異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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俺、異世界に来たんだってよ

PHASE-05【エンカウント】

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 小路から出た先の眼前には城壁。
 十五メートルはあろう、高い城壁だ。
 いたるところが破壊されている。最初に目にした建物のように穴が空き、崩れ落ちてる箇所もある。
 そして、それを実行したであろう、人とは明らかに違う奴らが、破壊された門から入ってきて暴れ回っている。
 緑色もいれば、焦げ茶の毛並みもいる。下半身は軽装な革製のボトム。上半身は革製の胸当てで、手には肉切り包丁のような幅広な刃物や、斧を手にしている豚のような顔をした亜人。
 逃げ遅れた女性や子供を担いで、城市から外へと移動しようとしている。

「略奪か」
 多分、オークだな。ファンタジーゲームなんかではザコ敵のポジション。
 貪欲で、怪力で好戦的。色欲も強いってのが、オークの通例だな。
 色欲が強いってのは理解できる。
 にやついて女性を担いでいるからな。いかがわしい事が目的だろう。
 崩れた建物の側にあった、二つ並んだ樽に隠れて状況を窺う。
 ――――窺っていると、背後からパキンと木の枝を踏んだような音が耳に届いた。
 想像は出来るけども……。恐る恐る背後に目を向ければ――――、

「ぷぎ?」
 漫画なんかでお馴染みの、典型的な豚っぽい鳴き声で、俺を見つつ首を傾げるオーク。
 次には――、

「ぷぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!」
 興奮した鳴き声と共に、鉈のような利器を俺に目がけて振り下ろしてきた。

「おわっ!」
 必死になって横っ飛び。
 何とか回避することに成功。振り下ろされた鉈は樽を容易くたたき壊している。
 あんなもんを食らったら、即昇天だよ。
 で――――、横っ飛びで地面を転がって理解した事がある。
 衝撃が体に走った……。

「痛みがあるぞ……」
 煙の臭いがしたとしても、わずかな希望を持っていたんだけどな……。
 ――……夢じゃねえ。ガチで現実じゃねえか。本当に異世界に来ちまった……。嘘だろ。あのオークは本気で俺の命を奪おうとしてるってことじゃないか。
 ゲームなんかじゃザコポジションだけども、いまの俺からしたら、猛獣と相対してる気分なんだけど。
 俺が怯えてるってのが分かってんだな。余裕を持って歩み寄ってくる。最低限の知能はあるようだ。
 冷静になろうにも、中々に心の乱れは収拾がつかない。
 とりあえず、周囲を見渡す。生き残る方法を探さないと。

「ん」
 瓦礫の中に丁度いいサイズの木の棒があった。
 形状からして、鍬なんかの柄の部分だろう。
 本当なら逃げることを優先したいけど、周りを見れば、逃げることは不可能なくらいに、オークがいるんだよね……。
 となると、あらがうしかないよな!

「ぷぎ?」
 貧弱と思われてる俺が、木の棒を握って挑もうとしているからか、嘲り笑ってやがる。

「ふう」
 と、一呼吸。相手の歩に合わせて、得意げに振り回す鉈を持つ手を狙う。
 上段から振り下ろす動きが確認できたところで――――、出小手を打ち込んでやる。
 打ち込みと同時に、体を相手の側面へと移動させる。
 勢いがなくならずに振り下ろされる鉈を考慮しての、念を入れての回避。
 高校では惰性でやってただけだけど、存外、体は覚えてくれてるな。
 ――回避の必要はなかった。
 出小手が決まると、オークは鉈を落とした。なので、側面をとったところで、二の太刀にてオークの頭に面打ちを決めてやる。
 綺麗に決まった。猛獣とか思ってたけど、このくらいの相手なら、今の俺でも倒せるかもしれない。
 ――なんて思っていると、面打ちを見舞ってやったオークの目がギロリと動き、俺を捕捉した。
 ダメージが入ってない。体毛や頭蓋骨が分厚いようだ。
 後ろに下がって姿勢を整える。こうなると狙うのは一カ所だ。
 棒の先端で、喉の部分に狙いを定める。
 頭に浮かぶ突きの文字――――。 

「は!」
 気迫と共に打ち込むけども……。
 途中で止めてしまった……。躊躇してしまう。命を奪う覚悟が、平和な国で育った俺にあるわけがない。
 さっきの面打ちだってそうだ、思いっ切り振り切ることが出来ていなかった……。
 ――……止めてしまった……。止めればどうなるか分かっているのに……。
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