異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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極東

PHASE-372【細身の後ろ姿がたまらない】

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 ――――……。

「ふ~」
 ハーブティーを飲んだものの、やはり結構な酒を飲んだからか、ふわっとした気持ちのいい感覚だ。
 世のおっさん達は、こうやって社会の疲れとストレスを酒で洗い流しているのかもしれないな。
 
 もう一杯ハーブティーをと頼み、美味しいからと隣でワインを飲むゲッコーさんにも勧める。
 飲めば、気に入らなかったのか一口ですませた。
 で、ワインに戻る。
 折角の行為を無下にするようなばつの悪さもあるので、ベルにも勧めたが、飲むこともなく即効で断られた。
 用意してくれたランシェルちゃんには悪いことをしてしまった。
 
 俺のお茶が飲めねえってのか! と、飲み会でしか存在感を出せない上司にはなりたくないので、これ以上は勧めることはしない。
 したらしたで、しばかれるだけだし。
 注いでくれた分は俺が責任をもって飲み干した。
 

 ――――随分と食事を堪能した。
 シャルナも珍しく羽目を外したようで、ワインを飲んで頬を朱に染めて上機嫌だ。
 コクリコは妊娠でもしたのかと疑いたくなるほどに腹を膨らませ、横になっている。
 十三歳の乙女としては、残念すぎる姿だ。
 というか、コクリコの残念な姿を見ても突っ込むことは出来ない。
 朝なんだよな……。
 朝からガブガブとワインを飲んでるってどうよ……。
 超不良だよ。

「皆さん随分と楽しんだご様子。本日はゆっくりと過ごされて、就寝はこの屋敷の部屋を使ってください」
 至れり尽くせりだぜ侯爵。
 自分は政務があるからと、執務室に戻ると言い残し、謁見という名の朝食会はお開き。



 朝食を終えて小一時間が経過した後に、庭園の一部を借りる。
 ワインを汗に変換するように、素振りを行う。
 少しでも強くなるために、衛兵からこの屋敷で刃の入っていない剣を借りて素振り。
 残火だと軽いから、振っても筋力がつかない。
 竹刀のような軽い物での練習もいいが、筋力をつけるなら重いのを選択するよね。
 ゲッコーさんは、ベルとシャルナを連れてなにかしているご様子。
 ハーレムだったら許さないよ。

 コクリコは……、お腹があれなので、動くことはなかったが、昼食と夕食にはしっかりと参加した。
 あいつすげえよ。

 昼食と夕食は大広間を用意してもらい、美人メイドさん達に囲まれて、俺たちだけの食事。
 夕食でも結構なワインを飲んでしまう俺。

 今後食事は、この大広間を使用するそうだ。
 侯爵は遅くまで政務とのことで、朝食以外では会うことはなかった。
 
「寝室の準備も出来ておりますので――――」
 夕食を終えた俺たちは、メイドさん達に案内されて部屋へと向かう――――。
 
 俺の案内役はランシェルちゃん。
 最高の案内役だと、心の中でガッツポーズと小躍りをする。
 前で誘導するランシェルちゃんの背中を眺める。
 肩口まで伸びた紫色の髪の揺れを目で追いかけつつ、上から下まで眺める。
 小柄で細身の体をメイド服で包んだ姿。
 思いっ切り抱きつきたいという欲求が芽生えてしまう。
 ――――いかんいかん!
 酒の魔力は恐ろしいな。勇者が情欲のままに不祥事なんて、あってはならない事だからな。
 
 遠出した事が開放感にも繋がり、加えて酒の力で理性を吹き飛ばして本能のままに行動すれば、外道の道を歩む事になる。
 それだけは絶対に回避しないとな。

「こちらでございます」
 ドアの前でランシェルちゃんが待機して、入室を促してくる。

「トール。お前は酔っているようだ。バルコニーも目の前にある事だし、夜風に当たれ」
 ゲッコーさんの勧めにベルもそうしろと言う。

「目が危ない」
 と、ベルが追加で一言。でもって、言ってる方の目が怖い。
 ランシェルちゃんの背中を見ていた俺の目は、かなりやばかったようだ。
 酒の力で前科一犯……、二犯になるところだったようだ。

 もし酔いに任せて抱きついていたら、ベルに半殺しにされていただろうと想像すると、酔いも覚める……。
 
 腹がぱんぱんになっているコクリコは、シャルナが面倒をみる。

「腹じゃなく、胸がそのくらいあればよかったのにな」
 おのれ! と、怒りの籠もった目で睨んで来るも、動きたくないのか、シャルナの肩を借りるコクリコは抵抗を見せない。
 後で覚えていろ。と、ぎらついた琥珀の瞳で伝えてきたコクリコに、俺はお休みの挨拶として、嘲笑をプレゼントしてあげた。
 
 ――――バルコニーに出て夜風に当たる。
 北から吹く冷たい風が体を通り過ぎれば、酔いも一緒に体から抜けていくかのようだ。
 眼下に広がる庭園を眺める。
 明るい時間帯はあそこで素振りをしていたんだな。

 空が闇夜に支配されると新しい発見もある。
 庭園には煌びやかな街灯の光が等間隔で設置され、庭園全体を照らす。
 王都だと篝火がメインなので、暗がりは暗がりでしかない。

「どういう原理なんだろう?」
 明らかに火による輝きではない。
 蛍光灯に近い白光の色味なんだよな。

「魔道具の類いかな?」
 さっきから独白だ。
 と、思っていれば、

「その通りです」

「おう!?」

「あ! 申し訳ございません。驚かせてしまいました」
 急な声に、驚きの声を出してしまう。
 正直、勇者として格好悪かった。というか、そういうところを見せたくなかった。
 この子――、ランシェルちゃんには。
 平謝りで許しを請うてくる。

 そんなに謝られたら俺が困るよ。別に怒ってないよ。俺はそんなことで怒るほど器は小さくないぜ。
 なんたって自称、器の規模はバイカル湖だから。
 可愛い女の子相手ならとくにね。
 これが朝の侯爵みたいに、サラッと口から出せれば、いっちょ前なんだろうな。
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