異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
349 / 1,861
増やそう経験

PHASE-349【正にバター】

しおりを挟む
 立木に回転ノコギリのなれの果てを設置。
 刃の部分でなく面の部分を俺の方に向ける。

「準備万端」
 皆の見る中でとりあえずアルマースドラゴンの鱗の強度が強いのかどうかを調べるために、

「高順氏」
 先ほど、ギムロンの刀を一撃で台無しにした一突きを見舞って頂きたいとお願いすれば、以外とすんなり受け入れてくれる。
 やはり武人。ドラゴン――――竜の鱗となれば、試してみたいと思うようだ。

 穂先を地面すれすれの俯角で留めた独特な構え。

「シッ」
 小気味のいい呼気とともに、高速の突きが見舞われる。
 ギャリンという金属の擦れる劈き音が耳朶に届く。
 片目を閉じて渋面になる嫌な音。
 
 さて結果は――――、

「お見事……」
 俺が感嘆の声を漏らせば、

「う、そ……」
 と、ワックさんが信じられないと続く。
 驚く顔にかけられた眼鏡がズレるという、ベタベタなリアクションを見せてくれた。

 許可を取ってワックさんは高順氏の槍を検分。
 見る度、触れる度に信じられないを連呼する。ワックさんの見立てでは、高順氏の槍は、ただの鉄製の槍。
 付け加えるなら、良く出来た鉄製の槍。
 本来アルマースドラゴンの鱗は、鉄製の槍では貫く事なんて出来ない強度らしい。が、実際にそれを目の前でやってのけてしまった。
 穂先には未だ、回転ノコギリが突き刺さったままだ。

「流石は、奇跡の人によりこの世界に呼び出された方。常識で考えてはいけない存在なんでしょうね」
 という答えで、むりくりに解決しようとするワックさん。

「改めて」
 穂先から引っこ抜いて再度設置し、刀を構える。
 高順氏曰く、突き刺して断ち切るつもりだったが、それが出来ないほどの強度だったという。
 腕っこきの発言を信じれば、試し斬りには十分な対象だ。

「行くぞ」
 ブレイズと発し、刀身に炎を纏わせてから――、

「せいやっ!」
 気勢の声と共に大上段から振り下ろした刀は、鱗に振れるとなんの抵抗もなく両断。立木は一瞬にして黒炭と姿を変えた。

「…………」
 高順氏の突きを見た後でのこれだ。あれだけの突きを見舞い、穂先が鱗を貫いただけでも凄いと思ったが……。
 技量で圧倒的に高順氏に劣るであろう俺の斬撃は、槍での突きなどまったくもって相手にならない、次元の違う一振りだった。
 自分でも信じられないが故に、言葉を発するのを忘れてしまう。
 絶句とは正にこの事なんだろう。
 
 力を込めるイメージを止めれば、ボウッと炎が音を立て、空に向かいながら刀身から消えていく。

「な――――」

「――なんですかそれは!」
 ようやく言葉を口にしようと思ったところで、コクリコの驚嘆に染まる声で遮られた。
 いつもならイラッとするが、仕方がないことだろう。俺は凄い物を手に入れてしまった。
 
 両断した鱗を見れば、切り口は熱で溶けている。
 溶け方から見ても、刀身はかなりの熱を帯びていたのだろうが、使用者には温風程度しか伝わらない。
 周囲は熱かったのか、俺から距離を取っていた。
 俺が強い熱さを感じなかったのは、火龍の装備による加護が影響しているからだ。 

 斬った鱗の半分を新しい立木に設置して、今度は刀身のみで試し斬り。

 ――――結果は、鱗の切り口が溶けているか、綺麗な切り口になっているかの違いだけだった。
 凄い。本当に凄い!
 俺が手に握る刀は、炎を纏わせなくても、ドラゴンの強靱な鱗を容易く斬ることが出来る刀。
 大抵の物なら俺は何でも斬ることが出来るようになったぞ。

「素晴らしいが。斬れすぎる刃は自分にも害を与えてくる事もある。そんな事にならないように、自分自身の精神を鍛えないとな」

「おうよ」
 ベルが釘を刺す感じだが、俺は別にこの刀に魅了はされない――――。さっきは魅了されて外側広筋を蹴られたけども……。
 
 最高の物を手に入れた高揚感を活かして、俺を魅了するのはベルだけさ。なんて事をサラッと言いたかったが、客観的に見ると、そんな男は気持ち悪い。

 いくら凄い装備を手に入れてテンションが上がったとはいえ、そんなくさい発言をくさいと思わないで発言できる胆力は、まだまだない。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...