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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第七章 20)物音を立てずに
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私は違うニュアンスを込めて、目の前に立っている彼女の名前を三回呼ぶ。最初は驚きの感情。二回目はどうしてここに来たのかという質問調で語尾を上げて。そして最後は、とにかく彼女がここに居るという事実を受け止めた独り言のような囁き。つまり、このような感じ。
「アリューシア! アリューシア? アリューシア・・・」
「ど、どうしよう、シャグラン!」
アリューシアは私の脇をすり抜けて、部屋の中に入ってきた。そして、さっきまで私が眠っていた寝台に、どすんと腰を下ろす。
私の体温が残っているであろう、その寝床。しかしアリューシアは、そのようなことを気にする素振りも見せず、何かとても深刻な表情で部屋の床の一点を見つめ出す。もちろんその床に興味があるわけではなくて、彼女は自分の心の中のどこかを見つめているのであろう。
「な、何事だよ、アリューシア」
私は部屋の扉を開けっ放しにしたまま、彼女のほうを向き直る。
「何事だよじゃないわ! 突然、あいつが私の部屋に入ってきた」
水に濡れた犬のように、アリューシアは髪を振り乱して頭をブルブルと振る。
「な、何だって?」
これは扉を閉じておいたほうがいい話題なのか。私は後ろ手で扉の取っ手をぐいっと引っ張る。
「えーと、あいつってカルファルか?」
「そんな名前だっけ」
アリューシアが天井を見上げた。私はゴクリとつばを飲み込む。やはり恐れていたことが起きた。私はアリューシアの身体を探るように見つめてしまう。
彼女はいつもの恰好。ドレスというには格式張ってはおらず、ずっとラフな着心地を感じさせるが、布が幾重にも折り重なった細工の凝った衣服。
ボーアホーブ家の裕福さがそれに結晶しているようだ。昨日は薄いピンク色だったが、今日は薄い青色。彼女はいつも、このような高級な衣服を普段着として、日替わりに着こなしている。
アリューシアが大人の貴婦人のように腕組みしながら言った。
「少しの物音を立てずに、、あいつが部屋に来たの。多分、あの魔法を使ったのだと思う」
「魔法?」
「そのとき部屋で独りだったの。気がついたら、あいつが私のすぐ後ろに立っていた。で、ギュッと身体を抱きすくめられて。・・・俺を信じろとか言われて」
「な、何だって!」
「キスされかけたんだけど」
「キ、ス」
「はあー」
アリューシアはため息を吐く。
「そ、それで?」
「え?」
彼女は私のその質問に意表を突かれたほうな表情を返す。
「え?」
私も同じように驚いてしまう。アリューシアとは別の理由で。
「な、何?」
「もしかして、それで終わり?」
「う、うん。え?」
「え?」
「キス、されかけた?」
されてもいないのか。
「大きな声を出すわって言ったら、出してみろよ、俺は魔法でそれをかき消せるんだぜって。で、私は大声を出したのよ。キャー、助けてって。どうなったと思う?」
アリューシアが私に質問を投げ掛けてくる。この態度は随分の余裕を感じさせる。
「どうなったかだって?」
知るかよ、そんなこと。
「普通に声が出たの。魔法を発動させるのが遅れたみたい。カルファルはすぐに部屋を出ていったけど、もし魔法が成功していたらさ、私・・・」
「アリューシア! アリューシア? アリューシア・・・」
「ど、どうしよう、シャグラン!」
アリューシアは私の脇をすり抜けて、部屋の中に入ってきた。そして、さっきまで私が眠っていた寝台に、どすんと腰を下ろす。
私の体温が残っているであろう、その寝床。しかしアリューシアは、そのようなことを気にする素振りも見せず、何かとても深刻な表情で部屋の床の一点を見つめ出す。もちろんその床に興味があるわけではなくて、彼女は自分の心の中のどこかを見つめているのであろう。
「な、何事だよ、アリューシア」
私は部屋の扉を開けっ放しにしたまま、彼女のほうを向き直る。
「何事だよじゃないわ! 突然、あいつが私の部屋に入ってきた」
水に濡れた犬のように、アリューシアは髪を振り乱して頭をブルブルと振る。
「な、何だって?」
これは扉を閉じておいたほうがいい話題なのか。私は後ろ手で扉の取っ手をぐいっと引っ張る。
「えーと、あいつってカルファルか?」
「そんな名前だっけ」
アリューシアが天井を見上げた。私はゴクリとつばを飲み込む。やはり恐れていたことが起きた。私はアリューシアの身体を探るように見つめてしまう。
彼女はいつもの恰好。ドレスというには格式張ってはおらず、ずっとラフな着心地を感じさせるが、布が幾重にも折り重なった細工の凝った衣服。
ボーアホーブ家の裕福さがそれに結晶しているようだ。昨日は薄いピンク色だったが、今日は薄い青色。彼女はいつも、このような高級な衣服を普段着として、日替わりに着こなしている。
アリューシアが大人の貴婦人のように腕組みしながら言った。
「少しの物音を立てずに、、あいつが部屋に来たの。多分、あの魔法を使ったのだと思う」
「魔法?」
「そのとき部屋で独りだったの。気がついたら、あいつが私のすぐ後ろに立っていた。で、ギュッと身体を抱きすくめられて。・・・俺を信じろとか言われて」
「な、何だって!」
「キスされかけたんだけど」
「キ、ス」
「はあー」
アリューシアはため息を吐く。
「そ、それで?」
「え?」
彼女は私のその質問に意表を突かれたほうな表情を返す。
「え?」
私も同じように驚いてしまう。アリューシアとは別の理由で。
「な、何?」
「もしかして、それで終わり?」
「う、うん。え?」
「え?」
「キス、されかけた?」
されてもいないのか。
「大きな声を出すわって言ったら、出してみろよ、俺は魔法でそれをかき消せるんだぜって。で、私は大声を出したのよ。キャー、助けてって。どうなったと思う?」
アリューシアが私に質問を投げ掛けてくる。この態度は随分の余裕を感じさせる。
「どうなったかだって?」
知るかよ、そんなこと。
「普通に声が出たの。魔法を発動させるのが遅れたみたい。カルファルはすぐに部屋を出ていったけど、もし魔法が成功していたらさ、私・・・」
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