異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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増やそう経験

PHASE-286【刷り込め、強気のマインド】

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「すぅぅぅぅぅ――――はぁぁぁぁぁぁ――――」
 緊張するかと思ったが、やはり肝が据わってきたのか、存外しっかりと寝ることが出来た。
 深呼吸をしてベッドから起き上がり、バルコニーへと出て、王都の風景を見渡す。
 イタリアはフィレンツェのような赤い瓦葺屋根が並び、灰色にちかい茅葺き屋根が点々と建っていて、それがアクセントになっている。

 ここに来た時は、倒壊、半壊、壁に大穴。瓦は砕けて崩れ落ちてたりと悲惨だったが、その悲惨さは大きく取り除かれた。

 この世界の人々は日が昇ると同時に元気に活動。
 本日も皆が皆、役割を持って動いている。
 新しく王都の仲間になったコボルト達も、住人たちと一緒に働いているのが目に入ってくる。
 
 のびのびとした動きと和らいだ表情から、住人たちとの関係は良好のようだ。
 住人が笑顔なのも、生活に余裕の出てきた表れ。
 王都全体がよい弛緩をしている。

 笑顔でそれを見る俺だが、内心は険しい。
 
 今日は最強の存在との再戦だからな。
 リベンジ達成とはならんだろうが、少しくらいはいいところを見せないと。

 険しい精神状態ではあるが、無理矢理にでもテンションを上げないといけない。

 ――――そういえば、俺の心の友であるダンブル子爵からもらった、遠坂 亨の三種の神器をベルに装備してもらっていなかったな。
 それどころか、先生に持っていかれたし。
 
 ――――おのれ! 素直に着てくれれば良かったのに! いいじゃねえかよ少しくらい俺にサービスしてもさ!
 まったくもってベルは心が狭い。
 
 少しずつだが、俺の心底でベルに対しての闘争心が漲り始めてきているのが分かる。
 これは、エロ装備を着てくれなかった事での怒りからくるものだろう。

「よし! 俺がいい勝負できたら、ご褒美に着てもらおう」
 あり得ないだろうけども、行動を起こせばパーセンテージはゼロから前進するのも確かだ。
 数値が低かろうともそこにかけてみよう。
 
 童貞まる出しの思考で戦う覚悟が出来る俺は、安い存在である。

「シャアァァァァァ! ゴラッ!!」
 バルコニーから叫べば、何事か!? と、仕事を始めようとしている方々の視線を下から受けることになった。
 
 視線を気にせず、気合いを入れるために両頬を平手で叩けば、高い音が一帯に響く。

「……痛いじゃないか……」
 やらなければよかったと、両目に涙を浮かべて悟る俺。



「おはよう!」

「会頭、おはようございます」
 プリシラ嬢は本日もキビキビと一階の掃除をしてくれている。
 朝食のラッシュが終えたところかな。
 乱雑に椅子が出ている。
 席を立つ時、テーブルに椅子を仕舞わないのは荒くれ者の証。
 
 プリシラ嬢やリリエッタ嬢が床掃除をし、乱れた椅子をテーブルに仕舞うのはコボルト達だ。
 
 外で住人の皆さんと働いているコボルト同様に、嫌な顔せずに本日も全力で働いてくれている。
 これが終われば、皆で小休止と遅めの朝食だそうだ。

「無骨で荒くれなのもいいが、最低限のマナーは覚えてもらいたいね」
 給仕として働いてくれてる方々に、少しでも楽をさせたいという思いを抱く。
 本来だったらやらなくていい事までやっているからな。
 無頼漢が多くを占めているギルドとはいえ、規律は大事だ。
 とはいえ、あまり締め付けても自由を謳歌する冒険者たちは嫌がるだろうしな。
 線引きが難しいところだ。

 ――――俺って、結構メンバーのために考え事をしているタイプのギルドリーダーだと思うんだよな~。
 率先して前線にも立たないといけないし、メンバーの世話もしないといけないし、これから最強の存在とも戦わないといけないし。
 
 胃がエメンタールチーズみたいな穴ぼこにならなきゃいいけどな。俺……。
 
 とは言え、俺の代わりに皆が一生懸命に働いてくれてるし、俺の知らない影の部分で活躍してくれる人達もいる。
 そう考えると、胃に穴が空くのはまだまだ先だな。今は踏ん張ってしっかりと立っておかないと。
 ――会頭として。
 ――勇者として。

「さてと――」

「お食事は?」

「後でもらうよ」
 今から戦いに赴くんだからな。胃に何かいれた状態だと動きが鈍くなるし、最悪、吐いてしまうだろう。
 
 プリシラ嬢に手を振り、意を決して足を進める。

「俺は――――強い!」
 大音声で独白しながらハウスのドアを開く。
 今ではスプリームフォールだけでなく、インクリーズ、ラピッド、タフネス、ビジョンが使用できるんだ。
 少しはいい勝負が出来るはずだ!

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