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4 デイオフ
#5β4
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この屋敷の建っているN山は案外と海に近く、港から資材を運搬するためのインクラインの駅が保存されてたりします。
インクラインとは斜面にレールを敷き、動力で台車を走らせて船舶や荷物などを運ぶ装置。一種のケーブルカーです。
そこから脱出する。というのがオソレのプランなのですが……。
※
私とトヨミさんはひたすら灰をまき、時折現れるモノ達をかき消しながら前へ前へと進みます。その後ろを勝手気ままに付いてくるオソレ。
そう言えば灰に触れても大丈夫なんですね、ガバですね設定。
(手袋をしていますので問題ございません)……そういうことですか。
※
やがて目の前に現れたのはトラス構造の高架線路のプラットフォーム……その下に続く巨大なトンネル─私達が歩いてきた通路はその先にあるようです─
※
ク□エ、オ□■ノハナシワシンジルナ、フォークロアワ■□■□シ
廃墟定番の謎の落書き……?いいえ違います。壁のシミがそう見えるだけ?それも違う気がします。なぜならそこには確かに短い文章が書かれてされているのだから。でも所々剥げたような箇所があり判読不明……、
かろうじて読める部分は……『フォークロア』?とても綺麗な字で書いてある。誰が書いたんだろう?
※
いやまあこれはどう考えても<同じもの>の仕業でしょう。
トヨミさん、この文字の潰れた部分って読めませんか?
私がそう話を振ってみると、
(……ダメですねぇ、読めませんねぇ、トヨミの専門は家事全般ですのでぇ、ぽぽぽ)ふーん、そうなんだ。
※
それにしても何故、わざわざ一部分だけ潰す必要があったんでしょうか、かえって気になるだけのような……
(……おそらくですが、トヨミたちが来る前に誰かがここに居たんですね。それが<同じもの>だとしたら、何かのメッセージを残そうとした可能性があります。)なるほど
※
(……まあそのへんの考察は後に回しまして、今現在最優先すべきなのはお嬢様の安全です。あれをご覧ください)
駅のホームに茶色い箱、どうやらあれがケーブルカーみたいです。オソレ曰く「起動させれば自動運転で地下をまっすぐ降りてくれます、港の荷揚げ場まで」とのこと。
※
では早速出発しましょう! しかし私は見てしまったのです。プラットホームの端、ベンチに座る人影に。
あの格好は─そう、それは灰色の女性だった。唾広の帽子に片目の隠れた優雅にカールのかかった髪、クロエさんやトヨミさんと同じ瞳の色─
俯きがちの姿勢で佇むその姿はとても寂しげに見える。きっともう何年もそこでこうしているのではないかしら……そう思うくらいに彼女からは生気というものが感じられない。
※
「はいそこ、よそ見しない」オソレに袖を引かれハッと我にかえりケーブルカーに乗り込んだ瞬間です。
ぺしゃり、嫌に粘っこい音がすぐ後ろからしました。振り向くとそこに異形がいました。
まるで歩く円盤かヒトデのような見た目をした怪生物、しかし動作は意外にも機敏。あっという間に間合いを詰められ、あ……やば、と思った瞬間に私は両肩をがっしりと掴まれていたのです。
廃都市を徘徊する異形は基本的につるりとした顔で表情を窺うことはできません、しかし私をがっちり掴んだ異形には小さい目、口がついていました、そして目を細めてにんまりと笑ったように見えるのです。
※
そおい!不意に私の真横から伸びてきた白く長い腕が異形に籠ごと灰をぶち撒けました。灰に触れた途端に絶叫して全身を痙攣させる化け物、さらにそこへ灰を叩きつけるトヨミさん。
灰まみれになった怪物は悲鳴をあげて後ずさります、チャンス到来。
ケーブルカーを起動したオソレは私を車両に引きずり込んで座席の奥へ押し込み扉を閉めます。
※
急いでっ!トヨミさんも乗って!
(……ありがとう、ワカ、ですが私はこの地からは離れません。)
え?どゆこと?この地から離れない?
わたくし、あのお屋敷のフォークロアなのです。ぽぽぽ)
……ああはい、なんとなく解ってましたけどやっぱりそうなんですね……。
トヨミさんは微笑みながら語り始めます。自分の正体について、かつて起こった出来事を。
※
彼女は元々、このN山に住む人間たちの伝承から生まれた存在なのです。
この地に暮らす人々が災害で全滅した際に生き残りはおらず、彼らは無縁仏として処理され、この土地をある企業が研究のために買い取ったのだそうです。
以降、ここは企業の管理区域となりました。
彼女はその企業のとある実験で実体を得た土地の伝承、怪異、フォークロア。
本来ならいつ灰になってもおかしくない状態でしたが、何故かこうして実体を保って生きています。企業の研究者たちは彼女らを『フォークロア』と呼んだそうです、これは『忘れられた物語の住人』という意味を込めているようです。
そんな彼女に与えられた仕事、それは屋敷の保全、維持、管理、そして住人の保護でした。
彼女たちの肉体は本体が無事なかぎり朽ちることも滅びることもありません、本体とはその伝承にまつわる土地やいわくのある建物などを指します。そして本体からはあまり離れることができない。
※
(これでおわかりいただけたと思います。私はここを動けないのです)
痙攣している異形にカニ挟みをかましながらトヨミさんは静かに笑います。
私は言葉を失いました。何も言えない。最後に見たトヨミさんは異形に腰だめで正拳突きをかましている最中でした。流石です。
※
こうして私とオソレは無事にケーブルカーに乗り込み港へと向かいました。オソレの話によるとケーブルカーはあと3分程で到着するようです。
インクラインとは斜面にレールを敷き、動力で台車を走らせて船舶や荷物などを運ぶ装置。一種のケーブルカーです。
そこから脱出する。というのがオソレのプランなのですが……。
※
私とトヨミさんはひたすら灰をまき、時折現れるモノ達をかき消しながら前へ前へと進みます。その後ろを勝手気ままに付いてくるオソレ。
そう言えば灰に触れても大丈夫なんですね、ガバですね設定。
(手袋をしていますので問題ございません)……そういうことですか。
※
やがて目の前に現れたのはトラス構造の高架線路のプラットフォーム……その下に続く巨大なトンネル─私達が歩いてきた通路はその先にあるようです─
※
ク□エ、オ□■ノハナシワシンジルナ、フォークロアワ■□■□シ
廃墟定番の謎の落書き……?いいえ違います。壁のシミがそう見えるだけ?それも違う気がします。なぜならそこには確かに短い文章が書かれてされているのだから。でも所々剥げたような箇所があり判読不明……、
かろうじて読める部分は……『フォークロア』?とても綺麗な字で書いてある。誰が書いたんだろう?
※
いやまあこれはどう考えても<同じもの>の仕業でしょう。
トヨミさん、この文字の潰れた部分って読めませんか?
私がそう話を振ってみると、
(……ダメですねぇ、読めませんねぇ、トヨミの専門は家事全般ですのでぇ、ぽぽぽ)ふーん、そうなんだ。
※
それにしても何故、わざわざ一部分だけ潰す必要があったんでしょうか、かえって気になるだけのような……
(……おそらくですが、トヨミたちが来る前に誰かがここに居たんですね。それが<同じもの>だとしたら、何かのメッセージを残そうとした可能性があります。)なるほど
※
(……まあそのへんの考察は後に回しまして、今現在最優先すべきなのはお嬢様の安全です。あれをご覧ください)
駅のホームに茶色い箱、どうやらあれがケーブルカーみたいです。オソレ曰く「起動させれば自動運転で地下をまっすぐ降りてくれます、港の荷揚げ場まで」とのこと。
※
では早速出発しましょう! しかし私は見てしまったのです。プラットホームの端、ベンチに座る人影に。
あの格好は─そう、それは灰色の女性だった。唾広の帽子に片目の隠れた優雅にカールのかかった髪、クロエさんやトヨミさんと同じ瞳の色─
俯きがちの姿勢で佇むその姿はとても寂しげに見える。きっともう何年もそこでこうしているのではないかしら……そう思うくらいに彼女からは生気というものが感じられない。
※
「はいそこ、よそ見しない」オソレに袖を引かれハッと我にかえりケーブルカーに乗り込んだ瞬間です。
ぺしゃり、嫌に粘っこい音がすぐ後ろからしました。振り向くとそこに異形がいました。
まるで歩く円盤かヒトデのような見た目をした怪生物、しかし動作は意外にも機敏。あっという間に間合いを詰められ、あ……やば、と思った瞬間に私は両肩をがっしりと掴まれていたのです。
廃都市を徘徊する異形は基本的につるりとした顔で表情を窺うことはできません、しかし私をがっちり掴んだ異形には小さい目、口がついていました、そして目を細めてにんまりと笑ったように見えるのです。
※
そおい!不意に私の真横から伸びてきた白く長い腕が異形に籠ごと灰をぶち撒けました。灰に触れた途端に絶叫して全身を痙攣させる化け物、さらにそこへ灰を叩きつけるトヨミさん。
灰まみれになった怪物は悲鳴をあげて後ずさります、チャンス到来。
ケーブルカーを起動したオソレは私を車両に引きずり込んで座席の奥へ押し込み扉を閉めます。
※
急いでっ!トヨミさんも乗って!
(……ありがとう、ワカ、ですが私はこの地からは離れません。)
え?どゆこと?この地から離れない?
わたくし、あのお屋敷のフォークロアなのです。ぽぽぽ)
……ああはい、なんとなく解ってましたけどやっぱりそうなんですね……。
トヨミさんは微笑みながら語り始めます。自分の正体について、かつて起こった出来事を。
※
彼女は元々、このN山に住む人間たちの伝承から生まれた存在なのです。
この地に暮らす人々が災害で全滅した際に生き残りはおらず、彼らは無縁仏として処理され、この土地をある企業が研究のために買い取ったのだそうです。
以降、ここは企業の管理区域となりました。
彼女はその企業のとある実験で実体を得た土地の伝承、怪異、フォークロア。
本来ならいつ灰になってもおかしくない状態でしたが、何故かこうして実体を保って生きています。企業の研究者たちは彼女らを『フォークロア』と呼んだそうです、これは『忘れられた物語の住人』という意味を込めているようです。
そんな彼女に与えられた仕事、それは屋敷の保全、維持、管理、そして住人の保護でした。
彼女たちの肉体は本体が無事なかぎり朽ちることも滅びることもありません、本体とはその伝承にまつわる土地やいわくのある建物などを指します。そして本体からはあまり離れることができない。
※
(これでおわかりいただけたと思います。私はここを動けないのです)
痙攣している異形にカニ挟みをかましながらトヨミさんは静かに笑います。
私は言葉を失いました。何も言えない。最後に見たトヨミさんは異形に腰だめで正拳突きをかましている最中でした。流石です。
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こうして私とオソレは無事にケーブルカーに乗り込み港へと向かいました。オソレの話によるとケーブルカーはあと3分程で到着するようです。
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