ちょっと待て。それが僕のさっきの質問への回答なのか?」
「お前の質問? どんな質問をされていたのかすっかり忘れけど」
「・・・君が魔法を捨てた理由、それが聞きたかったんだよ」
「ああ、そうだったな。だったらそれがお前の質問への答えってことでいいだろう。まあ、魔法使いとして生きるのと、画家として生きること、その二つを比べて語るのは間違いかもしれない。魔法使いとして生きるのは、あまりに犠牲が大きい。適当に折り合いをつけなければ、どこまでもその深い闇に引きずり込まれてしまう。俺はその辺りのタイミングを見極めるのが、得意だったってことだ。俺はもう闇とは決別した。シルヴァと一緒に、俺は光の中で生きる」
「プラーヌスと出会って、魔法を諦めて、そして君はシルヴァの母となる女性に出会った?」
「お前は俺の過去に、そんなに興味があるのか?」
カルファルは妙に明るい口調で言ってきた。
「ああ、興味がある。だって今のところ、君はただの負け犬にしか思えないからね。凄い魔法使いに出会って、自分の可能性に絶望し、魔法を諦めたなんて告白。君を蔑んでしまいそうだ」
「なかなか挑発的なことを言うじゃないか。俺に騙されたことを随分根に持っているようだな」
「そうなのかもしれないね」
「仕方がない、俺の過去を少しだけ話してやるか。シルヴァが生まれたあの日のこと」
もちろん私の影も同じような映り方をしているのだろう。しかし私の影を見る者は誰もいない。
「よくわかった。君の言葉に嘘はないだろう。プラーヌスとの間に、特に語るべき過去なんてなかった。それどころか、プラーヌスは君のことなんて、ろくに覚えていないってこともわかった。僕はすっかり騙されたわけだ」
前を歩くカルファルの背中に、私は声を掛ける。「しかし君はプラーヌスのことを忘れられなかったのだろ?」
「何だって?」とカルファルが後ろを振り向かず、声だけを張り上げて私に応答してきた。「まだ俺に話しがあるのか?」
さらば、もう二度と顔を合わすことはないだろうな。そんなことを言って別れたのだけど、私もカルファルも帰る方向は同じである。それにこっちはまだ、彼に聞きたいことで溢れている。
「カルファル、君はプラーヌスのことが忘れらないくらい、彼の魔法の凄まじさに衝撃を感じた。だからここに来た」
「ああ、そうさ、プラーヌスの魔法は俺の心に特別な傷跡を残した。俺があいつに執着していることは認めているじゃないか!」
カルファルの声が反響して、少し大きめのボリュームで聞こえてくる。
「確か君は、魔法使いとして栄達することを諦めたとか言っていたよな?」
「言ったな。俺は魔法を捨てた。そして女と生きることにした。その選択を後悔していない。今の俺は、世界で一番幸せな男の一人だ。少なくとも、プラーヌスよりは幸せ。あいつの人生は荒漠としている野原のようだ。あるいは朽ちかけた廃墟。すなわち孤独」
「君が魔法を捨てた理由、それがプラーヌスとの出会いだった?」
カルファルが足を止めた。いや、私が声を掛けてから、カルファルの歩調は少しずつ緩まっていた。私が追いつく頃に止まるつもりだったのだろう。
「お前は画家だよな? なぜおまえは絵を描き続けていられるんだ? お前よりも才能豊かな天才たちがゴロゴロいるだろ? それのなのに! それともお前がそっち側の人間なのか? 凡庸な画家たちを絶望させるほうかい?」
「い、いいや、並みの画家だよ」
別に謙遜でもなく、それが私の評価であろう。凡庸で平凡な画家。
「だとすればお前の絵など、誰も喜んでは求めないわけだな。お前に仕事を頼む依頼人は妥協しているからに過ぎない。もっと腕の良い画家に仕事を頼みたいが、そいつはギャラが高く、しかも予約でいっぱい。仕方なくお前に仕事を頼んだ」
カルファルが再び歩き出す。私はわざと遅れてついて行き、彼の背中を追うことにする。
「そうさ。それでも何とか画家として生きていられる。それで満足している」
「諦めることが誠実だと思うぜ、俺は」
「ちょっと待て。それが僕のさっきの質問への回答なのか?」
「お前の質問? どんな質問をされていたのかすっかり忘れけど」
「・・・君が魔法を捨てた理由、それが聞きたかったんだよ」
「ああ、そうだったな。だったらそれがお前の質問への答えってことでいいだろう。まあ、魔法使いとして生きるのと、画家として生きること、その二つを比べて語るのは間違いかもしれない。魔法使いとして生きるのは、あまりに犠牲が大きい。適当に折り合いをつけなければ、どこまでもその深い闇に引きずり込まれてしまう。俺はその辺りのタイミングを見極めるのが、得意だったってことだ。俺はもう闇とは決別した。シルヴァと一緒に、俺は光の中で生きる」
「プラーヌスと出会って、魔法を諦めて、そして君はシルヴァの母となる女性に出会った?」
「お前は俺の過去に、そんなに興味があるのか?」
カルファルは妙に明るい口調で言ってきた。
「ああ、興味がある。だって今のところ、君はただの負け犬にしか思えないからね。凄い魔法使いに出会って、自分の可能性に絶望し、魔法を諦めたなんて告白。君を蔑んでしまいそうだ」
「なかなか挑発的なことを言うじゃないか。俺に騙されたことを随分根に持っているようだな」
「そうなのかもしれないね」
「仕方がない、俺の過去を少しだけ話してやるか。シルヴァが生まれたあの日のこと」
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