異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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王都防衛戦

PHASE-57【壁上から地面へ】

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「ふん」
 眼下の凄惨な光景に、ベルが炎を纏って、梯子に向かって炎を見舞う。
 炎に呑み込まれたゴブリンや、梯子を支えるオークなんかも瞬く間に灰燼と化した。

「うん」

「なんだ?」

「慈悲だよな。ベルは優しい」

「う、うるさい!」
 ストレートに褒めると弱いようだな。
 ヒッポグリフの攻撃は、スティンガーと捕獲が怖いのか、今では低空飛行どころか、地面に脚を付けた状態。
 それでも、ゴブリンやオークは梯子をかけて、上がってこようとする。 

「敵も勢いが止まらない。このままだと押し切られるな」
 その通りだ。
 少しでも勢いを削ろうと、ゲッコーさんはMASADAに変更して、ヘッドショットを決める。
 音が一発なると、隣の者が急に倒れるという恐怖を戦場に振りまいていく。

「これ以上は自信ではなく、恐怖に変わってしまいますね」
 この戦いは、兵士たちを実戦の空気に触れさせ、戦いの気概を取り戻させるための最終段階もかねており、十分な結果を得たと先生。
 その先生が乗馬鞭を次ぎに向けるのは、城壁――――の更に奥。つまりは王都の外。

「よし、行ってこい。掩護はしっかりとしてやる」
 勝ち気な笑みを湛えるゲッコーさんが、俺の背中を叩き、イヤホンマイクを手渡す。
 耳につけていると――――、

「行くぞ」
 ベルは、高さが二十メートルはある壁上から、王都外へと飛び降りた。

「「いやいやいや……」」
 これには俺だけでなく、ゲッコーさんも驚きだ。
 普通じゃない人間でも、その高さは、大怪我or死だ。
 ゲッコーさんだって、ゲーム内でこの高さなら、ラペリング降下するぞ。

「「う~ん」」
 またも二人でシンクロしてしまう。
 何事も無く着地して、纏う炎を更に強めて、そのまま驀地。
 いつの世も、女の方が強いし胆力あるんだよな。

「じゃあ、とりあえず行ってきます」

「お、おう。矢には気をつけろよ」

「はい」
 ゲッコーさんが準備してくれたロープを使って、ラペリング。
 ぎこちないが、イヤホンから聞こえてくる、ゲッコーさんの指示に従って、ゆっくりと下りていく。

「おっと!」
 まずいですよゲッコーさん。降下する俺の横で、矢が城壁にキンって音を奏でてますよ。
 レベル2の俺が狙われてますよ。
 だがしかし、俺もなれてきたのかな。
 敵がわんさかといる所に、行ってこいだのと言われて、ラペリング。今までなら絶対に拒否するはずなのに、普通に降下してるからな。

「――――お? 来なくなった」
 ゲッコーさん、冒険者、兵士たちが援護射撃をしてくれているおかげで、矢に狙われる事は無くなった。
 ――着地してベルの姿を追うように目を動かせば――――、
 なるほど、矢が飛んでこない理由は、ゲッコーさん達の活躍も大きいが、それ以上に、ベルが凄い勢いで暴れ回っているからか……。

「……火の海じゃないですか。やだー」
 あれだけ勇猛に攻めてきた敵が、ベルを前にして大混乱だ。
 一万の軍勢が、一人の美人にえらい目に遭わされてる。
 ゲームの世界じゃないんだから……。って、ゲームのキャラクターだったな。しかもチートキャラ。
 いや~強いわ。
 俺が神話級の武器をセラから貰ったところで、こんな活躍は出来なかっただろう。
 ――ベルが降り立ったのは、西門の壁上から。
 翼包囲してきた敵サイドは一転して、南門を攻める兵も、ベルの脅威に対抗させるために集結させていると、壁上のゲッコーさんから伝えられる。

『荀彧殿がカタパルトを使用する。中身は――、油だ』
 耳に付けたイヤホンから、ゲッコーさんの悪そうな声。その声音だと、ラスボスポジションなんだけども……。
 先生は、ここを火炎地獄に変えたいようだな。
 ただでさえベルの炎がえげつないのに――――、
 頭上を通り過ぎていく壺。
 バシャンと液体の音が遠くから聞こえれば、ゴウッと荒ぶる音に変わる。
 ベルの炎に触れて、油まで燃え上がる。
 眼前の敵は、現世で地獄を経験しているようだ。
 こっちは城壁を盾にしての守戦のはずなのに、蹂躙王ベヘモトの配下に対して、こっちが蹂躙している気分だよ。
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