7 / 188
シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第一章 7)貴族
しおりを挟む
この巨大な塔に、部屋は余るほどにあって、特に東の塔には空き室が並んでいる。私はそこにアリューシアたち一行を案内する。
とはいえ、部屋はたくさんあるのだけど、ベッドやテーブルまできちんと用意してある部屋はまだ少なかった。
またアリューシアに文句を言われるのだろうと覚悟しながらそのことを告げると、むしろ彼女は私を不思議そうに見つめながら言ってくる。
「ベッドも枕もタンスも、全てお屋敷から運んできたわ。必要なのは快適な部屋だけよ。だからこの塔で最も日当たりが良くて、風通しの良い部屋にしてね。出来れば、プラーヌス様のお部屋の近くで」
「そうなんだ、それは安心したよ」
ベッドもタンスも持ってくるなんて、ほとんど移住してきたようなものではないかと思わなくもなかったが、しかしネチネチと嫌みを言われるよりもマシだ。
「でも、プラーヌスの部屋の近くは無理だよ」
私は言う。
「どうしてよ?」
「どうしてだって? プラーヌスの性格を知っているのなら、そんなこと説明するまでもないって思うけど」
少し嫌みな口調でそう言ってやると、アリューシアは言い訳するように早口になった。
「そ、そうよね、プラーヌス様は魔法の研究で忙しいもんね。近くに人がいれば気が散るわ。いくら私でも」
「そうだよ、本気でプラーヌスから魔法の教えを請いたいのならば、彼を怒らせないことが第一だ」
この少女の弟子入り志願を応援するつもりはないのだけど、私は多少、アドバイスめいたことを言ってやる。
むしろ、もっと無礼を働くがままにして、プラーヌスを本気で怒らせて、さっさと追い出したほうが面倒は少なくて済むかもしれないとも思う。
しかしこのような珍しい客を、冷たくあしらうのも気が引ける。
「はっきり言うけど、このままでは君は、恐らくプラーヌスに話しも聞いてもらえないで、追い出される可能性が高い」
「あなたはプラーヌス様の友人なんでしょ? 口添えをして欲しいのだけど」
私の腰ほどの身長しかないアリューシアは、私を見上げているくせに、それはもう横柄な口調で言ってくる。
「いや、僕の意見など、彼が聞くわけがないよ」
「もし上手く口添えしてくれたら、ご褒美に金貨をあげるけど」
「いらないよ、そんなもの!」
馬鹿にするのも好い加減にするのだ。だから貴族というのは!
彼らは金や権力で、人の心をどうにでも操られると思っているに違いない。
私がアリューシアに向かって少し声を荒げると、それを見咎めてだろう、召使いたちが威圧するかのように私を取り囲んできた。
お嬢様の有難い言葉をどうして喜んで受け止めないんだ! そんな表情で私を睨んでくるのだ。
私は彼らの迫力にたじろぎながら咳払いする。
「と、とにかく、もう一度、プラーヌスと会えるようには取り計らう。だから、あまり勝手に塔の中を歩き回らないで欲しい。今度、どっかの部屋に勝手に入りでもしたら、そのときは君たちが、魔法でどこかに飛ばされる番だろう」
召使いたちの迫力にたじろぎながらも、しかし毅然とした態度で言い渡す。
「いいわ、その程度の約束はお安い御用よ」
アリューシアが頷くのを見て、召使いたちも素直にその動作に倣った。
「私が探しているのはプラーヌス様のお姿だけだから。それ以外の物を漁るため、この塔をうろうろしたりしないわ、当然よ」
よし、約束だぞ。
私はアリューシア一行を客室に案内した。アリューシアだけでなく、侍女や召使いまでもが個室を要求してきたから、それにも応えてやった。
外の馬車に積まれている家具や荷物も、それぞれの部屋に運び込んだ。
さすがに名門貴族のボーアホーブ家の持ち物である。荷物は本当に多く、かつ高価そうなもので溢れていた。余りにも荷物が多くて、私たちの塔の召使いたちにも手伝わせなければいけないほどだった。
それを全て運び込むのは夜遅くまでかかったが、とにかく全ての作業は無事終了した。
この夜は、もうこれ以上の面倒事は起きなかった。長旅の疲れからか、アリューシアたちは静かに部屋で過ごしたようだ。
しかし本当の地獄が始まったのは、次の日からだった。
アリューシア一行の我儘がエスカレートするからではない。
プラーヌスの言った通り、本当に驚くべき数の客が、この塔に殺到してきたからだ。
とはいえ、部屋はたくさんあるのだけど、ベッドやテーブルまできちんと用意してある部屋はまだ少なかった。
またアリューシアに文句を言われるのだろうと覚悟しながらそのことを告げると、むしろ彼女は私を不思議そうに見つめながら言ってくる。
「ベッドも枕もタンスも、全てお屋敷から運んできたわ。必要なのは快適な部屋だけよ。だからこの塔で最も日当たりが良くて、風通しの良い部屋にしてね。出来れば、プラーヌス様のお部屋の近くで」
「そうなんだ、それは安心したよ」
ベッドもタンスも持ってくるなんて、ほとんど移住してきたようなものではないかと思わなくもなかったが、しかしネチネチと嫌みを言われるよりもマシだ。
「でも、プラーヌスの部屋の近くは無理だよ」
私は言う。
「どうしてよ?」
「どうしてだって? プラーヌスの性格を知っているのなら、そんなこと説明するまでもないって思うけど」
少し嫌みな口調でそう言ってやると、アリューシアは言い訳するように早口になった。
「そ、そうよね、プラーヌス様は魔法の研究で忙しいもんね。近くに人がいれば気が散るわ。いくら私でも」
「そうだよ、本気でプラーヌスから魔法の教えを請いたいのならば、彼を怒らせないことが第一だ」
この少女の弟子入り志願を応援するつもりはないのだけど、私は多少、アドバイスめいたことを言ってやる。
むしろ、もっと無礼を働くがままにして、プラーヌスを本気で怒らせて、さっさと追い出したほうが面倒は少なくて済むかもしれないとも思う。
しかしこのような珍しい客を、冷たくあしらうのも気が引ける。
「はっきり言うけど、このままでは君は、恐らくプラーヌスに話しも聞いてもらえないで、追い出される可能性が高い」
「あなたはプラーヌス様の友人なんでしょ? 口添えをして欲しいのだけど」
私の腰ほどの身長しかないアリューシアは、私を見上げているくせに、それはもう横柄な口調で言ってくる。
「いや、僕の意見など、彼が聞くわけがないよ」
「もし上手く口添えしてくれたら、ご褒美に金貨をあげるけど」
「いらないよ、そんなもの!」
馬鹿にするのも好い加減にするのだ。だから貴族というのは!
彼らは金や権力で、人の心をどうにでも操られると思っているに違いない。
私がアリューシアに向かって少し声を荒げると、それを見咎めてだろう、召使いたちが威圧するかのように私を取り囲んできた。
お嬢様の有難い言葉をどうして喜んで受け止めないんだ! そんな表情で私を睨んでくるのだ。
私は彼らの迫力にたじろぎながら咳払いする。
「と、とにかく、もう一度、プラーヌスと会えるようには取り計らう。だから、あまり勝手に塔の中を歩き回らないで欲しい。今度、どっかの部屋に勝手に入りでもしたら、そのときは君たちが、魔法でどこかに飛ばされる番だろう」
召使いたちの迫力にたじろぎながらも、しかし毅然とした態度で言い渡す。
「いいわ、その程度の約束はお安い御用よ」
アリューシアが頷くのを見て、召使いたちも素直にその動作に倣った。
「私が探しているのはプラーヌス様のお姿だけだから。それ以外の物を漁るため、この塔をうろうろしたりしないわ、当然よ」
よし、約束だぞ。
私はアリューシア一行を客室に案内した。アリューシアだけでなく、侍女や召使いまでもが個室を要求してきたから、それにも応えてやった。
外の馬車に積まれている家具や荷物も、それぞれの部屋に運び込んだ。
さすがに名門貴族のボーアホーブ家の持ち物である。荷物は本当に多く、かつ高価そうなもので溢れていた。余りにも荷物が多くて、私たちの塔の召使いたちにも手伝わせなければいけないほどだった。
それを全て運び込むのは夜遅くまでかかったが、とにかく全ての作業は無事終了した。
この夜は、もうこれ以上の面倒事は起きなかった。長旅の疲れからか、アリューシアたちは静かに部屋で過ごしたようだ。
しかし本当の地獄が始まったのは、次の日からだった。
アリューシア一行の我儘がエスカレートするからではない。
プラーヌスの言った通り、本当に驚くべき数の客が、この塔に殺到してきたからだ。
0
あなたにおすすめの小説
転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す
RINFAM
ファンタジー
なんの罰ゲームだ、これ!!!!
あああああ!!!
本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!
そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!
一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!
かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。
年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。
4コマ漫画版もあります。
【完結】エレクトラの婚約者
buchi
恋愛
しっかり者だが自己評価低めのエレクトラ。婚約相手は年下の美少年。迷うわー
エレクトラは、平凡な伯爵令嬢。
父の再婚で家に乗り込んできた義母と義姉たちにいいようにあしらわれ、困り果てていた。
そこへ父がエレクトラに縁談を持ち込むが、二歳年下の少年で爵位もなければ金持ちでもない。
エレクトラは悩むが、義母は借金のカタにエレクトラに別な縁談を押し付けてきた。
もう自立するわ!とエレクトラは親友の王弟殿下の娘の侍女になろうと決意を固めるが……
11万字とちょっと長め。
謙虚過ぎる性格のエレクトラと、優しいけど訳アリの高貴な三人の女友達、実は執着強めの天才肌の婚約予定者、扱いに困る義母と義姉が出てきます。暇つぶしにどうぞ。
タグにざまぁが付いていますが、義母や義姉たちが命に別状があったり、とことんひどいことになるザマァではないです。
まあ、そうなるよね〜みたいな因果応報的なざまぁです。
【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する
影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。
※残酷な描写は予告なく出てきます。
※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。
※106話完結。
半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜
侑子
恋愛
小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。
父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。
まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。
クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。
その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……?
※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。
さようなら、私の愛したあなた。
希猫 ゆうみ
恋愛
オースルンド伯爵家の令嬢カタリーナは、幼馴染であるロヴネル伯爵家の令息ステファンを心から愛していた。いつか結婚するものと信じて生きてきた。
ところが、ステファンは爵位継承と同時にカールシュテイン侯爵家の令嬢ロヴィーサとの婚約を発表。
「君の恋心には気づいていた。だが、私は違うんだ。さようなら、カタリーナ」
ステファンとの未来を失い茫然自失のカタリーナに接近してきたのは、社交界で知り合ったドグラス。
ドグラスは王族に連なるノルディーン公爵の末子でありマルムフォーシュ伯爵でもある超上流貴族だったが、不埒な噂の絶えない人物だった。
「あなたと遊ぶほど落ちぶれてはいません」
凛とした態度を崩さないカタリーナに、ドグラスがある秘密を打ち明ける。
なんとドグラスは王家の密偵であり、偽装として遊び人のように振舞っているのだという。
「俺に協力してくれたら、ロヴィーサ嬢の真実を教えてあげよう」
こうして密偵助手となったカタリーナは、幾つかの真実に触れながら本当の愛に辿り着く。
ガチャから始まる錬金ライフ
あに
ファンタジー
河地夜人は日雇い労働者だったが、スキルボールを手に入れた翌日にクビになってしまう。
手に入れたスキルボールは『ガチャ』そこから『鑑定』『錬金術』と手に入れて、今までダンジョンの宝箱しか出なかったポーションなどを冒険者御用達の『プライド』に売り、億万長者になっていく。
他にもS級冒険者と出会い、自らもS級に上り詰める。
どんどん仲間も増え、自らはダンジョンには行かず錬金術で飯を食う。
自身の本当のジョブが召喚士だったので、召喚した相棒のテンとまったり、時には冒険し成長していく。
【完結】平民聖女の愛と夢
ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。
【完結90万pt感謝】大募集! 王太子妃候補! 貴女が未来の国母かもしれないっ!
宇水涼麻
ファンタジー
ゼルアナート王国の王都にある貴族学園の玄関前には朝から人集りができていた。
女子生徒たちが色めき立って、男子生徒たちが興味津々に見ている掲示物は、求人広告だ。
なんと求人されているのは『王太子妃候補者』
見目麗しい王太子の婚約者になれるかもしれないというのだ。
だが、王太子には眉目秀麗才色兼備の婚約者がいることは誰もが知っている。
学園全体が浮足立った状態のまま昼休みになった。
王太子であるレンエールが婚約者に詰め寄った。
求人広告の真意は?広告主は?
中世ヨーロッパ風の婚約破棄ものです。
お陰様で完結いたしました。
外伝は書いていくつもりでおります。
これからもよろしくお願いします。
表紙を変えました。お友達に描いていただいたラビオナ嬢です。
彼女が涙したシーンを思い浮かべ萌えてますwww
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる