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2 Blue Brain BBomber
#4γ
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「ンンギイィッ!!肩が外れるゥウウッ!!連休に遊べなくなっちゃうよォオオオッ!!!」
少女の拘束から逃れようとリョウスケは必死で抵抗する、だが少女の腕はビクともしない。
「いかん!?」騒然となる一同。
「……ん?」
ふいに少女はリョウスケの首筋に顔を埋めてスンスンと匂いを嗅ぐ。
「フムフム……ワルイニオイジャナイ……デモ、キニナッタ……」
少女は顔を離すと、ニヤリと笑った。
「オマエタチ、ココニ、ナンノヨウダ?」
「はっ!……そ、それは……その……」
リョウスケは助けを求めるようにクロエ達を見る
クロエ達は視線で合図を送り合うと、代表してエミが答える。
「私たちは……そう……直しに来たのよ車を!車がちょっとトラブルって!」
エミは緊張した面持ちで言う。
「……ホントカ~?オマエラ、ビョウインノレンチュウジャナイノカ?イツモハンザイシャミタイニカンシシヤガッテッ!『ワタシタチ』ワゼッタイイカネーゾ!」
「……えっと」
予想外の返答にクロエたちは言葉を失う。
「君の指摘した通り、我々は病院の者だ。ここのオートドッグを使わせて貰いたい。お礼に水と食料を全部差し出そう。君達の存在にも目を瞑る……当面の間はな(ボソッ)」
クマは小声で付け足す。
「エッ?」
「……いや、なんでもない。とにかく、あの車は我々の大切な物なのだ。だから……頼む。少しの間だけ使わせてくれないか?」
クマは真剣な表情で頭を下げる。
「……ワカッタ……アンナイスル、ソノマエニ……シャベルクマ、メズラシイ、アワセタイヒトガイル。ワタシノタイセツナヒト、ショウカイスル」
「会わせたい人?」
クマが小首をかしげた
***
夕霧がしっとりと埠頭を覆っている。
「ひゃー……」
倉庫の裏手、異形化した金属質な光沢の雑草が生い茂る空き地。
そこに座ってくつろぐ異形にクマは困惑した。
「あれが彼女の言う『大事な人』か?どう見てもただの異形にしか見えないんだが」
「私もそう思います」
クマの言葉にクロエは同意する。その異形は鹿のような体躯、頭部には渦巻く炎のような二本の巨大な角が生えている。
「セツメイスルネ」
そう言って少女は懐から取り出した手帳のようなものを開くと、そこに書いてある文章を読み始めた。
「……『私の意識が無くならないうちにこの手記をつけました。』」
「文は普通に読むんだな」
クロエが突っ込むと少女はコクりと頷く。
「『○月○日あれに感染した私はついに体が変異しました。ですが心は人のままでした。理由はわかりません。しかし、T大のハンターは執拗に私の命を狙ってきます。このままではいつ殺されるかも分からない。でも、今の私には妹がいる。この子を残して死ぬわけにはいかないのです』byバーシアの兄より」
「なるほどね……」
クロエは納得すると、隣で腕組みをして立っていたエミに話しかける。
「ねぇ、今の話、どう思う?」
「うーん……あの子の言い方だとまるで私達が悪者に聞こえるけど、実際はどうなんだろう?助けてあげたい気もするんだけど」
「そうだよね」
クロエとエミは少女の方を向く。少女は再び手帳を開いて読み上げる。
「『私は元々この港で入管業務に従事しておりました。ある年の冬、突然上司から特別な『艦』が入港すると聞かされました。上司は書類上は適当なクルーズ船であるように誤魔化せと言っていましたが、私は嫌な予感を覚えてこっそりとその船の情報を閲覧しました。驚いたことにその船は、秘密裏に政府要人を海外へ行き来させる為の政府専用艦でした』」
「うわー、この娘日本語ペラペラじゃん!かわいい!!」
「しっ!」
クロエは興奮気味のエミを黙らせる。
「『「そんな秘密の船がなぜここに?』と疑問を抱きながらも、私はその艦の詳細な情報を知りたくなって更に詳しく調べ始めました。そして……ある恐ろしい事実を知ってしまったのです』」
「……何を知ったの?」
クロエとエミは少女の手帳を覗き込まんばかりに身を乗り出す。
「『それは……』」
ピロリロ~ピロリ~ピロリロ♪ピロリロピロ♪
「……なんだ!?」
突然鳴り響いた炊飯器のアラームのような音色に肝を冷やすクロエ達
「あ、ゴメンナサイ シアガッタミタイ……です、車」
少女は慌てて腕輪型の端末を操作する。クロエ達の使っているモデルより大分古いタイプのようだ、囚人の手枷を連想する無骨なデザインをしている。
「……ミナサン、ここからは説明するより実際に見た方が早いと思います。イッタンフネに戻りましょう。行こうネーベ」
少女がそう声をかけると、二本角の異形がムクリと四本の脚で立ち上がった。
「……vow」
低い声で鳴くと、異形はその長い尾を使って器用にリョウスケを持ち上げた。
「えぇ……」
思わず感嘆の声を上げるクマ。
「ではイキマショウ 改めてあの中をアンナイシマス」
「えぇっと、君は……」
クマが尋ねると、少女は口角を少し上げ、座った目のまま答える。
「ああ、モウシオクレマシタ 私の名前はバーシア、マツムラ バーシアです……」
(……もしかして……笑ってるつもり?)
クロエは困惑したが
「よろしくね、シアちゃん!」
「……ヨロシク」
エミが明るく挨拶したので、クロエもそれに相乗りすることにした。
「こちらこそ」
「……」
「あ、アノ……」
「……何?」
「あのお姉さん、さっきからズットこっち見てるけど、ドウカシタンデスカ?」
「 バーシアちゃんの身に付けてる装備が気になるんだよ 多分 ほら、そのファンタジー作品の兜みたいなメットとかさ」
「ソウナンデスカ?」
「うん、あんまり目 合わさない方がいいよ 勘違いするから……」
「ウィ」
クロエの忠告にバーシアは素直に頷いた。
***
「ハァ?検問を市の内側から突破されたぁ!?どうやって?バカ者ぉ!なにやってんの!」
とある部屋のベッド、生まれたままの姿でシーツにくるまりゲートからの連絡を受けリュウコは怒りを露わにする。
「申し訳ございませんんンンーッ!!」
「謝ってもしょうがないでしょ!どうするのよ!説明しなさい!」
「はいぃぃィイイッ!!モッカ捜索隊を編成中ですゥウウッ!!」
受話器の向こうからは「腕がぁあああぁ」「脚があああぁ」と、うめき声声が聞こえてくる。
「ちっ……使えない奴ら……」
「は?」
「何でもない……とにかくアンタたちは態勢を建て直しなさい」
「了解」
舌打ちするリュウコの傷だらけの細い肩に声が掛かる。
「やれやれ……堪えきれずに飛び出しちまったか……」
リョウコの隣で、同じく裸体の男があくびをする。
「あんたねぇ……他人ごとじゃないんだからね……まったく……」
「わりいわりい……でもまあ、心配はいらないだろ?ヤツがその気なら昨日の時点でこの街も終わってたはずだな……」
「場合によってはバロウも出します」
「頼むぜ……じゃあ、オレはひと眠りさせてもらうわ……あとは任せた……おやすみなちゃぃ……」
男はそれだけ言い残すと目を閉じてしまった。
「ちょっと先輩起きてよ……寝る前にちゃんと説明してくださいよぉ……お願いだから……ちょっと……せ・ん・ぱ・いっ!」
リュウコは男の腕を揺すり続けるが、彼は一向に目を開けない。
「……相変わらずこのヤローは!」
リュウコはスプリングの弱ったベッドからわざとらしく弾みをつけて飛び降りるとバスルームに駆け込んだ。
***
「つまりこの倉庫は元々政府専用艦の倉庫ブロックだったってこと?」
クロエ達は再びあの建物、確かに見ようによっては巨大な船体の一部にも見える建物に戻ってきていた。
「ハイ、ゴウインニ入港した『フネ』ハ 結局ザショウしました。それからしばらくして船体を幾つかノブロックにワケテいろんな連中がモチサッタらしいです。このブロックは余り物……というか、当時のカイタイサギョウに使ったガラクタを放り込んでイッタンでしょうね」
「ふーん、他のブロックはどこに運ばれたの?」
「イロイロデス。でも、船首のアリカは分かります。あれをミテください」
バーシアが舷窓を示す。日がとっぷりと暮れた埠頭の沖合い、規則的に並んだ6つの目を持つ鉄の鯨の骸が波間に揺らめいている。
「あー!あのクジラっぽいやつ!!」
エミは指差す。
「あの頭みたいのが船首区画『エゾ』です ホントウならもっとバラバラになってるハズでしたが ウンガヨカッタんですね」
「え?なんで?」
「当時、あの船に乗っていたヨーロッパの財閥のムスメがNウイルスに感染してて、そのせいで『エゾ』と、この『アイヅ』の区画だけがここにホウキされました お陰で13ネンカン 私とニーサンはここで生きてコラレたのだから……」
「ちょっと待って!え?じゃぁその娘はどうなったの!?」
「……死にマシタ 今頃は天国にいるはずです。まあ、ニホンのカミサマを信じてるかどうかはワカリマセンが」
「ちょ、待てよ その女の人って……まさか 」
リョウスケが青ざめた顔で言う。
「……はい 私達の……おかあさん……デス」
バーシアが目を伏せ、複雑な気持ちを湛えた声音で呟く。
「あぁーッ!」
再び正気度が下がり叫ぶリョウスケ
「……そっか、それで『バーシアちゃん』なんだ」
エミは気が付いた
「ん?」
「名前だよ。『バーシア』っていうのは『バーバ・ヤーガ(魔女)』の事だよね?確か北欧に伝わる魔女の事でしょ」
バーシアが目を丸くして驚く。
「えへへ」
「「えぇ……よくゴソンジですね!アナタ…ミカケニよらずオカルト詳しいんです?」
「まあ、一時期そういう雑誌読んでてさ。それに『バーシア』も別に北欧神話由来じゃないんでしょう?」
「そうですが……」
「まあ、それはいいとして」
「ハイ?」
「あなたも一緒に来ない?ここはヤバいしそれに……何よりあなたの家族はもう死んじゃったんだから、ここに居ても辛いだけだと思うんだけど……」
「エッ?」
「あ、もし良かったらだけど……」
エミは、恐る恐る申し出る。
「ア、アノ……」
「一緒に来る?」
「ウーン」
「ダメかな?」
「……」
バーシアはしばらく沈黙し、そして口を開く。
「ソレはできません。私はこの『アイズ』に残りマス。ここにはアニもいますから」
その時、ぬっと『ランナー』の点検を終え戻ってきたクマが会話に割り込んだ。
「マツムラ バーシアさん 君のお兄さんの力をお借りしたい」
「え?」
「なんで?」
エミとクロエが同時に驚く。
「ふぬん、このままT大に戻ると、道中また『ヤツ』と遭遇してしまうかもしれないでも真面目に結界を迂回してると二、三日かかる」
「なるほど」
「で、あるから『ランナー』とお兄さんの突進で結界をブチ破り、そのままT大まで突入する」
「え?それ大丈夫なの?」
クロエが心配そうな顔をする。
「大丈夫、『ランナー』は元々、都市強襲力が高い設計だし私達3人の防御スキルもある。問題は『ヤツ』だけだ!」
自信満々に胸を張るクマ
「アレって魔王軍なんちゃら衆、みたいなヤツなんですよね?どうしてそんなのがこの電車が一時間に数本しか通らないようなド田舎に……(J○西日本さんゴメンナサイ)」
「分からん 。ただ、奴は恐らく何らかの理由であそこを探っていたようだ。だから駅に来たのか、もしくは駅に来る事自体が目的なのか……」
クマが勿体振って滔々と語る。
「まあ、それはともかく出発しよう ここからは時間との勝負でもある 君たちも呑気してるとヒトに戻れなくなるよ~」
「畜生!ア、クマの科学者めぇええ!」
うぷぷ……グッ……ダジャレやめて……ひっひっ苦しい……漏れ……声が漏れちゃう)
クロエさんはエミさんのオヤジギャクがツボにハマったようです。
「フゥーハハハ!行くぞ諸君!いざ、廃都市えぇ!」
少女の拘束から逃れようとリョウスケは必死で抵抗する、だが少女の腕はビクともしない。
「いかん!?」騒然となる一同。
「……ん?」
ふいに少女はリョウスケの首筋に顔を埋めてスンスンと匂いを嗅ぐ。
「フムフム……ワルイニオイジャナイ……デモ、キニナッタ……」
少女は顔を離すと、ニヤリと笑った。
「オマエタチ、ココニ、ナンノヨウダ?」
「はっ!……そ、それは……その……」
リョウスケは助けを求めるようにクロエ達を見る
クロエ達は視線で合図を送り合うと、代表してエミが答える。
「私たちは……そう……直しに来たのよ車を!車がちょっとトラブルって!」
エミは緊張した面持ちで言う。
「……ホントカ~?オマエラ、ビョウインノレンチュウジャナイノカ?イツモハンザイシャミタイニカンシシヤガッテッ!『ワタシタチ』ワゼッタイイカネーゾ!」
「……えっと」
予想外の返答にクロエたちは言葉を失う。
「君の指摘した通り、我々は病院の者だ。ここのオートドッグを使わせて貰いたい。お礼に水と食料を全部差し出そう。君達の存在にも目を瞑る……当面の間はな(ボソッ)」
クマは小声で付け足す。
「エッ?」
「……いや、なんでもない。とにかく、あの車は我々の大切な物なのだ。だから……頼む。少しの間だけ使わせてくれないか?」
クマは真剣な表情で頭を下げる。
「……ワカッタ……アンナイスル、ソノマエニ……シャベルクマ、メズラシイ、アワセタイヒトガイル。ワタシノタイセツナヒト、ショウカイスル」
「会わせたい人?」
クマが小首をかしげた
***
夕霧がしっとりと埠頭を覆っている。
「ひゃー……」
倉庫の裏手、異形化した金属質な光沢の雑草が生い茂る空き地。
そこに座ってくつろぐ異形にクマは困惑した。
「あれが彼女の言う『大事な人』か?どう見てもただの異形にしか見えないんだが」
「私もそう思います」
クマの言葉にクロエは同意する。その異形は鹿のような体躯、頭部には渦巻く炎のような二本の巨大な角が生えている。
「セツメイスルネ」
そう言って少女は懐から取り出した手帳のようなものを開くと、そこに書いてある文章を読み始めた。
「……『私の意識が無くならないうちにこの手記をつけました。』」
「文は普通に読むんだな」
クロエが突っ込むと少女はコクりと頷く。
「『○月○日あれに感染した私はついに体が変異しました。ですが心は人のままでした。理由はわかりません。しかし、T大のハンターは執拗に私の命を狙ってきます。このままではいつ殺されるかも分からない。でも、今の私には妹がいる。この子を残して死ぬわけにはいかないのです』byバーシアの兄より」
「なるほどね……」
クロエは納得すると、隣で腕組みをして立っていたエミに話しかける。
「ねぇ、今の話、どう思う?」
「うーん……あの子の言い方だとまるで私達が悪者に聞こえるけど、実際はどうなんだろう?助けてあげたい気もするんだけど」
「そうだよね」
クロエとエミは少女の方を向く。少女は再び手帳を開いて読み上げる。
「『私は元々この港で入管業務に従事しておりました。ある年の冬、突然上司から特別な『艦』が入港すると聞かされました。上司は書類上は適当なクルーズ船であるように誤魔化せと言っていましたが、私は嫌な予感を覚えてこっそりとその船の情報を閲覧しました。驚いたことにその船は、秘密裏に政府要人を海外へ行き来させる為の政府専用艦でした』」
「うわー、この娘日本語ペラペラじゃん!かわいい!!」
「しっ!」
クロエは興奮気味のエミを黙らせる。
「『「そんな秘密の船がなぜここに?』と疑問を抱きながらも、私はその艦の詳細な情報を知りたくなって更に詳しく調べ始めました。そして……ある恐ろしい事実を知ってしまったのです』」
「……何を知ったの?」
クロエとエミは少女の手帳を覗き込まんばかりに身を乗り出す。
「『それは……』」
ピロリロ~ピロリ~ピロリロ♪ピロリロピロ♪
「……なんだ!?」
突然鳴り響いた炊飯器のアラームのような音色に肝を冷やすクロエ達
「あ、ゴメンナサイ シアガッタミタイ……です、車」
少女は慌てて腕輪型の端末を操作する。クロエ達の使っているモデルより大分古いタイプのようだ、囚人の手枷を連想する無骨なデザインをしている。
「……ミナサン、ここからは説明するより実際に見た方が早いと思います。イッタンフネに戻りましょう。行こうネーベ」
少女がそう声をかけると、二本角の異形がムクリと四本の脚で立ち上がった。
「……vow」
低い声で鳴くと、異形はその長い尾を使って器用にリョウスケを持ち上げた。
「えぇ……」
思わず感嘆の声を上げるクマ。
「ではイキマショウ 改めてあの中をアンナイシマス」
「えぇっと、君は……」
クマが尋ねると、少女は口角を少し上げ、座った目のまま答える。
「ああ、モウシオクレマシタ 私の名前はバーシア、マツムラ バーシアです……」
(……もしかして……笑ってるつもり?)
クロエは困惑したが
「よろしくね、シアちゃん!」
「……ヨロシク」
エミが明るく挨拶したので、クロエもそれに相乗りすることにした。
「こちらこそ」
「……」
「あ、アノ……」
「……何?」
「あのお姉さん、さっきからズットこっち見てるけど、ドウカシタンデスカ?」
「 バーシアちゃんの身に付けてる装備が気になるんだよ 多分 ほら、そのファンタジー作品の兜みたいなメットとかさ」
「ソウナンデスカ?」
「うん、あんまり目 合わさない方がいいよ 勘違いするから……」
「ウィ」
クロエの忠告にバーシアは素直に頷いた。
***
「ハァ?検問を市の内側から突破されたぁ!?どうやって?バカ者ぉ!なにやってんの!」
とある部屋のベッド、生まれたままの姿でシーツにくるまりゲートからの連絡を受けリュウコは怒りを露わにする。
「申し訳ございませんんンンーッ!!」
「謝ってもしょうがないでしょ!どうするのよ!説明しなさい!」
「はいぃぃィイイッ!!モッカ捜索隊を編成中ですゥウウッ!!」
受話器の向こうからは「腕がぁあああぁ」「脚があああぁ」と、うめき声声が聞こえてくる。
「ちっ……使えない奴ら……」
「は?」
「何でもない……とにかくアンタたちは態勢を建て直しなさい」
「了解」
舌打ちするリュウコの傷だらけの細い肩に声が掛かる。
「やれやれ……堪えきれずに飛び出しちまったか……」
リョウコの隣で、同じく裸体の男があくびをする。
「あんたねぇ……他人ごとじゃないんだからね……まったく……」
「わりいわりい……でもまあ、心配はいらないだろ?ヤツがその気なら昨日の時点でこの街も終わってたはずだな……」
「場合によってはバロウも出します」
「頼むぜ……じゃあ、オレはひと眠りさせてもらうわ……あとは任せた……おやすみなちゃぃ……」
男はそれだけ言い残すと目を閉じてしまった。
「ちょっと先輩起きてよ……寝る前にちゃんと説明してくださいよぉ……お願いだから……ちょっと……せ・ん・ぱ・いっ!」
リュウコは男の腕を揺すり続けるが、彼は一向に目を開けない。
「……相変わらずこのヤローは!」
リュウコはスプリングの弱ったベッドからわざとらしく弾みをつけて飛び降りるとバスルームに駆け込んだ。
***
「つまりこの倉庫は元々政府専用艦の倉庫ブロックだったってこと?」
クロエ達は再びあの建物、確かに見ようによっては巨大な船体の一部にも見える建物に戻ってきていた。
「ハイ、ゴウインニ入港した『フネ』ハ 結局ザショウしました。それからしばらくして船体を幾つかノブロックにワケテいろんな連中がモチサッタらしいです。このブロックは余り物……というか、当時のカイタイサギョウに使ったガラクタを放り込んでイッタンでしょうね」
「ふーん、他のブロックはどこに運ばれたの?」
「イロイロデス。でも、船首のアリカは分かります。あれをミテください」
バーシアが舷窓を示す。日がとっぷりと暮れた埠頭の沖合い、規則的に並んだ6つの目を持つ鉄の鯨の骸が波間に揺らめいている。
「あー!あのクジラっぽいやつ!!」
エミは指差す。
「あの頭みたいのが船首区画『エゾ』です ホントウならもっとバラバラになってるハズでしたが ウンガヨカッタんですね」
「え?なんで?」
「当時、あの船に乗っていたヨーロッパの財閥のムスメがNウイルスに感染してて、そのせいで『エゾ』と、この『アイヅ』の区画だけがここにホウキされました お陰で13ネンカン 私とニーサンはここで生きてコラレたのだから……」
「ちょっと待って!え?じゃぁその娘はどうなったの!?」
「……死にマシタ 今頃は天国にいるはずです。まあ、ニホンのカミサマを信じてるかどうかはワカリマセンが」
「ちょ、待てよ その女の人って……まさか 」
リョウスケが青ざめた顔で言う。
「……はい 私達の……おかあさん……デス」
バーシアが目を伏せ、複雑な気持ちを湛えた声音で呟く。
「あぁーッ!」
再び正気度が下がり叫ぶリョウスケ
「……そっか、それで『バーシアちゃん』なんだ」
エミは気が付いた
「ん?」
「名前だよ。『バーシア』っていうのは『バーバ・ヤーガ(魔女)』の事だよね?確か北欧に伝わる魔女の事でしょ」
バーシアが目を丸くして驚く。
「えへへ」
「「えぇ……よくゴソンジですね!アナタ…ミカケニよらずオカルト詳しいんです?」
「まあ、一時期そういう雑誌読んでてさ。それに『バーシア』も別に北欧神話由来じゃないんでしょう?」
「そうですが……」
「まあ、それはいいとして」
「ハイ?」
「あなたも一緒に来ない?ここはヤバいしそれに……何よりあなたの家族はもう死んじゃったんだから、ここに居ても辛いだけだと思うんだけど……」
「エッ?」
「あ、もし良かったらだけど……」
エミは、恐る恐る申し出る。
「ア、アノ……」
「一緒に来る?」
「ウーン」
「ダメかな?」
「……」
バーシアはしばらく沈黙し、そして口を開く。
「ソレはできません。私はこの『アイズ』に残りマス。ここにはアニもいますから」
その時、ぬっと『ランナー』の点検を終え戻ってきたクマが会話に割り込んだ。
「マツムラ バーシアさん 君のお兄さんの力をお借りしたい」
「え?」
「なんで?」
エミとクロエが同時に驚く。
「ふぬん、このままT大に戻ると、道中また『ヤツ』と遭遇してしまうかもしれないでも真面目に結界を迂回してると二、三日かかる」
「なるほど」
「で、あるから『ランナー』とお兄さんの突進で結界をブチ破り、そのままT大まで突入する」
「え?それ大丈夫なの?」
クロエが心配そうな顔をする。
「大丈夫、『ランナー』は元々、都市強襲力が高い設計だし私達3人の防御スキルもある。問題は『ヤツ』だけだ!」
自信満々に胸を張るクマ
「アレって魔王軍なんちゃら衆、みたいなヤツなんですよね?どうしてそんなのがこの電車が一時間に数本しか通らないようなド田舎に……(J○西日本さんゴメンナサイ)」
「分からん 。ただ、奴は恐らく何らかの理由であそこを探っていたようだ。だから駅に来たのか、もしくは駅に来る事自体が目的なのか……」
クマが勿体振って滔々と語る。
「まあ、それはともかく出発しよう ここからは時間との勝負でもある 君たちも呑気してるとヒトに戻れなくなるよ~」
「畜生!ア、クマの科学者めぇええ!」
うぷぷ……グッ……ダジャレやめて……ひっひっ苦しい……漏れ……声が漏れちゃう)
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「フゥーハハハ!行くぞ諸君!いざ、廃都市えぇ!」
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