異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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PHASE-1797【触発される】

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「お、警邏ですよ。警邏が出てきました」
 木柵に簡素に作られた、お世辞にも門と言えない出入り口から外へと出て来る。

「ワーグによる騎獣隊だね」
 高順氏も頼りにしている巨狼。
 跨がるのはオークからなる編隊。
 四騎で一編隊からなるのが三編制。
 木柵の周りを駆けて周囲を見渡していた。
 
 程なくして、

「もう終わりか……」
 呆れるゲッコーさん。

「あまりにも雑ですね」

「ああ、程度の低い警邏だ。ただ上から命令を受けたから、言われたことを考えもせずにやっているだけにしか見えなかった」

「数が多すぎるから末端までちゃんと規律が行き届いていないようですね」

「そのようだ。あんなのが軍規を乱すんだよな」

「なるほど」
 つまりはああいった連中が蹂躙王ベヘモト軍の中で軍規を乱している輩って事だろう。
 壊し、奪い、犯す。
 こういった乱暴取りが得意な連中ってのが先ほどの手合いだな。
 明らかにメッサーラやその主であるラダイゴロスの兵ではないというのが直感で分かった。

「あれはガガドムサの兵でしょうね。二万の編制のうち、十分の一がオークとワーグによる騎獣隊って報告だったし」

「そうだな。強兵ではなく、驕兵からなる者達だ」

「あんなのが後からやって来て戦線に加われば、そら内部の混乱は収まることはないですね」

「真に恐れるべきは有能な敵ではなく、無能な味方である」

「ナポレオンっすね」

「その通り」
 つまり十四男は無能と?
 先生の説明とは違うような。
 というかラダイゴロスとガガドムサの話の時って、結構、矛盾が多いんだよな。

「戻るか」

「了解です」

「もう見なくていいの?」

「これ以上、見るようなところがあるとするならシャルナの案に従おう」

「うん。無いね」
 ゲッコーさんへと即答。
 それだけ隙の多すぎる拠点って事だよな。
 どこから攻めても簡単に内側まで入りこめそうだ。
 
 ――。

「どうでした?」

「そうですね。急襲を仕掛けて火矢でも射かければ直ぐに多くのテントを燃やすことが出来そうでした。それで内部は大混乱に陥ると思います」

「お粗末なようですね。流石はラダイゴロス」
 小馬鹿にする先生。
 やはり矛盾しているような気がする。
 それに騎獣はガガドムサの指揮下だと俺は思うんだけどな。

「あまりにも油断した警邏とお粗末な拠点の造り。逆に警戒する気にもなりましたけどね。例えるなら空城の計ってやつですかね」

「その憂いはないかと」
 なにかあればハリエットからそういった策謀に関する報告があるだろうからな。
 総領息子と十四男のやり取りを耳にする限り、バチバチの関係だからお互いが寝首を掻かれないように外側よりも内側を警戒してんだろうし。
 だから警邏も雑になるのかも。

「さて、どう攻めましょうかね」

「無論、正面からだ」

「相手は大いに驚くでしょうね。可能で?」

「当然だ。自分が指揮する騎兵なら問題ない」

「流石は陥陣営殿」
 十万を超える敵側に対して七千で正面から突撃か。
 覚悟は決まっているのか、高順氏が述べたところで騎兵たちの表情が曇ることはない。
 心強い限りだ。

「奇しくも合肥の戦いみたいな状況だ。こっちが敵拠点に攻める立場だけど」

「文遠君ですね」

「そうです。合肥を守るは七千。張遼はその七千から十分の一を率いて孫権が指揮する十万の軍勢へと攻撃を仕掛けて撃退。演義だけじゃなく正史にも記載されているってのがこれまた凄い」

「素晴らしいな張遼は!」
 テンションが上がったな高順氏。
 そうだった。張遼って元々は呂布配下だったな。高順氏と一緒に戦ってたんだった。
 肩を並べて戦った関係だからか、張遼が活躍したと知れば喜んでおられる。

「これは負けられんな」
 と、普段とは違って熱の宿った声だった。

「七百ほどで十万を押し返したとなれば、その十倍の数を有している我々が十二万――しかも混乱から未だ癒えていない者達に対して無様な用兵は出来ない。張遼に笑われるような戦いだけは避けなければ」
 と、継ぐ声には更に熱がこもる。

「かなりの武人のようですが、我らが指揮官殿も負けてはおりませんよ」
 ロンゲルさんが口を開けば他の方々も熱を帯びさせた声を上げる。
 大声をあげることはないが、力のこもった声だった。
 戦いを前に気炎を幻視させてくれる皆さんの士気はべらぼうに高い。

「それでは始めましょうか」

「指揮官が正面からって言ってますが。先生の考えは?」

「ここは戦巧者の発言に従うだけです」
 全ては高順氏の赴くままってか。

「ですが――」

「分かっているさ知恵者。脅威となる者を前にした時は素直に後退する」
 とのこと。
 ラダイゴロスを守護するメッサーラを筆頭としたやり手達が前に出た時は要注意って事だな。

「ガガドムサとは――」

「戦わない」

「え?」
 先ほどの警邏を見る限り、十四男の兵は大したことないというのが伝わってきたんだけどな。
 正面から拠点へと突入するなら、警邏が使用していた出入り口からの突入が容易そうなんだけど。

「主は陥陣営殿の側で力を振るってください」

「分かりました」
 明らかになんか狙ってるな。
 狙っているから予定を変更してここに参加もしているんだろうし。
 
 まあいい。
 いつものパーティーメンバー。加えて先生と高順氏。
 そして腕っこきの騎兵からなるこの軍。
 十万を超える連中と今からぶつかると分かっていても不思議と不安はない。
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