異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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PHASE-1821【一区切り】

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 ――。

「遠路はるばるよく来てくださいました」

「トールも息災で何より。常に我が孫の活躍は耳にしている」
 好々爺まる出しで喜ぶ爺様。
 血のつながりは皆無だけども完全に孫ポジの俺。

 要塞正門前で挨拶を交わしつつ、

「随分と柔らかくなったね」
 と、爺様の横に立つ美人に伝えると、

「フンッ。強張った顔でいれば領民が懐かないからな」
 なんともマジョリカらしい素直じゃない擦れた言い様である。

「立ち回り方を理解しているなら問題ないだろうな。でも外交官がガリオンってのはどうよ……」

「仕方ないだろう。私の代わりにお偉方とまともに話せるのはアイツくらいしかいないのだから」

「まあ、うん……。ウォーハンマー使いの必壊ひっかいだったっけ? まだ分かるけど、魔法使いの極界の人はもう少し人前に出ることを考慮した身なりにした方が良いと思うよ」

「余計なお世話だ」
 すげなく拒否される。
 主である伯爵の側にいるってのに、膝まで伸ばした金髪で顔を隠しているスタイルは相も変わらずだ。
 ばっさりと切ってやりたい。
 どいつもこいつも以前と変わらない身なりだからまったくもって伯爵直属の連中とは思えないな。
 野盗ですわ。

「あまり私の部下を馬鹿にした目で見ないでもらいたいな」

「あいあい」
 馬鹿にじゃなく呆れてるだけなんだけどな。
 まあ、結束力が強いってのはありがたいけどね。
 ありがたいと言えば、

「そちらの副団長にはロイル領で世話になったよ」

「ほう――」

「大活躍でね。こっちも大助かりだった」

「それは何よりだった。強くなっていただろう」

「躍動する筋肉! 肉肉弾弾肉弾弾!! ってな感じで人外の敵を躊躇なく叩きつぶしていくぅ! という感想だった」

「感想内容は伝わりにくかったが、頼りになったのなら何よりだ」

「これから先も頼らせてもらうけどな。それに――そっちにとってもロイル領での相手は一区切りだったと思う」

「なんだ?」
 カイメラの討伐。
 中心人物の捕縛とその後の流れ。
 領地を無茶苦茶にしてしまったベルセルクルのキノコと、それから抽出して作られたスティミュラントの製造。
 
 ――俺からの説明を簡単に受ければ、

「ハハハハハッ! ざまあない奴等のようだ。特にバルバダイなる男の末路は滑稽だな」
 滑稽っていうか、酷刑だけどな。
 それだけの事を受けるのも仕方のないことだけども、途中まで目にしていた俺としてはいい思い出にはならないね。

「しかし――」
 お、ゾワリとした殺気を発するね。

「食えないジジイだなシステトルは。ムートン家はこの大陸に生きる者なら耳にするだけの大商人だが――」

「大丈夫。悪さはしないよ」
 スティミュラント自体は毒にも薬にもなるようなアイテムだ。
 興奮剤ってのは別にエロい目的だけじゃなく、本来の使い方でちゃんと使用すれば戦場では十分な効能がある。と、伝えるも面白くないといった表情。
 だが自分たちも戦闘時にベルセルクルのキノコを使用していることもあるから強くは言えないご様子。
 それでもソレが原因で悲惨な人生を歩んでしまっているからか、

「もし使用目的外で使われた場合、我々はムートン家を叩きつぶすことにする。ロイル領との戦になってもだ」
 堂々と言う。公爵と前公爵を前にして言い切る胆力はマジョリカらしい。

「一丸とならねばならぬ時に波風だけは立てないで頂きたいですね」
 と、グレートヘルムの奥から声を出すヨハンさん。

「立てるつもりはない。良からぬ物をこの大陸に広げて波風を立てようとする者がいれば叩くと誓っただけだ」

「食えない爺さんだったけど、その辺りは問題ないと思うから」

「公爵様もこの様におっしゃっておりますので発言は気を付けるべきかと。何よりも公爵様に向けての言葉の使い方ではありませんね」

「すまないな。ろくな人生を送っていないので教養が無い」
 なんでバチバチなんだよ……。

「刃傷沙汰だけは避けていただきたい」
 間に入れば、

「そのつもりはないさ」
 本当かな? 漆黒の鎧の一部である肋を模した部分。
 ほのかに青白い輝きを発するソノ部分が今にも飛び出しそうなんだけど。
 骨喰ほねばみ――っだったか? おっかない装備も健在だな。

「私も同様です」
 ヨハンさんも口ではそう言いながら、柄に手を添えないでいただきたいね。
 道中ずっとこの感じなら、間を挟まれて馬車に乗っていた爺様はしんどかったかもしれないね。

「皆さんまずは長旅の疲れをとってください。宿所の準備もしてありますので」
 バチバチを断ち切るように言えば、

「それは助かる」
 爺様が応えてくれる。

「睨み合いで目が疲れただろう。少しは目と頭を休めると良い」
 笑みを称えながら継いで発せば、

「お言葉に甘えよう」
 毒気を抜かれたとばかりにマジョリカが俺の方へと軽く会釈をし、同行する者達と一緒に宿所へと向かう。
 毒気を抜くのには成功したけど、爺様は爺様でしれっと毒を混じらせた発言だったね。

「ヨハン達もだ」

「はっ!」
 マジョリカと違って深々と頭を下げれば征北騎士団も宿舎へと移動。

「まったく。クセのある連中と生真面目な連中に挟まれて一気に老け込みそうだ」

「いやいや、以前にも増して覇気に漲っていますよ」

「おおそうか! トールにそう言われるともっと励みたくなるものだ!」
 老いてなお盛んであることを証明するかのように飛び跳ねてみせる。
 言うだけあって元気だけども、調子に乗って怪我だけはしないでいただきたいね。

 俺もだけど動きが気になったのか、肩越しに見るマジョリカもなんだかんだで心配そうに見てくれる辺り、遺恨が薄れて関係性が良い方向に進展しているようだ。
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