異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
224 / 1,861
チートがほぼ無い冒険

PHASE-224【クランベリー特産の町リオス】

しおりを挟む
「もうすぐだな」

「はい」
 この世界で王都以外を馬車を伴っての移動は初めてだ。
 リド砦の時は、馬のみでの移動だったからな。
 帰りは軍用トラックだったけど。
 
 四人パーティーとなれば、流石に馬だけに必需品を積むというのは、積載的に無理がある。馬車があってようやく旅が出来るというもの。

 二頭引きの四輪からなる幌馬車。
 そんな幌馬車のゆっくりとした足並みに揃えて俺は併走。
 俺の白馬も広い大地を走れてご満悦だ。
 普段はゲッコーさんのハンヴィーだからな。
 あれならとっくに目的の町についてるだろうけども。

 うむ。そういえば、白馬、白馬と言っていたが、肝心の名前が無かったな。
 今の今まで名付けない俺は軽薄な男である。

「――――よし! お前の名前は今日からダイフクだ!」
 真っ白な毛並みは餅のようだし、走れば靡く鬣や尻尾は、大福にまぶされた打ち粉の如し。
 ――――決して馬鹿にした表現じゃないぞ。
 俺の好きな和菓子だし。素直に綺麗だと思ってるからな。ダイフク。

「いやいや、そいつの名前は白い影で白影はくえいという名ですぞ」
 ギムロンよ、そんな曹操の愛馬である絶影からパクったような名前は駄目だよ。
 どう考えても先生が名付け親だろ。

「白影じゃないぞ。お前はダイフクだ」
 優しく首をさすりつつ伝えれば、嫌がった態度はしてこない。いい子である。

 だがしかし……だ。
 このパーティーよ……。
 併走する馬車を見やれば、手綱を引いて二頭の馬を巧みに操るギムロンに、幌馬車の中では荷物チェックをしているであろうクラックリック。
 むさいおっさんが二人。
 唯一、紅一点のタチアナが救いか。そんな彼女も幌馬車の中で待機してるから目の保養は出来ない。
 現パーティーは野郎3の女の子が1。
 
 ふ~……。と、心でため息。普段のパーティーは女の子が多いが、俺の事をボコボコにするのばっかり。
 で、現状は野郎の方が多いという状況。
 俺の知る異世界転生作品なら、主人公以外は皆かわいい女の子ばっかりだぞ。しかも献身的ときている。
 俺も……、そんな異世界に転生したかった……。



「湿地帯なんだな~」
 見渡す限り冠水した土地だ。といっても、街道はしっかりとした土道。馬車二台が併走出来るくらいの広さがある。
 さっきも旅商人のキャラバンとすれ違ったところだ。王都に行くと言っていた。
 栄えてきている。これが徐々に外へと広がっていけば、いよいよ貨幣の復活になるわけだ。

「リオスはクランベリーの産地でしてな。ここのジャムやジュースにソースは最高ですわい」
 ギムロンが幌馬車の手綱を引きつつ、ここの特産を教えてくれる。
 
 クランベリーは湿地帯を利用し、実のなる畑に水を投入。
 で、水中のクランベリーを揺すっていけば実が水に浮くそうだ。
 なぜ浮くかといえば、クランベリーの中が数室に分かれた空洞になっていて、それによって浮くそうだ。
 
「ほれ、見えてきたぞ」
 ドワーフの太い食指がさす方向を見やる。

「こりゃすげえ……」
 水が溜められた一帯は赤い色に染まっていた。

 腰まで体を浸からせて作業をしている農夫の皆さん。
 腕を左右に振って前に進む。
 振ればギムロンの説明通り、ポコポコとクランベリーが浮いてくる。見てて面白い。
 まさか異世界で社会科見学みたいな事をする事になるとはね。
 
 ――――光景を眺めながらゆっくとした速度で町に到着。
 
 王都の近くということもあって、町全体は二メートルほどの壁に囲まれ、見る者に堅牢さを伝えてくる。
 だが、至るところに破壊の跡。修復に励む方々も多い。
 
 王都に比べて被害が少ないのは、魔王軍にとって主要目的ではなかったというのも理由みたいだが、リオスの町全体が瘴気に汚染されており、汚染が深刻な状況時、町人は凶暴化。
 魔王軍に与する状態となり、攻撃対象から外されたようだ。
 ある意味それがよかったのか、犠牲者は少なかった模様。

 町の入り口で待機している人影。

「会頭。王都よりご苦労様です」
 一様に典雅な一礼が俺に向けられる。
 ――――復興案件でメンバーが先行しており、町の一角にはギルドの詰所も建てられていた。
 馬小屋に隣接した平屋の建物。
 
 ここには現在、メンバー六人が派遣されていて、生活をするには十分の広さとのこと。
 ストレスを抱えることなく仕事をこなしてくれる環境作りも、ギルド幹部たちの勤めだな。
 
 ――――平屋内部は土間。
 人数分の椅子に長テーブルがあり、平屋の一角には一段高い板張り。板張りの広さは四畳半くらい。
 交代で横になって休息をとるには、板張りの広さは十分と見受けられる。
 
 板張りには万年床とばかりに、藁の上にシーツを敷いた簡単な敷き布団。
 まあ冒険者としては、シーツが敷いてあるだけワンランク上の寝床なんだろうけども――。
 うむ、しっかりとした睡眠こそ活力につながる。各詰所には快眠できる寝床を提供できるようにせねばなるまい。

 町の入り口から俺たちに同行してくれるのは、リオス派遣メンバーのリーダーで、名はリュミット。
 腰には装飾など無縁の、使い込まれつつも手入れの行き届いたブロードソードを佩剣した剣士職の人物。
 黄色級ブィの認識票を首から下げ、手入れもせずに適当に紐で結った金髪を認識票と共に揺らしている。
 
 髪とは違い、スケイルアーマーの手入れはしっかりとしていて、リベットで出来たソレはつや消しもばっちりである。
 ブロードソードにスケイルアーマー。冒険者として、自身の外見より装備に力を注ぐタイプのようだ。

 先生が適正と判断し、派遣しているから実力は確かだろう。
 つい最近まで瘴気に精神を支配されていた町であったのに、農夫の方々がすでにクランベリーの収穫作業をしているのがいい証拠。
 収拾して日常生活を送ることが出来るのは、リュミット達、派遣組の尽力の賜物。

「会頭。こちらが町の代表です」
 そんなリュミットに紹介されたのは壮年の女性。
 名前はカリナさん。
 瘴気が原因で亡くなられた旦那さんの代わりに、町の代表を務めているそうだ。
 といっても、瘴気によって汚染されていた状況だったから、旦那さんがどうやって最後を迎えたのかは分からないそうだ。
 正気を取り戻した時、旦那さんの亡骸と対面。
 記憶がない分、急な別れということもあり、ショックも大きかったそうだが、町の長である旦那さんの後を引き継いで、代表職に励んでいるそうだ。
 
 こんな時の多忙はいいのかもな。悲しい事を多忙の間は忘れられるだろうから。
 
 頬のこけかたからして、かなりの疲労が蓄積しているは見て取れるが、十六の俺には、大切な人を失った人にどんな言葉をかけてやればいいかなんて分からない。
 
 不甲斐ないが、ひたすら聞き手に徹するだけだ。
  
 瘴気浄化後の境遇を聞いた後、本題を語ってくれるカリナさん。

 ――――話によれば、町の人々が正気に戻り、畑も再始動という時、洞窟付近のクランベリー畑にてコボルトに遭遇。
 石などを投げられ追い立てられたそうで、怪我人も出たそうだ。
 農夫が逃げ出せば、追いかけては来なかったとのこと。
 ただ石を投げるだけ――。

「子供のいたずらみたいだな」
 今まで経験したことから考えれば、正直、しょぼい。
 まあ、しょぼいから黒色級ドゥブに回されるクエストなんだろう。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

処理中です...