異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
378 / 1,861
極東

PHASE-378【入室前は規則として預けるようです】

しおりを挟む
「では、準備は整っておりますのでお入りください」
 髪型もちゃんと整ったよ。と、笑顔で言ってやれば、先ほどは頬だけだったが、俺の一言で顔全体が赤くなってしまった。
 ランシェルちゃんマジ天使。
 可愛い子の照れた姿を目にしたおかげで、緊張した体も少しはほぐれたってもんだ。
 赤面のままドアを開いてくれるランシェルちゃんに一礼してから、

「失礼します」
 職員室に入る時みたいに一言いってから入室すれば、目の前にはドアが現れる。
 流石は金持ちの部屋だ。ドアを開けば大広間ってわけじゃない。
 別邸は開けば直ぐに広間だったが、本邸で、しかも姫がいる場となると、特別な広間のようだ。
 ランシェルちゃんが再度ドアを開けば、次に現れるのは空間。広さにして十畳くらいの何もない空間。
 そこにいるのは四人の衛兵。
 装備は俺たちが出会った騎兵の物より数段上の物。

 四人中二名の装備は、室内戦闘を想定してのショートソードに、取り回しのよいバックラーを腕に固定したフルプレート。
 バックラーの中心部分は三角錐の突起が備わっている。
 あのスパイク部分で殴られたら、ただでは済まないな。
 攻防一体のバックラーだ。

 残りの二人も鎧は同じフルプレートだが、腕部分はラージシールド。
 鞘に収めているのは、グラディウスを思わせ肉厚で幅広な剣身だ。

 ラージシールド組が有事の際は姫を守る存在で、前衛がショートソード持ちってところだろう。
 四人とも顔全体を兜で覆っているので、表情は見えない。
 グレートヘルムみたいなバケツ型ではなく、独特な形状。
 俺が気になっていると感じたゲッコーさんが、小声で教えてくれる。
 ――バシネットと呼ばれる兜だそうだ。
 顔正面は円錐状に突き出していて、無数の空気穴があり、鳥の嘴のようだ。
 頂部は烏帽子のように伸びている。
 円錐は攻撃をそらす効果があるそうだ。
 グレートヘルムがバケツ型なら、このバシネットってのは砲弾型と呼ばれるとの事。

「装備は預かります」
 籠もっているが重厚な声だ。
 バシネットのスリット部分の奥から見える目がこちらに向けられれば、妙な威圧感を覚えてしまう。
 流石は要人を守護する人達だ。相当な使い手だというのは、佇まいで理解できる。
 姫の御前という事もあって、装備は預けないといけないようだ。
 王様や侯爵の時は、こんなにセキュリティーは厳しくなかったのにな。
 まあ仕方はないけど。
 侯爵が王様から預かった大事な人物だからな。厳しくなるのも分かる。

 分かるんだが、やだな~。と、貧乏性が発動。

 この世界において最高の刀を他人に預けるなんて出来る勇気が無い勇者です。
 もし盗まれたらって考えると、クリア一歩手前のゲームデータが消えるのより怖い。

「これは勇者として肌身離さず佩刀していたいんですが」
 とりあえず言ってみる。

「いや、その……。規則なので」
 困ったような声音に変わり、公務員の真言マントラみたいな台詞で返してくる。
 規則は破るためにあるんだよ。と、心で呟く。

「どうしてもダメ?」

「駄目です。規則ですので」
 ここで引いてはいけないと思ったようで、衛兵の方が声音を強いものにする。
 俺が可愛い女の子で、猫なで声でお願いした場合、はたして同じような事が言えただろうか。
 などと、意味のない反論を思ってみても意味はない。
 ――――仕方ない。

「ベル」

「なんだ?」
 広い空間で助かる。
 衛兵達から離れて小声でやりとり。
 流石に火龍の装備をおいそれと渡すわけにはいかない。でも渡さないといけない。
 となれば――――、

「ここで待機して見張っててくれる」

「いいだろう」

「助かるよ」
 俺たちの中で最強の存在。つまりはこの世界で最強と謳っても過言では無い存在。
 もし衛兵達が邪な心に囚われてしまったら、ベルの蹴りを見舞ってほしい。
 ついでだ――、

「コクリコもここで待機しといてくれ」

「任せてください」
 無い胸を突き出してくる。
 どうせ姫のとこに行っても何もできないしな。屋敷の豪華さに呑まれているから、これ以上は先に進みたくないようだ。
 大事にしているワンドを他人に触らせたくないのも残る理由のようだ。
 
 俺もベルに預ければいいだろうが、衛兵に預けないで味方に全てを預けるとなると、相手からすると、我々を信頼していないのか! と、侮辱された気分になるだろう。
 こちらに抱く心証を悪いものにしたくない。
 侯爵との今後の付き合いも考えるとそれは良くないので、妥協するところでは妥協しないとな。
  
 俺が所持する銃、FN-57とチーフスペシャルはゲッコーさんに預けて宙空に閉まってもらい、残火とゴロ太のナイフは――、

「よろしくお願いします」
 頭を下げて衛兵に預けた。
 ゲッコーさんは形式的にボウイナイフと、一回り小さいシースナイフを預ける。
 シャルナは自慢の弓と、黒石英のタリスマンで出来たショートソードを預けた。
 
 この行為を終えることで、広間へと続くドアが開かれ、俺とゲッコーさんとシャルナの三人で入室。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

処理中です...