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1廃墟
#3
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その少女は心に深い喪失感を抱えていた。その感覚の正体を探して廃都市をあてどもなくさまよっていたところ、運悪くこの異形のテリトリーに侵入した。そして巡り遭ってしまった。
(なんか表が騒がしいような……ん?え!?……!!?)
今夜のねぐら候補を空き巣よろしく物色していた少女は背後から迫ってくる猛烈に異様な気配に気がついた。
「……っ!」
思わず息を呑む。見上げるほどに巨大な体躯を持つそれは、しかし天然自然の動物とよぶにはあまりにも異質だった。
まず目を引くのは背中に生えているファンタジー生物のような結晶体だ。まるで鼓動のように規則的な点滅を繰り返しぼんやりと輝いている。
少女は間近で見る異形に身が竦み、その場から一歩も動けなくなってしまった。
と口以外の部位が判然としない異形の顎がパックリ裂けた。
「パゴオオオオ!!」
少女に向かって咆哮する異形。思わず短い悲鳴を上げ身をすくませる少女。
振り落とされないため異形に打ち込んだジャベリンを支えにして人影が叫ぶ
「おい!ボーッっとしてないではし……ドワッ!?」
女の警告が少女に届くことはなかった。なぜならその声にシンクロするように再び異形が伸ばした腕に捕まり女は地面に引き倒されたからだ。
地面に引き倒された女は小さく呻き声を漏らしたものの「スーツ」が落下の衝撃を緩和したらしく受け身の姿勢からすぐさま立ち上がると、バックパックから鉈を取り出し異形の股下を潜り抜け少女の元に先回りした。そして……
「挨拶抜きにいきなり喰おうとしてんじゃねーよ!!」
少女を捉えかけていた異形の腕を何本もまとめて両断した。
少女は目の前で繰り広げられた一連の光景を前に呆然と立ち尽くした。
その隙だらけの様子に女は舌打ちすると異形に向き直り再び鉈で異形の腕を切り落とした。
「行け!早く!!」
女は少女を振り返り怒鳴る。その言葉に、弾かれたように少女は駆け出した。背後からは女の怒号と異形の絶叫が続いていた。少女は振り返らなかった。
大通りの喧騒を離れ路地裏に逃げ込んだ少女はしばらくして後ろからの騒音が断続的なものになったのに気がついた。
どうやらあのいかつい格好のおば、お姉さんが戦っているようだ。
(どこに逃げれば……)
少女が足を止め考え込んでいると、ふと、ある案内板が目に飛び込んできた。
その案内板には「T市第四シェルターはこちらです」とあった。
「……」
少女は案内板を頼りにシェルターへ走った。
この国は20年前の冬、全世界的に流行した奇病による甚大な被害、それと前後する周辺国の動乱の影響で機能不全に陥りかけたが、当時、陣頭に立ち対処に当たった保健省と政府の英断により行政機関の構造がリビジョンされ、かろうじで社会インフラ崩壊を免れた。
だが、復興予算の配布の遅れと、散発する異形への対応で復興、特に地方都市の復興は10年単位で遅れ、当時は新幹線が通り観光客が押寄せ賑わったこの土ヶ沢市も市街地の復興は全く進んでいなかった。
そのT市の老舗百貨店だった廃ビルの前の大通りを女は現在地点から東南方向の市の中央公園跡に向かっていた。総面積は4.5ヘクタール
地下には市営駐車場を改修した市のシェルターの遺構がある。
女は現時点では「スーツ」のアシスト機能のおかげで異形に余裕で対応できたがバッテリーの残量は既に40%を切っていた。ろそろケリを着けないとヤバい。女は躊躇なく手札を切ることにした。公園跡に止めてある今朝方自分が乗ってきたバンに積んである「ランチャー」で異形を吹っ飛ばそうと考えたのだ。だがこの方法はいわゆる最終手段であり推奨されていない。その理由は二つ。一つは点ではなく面の攻撃なので異形の「核」を確実に破壊しにくい点
二つ目は「核」を破壊できなかったとき異形は半殺し状態(※その隙に逃走できるよ、やったね♪)でその場に留まり時間をおいて再生する点である(映画でよくあるよね)
女はチラッと脳裏で
(あぁもう!こんなことなら今朝無理言ってイツを連れてくればよかった!)
と軽く後悔してから異形を招き寄せる作戦に出た。
異形との距離はおよそ50m弱、女はバンからランチャーの入ったコンテナを取り出すとそれを持って近くの茂みに身を隠した。そして異形が射程に入ったところで一気に撃ちまくる飽和攻撃の構えをとった。
しかし異形は何かを察知したのか?突然進路を変え公園の外れ地下シェルターに繋がる坂道状のスロープへ向かった。
「あ?何なんだよアイツ、いきなりシェルターの方に行きやがって!もう遊んでやらねーぞ!」
愚痴りながらも女は異形のあとを追った。
(なんか表が騒がしいような……ん?え!?……!!?)
今夜のねぐら候補を空き巣よろしく物色していた少女は背後から迫ってくる猛烈に異様な気配に気がついた。
「……っ!」
思わず息を呑む。見上げるほどに巨大な体躯を持つそれは、しかし天然自然の動物とよぶにはあまりにも異質だった。
まず目を引くのは背中に生えているファンタジー生物のような結晶体だ。まるで鼓動のように規則的な点滅を繰り返しぼんやりと輝いている。
少女は間近で見る異形に身が竦み、その場から一歩も動けなくなってしまった。
と口以外の部位が判然としない異形の顎がパックリ裂けた。
「パゴオオオオ!!」
少女に向かって咆哮する異形。思わず短い悲鳴を上げ身をすくませる少女。
振り落とされないため異形に打ち込んだジャベリンを支えにして人影が叫ぶ
「おい!ボーッっとしてないではし……ドワッ!?」
女の警告が少女に届くことはなかった。なぜならその声にシンクロするように再び異形が伸ばした腕に捕まり女は地面に引き倒されたからだ。
地面に引き倒された女は小さく呻き声を漏らしたものの「スーツ」が落下の衝撃を緩和したらしく受け身の姿勢からすぐさま立ち上がると、バックパックから鉈を取り出し異形の股下を潜り抜け少女の元に先回りした。そして……
「挨拶抜きにいきなり喰おうとしてんじゃねーよ!!」
少女を捉えかけていた異形の腕を何本もまとめて両断した。
少女は目の前で繰り広げられた一連の光景を前に呆然と立ち尽くした。
その隙だらけの様子に女は舌打ちすると異形に向き直り再び鉈で異形の腕を切り落とした。
「行け!早く!!」
女は少女を振り返り怒鳴る。その言葉に、弾かれたように少女は駆け出した。背後からは女の怒号と異形の絶叫が続いていた。少女は振り返らなかった。
大通りの喧騒を離れ路地裏に逃げ込んだ少女はしばらくして後ろからの騒音が断続的なものになったのに気がついた。
どうやらあのいかつい格好のおば、お姉さんが戦っているようだ。
(どこに逃げれば……)
少女が足を止め考え込んでいると、ふと、ある案内板が目に飛び込んできた。
その案内板には「T市第四シェルターはこちらです」とあった。
「……」
少女は案内板を頼りにシェルターへ走った。
この国は20年前の冬、全世界的に流行した奇病による甚大な被害、それと前後する周辺国の動乱の影響で機能不全に陥りかけたが、当時、陣頭に立ち対処に当たった保健省と政府の英断により行政機関の構造がリビジョンされ、かろうじで社会インフラ崩壊を免れた。
だが、復興予算の配布の遅れと、散発する異形への対応で復興、特に地方都市の復興は10年単位で遅れ、当時は新幹線が通り観光客が押寄せ賑わったこの土ヶ沢市も市街地の復興は全く進んでいなかった。
そのT市の老舗百貨店だった廃ビルの前の大通りを女は現在地点から東南方向の市の中央公園跡に向かっていた。総面積は4.5ヘクタール
地下には市営駐車場を改修した市のシェルターの遺構がある。
女は現時点では「スーツ」のアシスト機能のおかげで異形に余裕で対応できたがバッテリーの残量は既に40%を切っていた。ろそろケリを着けないとヤバい。女は躊躇なく手札を切ることにした。公園跡に止めてある今朝方自分が乗ってきたバンに積んである「ランチャー」で異形を吹っ飛ばそうと考えたのだ。だがこの方法はいわゆる最終手段であり推奨されていない。その理由は二つ。一つは点ではなく面の攻撃なので異形の「核」を確実に破壊しにくい点
二つ目は「核」を破壊できなかったとき異形は半殺し状態(※その隙に逃走できるよ、やったね♪)でその場に留まり時間をおいて再生する点である(映画でよくあるよね)
女はチラッと脳裏で
(あぁもう!こんなことなら今朝無理言ってイツを連れてくればよかった!)
と軽く後悔してから異形を招き寄せる作戦に出た。
異形との距離はおよそ50m弱、女はバンからランチャーの入ったコンテナを取り出すとそれを持って近くの茂みに身を隠した。そして異形が射程に入ったところで一気に撃ちまくる飽和攻撃の構えをとった。
しかし異形は何かを察知したのか?突然進路を変え公園の外れ地下シェルターに繋がる坂道状のスロープへ向かった。
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